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第061話:冒険者の病

【東京都某所 江副和彦】

 目が覚めると見知らぬ天井であった。頭が回転しない。まるで自分の脳が「気怠さ」という名の脳漿に漬かっているかのようだ。身体が重くて、手足も動かせない。


(なんだ? 俺は何をしている?)


 ゆっくりと記憶を再現しようとする。たしか新宿百人町のダンジョンに入っていたはずだ。第一層でバーベキューをしていたのではなかったか? そのとき、彰に声を掛けられて二人で話をしたはずだ。どんな話だったかは思い出せない。そこで記憶が止まっている。


(ここは何処だ? ダンジョンではないのか?)


 まるで音声をスロー再生したかのような声が聞こえた。声質から女性だろうか。首が動かず、瞳の焦点も合わない。目薬のようなものがさされた。思わず目を閉じると、頭を撫でられたような気がする。眠気が襲ってきた。だが、目を覚まさなければならない。ここがダンジョンなら、未知の精神攻撃を受けているのかも知れない。口端を噛んだ。痛みで霧が晴れていく。そして俺は跳ね起きようとした。


「ダメよっ! 寝てなさい!」


「……石原局長? グッ…… なんだコレは!」


 両手両足が鎖でベッドに拘束されていた。状況が理解できないが、Bランカーを鎖程度で拘束するなど舐めたことをしてくれる。引き千切ろうと右腕に力を入れた。ギギギと音がする。だが鎖が切れる様子はない。


「無駄よ。その鎖はダンジョンアイテム。たとえBランカーの貴方でも解くことはできないわ」


「……いったい、なんのマネだ?」


 首が動くようになったので、石原を睨む。すると彼女は、悲しそうな表情を浮かべて首を振った。


「やっぱり、宍戸彰の言う通りね。貴方は変わったわ。状況を冷静に分析することなく、激情のまま敵意の瞳を私に向ける。半年前の貴方とは別人よ」


「なにを言っている? 早くコレを解け!」


 ガシャーンと鎖の音がする。だが石原は腕を組み、眉間を険しくしたまま、冷酷に伝えてきた。


「ダンジョン運営局の責任者として、貴方を解放するわけにはいかないわ。自覚はないでしょうけど、貴方は精神を病んでいる。そんな状態のBランカーを解放するなんて、危険すぎるわ。まず落ち着いて、冷静になって頂戴。事情を説明するから……」


 右足を思いっきり動かそうとした。足の力は腕の三倍はある。だが鎖を切ることはできない。やがて俺は盛大にため息をついて、ベッドに倒れた。状況はなんとなく理解できる。ここは恐らく、どこかの病院だろう。記憶が途切れているということは、新宿ダンジョンの第一層で何かがあったということだ。安全地帯の中で俺に何かできるとしたら、彰以外にいない。


「彰がやったんだな? 薬かなにかで、俺を眠らせたのか?」


「禁止されているダンジョンアイテム『眠り香』よ。ひと嗅ぎさせるだけで、どんな人間も深い眠りに入ってしまう。3週間ほど前に、彼から連絡があったのよ。貴方の様子が可怪しい。自分が必要だと判断したときに、使う許可が欲しいと……」


「アイツ…… 一言、相談すればいいだろうが」


「相談したら素直に聞いたかしら? 貴方の精神状態は、それくらいに可怪しかったのよ。宍戸彰が言っていたわ。レジェンド・レアのメンバーたちに疑念を持ったそうね。それ自体は変ではないけれど、これからダンジョンに入ろうというときに、そんな余計なことを言うなんて…… 以前の貴方なら、人前では口にせず、後で個別に確認するくらいの配慮をしたはずよ?」


 目を閉じて振り返る。そうかも知れないという思いと、時間のない状況では仕方がなかったという思いが交互に浮かび上がる。


「時間が無い。完全起動によって、スタンピードまで10年を切っている。早く討伐しないと……」


 何かが嗅がされた。急に眠気が襲ってきた。


「今は忘れなさい。明日になれば、もう少し落ち着くでしょう。そして、昔の貴方に戻って……」


 そして再び、意識が途切れた。





【ダンジョン・バスターズ本社 宍戸彰】

 以前、兄貴に言われたことがある。ダンジョン内では何が起きるかわからない。万一のときは、僕がダンジョン・バスターズを率いろって…… でも、とてもじゃないけど兄貴の代わりなんて務まらないよ。ガメリカでも大亜共産国でも、Cランカーになるにあたって精神を病んだ人がいるって聞いている。薄暗く狭いダンジョンの中で、身の危険を感じながら魔物たちと戦い続ければ、ストレスで精神が参ってしまっても不思議ではない。そういう意味で、僕たちは幸運だ。兄貴がいるからね。江副和彦が前を走り続けてくれる。僕たちはその背中を追いかければいい。兄貴という先駆者がいるから、僕たちは安心して前に進めるんだ。でも、常に御先(みさき)に立ち続ける兄貴は、どれほどのプレッシャーを受けているんだろう。誰よりもダンジョンに長く潜り、誰よりも多くの魔物と戦い、誰よりも大氾濫を憂いている。その精神的重圧は桁違いのはずだよ。


 兄貴の様子が可怪しいと感じたのは、4月上旬の「ダンジョン完全起動」の後からだ。何かに焦っているように感じたよ。船橋ダンジョンでは、ダンジョン・システム「行商人(ペドラー)」を脅そうとしたり、Aランクに上がらないからと、狂ったように魔物と戦い続けた挙げ句、BランクのままでAランク魔物と戦おうとするなんて危険を冒そうとしたりした。

そして極めつけは、昨日の新宿ダンジョンだ。ド◯キーに似た魔物を姉御が知っていたからと、レジェンド・レアの皆を疑うようなことを口にした。以前の兄貴なら考えられないことだ。兄貴は、全体と相手に配慮しつつ、丁寧に言葉を紡ぐ「大人」だった。あんな無遠慮な聞き方なんてしなかった。兄貴は変わった。だから僕は決意した。兄貴には、無理やりにでも休んでもらわないといけない。


「石原局長から連絡がありました。江副さんは、一度目を覚ましたそうですが、今はまた眠っているそうです。寝ている間に、レントゲンや血液検査などは終えたそうです。まだ確定ではありませんが、身体的にはまったく異常は無いそうです」


 食堂でビールを飲んでいると、総務部長の向井さんと、IT担当のムッチーがやってきた。もう夜の10時を過ぎている。この二人は、今日は本社に泊まるつもりらしい。もっとも、僕もそうだけどね。


「身体的な異常なんてあるはずないよ。江副氏は回復魔法が使えるし、エクストラ・ポーションを含めて使い切れないほどの回復薬もある。でも、身体よりも心のほうが心配だよ」


 ムッチーが不安そうな表情を浮かべる。もし兄貴が戻らなかったら、ダンジョン・バスターズは屋台骨を失い、空中分解しかねない。向井さんがため息をついた。


「私も迂闊でした。江副さんだって人間です。責任感と焦燥感の中、暗いダンジョンの中で実質10年以上も魔物と戦い続ける……精神が参ってしまっても当然だと思います。今後は、バスターズ本社に精神科医を常駐させるなどを検討したほうが良いかもしれません」


「江副氏は前に出すぎだよ。バスターズも大きくなったんだし、クラン長としてどっしり構えればいいと思うよ。Bランカーをいっぱい育てれば、いずれその中からAランカー、Sランカーが出てくるよ。戻ってきたら、そう助言しようと思う」


「向井さんとムッチーの意見はもっともだと思うけど、たぶん兄貴はダンジョンに入ることを止めないよ。不可抗力だったとしても、ダンジョン・システムを起動してしまった結果、多くの人が死んでいるからね。兄貴は、自分の手で解決したいと思ってるんだよ」


 ダンジョン・バスターズは民間企業だ。本来ならムッチーの言う通り、兄貴は「社長」として、冒険者運営局やEU、ガメリカの冒険者たちと情報交換をしたり、見込みのある志望者たちを採用したり、ダンジョン討伐のノウハウや冒険者のイメージアップのための広報活動をしたりするべきなのだろう。現状、そうした「経営」は向井さんがすべて担っている。兄貴が「冒険者」でいられるのも、向井さんがいるからだ。誰よりもそれを理解しているから、兄貴は向井さんにだけは丁寧な言葉遣いを欠かさない。


「向井さんが忠告してくれれば、兄貴も聞くと思います。兄貴と経営の話とかできるのは、向井さんだけですから……」


「僕もそう思う。江副氏は頭が良いから、理屈で伝えれば理解してくれると思うよ。経営って視点でそれが話せるのは、向井さんだけだよ」


 ムッチーも同意してくれる。確かに、向井さんなら兄貴と互角に理屈を交わし合えるだろう。けれど、それだけでは足りない気がする。兄貴を戻すには、もうひと押しが必要だ。理屈とは真逆で攻めるとしたら……





【国立東京大学校総合病院 江副和彦】

「では、これは何に見えますか?」


「……交尾している犬だな」


 俺は現在、いわゆる「ロールシャッハ・テスト」を受けている。俺は心理テストには懐疑的だ。こんなもので人間の心を測れるわけがない。ABO式血液型性格診断のようなバーナム効果が働きやすい「疑似科学」だ。バカバカしくなって苛ついてくる。


「なぁ、もう止めないか? この21世紀でロールシャッハなんて、やってるアンタらもバカバカしいと思うだろ? それとも東大病院の精神科は、血液型で班分けを決めた戦前陸軍と同等の知性なのか?」


 そう文句を言うと、それをまたメモする。こうやって俺を苛つかせて、その反応を観察しているのだろう。こんな下らないことに貴重な時間を使いたくない。本来ならそろそろ、新宿ダンジョンの下層に到達しているはずなのだ。

 そして別室で診断結果を聞いたとき、俺は思わず精神科医どもをぶん殴りたくなった。そうした反応を予想してか、結果は石原局長から伝えられた。それもまた小賢しく、俺を苛つかせた。


「強迫性障害だと? その診断を下したバカをここに連れてこい。俺が直々にダンジョンに案内してやろう。強迫観念かどうか、その目で確かめさせてやる」


「落ち着いて。医師たちも首を傾げているのよ。精神障害は、セロトニンなどの神経伝達物質が大きく関わっているのに、貴方の脳にはなんの異常も見られない。でも同時に、貴方が強迫性、あるいは気分障害の特徴を示しているのは間違いないのよ」


「要するに原因が無いってことだろ。明確な原因が不明なのに、性格が変わる。人はこれを『成長』と呼ぶ」


「貴方のソレは成長なの? 私にはむしろ、幼児化に見えるわ」


 左目の縁がピクピクと反応した。石原だから許すが、普通の奴なら殴っている。


「幼児化で結構だ。ダンジョンを潰せるのなら、幼児化だろうか女性化だろうが受け入れてやろう。もうウンザリだ。俺は帰るぞ」

「それはできません」


 扉の方から声が聞こえた。振り返ると、向井総務部長ともう一人がいた。


「向井部長、それと茉莉…… なんでここに?」


 すると茉莉は泣きながら俺に駆け寄り、頬を引っ叩いてきた。そして叫ぶ。


「なんで、なんで私たちのことをもっと信じてくれないんですか!」


 なにを言っているのか、俺には理解できなかった。向井部長に顔を向ける。穏やかな表情で笑みを浮かべていた。俺より年上というだけではなく、ダンジョン・バスターズを経営という面で支えてくれている大黒柱だ。人事総務や広報などのバックスタッフ部門は、彼のツテで入ってきた社員も多い。彼には、俺も足を向けて寝られない。


「江副さん、経営コンサルタントであった貴方なら理解できるはずです。社長は、平社員と同じ仕事はしないものです。社員を信じて仕事を任せるのが、管理者というものですよ?」


「それは理解しています。ですがそれは組織内分業が確立した大企業の話です。中小企業においては、経営者は一番の稼ぎ頭でなければならない。名だたる日本の大手企業も、創業時は経営者自らが、モノ作りをしていたはずです」


「それは比較の問題です。世界のどこに、40名以上の冒険者を抱え、数百平米の本社屋と宿泊施設を持ち、1日で億の利益を生み出す冒険者組織があるというのです? 『ダンジョン冒険者業界』において、我社は間違いなく世界的なリーディング・カンパニーです。貴方と同ランクの冒険者だって、他に5人もいるのですよ? そろそろ『社長の仕事』を考える時期なのではありませんか?」


「ダンジョンはまだまだ未知の部分が多くあります。ここで冒険者を降りるわけにはいきません。俺には、ダンジョン・システムを起動させた責任があります。この手で、この問題を解決しなければならないんですよ」


「……やはり、そこですか」


 向井部長は数回頷いて、そう呟いた。





【ダンジョン・バスターズ 人事総務部長 向井純平】

 20年以上も都銀で働き、複数の支店で外回りを経験した私は、数多くの経営者と会ってきた。その私から見て、江副和彦という「経営者」は、残念ながら傑出した経営者とは言い難い。だがそれは、コスト意識や利益志向、そして組織管理者という評価軸からの判断だ。ダンジョン冒険者として、そして冒険者たちを束ねるリーダーとしての彼は、不世出の存在と言えるだろう。江副和彦に憧れ、江副和彦と共にダンジョンを討伐したいという志望者もいるくらいだ。カリスマ性ではなく、最前線を走り続けるリーダーシップが、彼の魅力なのだろう。

 だがそれは、諸刃の剣になりかねない。強い責任感を持つゆえに、銀行と顧客の間に挟まれて苦しみ、そして心を病んだ同僚を何人も見てきた。江副和彦の責任感は、経営者としての責任感ではなく、ダンジョンを自分の手で討伐するという「冒険者としての責任感」なのだ。以前から、そこに危うさを感じていた。


「江副さんは冒険者です。他の冒険者たちを導けるのは、一番先を歩み続ける冒険者だけでしょう。ですから、自らダンジョンに入り、魔物と戦い、ダンジョンを討伐するという在り方を否定するつもりはありません。しかしそれは、ダンジョン・バスターズの長として必要なことであり、貴方の中にある『ダンジョンを起動してしまった』という罪悪感のためにやることではありません。この際ですから、ハッキリと申し上げましょう。ダンジョン・システムを誰が起動したかなど、もはやどうでも良いことなんですよ。そんなフェーズはとうに過ぎています。『自分の手で解決する』というのは、貴方個人の感傷に過ぎません」


 企業経営者の役割は2つある。「纏めること」と「導くこと」だ。サラリーマン経営者の多くは、纏めるだけで導くことをしない。順境ならばそれでも良い。だがそうした組織は逆境に弱い。だからダンジョン・バスターズでは「纏めること」を私が担当し、「導くこと」を江副和彦が担当している。社長として後ろでドンと構えろ、などと言うつもりはない。「社長の仕事として導け」と言いたいのだ。彼であれば、そこに気づいてくれるだろう。


「……茉莉、俺はそんなに余裕がなさそうに見えたか?」


「うん…… 痛々しいくらいに、必死だったよ」


「江副さん。もう少し、遊びましょうよ」


 どうやら、理解してくれたようだ。





【ダンジョン冒険者運営局長 石原由紀恵】

 一先ず、ダンジョン・バスターズで様子を観るということで、彼は退院していった。本来ならばもう少し様子を観たいところだけれど、Bランク冒険者を無理やり入院させるなど物理的に不可能だ。やるとしたらダンジョン産の特殊拘束具を使わなければならず、逆効果になりかねない。だが、このことは特定秘密情報指定をしなければならない。Bランカーが精神不安定になるなど、社会不安を起こしかねないからだ。それにもう一つ、理由がある。これは彼にも伝えていないことだ。


「身体的異常が無いにもかかわらず、精神障害の特徴を示す。仮説として考えられるのは『強化因子』の影響……か。参ったわね。もし大氾濫という期限が無ければ、即刻公表してダンジョンを封鎖し、全冒険者を調べるのだけれど……」


 対症療法に過ぎないが、各ダンジョンに精神科医を配置して「討伐者(バスター)」たちのケアに当たるべきだろう。地上の数時間が、ダンジョンでは1ヶ月以上に相当する。ずっとダンジョンに入り続けるのは危険だ。できることならば、地上時間で1時間以内と、時間を限定したいくらいだ。

だが、採掘(マイニング)とは違い、ダンジョン討伐では連続して潜り続ける必要がある。サンプル数は少ないが、日本およびEUの情報から判断すると、ランクが上がればそれだけダンジョンは深くなるようだ。Aランク、Sランクとなればその深さは想像もできない。


「まだ確定したわけではないわ。現に、バスターズの他のメンバーたちには、そうした変化は見られない。強化因子に原因があったとしても、プレッシャーが増幅されたためとも考えられるわ。他の冒険者も含め、もうしばらくは観察するしかないわね」


 日本に、そして世界にとってダンジョン・バスターズは絶対に必要だ。そしてそのバスターズの支柱が江副和彦である。宍戸彰のような天才ではない、ごく普通の中年男性が、知恵と努力を武器にダンジョンに立ち向かい討伐する。その後姿に、他の冒険者たちは希望を見出している。江副和彦が倒れれば、多くの冒険者たちが光を失い、人類は破滅へと向かうだろう。


「彼には、少し気分転換が必要ね。丁度いい依頼もきているし……」


この依頼を聞いたときに、彼はどんな反応をするだろうか。そう思って、クスリと笑った。





【江副和彦】

「は?」


 食堂でその話を聞いたときに、思わず呆れて素っ頓狂な声を出してしまった。不味い病院食に嫌気がしていたので、詩織(茉莉の母)に頼んで「しゃぶしゃぶ」にしてもらった。俺はしゃぶしゃぶでは豚肉派なので、肩ロースやバラ肉をキロ単位で用意し、詩織手製の胡麻ダレで食べる。彰や睦夫、凛子たちBランカーのほか、レジェンド・レアたちも顕現した。それになぜか、茉莉と慎吾までいる。二人がどこまで進展しているか、あとで聞くとしよう。


「いや、だから兄貴が入院している間に連絡があったんだよ。TNG(利根川)47の前島裕子と峰野亜由美が、兄貴のファンらしくて江戸川取材を兼ねて一緒に回ってくれって言ってるんだよ」


「……なんで俺みたいな中年男のファンになるんだ? 可愛い年頃の女の子なんだから、同世代のイケメンと付き合えばいいだろ。茉莉もそう思わないか?」


「んー…… あんまり年齢とか気にしないかな。頑張ってる人、尊敬できる人、そして誠実で包容力のある人がいい」


「だ、そうだ。慎吾も頑張るように」


 俺がひやかすと、慎吾は真剣な顔で頷いた。悪くないと思う。ここで半笑いして照れるようなら、茉莉から信用されないだろう。お前に惚れたと告白した以上、あとは一直線に進めばいいのだ。


「まぁ俺に幻想を抱いているのだろうな。失望させるだけだと思うが?」


「あら、和彦様は素敵ですわよ? 女の私が保証致します。きっと、その二人も夢中になってしまうでしょう」


 そう言いながら、隣りに座っていた朱音が器を差し出してくれた。今夜はこのままベッドまで連れて行くつもりだ。新宿ダンジョンでのことを改めて詫びる必要もあるだろう。


「江副氏、どうするよ? 受けるんならぜひ、生写真とサインを貰ってきてほしいよ。あとできれば10月に名古屋でやるコミックライブ・オクトーバーフェスにダンバスゲストとして来てほしいって頼んでよ」


「完全にムッチーの趣味でしょうが!」


 お決まりのように彰がツッコむ。声を出して笑ってしまった。やはりメリハリは必要だ。ダンジョンに背を向けるわけにはいかない。たとえ何があろうと、必ずダンジョンを討伐する。だがそれだけでは、俺自身を含めて耐えられないことも確かだ。思いっきり遊び、思いっきり戦う。これまでもそうしていたが、もう少し余裕を持とう。


「気分転換にはなるか…… 受けると伝えておいてくれ。それと睦夫、頼むのは構わんが、ゲスト費用はバスターズの経費では出さんぞ?」


 肩を落とす睦夫を見て、皆が笑った。




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― 新着の感想 ―
ダンジョンでモンスター討伐の作業をしすぎて脳筋になってる(笑) 考える力が落ちとるな
[一言] 幼児化だろうか女性化だろうが受け入れてやろう。  →幼児化だろうが女性化だろうが受け入れてやろう。
[一言] こういうエピソードで等身大の人間らしさを表現するところは、この作品の面白いところですね。
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