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火竜の洞窟その3

操られてるだけなんです、許してあげてください。

 

 断末魔を上げて、パーティの汚点だったゴミが落ちて行く様を見届ける。

 あー清々した! あんなのがあたしの幼馴染って事実だけで、申し訳なさ過ぎてハヤトに合わせる顔がなかったもんね。


 ハヤトに言われた通り、ゴミの廃棄処分も無事に完了したし、今日も朝までハヤトに可愛がってもらえる! そう考えただけで濡れて来ちゃったかも……。早くハヤトと愛し合いたいなぁ♪


 しかし、あのゴミの最後の顔ったら、ほんっと間抜け面すぎて笑えた。あたしがブサイクなあいつを好きになるなんてあり得ないのにね? 満更でもない顔してたし。あれはキモかった。


 早くハヤトの顔を見て心を洗浄しなきゃ。あのゴミは何故か見てるだけでムカつくから、毎日殺してやりたいと思ってたけど、それも今日で叶ったし。もしかして人生最良の日かも?


「あー超気分いい! 早くハヤトの所に戻ろっと」


 あたしは崖から背を向けて歩き出そうとした、すると何か水っぽいものが頬を濡らす。ん、ここダンジョンだよね? 雨なんて降ってたっけ。あたしが頬に手を当て、辿ると、それは目から流れていて……あれ? なんであたし、泣いてっ……。


「あれ、あれ? おかしいな、何か涙が止まらなっ」


 両目からとめどなく涙が流れて来て、あたしは混乱する。

 ゴミを処分しただけなのに、なんで涙がでるんだろう?

 あたしは嬉しいはずなのに。


 ああ、きっと嬉し涙って奴だ。

 嬉しすぎて泣いちゃったんだね。あたしの身体は。

 そうだこれは嬉し涙。嬉し涙なんだ……。

 あたしはそうやって涙が止まるまで、しばらく自分を納得させることにした。



 ***



 俺様は今、物凄く走ってる。助走を付けて崖に向かって思いっきりな。俺様が配置に付いたと同時に、上から悲鳴が聞こえて来たので、アレフが落ちて来るであろう落下地点まで勢いを付けて走る。


 勇者が、俺様の様子に気づいたようだが……一手遅かったな?

 俺様の伝説を止めることは、誰にも出来ねぇよ。


「やめろクリスティーナ! 死ぬ気か!?」

「クリスちゃん! 何してるの!」


 勇者が追い付けないと悟ったのか、フィーネと共に俺様に向かって大声で制止するが、制止は振り切るのがお約束なので、その行動には何の意味もないんだよなぁ。


 もう崖は目の前だ、後は勢いよく飛ぶだけ。

 人はな、頑張れば空くらい飛べるんだぜ。


「アレフさん……!!(聞こえてるかどうか知らんが俺様が必死に助けますアピールは欠かさん!)」


 崖に向かって思いっきりジャンプした。走り幅跳びの感覚で目標落下地点まで距離を詰める。

 そして、空中で手のひらを上にして両手を前に出す。


 すると、完璧なタイミングで俺様の両手にアレフの奴が降って来た。よしよし!掴んじまえばもうこっちのもんだ。更に上を見て勇者共が俺様たちの姿を確認出来なくなった辺りで、俺様は必死に覚えた魔法を使っていく。


「漂う歩み、空を緩和し、その力を行使せよ、浮遊!」


 俺様が呪文を唱えると凄い勢いで落下していた俺様とアレフの身体が勢いを失くしゆったりと下がっていくような現象が起きる。少しずつ落ちてるが、プカプカと浮いているような感じだ。突き落とされたりこうして崖に飛び込むこともあるかも知れないと覚えておいて良かったぜ!


「はぁ、危なかったけど間に合いました、大丈夫ですか?(俺様に精々感謝してこれから尽くすように)」


 俺様は、はにかみ顔を作りながらアレフに向かって話しかけたが……アレフの奴、気絶してやがった。


(こ、こ、このクソボケ野郎おおおおお!! 俺様の渾身のキメ顔をよくも台無しにしてくれやがったな!)


 無駄な表情筋使っちまったじゃねぇかクソッタレ。はぁ、聖女伝説のエピソードの一つとして語り継がせる予定が、誰も見てねぇんじゃダメダメじゃねぇかよ。話が違うぜ……。


 しかし、あれだな。下に着くまで暇だなこれ、どこまで落ちて行くんだ?こんな大規模イベント起こしておいて、広場の魔方陣の方が正解ルートだったら俺様でも流石に泣くぞ……。泣いちゃうぞ。


 アレフの野郎、一人だけ気楽にぐうぐう眠りやがって。覚えてろよ。




 ***



 くそっ! くそっ! まさか、クリスティーナが崖から飛び降りるとは思わなかった。アレフの奴と一緒に落ちて行ったクリスティーナが見えなくなってから僕は後悔した。何でクリスティーナをちゃんと拘束しておかなかったのかと。


 僕の花嫁の一人になるはずだったのに……! まだ彼女の純潔も、キスも、その心も、何にも頂いてない!アレフの奴が死んだら、それらが全て僕の手に入るはずだったのに、僕は勝利に酔い油断してしまった……。


 アレフが初心なクリスティーナを、あそこまで心酔させていたとは予想外だったんだ。どんな手を使ったんだあの悪魔め。


「くっそおおおおおおおおお! クリスティーナああああああ」


 僕が悲壮の叫びを上げると、フィーネとリリィは悲しそうな顔で僕に抱き着いてきた。

 彼女たちの柔らかな温もりが僕の頭を少し冷静にさせてくれる。


 そうだ、まだ、三人もいるじゃないかと。四人欲しいならまた何処かで調達すればいい。幸い、僕の魅力に抗える女性なんていないんだから選び放題だ。


 むしろ四人と言わず何百何千の女性は最初から僕の物と言ってもいいんじゃないか?そう考えるとクリスティーナを失った悲しみも段々と収まってきた。


 次はクリスティーナの代わりって事だから、可愛い処女の子をメンバーに入れることにしようかな。


「ごめんね、みんな。みっともない所を見せちゃったね」

「ハヤト様はみっともなくなんてないです~。ハヤト様は世界で一番優しいだけです!」

「クリスちゃんの事は残念ですけど、立ち止まるわけにはいきませんよ。全てが終わったらクリスちゃんの分まで私たちがハヤト様をお慰めします!」

「すまないね、気を遣わせて。ありがとう、僕たちはここで足を止めるわけにはいかない! クリスティーナの分まで頑張らなきゃね!」


 宿に戻ったら、クリスティーナにするはずだったプレイも全て彼女達が受け入れてくれるみたいだし、それならまあ良いかな。


 アリアもきっと悲しむだろうけど、悲しみを忘れるくらい愛してあげればきっと大丈夫さ。僕より優先することなんかないだろうからね。


 気を取り直して僕たちはアリアが降りてくるのを待つことにした。あと荷物は彼女達三人に分担して持ってもらおうかな。



 ***



 ここはどこだ? 俺は確かアリアから突き落とされて……ああ、そうか。俺は死んだのか。あの女に二度も裏切られて……。


 信じた俺が馬鹿だったとはいえ、昔仲良かった幼馴染を本気で殺すかよ普通。許さねぇあいつ、幽霊になって呪ってやるわ。


 その前に俺の身体は今どうなってんだろうか。意識は段々回復したが眼が開かねぇ。

 それとも、もうグチャグチャになったから開けないのか?


 その割には、何だか頭の感覚はあるんだよな。後頭部に何か柔らかな感触が。意識をもっと集中する。手もあるし、足の感覚もある…あれ、あり得ないかもしれないけど、もしかして俺生きてんじゃ?


 そう結論が出た瞬間、俺の意識が完全に覚醒する。

 うっすらと目を開けると何だか真っ黒な空とクリスの顔が。


「っ!! クリス!?」


 俺は目の前にクリスがいることに驚き声を上げる。クリスは俺が目覚めるのを見た途端に目を潤ませて涙を流した。クリスから流れ出た涙が俺の顔を濡らしていく。


「よかった……! アレフさん、全然、目を覚まさなくて……もう、死んじゃったのかと思って!」


 ボロボロ泣きじゃくるクリスに俺は何も言えなくなってしばらく嗚咽交じりに泣くクリスが治まるまで沈黙が続いた。はぁ、俺は毎回泣かせてばかりだな。いい加減、自分が嫌になってくる。


「ごめんな、クリス……落ち着いたか?」

「ぐすっ……はい。お見苦しい所、見せしちゃいましたね」

「見苦しいなんて、俺の為に泣いてくれたのにそんなこと思うはずがない」

「アレフさん……」


 まだ少し目が赤いクリスだったが、ようやく俺に笑いかけてくれた。やはり、クリスは笑顔が一番似合うんだ。俺が泣かせちまった手前何にも言えないけど、彼女は笑っているのが一番可愛い。


 そんなことを考えながら、俺は身体を起こそうと力を入れた時に気づく。俺の後頭部にある柔らかな肌の感触。


 あれ、今、クリスから膝枕されてるのでは? 状況に気づいた途端、なんだか起きるのが勿体なく感じてしまい、身体を起こせなくなってしまった。今はこんなことをしている場合ではないのに、俺って奴は。


「アレフさん、身体はまだ痛みますか? どこか痛い所はないです?」

「……ああ、大丈夫みたいだ。ごめん、今起きるよ」


 クリスが凄い心配そうな顔で聞いてきたので、俺は罪悪感に耐え切れずに本当の事を伝え身体を起こす。クリスの膝枕が恋しくて起こせなかったなんて、なんとも情けない理由を伝えたら、クリスに見捨てられても文句など言えないからな。


 身体を起こして周りを見ると、辺りは高い壁で覆われていて、先に進む道は暗くて全く見えない。


「クリス、ここはもしかして奈落の底なのか……?」

「はい、アレフさんは広場の上の方から落ちて来たんです。落下したアレフさんを見たときは心臓が止まるかと思いました……!」


 どうやら俺がアリアから突き落とされたのは現実だったようだ。悪い夢ならどんなに幸せだったのかと思うが、現実である以上受け止めるしかない。それよりも最優先で聞かなきゃならないことがある。


「そんで、クリスも何故……ここに?」

「あの、その、私。アレフさんが落ちているのを見て……居ても立ってもいられずに……」

「……まさか」

「私も、飛び降りました!」


 クリスが俺を追って飛び降りた……? なんて無茶な事をするんだこの娘。だけど、怒りよりも、常識的な考えよりも、この時の俺は嬉しさの方が何倍も勝っていた。俺は我慢できずにクリスを抱き締めた。


「ふぇっ! あの、アレフさんっ……?」

「クリスっ! ありがとう、ありがとなっ! 俺を見捨てないでくれて、本当に、ありがとう……!」

「……言ったじゃないですか。私はアレフさんの事を二度と見捨てたりなんてしませんって、ね?」


 彼女の前で泣くのはこれで二度目だ。そして俺は二度目もまた、同じように頭を撫でられながら静かに慰められていた。幼馴染のアリアからは二度裏切られたが、その妹であるクリスには二度も命と心を救ってもらえた。


 同じ姉妹でも、その優しさと包容力には天と地ほどの差を感じる。改めて思うのは、俺にはもうクリスだけだ。他の奴らなんかもう絶対に信じない、いらない。俺は今後、クリスだけを護り、クリスだけを信じることを固く誓う。


 俺の幼馴染は……クリス唯一人だ。


「そういえばどうやって俺を助けてくれたんだ?」

「実は私、浮遊の魔法を偶然覚えて居まして……あまり使ったこと無くて、結構危なかったんですけど、何とか間に合いました。えへへ……」

「凄いな、クリスは。崖に飛び込む勇気一つとっても、何一つ敵わないよ」

「こ、怖かったですよ? でも、アレフさんが死ぬのは、もっと怖かったから……」


 この少女はどこまで……どこまで優しいのか。聖女の由来は、聖女のスキル等と言われてるが、クリスはスキルなんて関係なく本物の聖女だよ。


 優しくて、無垢で清らかな心で、俺を何度も何度も救ってくれているのがその証拠だ。俺は弱くて、二人ともこの奈落から生きて出られるかは分からないが、クリスだけは、この優しき聖女は、こんな所で失って良い存在では断じてないはずだ!


 神よ! 俺にクリスを助けられる力をください! それがダメなら、せめてクリスだけでも無事に戻れるように加護を授けてください! お願いします!


 あんな勇者を生み出すような女神は信じるに値しないが、クリスのような清らかな心の少女を聖女にしたのなら、神の奇跡とやらがあってもいいはずだ!


 どんなものからも護りたい! 俺は強烈にそう願った。どんな対価だろうが構わない。


 そう、クリスを護れるのなら、俺は何でも捨てられるから。

アレフ君の想いは微塵もクリスの心には伝わってないです。

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[一言] アレフ哀れ
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