奈落の底に続く道
俺たちは、深淵のように暗い奈落の底を道なりに歩いていた。クリスが灯りの魔法で周りを照らしてくれてはいたが、それでも異常なほどに暗く、少し前は何も見えない。
そもそも、この場所はまだダンジョンに入っているのだろうか?どうも想定外の場所を進んでいる感が否めない。まあ、進むしか出来ることがない以上は悩んでも仕方ないか。
「アレフさん、この奈落に出口はあると思いますか……?」
クリスは、俺の前を歩きながらそう呟いてきた。表情は前を向いている為見えないが、声に緊張した色を含んでいる為、不安なのだろうかと思った。
「正直、どこに繫がっているのかも想像も出来ないよ。むしろ、奈落に道がある事自体にビックリしてる」
「確かに……。私も奈落の底と言えば、行き止まりというイメージでしたけど。こんな風に道があるって考えてみたら何だかおかしいですよね」
「そうなんだよな。広場の転移魔方陣が本命ならわざわざこんな底に道なんて作るのは変なんだ」
ずっと考えていた。必要のない場所に道があるっていうことは、隠したい何かがこの先にあるんじゃないのかと。出口ならそれはそれで良い。
でもそうじゃなかったら? 火竜の洞窟に来た目的……不自然なダンジョン、奈落の底の謎の道。
まるで全てが導かれているようなそんな感覚……。
―――いや、予感がする、俺の中でこの先で重要な事が起きると、告げてるんだ。
***
その頃、勇者パーティは全ての準備を整え広場の中心にある、転移魔方陣に入るところだった。
少し前に戻ってきたアリアは妹の……クリスの死を聞いて大いに動揺した。何故?ゴミを殺したと思ったら血を分けた妹が死んだ……?と、頭の中が混乱したのだ。家族が死んだ悲しみを受け入れられず、泣き叫びたかったが、それは叶わなかった。ハヤトが即座に行動したからだ。
ハヤトはアリアを見つめ、抱き締め、慰めた。
ハヤトの目を見ると、段々と混乱した頭も落ち着いていく。そして、慰めてくれたハヤトの事が愛おしくて仕方なくなり、早くハヤトが欲しい、ハヤトと繋がりたい、と強く想い出すアリア。
アソコの疼きが強まり、妹の死よりまぐわいたいという気持ちの方が強くなっていた。端的に言ってそれは異常だ。しかし誰も気にしない、出来ない。何故なら、そこにいた3人は皆、同じ気持ちだったから。
全てを分かっている者が見たら、それはなんとも悍ましい光景であったことだろう。
「みんな、この先に何があるか分からない。だけど、僕たちは勝たなきゃいけない。僕たちの仲間だったクリスティーナの為にもね」
「ハヤト……ありがと、クリスもそこまで言ってもらえたらきっと喜んでるはずよ」
「アリア、戦いが終わったら君の心の傷を癒させてくれないか? そのためなら、僕の身体なんて幾らでも貸すよ」
「ハヤト……そんなこと言われたらあたし……っ!」
「リリィも一緒に癒させてくれないかな……。クリスちゃんとは妹同士で仲良かったの……だから寂しくて」
「いいよ、リリィも、フィーネも、今日はみんな僕の部屋に来て? 傷ついた心と身体を慰めるんだ」
「ハヤト様……そんな優しいお誘いをされたら私、どうにかなってしまいそうです……」
不毛な会話は続く。死人にされたクリスをダシにきれいごとを並べ、その実はしょうもない、乱交約束をしているだけの無意味な話。それが終わると、アレフが背負っていた大荷物を女性三人が分けて背負い、勇者たちは魔方陣に入っていく。
四人をまぶしい光が覆い隠し転移が始まった。そして転移した先に待ち受けていたのは。
入って来た、火竜の洞窟の入り口前だった。
「は?」
「どういうこと……」
「ハヤト様これは一体……」
「どういうことですの?」
唖然とする四人。しばらく考え込むようにしていた勇者は、ある結論を出す。
「王国魔術師に、だまされたんだ……これは魔王討伐に必要な物なんかある洞窟じゃなくて、ただの嫌がらせで作られたダンジョンなんだと思う」
「そんなっ! 王国所属の魔術師がそんな真似するなんて! その所為であたしの妹が死んだのよ!?」
「アリアの怒りはもっともだ、こんな酷い情報を回してきた奴は早急に報いを受けさせるよ。勇者を騙した罪、そして掛け替えのない一人の仲間を殺した罰をね」
「リリィが殺してきてもいいよ、絶対に許さないそいつ……」
「僕に任せてくれ、みんなは何も心配する必要なんてないよ。とりあえずは疲れたし一旦宿に戻ろう。そして……クリスティーナを失った悲しみをみんなで慰め合おう……」
この後、宿に戻った四人は盛りに盛りまくったそうだ。一日中、宿から聞こえる嬌声は泊まっていた者達と、周辺に居た者を大いに悩ませたそうな。
そして一か月後。偽情報を掴ませたとして依頼した魔術師は勇者が国王に処罰を願い、捕まえられた末に散々いたぶられ、最後は処刑された。
これ以降、見せしめを見て恐れた者達は勇者たちに有益な情報を渡すことを止めた。間違っていた場合に殺されるのは嫌だったからだ。
***
あれから三時間は歩いたんだが、ま~だ着かねぇのかよ。焦らしまくってんなおい。さすがは聖女伝説の節目になる予定のイベントとでもいうべきか。ただこんだけ歩いて先が見えねぇようだと言葉通りにお先真っ暗になる気がして笑えねぇよ!
俺様は間違ったのか?と考えると一瞬ふらつくが考え直す。まだ広場の転移魔方陣が気になってるのもあるが、弱気なんて俺様らしくねぇ。
(絶対に正しい方を選んだはずだ、奈落の底にある不思議な道、アレフのよくいる覚醒ポジション系のキャラ……仲間殺しの大規模イベント……順調のはずだぜ)
再び自信を持ち直した俺様は、気合いを入れて歩き出す。アレフの野郎は可憐な俺様が真っ暗な奈落道で精神的に疲れてふらついてるのかと思って声を掛けてきたが、まるで的外れだからもう黙っとけよこいつ。
更に30分ほど進むと、降りるための階段があった。奈落の更に下には何があるのかは知らねぇが確信に変わった。こっちで正解だと。アレフの奴がここで転げ落ちて死んだら冗談では済まないので、俺様はアレフの手を握り階段を降りて行った。
アレフの奴が何やら慌てていたので、俺様も演技で同じくらい慌てて適当に会話をすると同じ気持ちだと勘違いしたのか大人しくなったが、何故か手を握る力が強くなった気がする。
大したことは言ってないんだが……また好感度が上がったらしい。アレフルート?にまた近付いたのか……勘弁してくれ、俺様はホモじゃねぇんだよ。
階段を降り切るとそこにはデカイ扉があった。まるで教会のステンドグラスのように美しい扉だ。しかし取っ手がねぇ、欠陥品かよ!
「ど、どうやって開けるんでしょうかこれ……こんなに大きいと二人じゃ無理ですよね?(ここまで来て詰むなんて、糞みたいな展開絶対なしだぞ。さっさと変なアラビア人でも現れて、扉開けて行けよ)」
「わからないけど、何だかさっきから呼ばれてる気がするんだ」
「……アレフさん?(俺様より主人公っぽい、かつ目立つ発言すんなよ元荷物持ちが)」
アレフの野郎はわけの分からないイカレタ事を呟くとステンドグラス扉の前に立ち中央に触った。
すると――大きな音を出し始め大扉が開き始めた。
なんだこれ、主人公かな? なら、俺様の枠どれだよ……?
俺様が主人公のはずだろ。
劣等感で意識を軽く失いかけていると、大扉が完全に開いていた。
アレフと二人で中に入る。
そこは、まるで礼拝堂のような場所だった。普通と違うのは広さだ。通常の礼拝堂の十倍以上は有りそうな超礼拝堂とでもいうべきものだ。天井はなく、遥か上まで突き抜けていて見えない。屋根あんのかなこれ。
(こんな場所に何もない訳ねぇよな。さてさて、何があるやら楽しみだぜ)
俺様たちが、超礼拝堂の奥に進んでいくとそれはあった。
中心にある台座に刺さっている、剣。
どこか伝説で見たことがある剣。
レプリカ品でも物凄い価値があると、有名にもなっている剣。
あれはそう……。
――初代勇者が使っていた、聖剣アロンダイトそのものだった
伝説のなんたら