表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/105

第055話:ままならない現実

 投稿が遅くなり、申し訳ありません。

 京成船橋駅近くにある大姜料理居酒屋「三日月」で幼馴染と酒を酌み交わす。パチンコチェーンのオーナーで元在日内国人だった岩本とは小学校1年生からの付き合いだ。岩本は仕事柄、在日内国人との関係も深い。だが日内関係がどうなろうが、30年以上の友人というのは、人生の宝物だ。ダンジョンのことならともかく、俺自身について相談をするなら、コイツ以外に有り得ない。


「岩ちゃん、俺……変わったかな?」


「ん? カズちゃんが痩せたのは去年の夏頃だったよね? そこから変わったかってこと?」


 俺は頷き、船橋ダンジョンでのリタとのやり取りを語った。それ以外にも、クルセイダーズのメンバーの首をいきなり絞めたりしたことなどを語る。ダンジョンができる前の40年間、俺は暴力を振るったことなど一度としてなかった。それがこの1年弱で、暴力的行為を幾度か犯している。それが不安だった。


「んー カズちゃんとは、仕事以外ではこうしてたまに酒を飲む程度だから判断できないけど、ダンジョンの冒険者って魔物と戦い続けるんだろ? カズちゃん、どれくらいダンジョンで過ごした?」


「とても計算する気になれないな。もう年単位になってるはずだよ」


 ダンジョン内は地上の144倍の速さで時が流れる。地上の1ヶ月が、ダンジョンでは12年に相当する。そう考えれば、もう10年近くはダンジョンで戦っているだろう。


「だったら変わるのもしょうがないよ」


 岩本はあっけらかんと言って笑った。鉄板に豚三段バラ肉を置いて、脂身を焼き始める。


「考えてもみなよ。10年間も、ダンジョンの中で魔物と戦い続けたら、そりゃどんな人間だって変わるよ。戦うってことは、魔物を殺すってことでしょ? 屠殺業の人たちも、やがて慣れるそうだし、カズちゃんも力を振るうことに慣れたんじゃない?」


「それが良いことだとは思えないんだよ。いや、ダンジョン内で戦うのはいい。だけどその力を人に向けるのは良くない。自分の思い通りにいかないからといって、それを力で解決しようとする。俺はそういう行為や人間を忌避してきたはずなんだがな……」


 焼けた豚肉をサンチュで包み、キムチを載せて齧る。日内関係の悪化から「嫌内」という風潮が国内にあるが、ナショナリズムを食事に持ち込むなどナンセンスだと思う。旨いモノに国境など関係ない。


「カズちゃんは確かに、暴力とは無縁だったよ。けれど俺の知るカズちゃんは結構、強情だよ。こうと決めたら譲らないところがある。5年生のときだったよね。カズちゃん、丸山先生と口論したの覚えてる?」


「あったか? いや、思い出してきた。歴史の授業だったよな?」


「墾田永年私財法の『墾』は、小学校で習う漢字じゃない。国語のテストに出てこないのに、社会のテストで『漢字で書け』というのはおかしいって、カズちゃんゴネまくってたんだよ」


「……今から思うとバカだな」


 二人して笑う。笑いながら岩本が言葉を続ける。


「カズちゃんは昔からそういうところがあるんだよ。自分が正しいって思ったら、それを堂々と主張する。誰彼かまわずね。その主張が認められない場合は、色々な理屈を並べる。やがて中学くらいから、発言を遠慮したり、主張を取り下げたりするようにもなった。でも根っこのところは変わってないと思うよ」


「主張の仕方に『暴力』という選択肢が加わったのか」


「いや、昔から選択肢はあったんだよ。ただカズちゃんはその選択をしてこなかった。大抵の人は、その選択は忌避するんだよ。理由は簡単、慣れてないからだよ。暴力で主張する。暴力で解決する。この方法に慣れてないから、普段慣れてる方法を選ぶんだよ」


「いや、罪悪感もあるだろ」


「そうだね。ただ罪悪感ってのは『不慣れ』の一つだと思うよ。暴力に慣れた人は、そのことに罪悪感が無いんだよ。麻痺してるって言い換えてもいいかもね。カズちゃんは、ダンジョン内で暴力を振るい続けてきた。その結果、暴力という選択肢が取れるようになった……ってことじゃないかな?」


 俺は思わず舌打ちした。悪感情のまま暴言を吐いたり、肩が触れたというだけで暴力を振るったりする輩が世の中にはいる。俺は密かに、そうした連中を「下等生物」と軽蔑していた。だがいつの間にか、自分自身がその下等生物に近づいていた。自分への嫌悪感が湧き上がる。岩本がマッコリを注いでくれた。


「決定的な違いは、カズちゃんはそうした自分に気づいているってことだよ。暴力的な人間は大抵の場合、選択肢がそれしかないんだ。そして、それしか選択できない自分を省みることがない。『心に聞く』と書いて『恥』と読む。反省しない人間を「恥知らず」っていうんだよ。でもカズちゃんは違う。こうして反省して、俺のところに相談に来てるじゃないか」


「……あまり慰めになってないぞ」


「慰めてほしいんなら、俺のところじゃなくてキャバクラ行ったほうがいいよ。カズちゃんは相談に来たのであって、慰めてもらいに来たわけじゃないだろ? なんならこの後、ウチの系列のクラブに行く?」


「キャバクラ経営、始めたのか?」


「船橋にダンジョンが出現したんだ。いずれお金を持った若い男性たちが集まってくるでしょ。第一店目が駅前のビルに先月オープンした。ダンバス御用達にしてくれると嬉しいね」


「まずは、下見が必要だな」


 少し気分が良くなり、マッコリで乾杯した。





【江戸川区鹿骨町 ダンジョン・バスターズ本社屋】

 ダンジョン・バスターズは複数のパーティーが登録するクランである。正規メンバーたちは江戸川区を中心にそれぞれが住居を借りて、時間を合わせて横浜および鹿骨のダンジョンで稼いでいる。冒険者は通常「個人事業主」として登録されるが、ダンジョン・バスターズでは「合同会社」を推奨している。合同会社は株式会社と比べて設立が簡単で、組織設計を柔軟に行うことができ、利益分配も自分たちで自由に決められる。株式会社と比べて社会的信用性は低く見られがちだが、冒険者パーティーに社会的信用性など必要ないし、ダンジョン・バスターズの一員というだけで一目置かれる。

合同会社は法人税が適用されるため、所得税と比べて累進課税が緩やかであり、所得が多い民間人冒険者は合同会社にしたほうが、手取りが増える。保険などの諸費用を組み込むことができるし、何より「相続税」が掛からないということが大きい。皆、誰かしら守るべき者や遺すべき相手がいる。合同会社であれば、遺族年金なども出すことが可能だ。

 だがそうした税制的な部分を除いても、彼らはバスターズ本社に集まる傾向がある。その理由は「食事」にあった。


「はい、今日は牛スジカレーにしました。たくさん作りましたので、いっぱい食べてくださいね」


 おっとりとした雰囲気の女性が声をかけると、男たちが協力して寸胴を運ぶ。ネット販売専用の業務用食材卸から、キロ単位で肉や野菜を買付けている。ランクが上がると、それだけ基礎代謝が大きくなる。バスターズの「賄い担当」として雇用されている木之内詩織は、知り合いの主婦たちにも声を掛けて、数人で調理場を切り盛りしていた。子供が高校生にもなれば、母親たちもパートなどに出る。だが鹿骨町は「陸の孤島」であり、パートで働くなら小岩駅、篠崎駅、瑞江駅に出るしかない。そのど真ん中に「主婦業の延長」で働ける職場ができれば、地域経済にも役に立つ。

 1杯あたり牛スジ100グラム、さらに野菜も大量に入っている。サラダやスープもお代わり自由だ。ただしアルコールは出していない。ビアサーバーもあるが、これは冒険者たちでパーティーをするときに使われる。


「あれ、和さんは?」


「彰さんと一緒に、船橋ダンジョンに入ってるわ。慎吾くんに伝言、戻ってくるまでにEランクに上がっていたら、SR武器を一つやる、だって」


 大人たちに混じって2人の高校生が向かい合って座り、食事をしている。茉莉は目の前のクラスメイトを改めて観察した。ダンジョン内で一緒に過ごすうちに、少しずつ性格が見えてきた。一本気で誠実なところがある。最初に「付き合ってくれ」と告白されたときは断ったが、別に嫌いだからというわけではない。ダンジョンのことで頭がいっぱいだというのも、ただの言い訳だ。実際のところは、茉莉は無意識で、男性に不信感を抱いていた。母親は高校生で自分を産んだ。周囲の目は厳しかったと思う。それなのに父親は浮気を繰り返して、結局は離婚した。あまりにも無責任だ。10代の男性など性欲の塊、父もただ、母と性交したかっただけなのだと、無意識で軽蔑していた。

 だからこそ、断ったにもかかわらずダンジョン・バスターズに入ってきた慎吾に、茉莉は戸惑い、そして鬱陶しく感じた。そこまでして自分を抱きたいのか。そんなに性交したいのかと呆れたくらいである。だがダンジョン内で数日過ごすうちに、徐々にそれが変わっていった。やましい気持ちを持ったまま耐えられるほど、ダンジョン・バスターズのブートキャンプは甘くない。慎吾はゴブリンに何箇所も噛まれながら、それでも歩き続けた。同じ冒険者見習いとして、今では認めている。


「絶対にEランクになってやるぜ! 食べ終わったら、またダンジョンに入ろう!」


 本当はこの後は中間テストに向けての勉強をしたかったのだが、放っておいたら一人で入るかもしれない。茉莉は仕方なく、付き合うことにした。





【船橋ダンジョン 第七層】

 船橋ダンジョンの第七層はCランク魔物「魔蟲(マムー)」であった。体長は5メートル、体高は2メートル以上ある巨大な「ダンゴムシ」である。それが見た目とは裏腹にすごい速度で向かってくる。かなりの運動エネルギーだろう。


「魔蟲は外殻が硬く、打撃攻撃はほとんど通用しません。炎に弱いため、遠距離から魔法攻撃をするのが有効なのですが、和彦様たちならば問題ないかと」


 壁を蹴って一瞬で魔蟲の頭上に出ると、空中で斬鉄剣を一閃した。巨大な虫は前後に綺麗に分かれる。だが頭のほうがまだ動いている。彰が槍を構え、真正面から突き入れた。そしてそのまま槍を持ち上げる。Bランクならではの身体能力で、魔蟲の突進を止めた。


「さすがは虫だね。これは前後じゃなくて左右に真っ二つにしたほうがいいね」


「だな。次で試してみよう」


 強化因子となって消えていく魔蟲の中で、俺たちは次の戦い方を話し合う。一戦ごとに検証し、改善点を探る。この魔蟲との戦い方も、俺たちがBランクだから余裕に見えるが、Cランク冒険者なら単独で戦うのは厳しいだろう。


「タンクが突撃を食い止めて、横からアタッカーが切り込むか串刺しにするって戦い方か?」


「あるいは魔法で遠距離から脚を焼いてしまって、突撃できなくするとか?」


「身の軽い者なら、躱して上から斬りつけるという方法もあります。ただ、最低でもRareランクの武器が必要かと思います」


 今後、バスターズは全世界のダンジョンを討伐していく。戦いの経験値を共有し、パーティーごとにシミュレーションを重ねさせ、訓練によって連携の練度を上げる。地道で時間がかかるが、これが一番確実な方法だろう。


「恐らくあと2、3層で最下層と思われます。ガーディアンは恐らく、Bランクでしょう」


 朱音に斥候を任せながら、俺たちはさらに進んだ。そして第9層で、最深部に到達する。天井の壁画を録画し、幾枚も写真を撮った。武器を持った魔物が集団で走っている様子が横向きに描かれている。


「相変わらず、意味不明だね。これはスタンピードの様子かな?」


「その割には魔物の数が少なくないか? 見たところ10体くらいしかいないぞ? それに、この魔物はどこを目指して走ってるんだ?」


 第9層のガーディアンは「キラー・ビー」であった。巨大な蜂が集団で襲ってくる。奥にひときわ大きな蜂がいる。恐らく女王蜂だろう。


「Dランクの兵隊蜂を操る女王か。朱音、忍術で雑魚だけ一掃できるか?」


「お任せを……」


 すると朱音は包帯くらいの長さの漆黒の布を取り出した。それをシュルシュルと回転させる。すると黒い煙が立ち込めていった。


「毒霧です。女王には通じないでしょうが、雑魚ならこれで十分ですわ」


「OK、じゃぁ僕が決着つけるよ」


 彰が息を止めて黒煙の中に飛び込んだ。蜂がボトボト落ちていく。朱音が手を止めると、やがて黒煙が消えていった。そして女王の姿も消えている。煙の中、彰がヌンチャクで肩をトントンと叩いていた。


「たぶん、いまの僕なら20分間は無呼吸運動できるよ。完全に人間辞めちゃったかな?」


「今さらだろ。ランクアップとは、人外の階段を一段ずつ登るってことだ。全てを討伐し終えたら、俺は二度と、ダンジョンには入らないつもりだ」


 全てのダンジョンを討伐し終えた後、俺たち人外の存在は危険視されるだろう。南の島でも買って、ゆっくり余生を過ごしたいものだ。


「和彦様……」


 朱音に促され、俺は出現したダンジョンコアに歩み寄った。





『ニュースです。防衛省の発表によりますと、千葉県船橋市に出現したダンジョンが、ダンジョン・バスターズの手によって、本日討伐されたとのことです。これで国内に出現した12ヶ所のダンジョンのうち、4ヶ所が討伐されました』


『防衛省ダンジョン冒険者運営局は、次の討伐対象として、東京都新宿区のダンジョンを討伐してほしいとダンジョン・バスターズに依頼したとのことです。これは7月24日から始まる東京オリンピックを見越してのことであり……』


 テレビのボリュームが小さくなる。そして全員がグラスを持った。


「では、船橋ダンジョン討伐を祝して、乾杯!」


 グラスが高々と掲げられ、バスターズの冒険者メンバー、本社スタッフおよび見習い冒険者の総勢47人が一斉に乾杯した。朱音、エミリ、劉峰光、ンギーエも顕現させている。今夜くらいは問題ないだろう。


「ンマッ! ンマッ!」


 Lサイズ以上の大きさがあるピザをンギーエが独占して喰っている。もっとも厨房で焼かれているので、このあと幾らでも出てくるから問題ない。メンバーそれぞれに声を掛けていく。


「カズさん、おめでとうございます!」


「おめでとうございます」


 茉莉と慎吾が挨拶にきた。二人一緒に行動しているということは、少しは進展したらしい。だが、まだ手を繋ぐところまでは行っていないようだ。ティーンエージャーの恋愛が微笑ましく思えるのは、俺が年をとったからだろうか。


「で、強くなったか?」


 からかいついでに聞いてみると、慎吾はニヤリと笑って殴りかかってきた。右手の指2本で拳を止める。


「へぇ、力もついたし、体幹もしっかりしている。世界大会に出ても上位にいけるかも?」


 唐揚げを食べながら、彰がそう評価を下した。俺は相手の力量判断などできないが、これまでの人生経験から、顔と眼を見ればソイツがなんとなくわかる。ウジウジしていた頃よりはずっとマシな顔つきだ。


「慎吾くん!」


 茉莉がたしなめるが、慎吾は拳を引っ込めると胸を張った。


「Eランクになりました。すぐにDランク、Cランクへと上がってみせます」


「やる気になるのはいいが、勉強もちゃんとしろよ? 中間テストの成績が悪かったら、ダンジョン内で勉強だからな」


 ウゲッという慎吾の肩を叩いて、他のメンバーのところに行く。初めて話すメンバーもいる。気質重視で採用しているから大丈夫だとは思うが、いずれ問題を起こすメンバーも出てくるかもしれない。近いうちに、冒険者業にかまけてばかりもいられなくなるだろう。

 宴会の最中、携帯電話が鳴った。石原局長からだ。中庭に出て着信を受ける。


『船橋ダンジョンの討伐、おめでとう。そして、ご苦労さま』


「ありがとう。報告書は既にまとめてあるから、明日の朝イチで送る。で、何かあったのか?」


 わざわざこの時間に電話してくるということは、なにか伝えたいことがあるからだ。


『あら、用がなければ電話しちゃダメ? 貴方の声を聞きたいと思っただけなんだけど?』


「おい、お互いいい年してんだ。そんなロマンスを信じろってのか?」


『つれないわね。用件は2つよ。クルセイダーズが、ベネツィアのダンジョンを討伐したわ。パリに続いて2つ目。貴方たち以上のペースよ。もっとも、Dランクらしいけれど……』


「そうか。ヨーロッパとガメリカはクルセイダーズに任せたい。その調子でガンガン討伐してくれとメール入れとくよ。で、2つ目は?」


 目標は10年間で666ヶ所のダンジョンを討伐することだ。全てをバスターズでやる必要はない。クルセイダーズが三分の一でも引き受けてくれるのなら、こちらとしてもだいぶ楽になる。これは協力ゲームであって、競争ゲームではないのだ。


『2つ目は、例のジョーカーの件よ。ベニスエラの政変が落ち着き始めたわ。野党代表のクライド暫定大統領が正式に大統領に就任して、国内の混乱を収めるみたい。ただ問題があるわ。ベニスエラが、IDAOどころか国連から脱退するようなのよ』


「は?」


『私も、知り合いの記者から聞いた未確認情報なの。ベニスエラ時間で18時、日本時間では明日の7時に記者会見があるそうよ。クライド大統領は親米派で、中道路線の政策を掲げる良識的な政治家と思われていたのに、いったいどうなっているのかしら?』


「……恐らく、ジョーカーの仕業だ。アイテムカードの中には、相手を強制的に隷属させるといった危険な効果のヤツもあった。それを使った可能性が高いな」


『日本政府としては、ジョーカーに与するような国とは国交は結べないわ。少なくとも浦部総理はそう考えるはず。問題は、追従する国が出てこないかどうかね。アフリカや中東には、反米反資本主義国家が多いわ。ダンジョン討伐を盾に、先進国から援助金を引き出そうとするかもしれない』


「そんなことをすれば、世界は二分されるぞ。あるいはそれが、ジョーカーの狙いか?」


『まだ可能性よ。日本政府も対応の検討はこれからだわ。いずれにしても、情勢は急速に悪化している。そのことを貴方に伝えておきたかったの』


 電話を切ると、思わず壁を殴り壊したい衝動に駆られた。皆の手前、そんな行動は取れないが、焦りと苛立ちで歯噛みする。ジョーカーは「自分は魔王だ」と言った。なるほど、確かに魔王だ。ファンタジーのような「絶対悪の魔王」だったらどれだけ戦いやすいだろうか。実在する本物の魔王とは、魔王なりの正義があり、それを巧みに宣伝して自分の味方を増やそうとする。「正義と悪の戦い」ではない。「正義と、もう一つの正義の対立」が、勇者と魔王の戦いなのだろう。


「和彦様?」


 後ろから朱音に声を掛けられた。息を深く吐いて、笑顔を作った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
怒りの国連脱退!!
[一言] なんか反省してるっぽい江副さんですが、見てる側としてはもう何言っても裏では他人を見下し暴力で解決できると思ってる人になってしまったw しかも見下した結果返り討ちにあってるのが最悪です。 異世…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ