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第008話:種族限界突破!

「それで、その人はすぐにいなくなってしまったと?」


 横浜新道に出現したダンジョンは、その日のうちに全国ニュースとなって広まった。さらに、警察が現場に到着する前に、一人の男性がダンジョンに入って戻ってきたということもマスコミに伝わってしまう。その男は誰なのか、当然ながら強い関心を惹いた。


「本当にすぐに戻ってきて、サッといなくなっちゃったんですよ。年齢? 30歳くらいだったと思います。あ、なんか若い女性に何か渡してましたね。でもその女性も、もういないですよ?」


 警察も、その場にいた目撃者などに話を聞いている。共通しているのは30歳くらいの男性がダンジョンに入ったこと。20歳くらいの女性と何か話していたこと。そして二人とも居なくなってしまったことである。


「仕方ねぇかな。こっちも忙しいし、無事に戻ってきたんならそれで良しとするか。ソイツの件は後回しだ。それより、横新のど真ん中にこんなもんが出現するなんて、こっちの方が大変だぜ。当面は封鎖して、迂回路用意するしかねぇな」


 神奈川県警の現場責任者が舌打ちする。横浜新道は交通量の多い基幹道だ。そこが封鎖されるということは、人体でいえば動脈硬化を起こすようなものである。本来であればダンジョンなどコンクリートを流し込んで埋めてしまいたいくらいだ。だがそれは国から止められている。何が起きるか判らないからだ。


「せめてもの救いは、反町駅付近に出現したから迂回路が敷きやすいってことだけだな。下りはそのままにして、上りだけ交通整理するぞ。近隣にも事情説明しとけ」


 交通警察が一斉に動き出す。全世界を襲った「第二の波」によって、各国政府も動き始めた。





「大統領、ダンジョンについての情報開示を要求する声が、日増しに強まっています。このままでは議会を抑えられません」


 大統領補佐官の言葉に、ロナルド・ハワード大統領は面白くなさそうな表情となった。ダンジョンについての情報は、徐々に集まってきている。だがその大半が荒唐無稽なものばかりだ。


「武器がカードになる? ステータス表示? おまけに『カードスロット』とかいう理解不能な機能? こんなものを誰が信じる? いっそ、核爆弾で吹き飛ばしてやりたいくらいだ!」


「テストとしてC-4プラスチック爆薬を持ち込んだところ、カード化してしまったとのことです。どうやら地下の空間までは持ち込めるのですが、扉の先には武器を持ち込むことはできないようです。爆薬、アサルトライフル、拳銃、アーミーナイフまで、全てカードになってしまいます。扉から戻ると自動的に元に戻るので、カード化機能を使って武器を持ち込むなど、テロの懸念が無いのが幸いですが……」


「だが実際には判らん。我々が知らないだけで、武器をカード化して運ぶ手段があるかもしれん。タイマーを起動した核爆弾をカード化して合衆国に持ち込まれてみろ。その可能性が1%でもある限り、情報開示は慎重にならねばならん!」


「下院議長には説明をしていますので理解は得られているのですが、やはり民主党議員からの突き上げが激しいようです。たとえ荒唐無稽と言われても、ここは情報開示すべきではないでしょうか」


「だが我が国だけが単独で情報公開しても、民衆がそれを信じるか? いや、他国民も自国に『本当なのか』と問い合わせるだろう。外交問題にもなりかねん」


 補佐官たちもそれぞれに意見が違う。ダンジョンの情報を公開することは簡単だ。ニューヨーク、シカゴ、シアトル、ロスアンジェルスに出現したダンジョンは、全て米国陸軍によって厳重に管理されている。幸いなことに出現するのは「小さなスライム」「体長30センチほどのゲジゲジ」など、足で踏み潰せるモノが大半だ。ステータス表示やスライムが出なければ、ただの地下施設と思っていたかもしれない。


「それでは、G7会議で合同発表してはどうでしょうか」


 一人の意見に、全員の視線が集まった。


「今月末に予定しているG7会議は、元々は大阪で開催される予定でしたが、ダンジョン出現のリスクから、名古屋に変更になりました。名古屋G7では間違いなく、ダンジョン対策が話し合われるでしょう。各国とも、情報統制、公開の狭間で悩んでいるはずです。そこで、先進7カ国合同声明として、ダンジョンの情報を開示するのです」


「グッド・アイデアだ! 早速、セーチローに連絡しよう!」


 ハワード大統領の喜色の顔に、補佐官たちはホッと息をついた。





 Dランクモンスターカードが600枚以上ある。そして現在も増え続けている。自分のランクは未だにCに上がらないが、武器と防具は揃えておきたい。そこで俺は、いままで回していなかった「防具ガチャ」を回すことにした。まずは防具ガチャを33回まわす。被っているモノも多いため、主だったモノだけ、取り上げる。


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【名 称】 鋼の胴鎧

【レア度】 Rare

【説 明】

腹部から胸までを護る胴鎧。重いが、

物理攻撃に強い耐性がある。

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【名 称】 黒鋼の鎖帷子

【レア度】 Rare

【説 明】

鍛え抜かれた鋼を丁寧に編み込んだ

鎖帷子。女性でも着用可。

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【名 称】 防刃忍び服

【レア度】 Rare

【説 明】

鋼蜘蛛の糸から生まれた防刃布を使った

忍び服。強い防刃性がある。

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【名 称】 魔導士の外套

【レア度】 Rare

【説 明】

消費魔力を軽減させる付与効果がついた

魔法使い用の外套。

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 33回でレア装備が四つでた。確率的には悪くはない。UCの装備では盾や篭手なども出たが、朱音はいらないそうだ。俺もいらん。科学技術が生み出した防刃シャツは、第三層でも十分に通用している。

 続いて、アイテムガチャを33回まわす。これもレアが四つでた。


==================

【名 称】 異空間の革袋(小)

【レア度】 Rare

【説 明】

魔法の革袋の上位版。袋の中は時間が停止

している。ただし入れられる容量は、

9立方メートルまで。

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【名 称】 怠け者の荷物入れ

【レア度】 Rare

【説 明】

魔物のドロップアイテムを自動的に

入れてくれる。パーティーで使用可。

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【名 称】 エクストラ・ポーション

【レア度】 Rare

【説 明】

不治の病や欠損部位なども完全回復させる

最上級のポーション。無味無臭。

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【名 称】 ガード・リング

【レア度】 Rare

【説 明】

指に填めるだけでアラ不思議。物理耐性が

向上する指輪。ただし魔法には効かない。

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「66回ガチャして、レアが8個か。おなじDランク魔物でも、第三層だと若干、レアの確率が高くなるようだな」


 そして余ったカードでキャラクターガチャを回してみる。出たのはなんと! ただのオークカード(UC)だったよ。





「朱音には、鎖帷子と忍び服、そしてガード・リングだな」


「和彦様、ガード・リングは和彦様が身につけるべきでは? 私は大丈夫でございます」


「いや、俺こそ大丈夫だ。ポーションは山ほどある。それよりお前の肌が傷つくほうが、我慢できん」


「まぁ、嬉しいですわ」


 嬉しそうに抱きついてくる。横浜で出会った女性から食事をと連絡があったが、やはり朱音のほうが魅力的だ。もっとも朱音は人間ではないのだが。


「この『怠け者の荷物入れ』は便利だな。肩から掛けるタイプで少し邪魔になるかも知れないが、この容量ならカードもカネも十分に入る。拾う時間が短縮される分、さらに稼げるだろう。早速検証するぞ」


 現在、第三層では3時間で200体のスケルトンナイトを狩っている。もしこれが300体にでもなれば、稼ぎはさらに増える。隣近所の土地を札束で買い占めるという計画も早まるだろう。現在、銀行口座には2億円以上が入っているが、それは個人事業主としての「コンサルティング料」だ。税金も支払わなければならない。


「できるだけ、現金決済でいきたいな。土地取得と並行して、衣類や保存食をさらに買い進めるか。魔法の革袋に入れておけば、まずバレないだろうしな」


 現金というのは何気に嵩張るものである。1億円は10キロ超になってしまう。経営は信用第一だ。国税調査が入ってもバレないようにしなければならない。


「行くか。目標は3時間でスケルトン300体だ」


 朱音と共に、ダンジョンへと入った。





 東京都江戸川区鹿骨町には、狭小住宅が多い。特に俺の自宅は、土地面積40平米から70平米くらいの家が密集している。いずれも築30年前後の家だ。資産価値は土地だけになる。俺は近隣10軒の土地を買い占めることに決めた。調べたところ、俺の家も含めれば600平米になる。少し上乗せして、1平米あたり40万円とすれば、2億4千万円だ。


「いかがでしょう。本来であれば建物は資産に入りませんが、江副さんは500万円を上乗せするとのことです。土地価格も、本来の相場より3割ほど高めです。この額での買い手はまず見つかりません」


 幼馴染の岩ちゃんに紹介してもらった不動産屋は、ホテル建設などの大口を扱っているが、今回の話を快く引き受けてくれた。無論しっかりと報酬を支払う。金払いの良い客を裏切るような企業なら、とうに潰れているだろう。


「お隣の山田さんは、既に了承してくださいました。私としては広い土地にして開発することで、大きな経済効果を得たいと考えています。いかがでしょう。ご賛同、いただけないでしょうか?」


 不動産屋の仲介とスキル「誘導」によって、トントン拍子で話は進んだ。僅か二日で、隣近所合計10戸から合意を得ることができた。50平米の古い家の相場は、せいぜい1500万円だ。それを2500万円で売ることができれば、もっと駅の近くにマンションを買うことだってできる。彼らも満足だろう。1千万円を上乗せする代わりにお願いした「2週間以内の引越し」「買い手の秘密厳守」も、契約書に明記したうえで、ガチャで入手した「誓約の連判状」にサインをもらったので問題ない。


「皆さんが引越された段階で、工事に入ってください」


「設計は既に始めています。中庭を広めにして『地下室』はそのままで、とのことでしたね。大丈夫です。ウチの設計担当は優秀です」


「鉄骨鉄筋コンクリートで、しっかりとした造りでお願いします。お金に糸目はつけません」


 さて、俺も引越しまで2週間。しっかり稼ぎますか!





 ダンジョン時間3時間で300体以上のスケルトンナイトを狩る。それを5回、15時間ごとに8時間の休憩を取る。これを1サイクルとカウントする。途中でシャワーなども浴びるので、地上時間で3時間ほどが、ダンジョン時間の6日分、144時間になる。ほぼ5サイクル分だ。


「1サイクルで150万円、5サイクルで750万円、地上時間の1日で、これを4回やる。すると1日3千万円の収入になる。1週間で2億を超える」


「気が狂いそうですわ。和彦様は、よく普通にしてられますわね?」


 朱音が愚痴るのも仕方がない。1週間で倒すスケルトンの数は、21万体に達する。3%がカードになったとしても、カード枚数は6千枚以上になる。


「一種の作業だと思えばいい。それにそこまで気張らなくても良い。嫌になったら、途中でやめても良いんだ。だが恐らく、この1週間で俺はCランクになるだろう。人間の限界を突破するには、これくらいの無茶が必要だと思うんだ」


 最初は1日置きとも考えたが、こうしたことは一気に終わらせてしまったほうが良い。地上時間で1週間、ダンジョン時間にすると実質168日間におよぶ、過酷な狩りが始まった。





 こうした単純作業は、目標を定めてやるのが良い。俺は21万体のスケルトンを倒すことを目標とした。そして3時間で300体をプロセス指標とする。するとどうだろうか。300体を倒す速度が徐々に上がっていく。最初は3時間を超えることもしばしばあったのに、やがて3時間を切り、いまでは2時間45分で300体を狩ることができる。


「工場の作業と同じだ。習熟すれば速度が上がる。スケルトン狩りの作業に体が慣れ、作業効率が上がっているんだ。この分なら、早めに終わりそうだな」


 朱音の白くて細い背中を押す。いつもマッサージをしてもらっているので、偶には俺がやろうと言うと、朱音は喜んで裸になった。


「効率化されるのは結構ですが、その分、ランクが上がり難くなると思われます。ランクアップのためには、肉体への負荷が欠かせませんから……」


「そうだな。だから明日からは久々に、ウェイトをつけて狩りをやるぞ。それで300体を2時間45分で狩れるようにする。そうなれば、ランクも上がるはずだ」


「本当に……常軌を逸していますわ」


 朱音が眠そうな声を漏らした。俺は黙って背中を押し続ける。やがて静かな寝息が聞こえてきた。





 片足7キロ、片腕3キロ、胴体20キロ、合計40キロのウェイトをつけてスケルトンナイトと戦い続ける。自分でもバカバカしく思えてくる。ラノベでは、主人公は簡単にレベルアップして強くなる。自宅にダンジョンができたというラノベでは、単調に魔物を殺しただけですぐにレベルが上っている。


だがそれは所詮、ファンタジーなのだ。リアルは違う。指先で魔物をプチプチ殺しているだけで強くなどなれない。己に負荷を掛け、考え、工夫し、汗を流し続けたその先に、ほんの僅かな成長がある。膨大な時間を掛けて、薄皮を一枚ずつ重ねていくように強くなる。そして振り返ったら「レベルが上がっていた」という過去形で、成長が表現されるのだ。だから俺は、途中からラノベを参考にするのを止めた。


「和彦様っ!」


 朱音が叫んだ。目の前のスケルトンを屠り終えて振り返る。朱音の眼が潤んでいる。


「お目出度うございます。ついに、限界を超えられましたね」


 ステータス画面を呼び出す。


==================

【名 前】 江副 和彦

【称 号】 第一接触者ファーストコンタクター

【ランク】 C

【保有数】 1/∞

【スキル】 カードガチャ(27)

      回復魔法

      誘導

      (空き)

      ------

      ------

==================


 ようやく、ようやく辿り着いた。俺は深く息を吐いた。すると久々に、頭の中に音声が響いた。


〈『種族(ピーシズ) 限界(リミット)突破(ブレイク)』を確認しました。種族限界突破者用のスキルが解放されます。また第一人目(ファーストブレイク)特典として、キャラクターカード『小生意気な魔法使いエミリ』が贈呈されます。次は『存在(ビーング)限界(リミット)突破(ブレイク)』を目指してください〉


「……『存在(ビーング)限界(リミット)突破(ブレイク)』?」


 疑問形でつぶやいたが、まずは目の前に浮かんでいるカードからである。朱音と同じように、光り輝いていた。


==================

【名 前】 エミリ

【称 号】 小生意気な魔法使い

【ランク】 F

【レア度】 Legend Rare

【スキル】 秘印術Lv1

      招聘術Lv1

      錬金術Lv1

==================


「『小生意気な魔法使い エミリ』……秘印術に長け、六大元素を操る強力な魔法使い。また召喚石を使って一時的に強力な魔人を召喚でき、薬草調合などの錬金術の知識も持つ万能型魔法使い。身長157センチ、B85 W56 H82」


 するとカードがポンッと音を立てて消えた。


「ちょっとアンタッ! なに勝手に人のプライバシー覗いてるのよっ!」


 ツインテールの髪型の、明るめの茶髪をした女子高生くらいの年齢の女の子が、眉間を険しくして立っていた。





「このエミリ様は偉大なる一〇八柱の一柱、天才魔術師よ! 本当なら様付で呼ばせるんだけど、一応、アンタは主人(マスター)になるんだから、特別に『エミリさん』で許してあげるわ。感謝なさい!」


 気が強くて生意気な女である。俺はこの手の女が嫌いだ。かつて会社員だった頃に、この手の女が職場にいた。常に「私」が主語で、日常でも会議でもやたらと喋る女だった。承認欲求がやたらと強いくせに、他者への敬意が無く、職場の空気を悪くする。そしてそれに気づいてもいないという救いがたい女だった。結局その女は、組織の中に居場所がなくなり辞めていった。

 今後、ダンジョン・バスターズが組織となっていくうえで、この手の女は害にしかならない。能力的には惜しいが、カードに戻して封印してしまうか。そう思っていたら、朱音が冷たい笑みを浮かべてエミリの前に出た。


「はじめまして、エミリさん。私はくノ一の朱音と申します。どうぞ宜しくお願いしますわね」


「へぇ……アタシ以外に一〇八柱を召喚していたなんて、ちょっと生意気じゃない。朱音って言ったわね。いいこと? これからは、このエミリ様が仕切るわ。アンタたちはエミリに従って……」


 我慢の限界が来たので、俺はエミリの背後に回り込み、胴に腕を回した。一〇八柱は主を選べる。ならば俺以外の奴を主にすればいい。


「キャァァッ! ちょ、ちょっとアンタッ! 何を……」


「黙れ、クソガキがっ! 俺はな。お前のように自己主張だけ激しくて、他者の心理や空気を読めない勘違い女が一番嫌いなんだ! 大人としてしっかり躾けてやる!」


 一〇八柱といっても、ランクは初期のFである。Cランクになった俺の力なら、動きを封じることくらい容易い。腕を捻りながら抱え上げ、膝まであるスカートを捲り上げる。白い下着を穿いた尻が剥き出しになる。


「イヤァァッ! ちょっと朱音、見てないで助けなさいよっ!」


「和彦様、魔物が来ないかどうか見張っておきます。心ゆくまで、徹底的に折檻してやってくださいませ」


 朱音は冷酷な光を瞳に浮かべていた。以心伝心というやつか。俺も朱音にそれを頼もうと思っていた。


「あぁ、頼む。さて、生意気なガキを躾ける一番良い方法を知っているか?」


「ヒッ……嫌、嫌ァァァ!」


 俺はきっと、冷酷な笑みを浮かべていたに違いない。エミリが嫌々と首を振る。俺は右手を尻に当て、振り上げた。


「……それは、痛みだ!」


 バチィィン!


 肉を叩く音がダンジョン内に響く。人間の限界を突破した俺の、本気の「お尻ペンペン」だ。エミリが泣き叫ぶ。


「痛ァァィィッ! イヤァァァッ! や、やめなさ……」


「やめてくださいだ! 言い直せ!」


 バチィィンッ!


 再び叩く。白い尻が紅葉色になる。暴力? パワハラ? 知ったことか。この手のガキは犬と同じだ。優しく扱えば付け上がり、やがて自分が主人だと勘違いする。聞いてもらって当たり前。教えてもらって当たり前。与えられて当たり前だと思うようになる。職場の空気を悪化させ、士気を下げる元凶だ。


「実力も無いくせに口だけは回り、鼻っ柱が強い。お前のような奴はいらん。選択肢は三つ。今すぐ態度を改めるか、それともここで死ぬか、俺以外の持ち主を探して消えるか、選べ」


「ふ、ふざけないで。エミリは……」


「そうか、死を選ぶか。結構、一〇八柱が死んだらどうなるか試しておく必要があるからな。死ね」


 バチィィンッ!


 殺すつもりは無い。だがお尻ペンペンでも、着実にダメージは与えているはずだ。既にエミリの尻は赤黒くなり、内出血を起こしている。服従するなら、ポーションを使って治せばいい。服従しないのならカードに戻して永遠に封じるつもりだ。


「朱音は俺のことを和彦様と呼ぶ。お前もそれに合わせるか、もしくは主人(マスター)と呼べ。それ以外の呼び方は許さん。さぁ、呼んでみろ」


 そう言って手を振り上げる。エミリは慌てて叫んだ。


主人(マスター)ッ! 主人(マスター)って呼ぶからぁぁ!」


 バチィィン!


「ヒギィィィッ!」


「『主人(マスター)と呼ばせていただきます』だ! 言い直せっ!」


 再び手を振り上げる。だが下ろす前に、エミリが震えた。やがて大声で泣き始める。


「ぶぇぇぇぇっん! 主人(まずだー)と呼ばぜでいだだぎまずぅぅぅっ。許じでぐだざぃぃぃっ!」


 俺は腰に下げたカードケースから、ハイ・ポーションを取り出した。赤黒く腫れ上がった尻に掛けてやる。尻はみるみる、元の色に戻った。




コミック版「ダンジョン・バスターズ 第4巻」がもうすぐ発売されます。特典SSなども付いています。ぜひお手に取ってください。


《書籍版》

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)


《コミック版》

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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[良い点] 読み始めたばかりですが面白いです。 [気になる点] >「買い手の秘密厳守」も、契約書に明記したうえで、ガチャで入手した「誓約の連判状」にサインをもらったので問題ない。 「買い手の秘密厳守…
[一言] >1週間で倒すスケルトンの数は、21万体に達する。3%がカードになったとしても、カード枚数は6千枚以上になる。 第7話では、「有り難いと言えば、スケルトンは一体ごとにカードを落としてくれ…
[良い点] 読みやすいし面白い [気になる点] ちょっと主人公が酷すぎるかなそういうキャラで出したなら少しずつやってほしいこれじゃレイプみたいなもん [一言] お尻ぺんぺんで緩和してるつもりかもしれ…
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