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勇者に4人の幼馴染が寝取られ……あれ1人様子が?  作者: 鶴沢仁
第二章 聖女と救世の英雄
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王都の闇

まさかの新キャラ

 

 ここは王国の中心である王都……にある負の側面と言われるスラム街だ。この場所に生きる人々は、毎日が戦いと言っても過言ではない。


 飢え、貧困だけではなく、ゴロツキや職を失くした騎士もどき達から絡まれ暴力を振われないように上手く立ち回る術も身に付けなければ生きていけない、無法地帯。人でなしの楽園。


「……はッ……はッ……!」


 そんな危険な街を全力疾走で走る少女が一人いた。既に息も絶え絶えで、足はふらつき、今にも倒れそうだが止まるわけにはいかない。止まってしまったら、そこで待っているのは地獄だからだ。


 少女……リノは複数人の危険な連中から追われていた。生活に困った両親が二束三文の金と引き換えに、彼女を奴らに売り渡し、それを察した彼女は取引が成功する前に家から逃げ出した。


 そのまま、逃げ切れれば良かったのだが、当然商品に対して監視が付いていないはずもなく、こうして追われる羽目になってしまった。


 体力的にも劣る少女は道が複雑なスラム街の裏道へと逃げ撒こうとした。しかし、連中もスラム街については熟知している為、なんのアドバンテージにもならず追跡も振り切れなかった。控えめに言って最悪な状況だ。


 曲がりくねった裏道を器用に通っていくリノだったが、焦っていたため、行き止まりの道へ間違って入って行ってしまった。目の前には希望を塞ぐ巨大な壁…。


「げほッ……ぜぇッ……ぜぇッ……!」


 止まってしまった途端に今まで我慢していた疲労が一気に身体に来る。せき込んでしまい、その場に苦しそうに膝をつく。


 息を整え、落ち着こうとするリノだが、背後から迫る人でなし共は待ってはくれない。


「リノちゃ~~ん? 鬼ごっこは終わりでちゅよ~? ぎひひひ、汗だくでエロいね。どうせなら、もう一汗かいてく~?」

「手間取らせやがってこのクソガキが。貴族の坊ちゃんの玩具って話だったから優しく調教してやろうと思ったが、気が変わった。坊ちゃんが最低限に遊べる程度に壊してやるよ」

「お前ら。そうやってやりすぎて、何体の商品を台無しにした?傷をつけるのは無しだ。薬漬けにして、逆らえない様にしてやれ。なに、お前は気持ちいいだけで幸せな気分になれるんだからそう悪くはないぞ」


 後ろから現れた三人は特に息を切らせた様子もなく、立っていた。リノは最初から遊ばれていたのだ。


 世にも悍ましいことを平然と投げかけ、近寄ってくる三人の獣にリノは恐怖を抱く。恐怖は身体を蝕み、動きを阻害する。それでなくても、後ろには大きな行き止まりの壁。運命は決まってしまった。


 彼女はここで、奴隷として連れ戻され、悍ましい調教を受けた後に、壊れるまでどこぞの貴族に玩具とされる運命だ。


 別に彼女だけが特別に不幸というわけではない、同じ境遇にあったものや、もっとひどい事をされている娘も数多くいる。貧困に悩む家の家族となった時点でこうなる可能性は決して低くない。


 表向きには、人間の売り買い等は王国では違法なのだが、金のない世代では当然のようにまかり通っている。


 そして、貴族が特に少女や少年を好んで求めているのを知っている貧困層では暗黙の了解である。


「――……いやっ……来ない、で……やめて……」

「おっと怯えてんの~?かっわいい!そんな顔されるとさ、ぶっ壊したくなるからやめてよリノちゃん」


 懇願は、相手の欲望に火を付ける役割しかない。真摯な願いは情欲の前に容易く砕かれる、そういう世界だ。それが常識となっているここでは、リノのような奴隷として売られた面倒な娘に関わるものなどいない。


「……ひぐっ……だれ、か……たすけ……て」


 普通ならば、彼女の助けは屑共の欲望に掻き消され、恥辱にまみれた、しかるべき結末へと向かっていたことだろう。


「あなた達は、何をしているんですか?」


 そう、()()()()()である。今回は普通ではない。背後から聞こえた声に慌てて振り返る三人の獣たち。


 ――何も気配はしなかったはず。三人は同じことを考えていた。こいつらはただのゴロツキではなく、元は王国の軍に居たアサシン部隊の隊員崩れであった。


 相手を追跡し、誰かが隠れていても気配を察知する力も普通の人間とは比べ物にならない。それはもちろん、戦闘力もだ。


 こういった商売をする上で、うってつけの技能を持ちながら性格は醜く汚泥よりも汚い。その性格もこういった商売ではまさに天職ともいえる。相手に対して持ち合わせる情など情欲くらいしか持たないのだ。


 その三人が誰一人として気づかなかった。背後からの声は鈴を転がすような美しく澄んだ声で、振り返るとそこには一人の少女が立っていた。


 服装は純真無垢を体現したような純白の修道服。流れる金糸のように美しい髪は腰まで伸び、隙間から見える肌は白磁のように白く美しい。碧眼の美少女がそこにはいた。


「こいつは……上玉じゃねぇか。きひひひひ! 今日はツイてんじゃねぇの俺ら? この子なら法外な値段でも買う奴ら多いっしょ~」

「そうだな、だがまずは味見だ。たっぷりと味を見てからじゃねぇとその良さはわかんねぇからな」


 先ほどの違和感も既に消え、欲望で下半身を滾らせる馬鹿二人はもう目の前の少女を商売道具、または性欲を解消する対象としてしか判断してない。


 だが、もう一人のリーダーと思われる男は違った。


「油断するな、お前ら。見かけはただの少女だが、こいつ……俺たち三人の誰にも気づかれずに背後から、ここまで近づいている。いつもと同じようにやると、不味いかも知れんぞ」


 警戒心を露わにした男はそう言うが、二人の仲間は既に脳ではなく下半身で物事を考えている為、この忠告は聞き届けられる事は無かった。


「警戒しすぎっしょ! あんな細い腕でどうにかなるような俺たちじゃないでしょうに」

「白くて……細い腕……うへへへ、早く味見しねぇとな」


 聞き届けられることのない馬鹿二人に男は頭が痛くなり、右手で頭を押さえながら今後の対応を考える。


「もう一度、聞きます。あなた達はあの少女に何をしているんですか?」


 三人の会話など耳に入らないと言った様子で純白の少女は同じ質問を繰り返し投げかける。様子を見ようとしていたリーダーの男を無視し、二人の男は馬鹿正直に話す。


「あの子はさ~両親からお金と引き換えに、俺たちに売られたんだよ! これはさ、ビジネスってわけ?わかるよね?分からなかったら頭緩いよきみ~! つまり、部外者が出る幕じゃないんだよね~」

「俺たちは金であいつを買った正当な所有者ってわけだよ。おっと! 今更失礼しましたってのは通用しないからな。へへへ、俺たちの商売を邪魔した代償は身体で払ってもらうぞ?」


 あの馬鹿共とリーダーの男が思うも時すでに遅し、暗黙の了解とはいえ、堂々と違法な事をしていると人に威張るのはアホのやる事だ。正当性を主張するならもっと考えて発言しないと大変な事となる。


「そうですか、つまりあなた達は違法な行為に手を染め、あの子の尊厳を踏みにじろうとしていたのですね?」


 強い意志を感じる碧眼の両目を三人の悪党どもに向ける純白の少女。明らかに強い怒りがその瞳には混じっていた。そして、そのまま倒れているリノへと近づいていく。三人の男たちには見向きもしない。


「おいおい! そりゃだめっしょ~、商品にお手付きは禁止でちゅよ~……聞いてんのかこのアマッ!」


 無視されたのが気に入らなかったのか、軽薄な口調の男が持っていた短刀で後ろから襲い掛かる。純白の少女も商品として手に入れるつもりではあったが、死んだら死んだで別に良いという気持で刃物を突き立てようとした。


 ――だが、見えない壁のような物に弾かれた短刀は刃先の部分が欠け、襲い掛かった自身の衝撃で男が吹き飛んだ。純白の少女は魔法の壁、防御魔法(プロテクション)を既に展開していたのだ。


「魔法だと!? それも詠唱もなく使えるなんて、こいつ一体……!」


 リーダーの男は驚愕の顔で背を向け、リノに向かって歩いている少女を見ていた。これは手に余る、不味い人物に関わってしまったのではないか。これ以上深入りするのは得策ではないと思った。


 そして、リノは二束三文で手に入れた貧困層の商品だ。例え失っても何ら痛手でもない。


 リーダーの男は既に損切りを考え始めていた。同時に今ならまだ引き返せると男の勘が告げていた。


 純白の少女はリノの目の前に来ていた。肝心のリノは目を見開いて少女の事を見ていることしかできないでいた。突然の事態に身体も脳も付いて行かなかったからだ。


「こんなにボロボロになって……怖かったよね、つらかったよね……」


 そう言って純白の少女は、リノを抱き締めた。ゆっくりと、慈しむように優しい温もりに包まれるリノ。こんな状況にも関わらず、抱き締められた、リノには安心感が湧き上がっていた。


 気が緩んだのか蓋をしていた涙が止まらなくなり、その顔を見られたくなくて、少女の胸に顔を埋めて声を出さずに泣いていた。


「もう……大丈夫ですよ。私たちが、あなたを護りますから……」


 リノの頭を撫でながら紡ぐ少女の言葉に、安心したリノはそのまま気を失った。張り詰めていた緊張が解けて晒されていた恐怖や絶望で参っていた意識の限界が来たのだ。


防御魔法(プロテクション)は確かに厄介だが、所詮は防戦一方じゃねぇか! 俺たちの方が人数も多い、このまま逃げられると思ってんのか、あぁん!?」

「刃が欠けたのはびっくりしたけどこの通り、ピンピンよ?可愛いからってあんまおにーさん達舐めてっとさ~殺すぞ糞アマ」


 ぶち切れしている二人を置いて、リーダーの男はさっきの少女の言葉を冷静に考えていた……。何か、何か不吉な事を少女は呟いていたのだ……。


 私ではなく、()()()……。


 思慮の浅い二人の仲間が少女に怒鳴っていると、入口の方から誰かの歩いてくる音が聞こえた。


 カツーン、カツーンと鳴り響く足音、やけに、音が響く、何故かすぐに逃げなければと訴える本能。


(何かヤバいのが来る。とんでもなくヤバいのが。身体の震えが止まらん。逃げなければ……早くここから)


 リーダーの男は恐慌状態になりかけていた。冷静な頭は最善の方法を導き出し、撤退の準備を最優先で始めろと囁く。逃げなければ、逃げなければ、と、もう男の頭にはそれしかない。


 足音の主が行き止まりの通路の入り口側に現れた。その正体は白銀の鎧を着た美しい青年、女性なら一目見ただけで釘付けになるだろう美丈夫。顔立ちは端正で人の良さそうな顔にも見える。


 その爽やかな見た目の青年に対して、リーダーの男は恐怖しか感じられなかった。闇の世界で数々の修羅場を潜り抜けて来た彼には、青年を見た時、その本質が一目で分かってしまった。


 あいつはどうしようもなく壊れている、と。


リーダーの男が主人公だった……?

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