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救って、戻れない

死神


その神はいつも優しかった。


存在した神の中で最も優しかった。


その頃、男は太陽の神を務めていた。


名はラーと言った。


文字通り神々の希望でもあった。


最上神に最も近い神とも言われていた。



その頃、最上神は人間を創造したばかりだった。


人間は最年長の者でも三十代だった。


が、その最年長の人間が死に、初めて死人が出た。


他の人間はその死を悲しみ、墓を立てて祀った。


そして最上神は死後の世界、冥界を創造した。


かくしてその人物は冥福を祈られながら初の冥界の住人になった。


数百年後。


人間の中で悪事を働く者が現れた。


その者はやがて死に、他の者と同じように冥界に行った。


が、それからと言うものの、平和だった冥界から平和のへの字も消えた。


人は次々と惨殺され、白骨化した死体はどんどん山をなしていった。


冥界は本来人間界で死んだ者が来るため、死の世界とも呼ばれていた。


冥界でも人は生きている。


しかしそれは肉体という鎧をかぶっているわけではなく、言うなれば魂がそのまま形を成している。


そこで再び死ぬと、世界から存在自体が消えてしまい、本来冥界で一定期間過ごすとできる転生もできなくなる。




とにかく、これを見兼ねた最上神は急遽、当時まで存在しなかった神を新しくたてようとした。


その時、最上神は思った。


冥界を支配するには相当の力な必要、だと。


そこで生まれて間もない、神にもなれない者ではなく、既に神になっている者から冥界神を選ぶことにした。


最上神は急遽神々を集め、冥界の神を務めてくれる神はいないかと聞いた。


しかし、誰も立候補しなかった。


最上神はこれを見て激怒した。


神としての自覚が足りていない、と。


そこで1人の神が冥界の神になることを名乗り出た。


それはラーだった。


最上神を含む神々はそれを見て安堵し、彼に感謝した。



やがて冥界の神となったラーは冥界の様子を見に行くと、そこには沢山の髑髏の山があった。


そしてそのうちの一つに人影が見えた。


それは、人を惨殺し続けていた悪人だった。


片方の腕には死体が、もう片方の腕にはまだ生きているが怯えている人がいた。


ラーはこの時直感的に思った。


この様な悪人は生かしておく訳にはいかない、と。


存在自体を消して、排除すべきだ、と。


しかし思い留まった。


むやみに存在を消すわけにはいかない。


もしかしたらそのうち罪悪感を感じ始めると思った。


いや、願った。


ラーは優しい上に甘かった。






しかし悪人は止まらなかった。


次から次へと人を殺して行った。


後少しで冥界の住人の半分近くが存在を消されていた。


そして丁度半分になった時、ラーの堪忍袋の緒が来れた。


この時、ラーが選んだ選択肢。






それは同じ悪人に成り下がって冥界を守る、という選択肢。



ラーは使い慣れた鎌を手にし、黒いフード付きのローブを身につけて冥界の地に足をつけた。


悪人が現れるのにはそこまで時間を要さなかった。


他の人と同じ姿をした神を目の前にし、悪人は今までと同じようにナイフを両手に持ち、切りかかった。


しかしラーは事もなく両手を切り落とし、両脚をも狩った。


すると、悪人はそこで驚きの行動に出た。


泣きながら今までやって来たことを悔いており、これからは二度と他の命を奪ったりはしない、だから許して欲しい、と嘆願したのだ。


ラーは迷った。


悪人が改心する以上の事はない。


それに賭けて見たくなってしまったのだ。


そこでラーは元々持っていた力を用い、悪人の体を元に戻した。


そして帰ろうと振り返ったその瞬間。


悪人は事もあろうか、立ち上がり、再びラーに切りかかった。


幸い、切れたのは黒いローブだけで体は傷は付いていない。


いや、不幸にも、かもしれない。


逆にラーの心は修復できないほどに傷ついたのだから。


ラーは激怒し、再び悪人を切り刻み、とうとうあと一撃でトドメをさせるところまできた。


そのとき、ラーは






涙を流していた。


泣いていた。


この涙には二つの思いが込められていた。


一つは、この悪人をしばらく野放しにしてしまったせいで亡くなってしまった存在への罪悪感。


そしてもう一つは、この悪人に対する哀れみ。


ああ、この人はなぜ人を殺すのに躊躇いがなかったのか。


もしかしたら、心に大きな傷を負ってしまったせいでこんな風になってしまったのではないか。


本当は罪悪感を必要以上に感じてしまい、そのストレスで殺人鬼となってしまったのではないか。


ラーの涙は止まらなかった。


なぜこの様な悪人にまでも非情になれないのかがわからなかった。


が、悪人なそれを見ると、ふっ、と笑った。


その笑顔は一瞬、山をなしていた髑髏にも似ていた。


その瞬間、ラーの覚悟はついた。


彼は鎌を振り下ろし、トドメを刺した。




それ以来、ラーは魂を見るだけで善人か悪人か見分けることができるようになっていた。


そして悪人を消すために鎌を振るい続けた。


ラーは非情になるために最初の悪人を消したときと同様に黒いローブを身につけて、フードを被り、鎌を使用していた。


そして




最初の悪人を消したときに目にした髑髏。


その時、非情になりきれなかった自分を悔いて、髑髏で顔を隠すことにした。


一つは非情であるため。


そしてもう一つは涙をこれ以上流さないため。



そしてその姿で鎌を振るい続け、冥界を守り続けるラーは皆からその名で呼ばれなくなり、代わりに別の名前を付けられた。


それは



死神。




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