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第049話:急展開

投稿が遅くなり、申し訳ありませんでした。

 東京都江戸川区鹿骨町は、総武線小岩駅もしくは都営新宿線瑞江駅からバスで20分ほどかかる。鉄道空白地帯であるため、通勤するには車が必要になる。篠崎公園の桜も開花したこの日、鹿骨町の一角に数台の車やトラックが集まっていた。2メートルの鉄筋コンクリートの塀が、650平米以上の土地をぐるりと取り囲んでいる。光触媒塗装を施しているため、見た目は真っ白だ。


「ようやく、完成したか……」


 ダンジョン・バスターズの新拠点は、Aランクダンジョン「深淵」の入り口を凹型に囲むように建てられている。ここはバスターズの拠点ではあるが、実際に住むのは俺だけだ。彰や睦夫たちは、瑞江、篠崎、小岩あたりにマンションを借りている。今日は総務部門、IT部門の引っ越しだ。俺以外にも、向井総務部長や睦夫たちが来ている。


「早速、中を確認しましょう。既に届いているはずです」


総務部長の向井は、立川に戸建ての自宅があるため瑞江駅前のマンションに単身赴任している。完全週休2日であるため、週末だけ家に戻るという生活だ。


「向井さんにはご不便をおかけしますが、これからもよろしくお願いします」


「瑞江から立川なんて電車で1時間ちょっとですよ。私自身、独身の頃に戻ったような、気楽な気分で単身生活を楽しんでいます。気にしないでください」


「江副氏ぃ~」


 睦夫がIT部門メンバー兼同人仲間たちとやってきた。手にはこの拠点全体の設計図を持っている。メンバーの一人、眼鏡を掛けた若い男が説明を始めた。たしか「山本淳二」という名前だったか?


「全体を確認しましたが、監視カメラを複数箇所に仕掛けたほうが良いでしょう。それと屋上にはサーチライトを置くべきです」


「山本氏は警備会社でセキュリティシステムを開発してたから、この手のことは得意なんだよ。バスターズの拠点はテロ対象になり得るから、もう少し強化しておいたほうがいいよ」


「なるほど。そのへんは睦夫たちに任せる。人間もそうだが……」


 そういって俺は声を潜めた。あまり人前で言うべきことではない。


「もし、大氾濫(スタンピード)までに討伐が間に合わなかった場合は、ここも防衛線になるはずだ。そのつもりで考えてくれ」


 睦夫は真面目な顔で頷いた。





 正面は車5台が停められる駐車場があり、中庭を囲むように右側から奥にかけてが「冒険者用宿泊施設」となっている。一部屋はバス・トイレ別の35平米1Kだが、4畳半のロフトを付けている。この部屋は、新たに加わるであろうバスターズのメンバーたちが「深淵」で鍛えるために入居するため、一通りの家具も全て揃えておいた。2階と3階それぞれに8部屋ずつ、全部で16部屋ある。建物は鉄筋コンクリート製で全部屋にD85防音処理を施している。ずっと他人と一緒にいるというのはストレスになるものだ。部屋の中くらいは一人になれるようにすべきだろう。


 1階はシャワールーム、食堂、そして会議室になっている。食堂の広さは150平米あり、バスターズが100名を超えても、一堂に会することができるような部屋だ。調理場は、業務用キッチン施設をまるごと移設している。シャワールームは深淵から戻ったときに素早く汗を流すために用意した。会議室は最大8名が座れるテーブルとホワイトボード、パソコンを投影するためのモニターを設置してある。


 正面から見て左側の1階と2階はバスターズのスタッフ部門が占めている。討伐者が100名を超えれば、スタッフも増やさざるを得ない。それを見越して広めの空間を確保しておいた。いまは1階に全スタッフが集まっているが、IT部門用の部屋は分けてある。睦夫たちはそこにカラフルなポスターや理解不能な人形を持ち込んでいた。まぁ仕事さえしっかりやってくれるのなら、何をしようが構わない。


 そして左側建物の3階は俺の居住スペースだ。一人暮らしの男に2SLDKは広すぎる。組織の性質上、外部から清掃業者を呼ぶのも避けるべきだろう。そこで茉莉の母親である詩織に、週1回の掃除をお願いしている。無論、俺がいない時にやってもらう。また詩織が入れない部屋もある。この建物は全体的に入退室管理システムを導入しているが、俺の居住区の一角だけ、別システムで指紋と網膜認証が必要な部屋がある。言わずもがな、「カード保管庫」だ。


 魔物カードおよびカードガチャから得たアイテムをどう管理するかは、頭を悩ませた課題だ。諜報機関が本気で盗みに来たら、ホームセキュリティレベルではとても太刀打ちできない。バスターズが組織として所有しているカードは、保管庫を地下に設置し、RFIDで在庫管理を行う。ここに住む討伐者候補者が得たカードやドロップ現金(いずれ魔石になるが)は、すべてバスターズが回収し、地下の保管庫で厳重に管理する。元銀行員の向井総務部長は、金銭や在庫管理が得意らしく、頼もしく思う。


 中庭の中央、鉄の扉と南京錠で厳重に封鎖した入り口の前に立つ。深淵に続く階段だ。周囲は石垣と柵で囲まれ、四本の柱で屋根も作られている。その屋根は石畳と共に中庭の奥、そしてシャワールームの扉まで続いている。一見すると、中庭の「(チン)」のようにも見えるだろう。


「ここが、入り口ですか?」


横から柏木玲奈が話しかけてきた。彼女とも数奇な縁だ。横浜ダンジョン出現時に出会ってから半年、いまはバスターズのスタッフとして働いている。総務として移動や宿泊の手配を担当してくれている。彼女を含めスタッフ全員、「深淵」の存在は知っている。ダンジョンアイテムの契約書によって口外できないようにしているが、このダンジョンもいずれは知られる。その時は破棄しても良いだろう。


「半年ぶりだな…… まぁ転移を使ってちょくちょく来ていたから、久々という気はしないが……」


 鍵束から南京錠の鍵を取り出して、封印を解く。雨に打たれた南京錠は少し錆びていた。鉄の扉を片手で軽々と持ち上げると、地下に続く階段が出現した。





 ダンジョン・バスターズが新社屋への移転を始めた頃、バチカン教国ではクルセイダーズのリーダー役であるロルフが、DRDC長官である枢機卿に報告を終えていた。自分たちがCランクになったこと。そしてこれからヨーロッパのダンジョンを討伐するにあたり、残すのではなく消し去ってしまうことを提案する。


「確かに、貴方の懸念も理解できます。ですがダンジョンを存続させることはEU全体で決められたこと。私たちが勝手に潰すわけにはいきません。もしそのような勝手なことをしたら、クルセイダーズはヨーロッパでは活動できなくなってしまいます」


「EUで議決されたのは、各ダンジョンの所在に応じて残す残さないを各国が決定する、というもののはずです。ライヒでも、ベルリン中央駅に出現したダンジョンは潰してしまうという方針です。たとえばもし、サン・ピエトロ大聖堂の床にダンジョンが出現したら、教国はやはり潰そうと決断されるのではありませんか?」


「すると貴方は、まず潰すことが決定しているダンジョンから順番に潰していく。そう言いたいわけですね? その点については、私に異論はありません。どのダンジョンを潰すかは貴方たちの判断に任せます」


 ロルフは一礼して長官室を後にした。頭の中にあるのは「ダンジョンを潰すことのメリット」を広めることだ。たとえばウィーンでは、シェーンブルン宮殿の中庭にダンジョンが出現した。パリではシャンゼリゼ通りのど真ん中に出現している。ローマではスペイン広場のほど近い場所だ。いずれも観光の名所であり、閉鎖されたら地元経済にも影響する。ダンジョンを潰すことで「日常に戻れる」というメリットに気づかせ、民衆の中に「ダンジョンなど不要」という声を広げていくのだ。


「ダンジョン群発現象は、主の御業ではない。現代科学では説明できない、ただの自然現象に過ぎない。社会を混乱させるダンジョンなど、早々に駆逐しなければならんのだ」


 決意を固めて、教皇庁を後にした。





 4月8日、新社屋への移転を終えた俺は、船橋ダンジョンの攻略に乗り出す前に、大阪ダンジョンへと向かった。クルセイダーズの育成などがあったため調査を後回しにしていたが、新社屋もできたことだし、本格的な討伐活動を始めるうえで、最凶ダンジョンの様子を知りたいと思っていた。

連れているのは朱音とエミリ、そして新しく加わった壁役「ンギーエ」だ。彰たちはダンジョン攻略前のオフということでノンビリしている。


「……なるほど。これまでのダンジョンとは構造が違うな」


 大阪駅から地下道を通って梅田方面に向かう。ダンジョンが出現した地下駐車場は封鎖され、自衛隊によって警備されている。推定Sランクのダンジョンを降りると、そこはこれまでのような安全地帯ではなく、いきなり迷宮となっていた。さっそく、朱音たちを顕現させた。


「Sランクダンジョンね。名前は……」


 すると頭の中に声が響いた。「ダンジョン・システム」の機械的な声だ。名前が呼ばれるのかと思ったが、その内容に驚愕した。


「Sランクダンジョン『強欲(アワリティア)』に、種族限界突破者が侵入しました。これよりダンジョン・システムの完全起動を開始します。完全起動まで、あと1自転」


「なにっ!」


 完全起動は6月24日のはずだ。だがいまの内容では、24時間後に起動するという。となれば残りのダンジョン全てが、あと24時間で出現するということだろうか。


「朱音、これはどういうことだ⁉」


「申し訳ありません。このような事態は私も存じません」


「エミリもよ! なんなのよ! こんなの知らないわ!」



「オデ、腹減った……」


 俺の頭の中はパニック状態だった。とにかく、冒険者運営局に報告しなければならない。慌てて階段を戻ろうとする俺の肩を朱音が掴んだ。


「和彦様、まずは落ち着いてくださいませ。外に出る前に、まずは状況を整理すべきでございます。ダンジョン内であれば、より多くの時を使うことができます」


 肩で息をしていた俺は、自分の頭をコツンと叩いてその場にしゃがみ込んだ。フゥと大きく息を吐く。


「あ、魔物きた……」


主人(マスター)、ダンジョンで考えるのなら、深淵の1階に戻ったほうがいいわ。ここだと魔物が鬱陶しくて落ち着けない」


 武器を持ってトテトテと走ってくるゴブリンに、エミリが魔法を叩き込んだ。いかにSランクダンジョンの魔物であろうとも、第一層に出てくる魔物がBランク以上であるはずがない。ゴブリンは跡形もなく消えた。そして俺の頭もようやく冷えてきた。


「よし、とりあえず深淵に戻るぞ。あそこならホワイトボードもある。まずは状況整理だ」


 朱音たちをカードに戻し、俺は深淵の安全地帯へと転移した。





「Sランクダンジョンに種族限界突破者、つまりCランカー以上が入った場合、ダンジョン・システムが一気に完全起動する……そういうことなのね?」


 起きた出来事を整理し、今後の予想や対策を練った俺は、そのまま防衛省の守衛室前へと転移した。いきなり目の前に人間が出現したため守衛は腰を抜かしていたが、説明している時間はない。俺はすぐに石原局長に電話した。24時間後に完全起動すると結論を伝えただけで、石原は予定をすべてキャンセルし、時間を取ってくれた。

 そしていま、大阪ダンジョンで起きた出来事を説明すると、石原は首を傾げながら、とりあえず理解はしたという表情を浮かべていた。本当に完全起動するのか、疑問なのだろう。


「俺の勘違いであってくれたらいいんだがな……」


 物証は何もない。ただダンジョン・システムの声を伝えただけだ。それだけで全世界に警告は出せないというのが、石原の意見だった。だが時間が惜しい。もし完全起動したらという仮定で、石原と今後の対策を詰める。するとノックが聞こえた。局員が慌てた様子で駆け込んでくる。


「局長、お打ち合わせ中に申し訳ありません。衛星が、重力変化を捉えました。どうやらダンジョンが発生したようです」


「場所はどこ? それと数も。もし不明なら、情報収集を急いで頂戴」


 石原の指示で局員が走る。石原は立ち上がり、自分の執務机から何箇所かに電話を始めた。俺は腕時計を確認した。大阪ダンジョンに入ってから、1時間10分ほど経過している。


「一時間おきに出現するのか? 予定では4月12日、5月18日、6月24日と、群発現象はあと3回あるはずだ。1回あたりに出現するダンジョン数は66~67箇所。つまりあと200箇所ほど、ダンジョンが出現するはずだ。それが24時間で出現するということは、1時間あたり8~9箇所に出現するということか?」


  石原の慌てた様子を見ながら、俺は爪を噛みたい衝動に襲われた。正直に言えば、俺は調子に乗っていた。順調にBランクまで成長し、仲間も増え、新社屋もできた。さらにはクルセイダーズという同志とバチカンという強力な味方までできた。あと10年もあれば世界中のダンジョンを討伐することは十分に可能だと思っていた。


「まさか、こんな隠し設定があったとはな……他にもあるかもしれん。例えばSランクダンジョンを討伐したら大氾濫発生までの時間が短くなるとか……」


 「たられば」を言ってしまえば、いくらでも可能性は考えられる。だが今回の件で、これまでの認識を改めなければならない。ダンジョン・システムは想像以上に「悪辣」だ。


「Sランクは全部で7つと固定されている。おそらくダンジョン・システムにおいてもこの7つは特別な存在なのだろう。Sランクはギリギリまで後回しだ。まずはDランクから順番に潰していくべきなのかもしれない……」


 考え事をしていると、石原が戻ってきた。向かいに座るとフゥとため息を漏らした。


「確認されたわ。ムアンタイ王国の首都クルンテーブにダンジョンが発生したそうよ。大東亜共産国のマガーオでも反応があったわ。ただこれまでのような群発現象と比べると反応数は少ないみたい。おそらく、1時間ごとに発生するんだわ。官邸には既に連絡してあるわ。貴方が原因だってことも……」


「参ったな。いや、それが正しいことはわかってるんだが、世界にどう謝罪すればいいか……」


「平気よ。官邸で話し合いが行われるでしょうけど、マスコミに貴方のことは出さないはずだわ。出しても解決するわけでもないし、意味がないもの。ダンジョンについては未知の部分が多すぎる。3箇所が討伐されたから早まったのかもしれない……そういうことにするでしょうね。今はむしろ、これを好機と捉えましょう」


 石原は、このダンジョン連続出現を好機とし、鹿骨町の「深淵」も出現したことにしてしまおうと提案してきた。


奇跡的な偶然(・・・・・・)で、ダンジョン・バスターズの新社屋の中庭に、ダンジョンが出現したのよ。自衛隊は群発現象の対応に追われているため、鹿骨町のダンジョンは貴方たちバスターズに管理を任せることにするわ。貴方はこれ幸いと、出現したダンジョンを活かして討伐者を育成していく……」


「言い訳としては苦しくないか? そんな偶然なんて……」


「あら、限りなく真実に近いわよ? だって実際に、『貴方の家の庭』に出現したじゃない。もしそれが数メートル離れた隣の家の庭だったら、ダンジョン・バスターズはこの世になく、完全起動や大氾濫などの情報もなく、ダンジョンの討伐もできていないわ。本当に奇跡的な偶然で、江副和彦の家にダンジョンが出現した。だから今があるのよ」


 石原は当たり前のようにそう言うと、少し笑った。


「ダンジョンの討伐、そして大氾濫の停止には、貴方は欠かせない存在なのよ。貴方はいま、人類で最も重要な人物なの。もう少し、自分の価値を認めたら?」


 言われるまでもなく、自分の価値はわかっているつもりだ。だが何をしても許されるわけではない。この連続現象によって死者が出るかもしれない。法的に責任は無いかもしれないが、自分が引き起こしたことに対して心が痛まないはずがなかった。


パシンッ


 悩んでいると頬を張られた。いつの間にか、石原が立ち上がって俺を見下ろしていた。Bランクの俺にはこの程度の攻撃など蚊に刺されたようなものだが、なぜか頭がシャキっとした。


「しっかりなさい。貴方はもう後戻りはできない。どれほどの犠牲を出そうともダンジョンを討伐する。そう決めたんでしょ! なら胸を張りなさい! 今回のことは失敗じゃないわ。また一歩、ダンジョン・システムの謎に近づいたのよ」


「そうだな。そう思うことにしよう。いや、済まなかったな。ありがとう」


 俺は立ち上がって礼を述べた。石原は何かを口にしようとしたが、その前に電話が鳴った。時計を見ると、また1時間が経過していた。


「またダンジョンが発生したわ。これで確定ね。ダンジョンはあと22時間で完全起動する。ちなみに今の電話は、名古屋にダンジョンが出現したっていう報告よ」


「貴方も忙しくなるだろう? 俺も拠点に戻って、メンバーたちと話し合う。彰たちは今日はオフなんだが、休暇取り止めだな」


 石原は受話器を持ったまま頷いた。そして再び電話を掛け始める。俺はその背を一瞥し、自宅へと転移した。





 4月9日、18時から首相官邸において浦部誠一郎内閣総理大臣による記者会見が開かれた。


「昨日の午前11時過ぎから1時間ごとに続いたダンジョンの連続出現現象ですが、24時間後の本日午前11時8分にダンジョンが出現して以来、現象は止まっております。ですが、依然として予断は許されません。国民の皆様におかれましては、混乱することなく落ち着いた行動をお願いします。また地下に続く怪しげな階段の入り口を見つけた際は、絶対に中には入らず、警察や消防へのご連絡をお願いします」


 続いて、24時間で国内に発生したダンジョンの場所が発表される。


「……愛知県名古屋市千種区今池町、東京都新宿区百人町、福岡県福岡市博多区中洲、東京都江戸川区鹿骨町、宮崎県都城市都北町の合計5箇所にダンジョンが確認されました。討伐済みのダンジョンを合わせると、日本国内には12箇所のダンジョンが出現しており、全世界には確認されているだけでも600近くのダンジョンが存在しています。無論、これは確認されたもののみです。まだ発見されていないダンジョンも多数存在すると考えられます。国際社会が一致協力して、全てのダンジョンの所在を明らかにしなければなりません」


 一通りの発表を終えると、質疑応答が始まった。


「中京新聞の岡部です。総理に質問します。これまで36日ごとに発生していた群発現象が、ここにきて急加速し、全世界に200近くのダンジョンが発生しました。この急加速の原因はなんだとお考えですか?」


「ダンジョンについては、私たち人類はほとんど何も知らないと言ってよいでしょう。これまで36日ごとだった現象が急に変わったのは確かです。ですがその原因を考えるのなら、なぜダンジョンが発生したのかという根本から考えなければなりません。証拠は何もなく、どこまでも予断と想像の域を出ないものです。私は、考えても仕方がないことは考えるべきではない、と思います」


「国民の中には、この連続現象はダンジョン・バスターズに責任があるという声もあります。彼らがダンジョンを討伐したため、ダンジョンが怒ったのではないかという意見がありますが、それについてはどうお考えですか?」


「そうした声があること自体、不勉強ながら私は存じませんでした。ただ、ダンジョン・バスターズにダンジョン討伐を依頼したのは、防衛省ダンジョン冒険者運営局であり日本政府です。もし彼らに責任があるとおっしゃるのなら、まずは依頼主である日本政府に責任を問うべきでしょう。そのうえで申し上げますが、ダンジョンを討伐したため連続現象が起きたという確たる証拠はあるのでしょうか? 無いのであれば、それはただの憶測に過ぎないということになります。ダンジョン出現という事態の中で、そのような憶測を妄りに口にするのは、新聞記者としていかがなものかと、私は思いますよ?」


 つづいて別の記者が手を挙げた。


「今年は総選挙が行われると言われていますが、今回の現象は総理の解散の判断に影響を与えるものでしょうか?」


 浦部は笑って首を振った。


「ダンジョン対策は確かに、日本政府にとって大きな課題です。ですが政府はそれだけをやっていればよいというわけではありません。経済、外交、安全保障、社会福祉、教育など様々なことを総合的に判断するものです。ただ、今回の現象によって私の胸の内にはより強い決意が固まりました。それは憲法の改正です。今回はダンジョンが連続して発生するという現象でしたが、もしこれが、ダンジョンから魔物が一斉に溢れ出てきた、という現象だったらどうなっていたでしょうか? 陸上自衛隊はどうやって戦えば良いのでしょうか? 国家の安全が脅かされている状況においては、国防のために自衛隊がきちんと働けるよう環境を整備し、日本の安全を確実に守る。これが総理大臣としての私の責任であると、決意を新たにした次第です」


 この後も記者会見は続いていた。ダンジョン・バスターズ、クルセイダーズのメンバーのみならず、各国の政治リーダーや国連のIDAO事務局長など、ダンジョン政策に関わる要人たちがこの生放送を見ていた。彼らには共通した認識があった。ダンジョン群発現象は一段落した。ここからは第2フェーズ「大氾濫抑止」である。それは別の見方をすれば「ダンジョン資源の奪い合い」とも言えた。ダンジョンは無限に出現するわけではない。数は決まったのだ。ここからは「ダンジョン所有権」を巡る競争が始まる。今は日本が先行しているが、EUや大東亜共産国、そしてガメリカがこのまま黙っているはずがない。全世界が、ダンジョンという新たなフロンティアに挑むようになるだろう。彼らの誰もが、そう思っていた。


だがそれは「先進国の都合」に過ぎない。世界には70億を超える人々が暮らし、その数だけの正義と悪が存在している。自分たちの正義が、必ずしも「普遍的」ではないことをいずれ彼らは思い知ることになるのであった。


Q.江副和彦は「回復魔法」は使わないの?


A.これにつきましては本当に申し訳なく思っております。忘れていたわけでは無いのですが、気づいたらその場面がまったく出ないまま第一章が終わってしまい、今までズルズルと来ております。本当にごめんなさい。


 今後も応援のほど、宜しくお願い申し上げます。

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