第062話:束の間の休息
【ダンジョン・バスターズ 冒険者食堂 木乃内詩織】
早いもので、私がここで働くようになってから、もう2ヶ月が経とうとしています。最初は右も左も解りませんでしたが、やることは主婦と同じ「家事」です。朝、昼、夜の食事を作り、あとは建物の掃除です。バスターズの皆さんが宿泊する部屋は、それぞれが自分で掃除、洗濯、布団干しをするので、私の仕事はそこまで大変ではありません。それに私以外にも数人の主婦が働いています。この鹿骨町の真ん中に時給2千円のパートができれば、たくさんの人が応募してくるのも当然です。私のように、ある程度親離れした子供を持つ30代~40代の主婦が採用され、シフト制で働いています。
「木之内さん、そろそろラー油が無くなりそうなの。作ってもらえないかしら? 私のほうは、トマトソースを作りますから……」
「あら、もう無くなったのね。わかりました。スパイスもありますし、皆で作りましょう」
私自身、料理が好きだということもあるのですが、調味料やソース類は私たちで作ることが多いです。その理由は、冒険者の皆さんにはできるだけ美味しい料理を食べてもらいたいからです。特に自家製ラー油は、市販のものとは全く違う味になります。冒険者の皆さんも、色々な料理で使ってくれています。すぐに無くなってしまうので、材料は常にストックしてあります。
「陳皮、桂皮、八角、クローブ、黒胡椒と花椒のホールを乾煎りして……」
スパイス類は、軽く火を通すことで香りが立ちます。その間に長ネギの青い部分、生姜、沖縄産島ニンニクを用意します。乾煎りしている中華鍋の隣に、小型の寸胴を用意します。10リットルの白絞油を注ぎ入れ、乾煎りしたスパイス類と香味野菜を入れてコンロの火をつけます。温度計を挿し込み、150度の温度になるように気をつけます。
「ボウルに半島産唐辛子と朝天唐辛子は粗挽きで、京都産の激辛唐辛子はパウダーで用意して、それを2:2:1の割合で配合し、桂花陳酒を加えて混ぜ合わせて……」
具沢山にしたい場合は、ボウルの中にフライドオニオンやガーリックチップ、ピーナッツを加えても良いでしょう。今回は普段遣いのラー油を作るので「食べるラー油」にはしません。練った唐辛子は四角型の寸胴「スギコ」に移し替えます。
寸胴の様子を見てみると、青ネギがちょうどよい具合に色づいてきました。ネギが焦げてしまうと香ばしさが加わります。それを好む人もいますが、今回はその手前で止めます。寸胴の隣にスギコを置き、お玉ですくった熱い油をシノワで濾しながら練った唐辛子に掛けていきます。すると、ジュッという音とともに蒸気が立ちます。吸い込むと咽てしまうので、換気扇の下で作業しなければなりません。油を注いだら焦げないようにお玉で混ぜ、そして再び油を注ぐ…… これを繰り返していきます。やがて泡立ちが静まると、真紅色のラー油が完成します。
「せっかくラー油を作ったのだし、今夜は担々麺にしようかしら?」
「棒々鶏サラダも付けましょうよ。今朝、採れたての胡瓜を貰ったの!」
皆でワイワイとメニューを考えていると、まるで高校時代の家庭科の授業に戻ったような気分になります。和彦さんは食事を非常に重視しています。冒険者はダンジョンの中で強くなりますが、そのためにはより多くの栄養を取り込まなければならないそうです。「食事にはお金を惜しまない」と言って、月額予算で1千万円も渡されます。とても使いきれません。
「こんちはー 旭日精肉店でーす」
あら、お肉屋さんが来たわ。旭日さんは江戸川区でも有名な精肉屋さんで、新小岩にある店舗からわざわざお肉を運んでくださっています。ここのメンチカツは特に美味しいから、買い置きしておかないと…… 500個くらいでいいかしら?
【東京テレビ 大須賀文香】
以前から打診していた企画に了解を得られたのは、数日前のことだった。局側も意外だったようで、大至急番組編成が見直された。安定の東テレが番組編成を見直すのは極めて珍しい。それだけ、この企画は垂涎だったのだろう。なにしろ昨年末の放送では、視聴率が40%を超えたのだから……
「皆様、こんばんは。昨年末の特番から、早いもので5ヶ月が経過しようとしています。昨年の7月末にダンジョンが出現してからおよそ10ヶ月…… 世界の混乱は収まるどころか拡大しています。日本は、世界は、そして人類はどうなってしまうのか。今夜は5ヶ月ぶりに、この方に来ていただきました。ダンジョン・バスターズ代表の江副和彦さんです」
5ヶ月ぶりに会った彼は、少し雰囲気が変わったような気がする。5ヶ月前と同様、上質のスーツで身を包んだ姿は、一見すると経営コンサルタントや企業経営者に見える。理知的なビジネスマンの佇まいに、冒険者という野性味を加えた独特の雰囲気は変わらないのだが、少し野性味が増したのではないだろうか。
「この5ヶ月間を振り返ると、激動という言葉がもっともふさわしいのではないでしょうか。日本国内においては、札幌、横浜、金沢、船橋と4ヶ所のダンジョンが討伐されました。ダンジョンが討伐可能であることが判明したのは、人類にとって朗報でした。その一方で、ダンジョン内の魔物が地上に溢れ出る、いわゆる「魔物大氾濫」が発生する可能性も示されました」
10年後と言われているが、政府は否定も肯定もしていない。つまり、知っていて黙っている。公表すれば、世界的な大混乱を招くからだ。一部のフリージャーナリストなどを除き、各マスメディアも暗黙の了解で、その時期を追及することはしていない。日本、ガメリカ、EU、大東亜共産国など各国が連携して機密情報に指定している。真実を伝えるのはジャーナリストの使命だが、各国の首脳が「伝えるという行為の責任」を口にし、仮にスクープなどで公表した場合、そのことで発生した混乱の全責任が問われてしまう。テレビ局など一発で潰れるだろう。
「ダンジョンが討伐可能ならば、あとは冒険者たちが活躍し、一つずつ潰していけばいい。EUにも、バチカン教国公認の十字軍、ダンジョン・クルセイダーズが結成され、ダンジョン討伐は順調に進むだろう。そう希望を持った矢先のことでした。これまで36日ごとだった群発現象が、いきなり早まりました。24時間で次々と、世界各国にダンジョンが出現したのです。群発現象は現在でこそ収まっていますが、ダンジョンの総数は600以上となり、未発見ダンジョンが存在する可能性もあります。希望が芽生えた矢先の出来事に、人類は再び絶望の淵に立たされたのです」
江副に横目を向ける。無表情のままだ。彼は胸中で、なにを感じているのだろう。この5ヶ月を振り返っているのだろうか。
「そして、さらなる事件が起きました。ベニスエラ共和国でクーデターが発生し、ジョーカーと名乗る人物が、大氾濫の発生時期は10年後であり、自分はそれを引き起こそうとしている。助かりたければ金を支払えと要求したのです。全人類を人質とした脅迫には、世界中から最高レベルの非難声明が出されました。ベニスエラは国連脱退を表明していますが、国連安保理では除名勧告が決議され、次の国連総会では、ベニスエラ除名処分が採択されると見込まれています。その一方で、大姜王国などの一部の国はジョーカー支持を表明し、ベニスエラと共に国連脱退の動きすら見せています。魔物大氾濫、そして世界の分断という危機に、私たちはどう立ち向かえば良いのでしょうか。今夜は、ダンジョン冒険者であり、政府のダンジョン政策にも深く関わっている江副さんに、幅広い分野でお話をお聞きしたいと思います」
【東京テレビ 江副和彦】
これまであまりメディアには出てこなかったが、向井部長に諭されたのを機に、多少は露出しようと思い直した。来週はTNG47がバスターズ社屋にやってくる。「深淵」に入れるわけにはいかないが、良い機会なので「江戸川区鹿骨町」を案内するつもりだ。どの最寄り駅からも徒歩30分以上かかるという陸の孤島だが、意外な名店があったりするのだ。
「最後に、日本のこれからについてお聞きしたいと思います。6月はいよいよ、衆参同時選挙が行われる予定ですが、対ダンジョン政策が大きな争点になっています。与党である保守党は、憲法の改正、自衛隊増強、ダンジョン省を設立し、すべてのダンジョンを討伐することを目標に掲げています。連立を組む公民党は、憲法改正にこそ慎重ではありますが、ダンジョン討伐までという時限付きで党内がまとまりました」
立場上、あまり政治のことは言いたくないが、今回の衆参同時選挙は全世界が注目している。万一にも与党が負けることがあれば、各国のダンジョン政策が大幅に狂うからだ。
「一方、最大野党の立憲民政党は、ダンジョン討伐には賛成していますが『浦部内閣での憲法改正には反対』としており、野党共闘を呼びかけています。ですが前身を同じくする国民民政党は、憲法改正に賛成する方向で、党内をまとめようとしています。民主市民党と社会共産党はそれぞれ、憲法改正には反対しています」
フリップが出てきた。憲法改正に賛成しているのは「保守党」「(条件付きで)公民党」「日本革新党」「(流動的だが)国民民政党」となっている。反対なのは「立憲民政党」「民主市民党」「社会共産党」だ。だがダンジョン政策についてはかなりの混乱が見られる。
「私は防衛省の冒険者運営局と関わりがありますので、連立与党のダンジョン政策は知っています。EU、大東亜共産国、ASEAN、そして可能ならガメリカにも参加してもらい、全世界のダンジョンを一つ残らず潰す。そのために情報共有と冒険者育成に力を入れ、万一の事態に備えて自衛隊を増強する。憲法改正はその一環です。もし魔物大氾濫が発生したら、従来の戦争の概念は通用しません。なぜなら魔物に国境など関係ないからです。魔物にとっては全人類が敵なのです。各国の軍と連携して戦う必要があるでしょう。そのための憲法改正ですから、それは理解できます。理解できないのは、野党の政策ですね」
フリップが差し替わる。「ダンジョン討伐」「冒険者政策」「大氾濫対策」「ジョーカー対策」の4つについて、各党の政策をまとめたものだ。野党には「言及なし」という項目が目立つが、それ以上に理解不能なのは社会共産党のジョーカー対策だ。
「共産党はジョーカー対策で『話し合いによる解決』としていますが、具体的にどうやってやるつもりなんでしょうね?」
「拉致被害者救出のために大姜王国と交渉しているように、ベニスエラと話し合うことで解決を図れるという主張のようですが?」
俺は思わず失笑してしまった。その様子に大須賀アナは驚いたようだ。「失礼」と咳払いする。
「どれくらい時間を掛けるつもりですかね? 向こうは人類を滅ぼすつもりなんですよ? 大氾濫まで時間稼ぎをするに決まってますよ。大姜王国が核開発の時間稼ぎをしたようにね」
「江副さんは、ジョーカーとの話し合いは不可能だとお考えですか?」
「不可能です。そもそも話し合いで解決できるのは『手段』の部分なんです。『目指す未来像』は、話し合いでは解決できません。なぜなら、それは本人にとって『正義』だからです。ジョーカーにはジョーカーの正義があります。その正義は、我々…… 少なくとも私とは決して相容れません。人はそれぞれに理想があり、正義があり、悪がある。似たようなものであれば妥協も可能かもしれませんが、ジョーカーと私は、妥協の余地はありません」
「では、江副さんはジョーカー問題をどうすべきだと?」
「国連による経済封鎖などは各国政府がやるべきでしょう。ですがそれは解決には繋がりません。相手は国ではない。ジョーカーという一人のテロリストです。そしてそのテロリストは、人間を超えた力を持っています。ジョーカーを止められるのは、より強い力を持った冒険者だけでしょう」
「止めるということは……」
視線を大須賀に向けて、それ以上の発言を止めた。テレビ番組で言うべきではない言葉だからだ。
【テレビ富士 TNG47の貴方、ロケロケ】
「さぁ、やってまいりました! ここは東京都江戸川区鹿骨町です。鹿骨ってどこ?っていう人は、ネットで検索してね。どの駅からも離れている陸の孤島。一生涯、入ったことがないなんて人もたくさんいる、まさに『辺境』! それが鹿骨町です」
「亜由美ちゃん、ディスっちゃダメだよ。今日は、この鹿骨町に本社を構える、世界最大の冒険者クラン『ダンジョン・バスターズ』にお邪魔しま~す!」
(……お前ら、鹿骨町住民にケンカ売ってんのか?)
カメラに向かってキャピキャピと騒いでいる二人を見て、思わず頭を叩きたくなったがそれは内に秘めて笑顔を向ける。
「ようこそ、ダンジョン・バスターズへ」
「キャー! 本物の江副さんだ! 渋~い!」
いや、さっきからいただろ。まぁいい。TNG47の名前は知っているが、メンバー名は一人も知らない。前島裕子と峰野亜由美という二人は19歳らしいが、見た目は女子高生にも見える。
(顔立ちは可愛らしいが、外見も性格も頭の中身も、茉莉の方が三回りくらいは上だな。念のため、不在にさせておいて良かった。並んだら違いすぎて「公開処刑」になりかねん……)
「案内しましょう。この建物にカメラが入るのは初めてですよ」
バスターズの社屋に初めてカメラが入る。カメラマンを含め、スタッフ全員の身元は確認済みだ。敷地に入る門を潜るところから説明する。
「この建物は、四方をすべて高い壁で囲い、死角が無いよう監視カメラを備えています。バスターズにはダンジョン産のレアなカードも多数ありますから、盗難防止のためです。みなさんも、最後のボディーチェックを受けていただきます」
盗聴器などの類がないか、厳重に確認する。パートの主婦たちは「契約書」で拘束しているから問題ないが、彼らは一見さんだ。それを信用するほど、俺は平和ボケしていない。
「二人は、私がチェックするわね。安心して。ただの金属探知機よ。面倒でゴメンね~ これもテロ対策なの。どうか解って頂戴」
戸惑う二人を天音が招き寄せ、金属探知機を当てていく。鞄の中も靴の裏もすべて確認する。二度と、この建物を取材しようなんて思わせないように、徹底的にやる。
「かなり、厳重にやるんですね」
「当然です。この建物の中には、武器弾薬以上に危険なモノも存在しています。なにしろ、ダンジョン産のカードですからね。何重にもロックを掛けて管理していますが、テロリストは手段を選びません。ですから、ここで働くスタッフたちの映像は、モザイク処理をお願いします」
二人は顔を見合わせ、真剣な表情で頷いた。これでよし。バラエティ番組の軽薄さはスタジオでやってくれ。バスターズが軽薄だと思われたら信用に関わる。
冒険者の収穫物を回収するカウンターなどを案内する。スタッフたちは念のために不在にさせている。正面左手一階の事務カウンターを過ぎ、シャワールームを通って食堂に入る。ちょうど凛子のチームが食事をしていた。話をしたいと峰野亜由美が言っていたので、凛子に許可をもらう。
「日下部さんは、どうしてダンジョン冒険者になろうと思ったんですか?」
「そうですね。『武の証明』でしょうか。私は幼い頃から、日下部流古流武術を学んできました。護身は、自分の身だけではなく、大切な人たちを護ることも含まれます。私は、身につけた武術を人類守護のために発揮したい。大氾濫という『戈』を止めたい。そう思ったのです」
凛子は普段の口調で真面目に答えた。だが、秀麗な顔立ちをした大和撫子のキリッとした言葉に、キャピキャピ娘は一発で堕ちてしまったようだ。
「か……格好いい! お姉さまって呼びたいです!」
瞳をキラキラさせて凛子に抱きつこうとする。その名の通りの凛とした「女武人」は、戸惑い苦笑するしかなかった。やれやれ…… 今の話を聞いて、どこに憧れる要素があるんだ? 本当に平和ボケしてやがる。いや、こうしたボケが当たり前とされる社会こそ、俺たちが護らなければならないものなのだ。
【TNG47 前島裕子】
私と亜由美ちゃんは、以前から「ファンタジー・ラノベ」で盛り上がる仲でした。お互いに、自分の好きなアニメや小説を挙げては、誰が格好良いとか異世界召喚されたいとか、そんな話をしていたのです。
ところが去年、そのファンタジー・ラノベが現実となったのです。「ダンジョン関連のニュース」は欠かさずチェックしています。そして「冒険者制度」ができた時に、自分も資格を取ろうかと本気で考えました。事務所やマネージャーから止められなければ、きっと私たちはブートキャンプに参加して、冒険者になっていたと思います。
「鹿骨町はたしかに陸の孤島です。だからこそ、意外な名店というのがあるんですよ。今日はそのうちの一つに案内しましょう。この鮨屋です」
私たちを先導する見た目30歳くらいの格好いいオジサマは、世界一の冒険者クラン「ダンジョン・バスターズ」のリーダーです。世界初の民間人ダンジョン冒険者であり、現在でもダンジョン攻略の最前線に立っています。ジョーカーの登場によって、ファンタジー色が一層、強くなりました。魔物を使役し人類を滅ぼそうとする「魔王ジョーカー」がいて、それを決して認めないと断言する冒険者がいる。いうなれば「勇者」です。できれば自分も、このファンタジーの一員に加わりたいなと思っていました。
「凄い! こんなに豪華なちらし寿司、初めてかも」
出てきた「特上ちらし寿司」に、亜由美ちゃんがビックリしています。初めてというのは嘘だと思うけれど、たしかに豪華な具材をふんだんに使った贅沢なちらし寿司です。これが3千円というのは、たしかに安いのだと思います。
「バスターズでも、たまにここに食べに来るんですよ。食堂の料理も相当に美味しいと思いますが、鮨だけは職人に握ってもらったほうが美味いですね」
江副さんはそう笑っていますが、先程、少しだけ怖い顔を見ました。バスターズに入るにはどうしたら良いかと聞いた時です。一瞬、ゾクッとする怖い気配を感じて、そしてニコリと笑って首を振りました。
「ファンタジー・ノベルに憧れて冒険者になろうというのなら、止めておいたほうがいいでしょう。アレは、空想だから面白いんです。現実を見ると、幻滅どころかトラウマになりますよ?」
優しい言い方だったけれど、有無を言わさない雰囲気がありました。でもやっぱり、ダンジョンには興味があります。番組で一度、ブートキャンプ企画とかやってくれないかなと思ったりします。
【Aランクダンジョン「深淵」 江副和彦】
オークが弾け飛ぶ。Bランクの俺にとって、Dランクのオークなど相手にならない。戦っているのは、軽いリハビリのためだ。10日間、ダンジョンに入らずに地上で静養した。その御蔭で随分とリフレッシュできたと思う。俺一人で大氾濫を止めるのは不可能だ。だが多くの仲間が力を貸してくれている。世界中から、バスターズに応援のメッセージが届いている。一緒に戦おうと言ってくれる人々がいる。
「お休み前よりも、身体のキレが良くなったように見えますわ。背中の気配にもどこか余裕があって、とても頼もしく見えます。今の和彦様なら、きっとBランクダンジョンを攻略できますわ」
「俺一人では無理だ。朱音にも、力を貸してもらうぞ」
「ウフッ…… 私はどこまでも、和彦様の忠実な下僕でございます。今夜もいっぱい、可愛がってくださいませ」
両腕を首に回し、身体を擦り付けてくる。だが地上で召喚するわけにはいかない。明日からいよいよ、新宿ダンジョンへの再挑戦が始まるからだ。フッと笑って、朱音を引き離した。
「続きは討伐後だ。肩慣らしも終わったし、帰る。カードに戻ってくれ」
ポンッと音を立てて、美女はカードになった。それを胸ポケットに入れ、地上に転移した。
作中に出てくる「新小岩の精肉屋」「鹿骨町の鮨屋」は実在します。特上ちらし寿司は3千円ですが、上ちらしなら1700円です。鹿骨町に立ち寄られた際は、ぜひ食べてください。




