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第090話:ダンジョン・システムの目的

2022年2月25日に、オーバーラップノベルス様よりダンバス第4巻が出版されます。

それに伴い、更新を再開しました。他作も並行して執筆しているため毎日更新はできませんが、暫くはダンジョン・バスターズを更新していきたいと思います。

【バチカン教国 DRDC】

 時は少しだけ遡る。ジョーカーとの戦いで支援職であったレオナール・シャルトルを失ったダンジョン・クルセイダーズは立て直しを図っていた。レオナールはダンジョン・バスターズに鍛えられBランクにまでなった冒険者である。その代わりとなると簡単には見つからない。またクルセイダーズはヨーロッパ三大騎士団からそれぞれ二名ずつ集められたことから、一名の空席はフランツに本部を置く聖ヨハネ騎士団から出すことが決まっていた。クルセイダーズのリーダーであるロルフからするとどの騎士団からでも良かったのだが、レオナールを失ったフランツ人は激昂しており、それを宥めるためにも、また政治的な背景からも、フランツ人が選ばれた。


「ミ、ミシェル・アルチュール・重田です。宜しくお願いします!」


「……新しいメンバーは男性だと聞いていましたが?」


 DRDCに出頭したロルフ・シュナーベルは、新しいメンバー候補を一瞥し、長官である坂口・ステファノ・宏に視線を戻した。別に男性に拘っているわけではない。補充するメンバーはバフや回復を担当する支援職であり、女性でも一向にかまわなかった。


「えー、ミシェル・重田は立派な男性です。確かに見た目は女性のようにも見えますが……」


「長官! 僕は男です!」


 ロルフは首をかしげた。ミシェル・アルチュール・重田の身長は一六五センチ程度で、少し長めの黒髪と華奢な体つきから、女性にしか見えなかった。声も中性的で聴きようによっては女性の声にも聞こえる。大学でラグビーをしていたロルフからすると、とても男には見えなかった。


「ムッシュ重田は見た目が女性らしいとのことで、昔はいじめられていたそうです。そのときに助けたのがレオナールだったそうで、訃報を聞いていてもたってもいられなくなり、クルセイダーズに志願したのです。すでにフランツのダンジョンで活動し、Dランクにまでなっています。神聖魔法のスキルを得ており、レオナールの後任にはピッタリです」


「ほう……」


 Dランクになるためには相当な鍛錬が必要である。見た目はともかく根性はあるのだろう。ロルフはミシェルの評価を改めた。ローマのダンジョンで暫く共に活動し、CランクになったらEU圏内のダンジョン討伐を再開しようと考えた。


「レオナールは僕の一番の友達です! レオナールの仇を討つためなら、僕は何だってします!」


 瞳をウルウルとさせながらロルフを見上げる。一〇代の可愛らしい少女が泣くのを堪えている姿にしか見えなかった。


(……大丈夫、だよな?)


 多少の不安はあったが、ダンジョン・クルセイダーズは新たな仲間を得た。


 クルセイダーズにミシェル・重田が加わった後、DRDC長官である坂口は、枢機卿たちの会議に出席した。クルセイダーズのメンバー、フランカ・ベッツィーニの報告を受け、急遽開かれた会議である。


「フランカは斥候のスキルを持っており、スキルを発動している間は常人を遥かに超える聴力を発揮します。そのフランカが、レオナールの最後にSランクのドラゴンの言葉を聞きとりました。あくまでも魔物の言葉であり、真偽は定かではありませんが、その内容は由々しきものです。そこで、皆様にこうしてお集まりを頂きました。お忙しい中、感謝申し上げます」


「バチカン教国において、ダンジョンの問題は最優先です。此度の悲報に、猊下もいたくお嘆きになられ、ジョーカーを神敵に定めるとすら仰せです。そのレオナールが最後に残した情報です。我らが集まるのは当然のことでしょう。ステファノ卿が由々しきことと判断されたということは、それは我らカソリックの根幹に関わることですな?」


「はい。状況が状況だけに、フランカの言葉もどこまで信じられるか疑問もありますが、彼女は確かに聞いたそうです。クルセイダーズは神の尖兵としてダンジョンに立ち向かう。レオナールのその言葉をドラゴンは嗤い、そして彼に向けてこう言ったそうです。ダンジョン・システムの目的は、新たな神を産み出すことなのだと……」


 会議室内が静まり返る。誰かが息を呑んだ音がした。枢機卿たちの何人かが十字を切った。もしそれが事実ならば、カソリック教のみならず、各宗教があまねく「似非」であったことになる。公表などとてもできない。もし公表すれば、全世界に与える影響は計り知れないだろう。


「ステファノ卿、これを知る者は?」


「実際にドラゴンの声を聞いたフランカ・ベッツィーニ、そしてこの場にいる私たちのみです。リーダーのロルフでさえ知りません。フランカは悩んだ末に、私に相談をしてきました。普段は少し荒れた態度に見えますが、彼女の判断力は確かです」


「そうですか。ではフランカ・ベッツィーニおよび私たちは、沈黙の誓約をしましょう。ダンジョンのアイテムを使い、決して口外しないことを誓約するのです。猊下にさえ知られてはなりません。皆々様も宜しいですね?」


 全員が頷いた。現時点では、真偽を確かめることはできない。公表したところでいたずらに世界を混乱させるだけである。ならば秘匿しておくべきだろう。ダンジョンの討伐が進めば、いずれは明らかになることである。


「ダンジョン・バスターズへの確認はどうしましょう。彼らも知っているかもしれませんが……」


 一人の枢機卿が提起した。日本のダンジョン・バスターズは世界最先端の冒険者クランである。集まっている情報、秘匿している情報も多いはずである。ダンジョン・バスターズが知らないということが有り得るだろうか。その疑問に、DRDC長官が答えた。


「ダンジョン・バスターズのリーダーである江副和彦氏は、判断力に優れた人物です。彼であれば我々と同様、公開しないという選択をするでしょう。彼だけと限定するならば、情報を共有すべきです。ダンジョンの問題は全人類の問題です。これ程までに重大な情報を握りつぶすことは許されません。それより、むしろ問題はジョーカーの方です。彼が知らないはずがありません。ですが今のところ、この件は伏せています。公表しても証明できないということを知っているからでしょう。ですがいずれ必ず、ジョーカーはこれを攻撃のカードに使うはずです」


 全員が難しい表情を浮かべた。カソリック信徒一三億人の信仰に関わることである。神の証明などがされれば、カソリックのみならず全世界の宗教が揺らぐだろう。


「ジョーカーを倒すしかないでしょう。彼は恐らく、どうしたら証明できるかまで見通しているはずです。現時点で、ジョーカーを倒せる可能性を有するのはダンジョン・バスターズだけ。彼らに協力を仰ぎましょう」


「それは拙いでしょう。そのためにはこの情報をダンジョン・バスターズに伝える必要があります。いや、ダンジョン・バスターズの協力を得るためには日本のダンジョン省を通さねばなりません。となれば必然的に、ダンジョン省までこの件を知ることになります。ここはなんとしても、我らの力だけで解決しなければ……」


「ジョーカーは超人的な力を持っていますが、元々は人間です。ならば排除の仕方もあるはず。ここは、サンタ・アリアンザを動かしては?」


 CIA、MI6、KGBなど有名な諜報組織は幾つかあるが、世界で最も有能な諜報組織を一つ挙げるとすれば、それはバチカンが持つサンタ・アリアンザである。全世界のカソリック教会が支部であり、その人的ネットワークで世界中のあらゆる情報を集めている。普段は諜報活動に特化しているが、当然ながら「誘拐」「暗殺」などを手掛けることもできる。


「……猊下の御意思を伺うべきでしょう。サンタ・アリアンザを動かすことが出来るのは猊下のみです」


 たった一人の男のために、世界最大のカソリック教会がその秘めたる力を使おうと動き始めた。





【日本国 二月一三日】

 二〇二一年二月一三日、一四日の二日間に渡って、日本国憲法改正の是非を問う国民投票が行われた。選挙とは違うため、投票日ギリギリまで各テレビ局では討論番組が組まれ、左右両派のコメンテーターが口角泡を飛ばしていた。憲法改正については各党で意見が分かれている。与党である自由保守党は憲法改正案を提示し、明確に改憲を訴えている。連立与党である公正党も、ダンジョン問題が解決次第、再び憲法改正を行うという条件付きで、自保党の改憲案に賛成した。また地方分権を訴える維新党や国民民政党も賛成している。

 一方、反対の立場を明確にしているのが社会共産党と立憲民政党であった。自保党の改正案は、自衛隊を明確に「軍隊」と定め、集団的自衛権を認めるというものである。これは軍拡に繋がり、ひいては日本が再び侵略国家になるというのが、社会共産党の主張であった。一方の立憲民政党は「手続き上の問題」という理由で反対している。集団的自衛権を認めれば、自衛隊の権限は法律に委ねられることになり、憲法九条で謳う「侵略を目的とする戦争の放棄」が形骸化するというのだ。


「ダンジョンの問題は、現行の憲法でも十分に対処できます。通常兵器をダンジョン内に持ち込むことが出来ない以上、自衛隊が魔物と戦う可能性は、ジョーカー率いる魔王軍との戦いか、ダンジョンから魔物が溢れ出てきたときに限定されます。日本国の排他的経済水域に入った段階で、武力行使をすればよいのです」


 左派系のコメンテーターはこう主張するが、それは彼らが魔物をロクに見たことが無いから言えるのである。Aランクのワイバーンでさえ、一〇〇〇体が日本海を越えてきたら、恐らく航空自衛隊は壊滅するだろう。実験から、ゴブリンやオークなどは海を潜ってくることは出来ないと判明しているが、スケルトンなどは違う。一〇万体のスケルトンが海底を歩き続け、太平洋を横断してくるかもしれない。そうなれば一般市民などは一溜まりもないだろう。


「浦部総理は、ブラックストーン、いわゆる魔石による国産エネルギー調達が軌道に乗り次第、自衛隊の軍備増強を明言しています。具体的には現在のGDP比一%という防衛費制約を止め、三%にまで引き上げるとしています」


「つまり自衛隊が三倍に増強されるということでしょ? とんでもない軍拡ですよ。日本が再び侵略をするのではないかと、近隣諸国が不安になるのも当然です」


「ですがガメリカや亜国(※大東亜人民共産国)、東亜民国や東南アジア各国は賛成しているようですが? 特に東亜民国は、先日ダンジョン・バスターズによってダンジョンが討伐されたこともあり、日本支持の声が大きくなっています」


「ですがウリィ共和国が反対しているでしょう? 日本にもっとも近い隣国であり、先の大戦で日本の侵略を受け、植民地支配をされた国が反対しているのです。それを無視するというのは問題でしょう」


 聞く人によってはアホらしい意見かもしれないが、本人は本気で主張しているのである。国民投票前日まで、こうした議論が朝から夜まで繰り返され、そして投票日を迎えた。





【ダンジョン省 江副和彦】

「案の定、国民投票日にはいろんな団体が動いていたわね。なぜかハングル文字が書かれた横断幕を持って反対運動していた人たちもいたけれど……」


 ダンジョン省事務次官の石原由紀恵は嬉しそうに紅茶を飲んでいた。笑顔の理由は理解できる。憲法改正の是非を問う国民投票は、テレビをはじめとするマスメディアの期待とは裏腹に、七五%が賛成という結果になった。元文科省事務次官はこの結果に怒り「このような結果が出るなど、日本人は愚かだ」とSNSで発言して炎上している。


「新憲法発布は五月三日、憲法記念日だったな。あと三ヶ月弱しかないが、大丈夫なのか?」


「大丈夫よ。新憲法案は既に発表されているし、なにより日本国民の多くは、現行憲法でさえ読んだことのない人が大半なのよ? それで憲法に賛成、反対と言っているのだから、誰かの言葉ではないけれど愚かと思わなくも無いわ。あ、この発言はダメね。忘れてちょうだい」


 俺は肩を竦めた。元防衛省の官僚であった石原にとっては、自衛隊が憲法に明記されるのは悲願だったのだろう。無論、ダンジョン省にとっても悪い話ではない。ダンジョンを管理するために、ダンジョン省と防衛省は連携している。いずれ来る魔物大氾濫モンスタースタンピードに備えるには、今から防衛力を強化する必要がある。俺としても、ひと段落ついたと安堵の気持ちであった。


「それで、次はいよいよフィリピノね。貴方も行くの?」


「いや、フィリピノには寿人たちを派遣する。それと大亜共産国には正義と凜子のチームだ。上海と香港にBランクダンジョンがあるからな」


「大丈夫なの? 貴方がいなくても」


「すでに全メンバーがBランクになっている。ここから先は、Bランクダンジョンの取り合いだ。アジア全域のBランクダンジョンを討伐し、Aランカーを増やす」


 Aランクダンジョンは世界に六七ヶ所しかない。そのうち半分をダンジョン・バスターズのメンバーによって討伐すれば、Sランク冒険者を三〇名以上揃えることが出来る。そうすれば、世界七ヶ所のSランクダンジョンの討伐にも目途が着くだろう。


「寿人、正義、凛子のチームはそれぞれ六名で構成されている。それに俺と彰を加えて全部で二〇名。これが今のダンジョン・バスターズのメンバーだ。あと二チーム作りたい。それで人的資源は揃う」


「魔物大氾濫を乗り越えた後、ダンジョンはどうなるのかしら? 私としては出来れば残って欲しいものだわ。魔物が地上に出てこない限り、ダンジョンは有益だもの」


 世論に押される形で、ダンジョン・ブートキャンプの年齢は七〇歳未満にまで引き上げられた。札幌ダンジョンで試験的に行われているが、地上時間で三日かけてゆっくりと進めることで、身体への負担を抑えながら若返りの効果を得られるらしい。七〇歳手前の老人が、四〇代半ばくらいにまで若返るのだ。健康保険料の負担も抑えられ、財政健全化にも繋がる。


「それで、俺を呼んだ理由は?」


 世間話が終わったところで、呼び出された理由を尋ねた。石原は少し表情を改めて、一枚の紙を取り出した。


「ダンジョン・クルセイダーズのレオナールが殉職し、新たにミシェル・アルチュール・重田が加わったのは知っているわね?」


「あぁ、ロルフから連絡を受けた。女性っぽい見た目だが、根性はあるらしいな。既にCランクになり、ブリュッセルのダンジョンを討伐すると言っていた。それが?」


「クルセイダーズが新たなメンバーを迎え入れたのは良いのだけれど、問題はそれ以外だそうよ。バチカンも第二、第三のクルセイダーズを用意するつもりでいるけれど、Dランク以上に上がれないそうなの。そこで……」


「おいおい、まさか……」


 俺の言葉を無視し、石原は紙を俺の前に置いた。


「DRDC長官ステファノ卿からの依頼よ。現在、クルセイダーズ予備軍としてDランカーが一〇名ほどいる。彼らをCランクに引き上げて欲しい。既に全員が神の前で誓ったそうよ。たとえ発狂しても構わない。ダンジョン・バスターズに鍛えて欲しいと。断っても良かったのだけれど、報酬が問題なの」


「報酬? 一〇〇億ユーロくらい積んできたのか?」


 たとえ一兆円を積まれても断るつもりでいた。これからアジア各国を回り、Aランク冒険者を育成するのだ。そして鹿骨町の「深淵」を討伐し、他のAランクダンジョンも討伐する。バスターズのメンバーならともかく、他の冒険者を育てている暇などない。


「報酬はレオナールがドラゴンから聞いた、ダンジョン・システムに関わる情報よ」


そう思っていたが、石原長官が提示した報酬内容を聞いて考えを変えた。




大変お待たせをしました。ダンジョンバスターズ更新再開です。

今月25日に、オーバーラップノベルス様よりダンバス第4巻が出版されます。また来月にはコミックガルドより、コミカライズ版ダンジョンバスターズの連載が開始されます。

皆様、応援のほど宜しくお願い申し上げます。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
ダンジョンクルセイダーズもクラン化かあ・・・
[良い点] 4巻刊行おめでとう&ありがとうございます☆ 連載再開ありがとうございます♪ [気になる点] 気になる点 < もしそれが事実ならば、カソリック教のみならず、各宗教があまねく「似非」であったこ…
[一言] 一年音沙汰がなかったからエタってしまったのかとがっくりしていたが、継続されるようでよかったです。 4巻も買わせていただきます。コミカライズ版も楽しみにしています。
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