第045話:バスターズ&クルセイダーズ合同訓練
大変遅くなりました、申し訳ありませんでした。
【バチカン教国 教皇庁】
ローマ教皇庁の組織は、バチカン諸組織の統合運営を行う「国務省」のほか、各枢機卿の会議によって方針が定められる「省」、裁判所、評議会などから成り立っている。今年、教皇フランチェスコによって新たな部署が置かれた。日本語では「十字軍によるダンジョン討伐のための部署」(Dicastery for Reconquista of Dungeon Crusaders)と訳されているが、「レコンキスタ」「ダンジョン・クルセイダーズ」という名詞からも、この組織に対する教皇の強い意志が見て取れる。
DRDCの長官は、日本人で唯一の枢機卿となった坂口・ステファノ・宏である。もともとは東京大司教であったが、新部署のため教皇庁に呼ばれたのだ。グレゴリアナ教皇庁立大学卒業で、英語とイタリア語も堪能であったことから、この役目に相応しいと判断された。
「彼らは今頃、日本に到着している頃でしょうね」
ローマ時間では13時という、ちょうどシエスタの時間ではあるが、坂口は執務室で部下たちと食後のエスプレッソを楽しんでいた。
「しかし長官、本当に彼らで良かったのでしょうか。もっと信仰に篤い若者もいたと思いますが?」
「主への信仰は大切です。ですが、猊下のお言葉にもあったとおり、ダンジョンへのレコンキスタには、信仰の篤薄ではなく、より具体的な『力』が求められます。魔物を前にして主に祈りを捧げても、魔物は消えてくはくれないのです」
クルセイダーズの選別は、坂口が中心となって行なった。坂口が出した条件は以下の3つである。
1.各騎士団員の子女であること
2.カソリック教会で洗礼をうけていること
3.ストレスに対する肉体的、精神的耐性を有すること
現代では、各騎士団が半ば「名士の社交クラブ」となっていることから、神に心臓を捧げて戦うといった、かつての十字軍のような「狂信性」を求めることはできなかった。またその子女に至っては、洗礼こそ受けたものの、教会でのミサ中にスマートフォンを弄るような「現代っ子」が殆どである。
無論、青年会に入り熱意をもって聖性に向き合おうとする若者もいるが、ヨーロッパにおいてもカソリックのみならずプロテュートが殆どの英国や、ルーシア正教など独立正教会がある。全世界で考えれば、カソリックに傾倒しすぎる者よりも、教徒ではあってもある程度の柔軟性を持つ者が良いと判断したのである。
「私は日本で生まれ育ちました。日本人の多くは、宗教への柔軟性を持っています。八百万の神を崇める日本神道は、ヒンド教やヤハウェ教にならぶ世界屈指の民族宗教ですが、他宗教には極めて寛容です。恐らくダンジョン・バスターズは、宗教的、民族的垣根を超えて世界中で歓迎されるでしょう。クルセイダーズが活躍するには、彼らと同じような柔軟性が必要なのです」
「確かに、宣教師を送っていた中世とは異なり、現代は個々人が情報を発信する時代です。クルセイダーズが旗を掲げてダンジョンに乗り込めば、それだけでカソリックの活躍が世界に知れ渡るでしょう」
ローマ教皇庁には、グレゴリウス15世によって設置された「福音宣教省」という組織がある。簡単に言えば「野蛮な土地に宣教師を送り、教化し、教皇庁の権威を行き届かせるための組織」である。カソリック教の「マーケティング部門」であるが、中世時代の「プッシュ型(物売り型)」ではなく、「プル型(問い合わせ対応)」の宣教方法を取っている。クルセイダーズには、カソリックの広告塔という役割もあり、だからこそバチカン教国も多額の資金を拠出したのであった。
「いずれにしても、私たちは何も考えずにクルセイダーズを選んだわけではない。ダンジョン・バスターズの江副さんも、いずれ気づくでしょう」
坂口枢機卿は微かに笑って、エスプレッソを啜った。
【横浜ダンジョン 江副 和彦】
石垣島で3泊4日の「社員旅行」を楽しんできた俺は、東京に戻ると早々に、横浜ダンジョンに入った。クルセイダーズの6人の成果を見るためだ。
「我々は、既に日本語をマスターしている。冒険者としての修行を始めてもらいたい」
「……へぇ」
大柄な体躯をしたロルフ・シュナーベルを見上げながら、俺は感嘆の声を漏らした。最初から日本語がある程度できた2名以外は、せいぜいカタコト程度だろうと思っていたが、予想以上に堪能になっている。これなら問題なさそうだ。
「さぁ、やっと始まりね。はやく魔法をぶっ放したいわ!」
クロエ・フォンティーヌが、ピンク色のプラスチック棒を振り回している。うん、横浜ダンジョンは「武器にすらならない」と判断したようだね。そんなので戦ったら、一撃でペコッていくだろうな。
他の4人も準備が整っているようだ。だがすぐにブートキャンプを開催するほど、俺は酷ではない。予想以上に早く日本語を覚えた6人には、息抜きも必要だろう。
「ブートキャンプは明後日からだ。今日はもう午後になっているが、明日はオフにする。初めて日本に来た奴もいるだろう? 東京観光を楽しんでくれ」
歓声をあげる6人を見ながら思った。バチカンは案外、マトモな奴らを選んだのかもしれないと。
「東京観光のためのオフなんて、うまい言い訳ね。明日は3月6日、ダンジョン出現日だものね」
横浜ダンジョンの施設から、ビデオ通話で石原局長と話す。クルセイダーズの修行をすぐに始めない理由は、休ませるという側面も無くはないが、それ以上に「ダンジョン出現日に備えて」という理由が大きい。俺の予想では、そろそろ西日本に出現しても可怪しくはない。
「貴方が沖縄で遊んでいる間に、日本も世界も動いているわ。日本では6月までには、ダンジョン対策関連法案が衆議院を通過する予定よ。貴方の希望通り、Dランク以上の冒険者が同伴することを条件に、16歳以上のダンジョン立ち入りが許可されるようになるわ。それと、ダンジョンの討伐者もしくは討伐組織には、その後20年間、魔石採掘量の10%を金銭で納められる。もっとも、税金が掛かるけれどね?」
ダンジョン対策法は、俺の希望がかなり盛り込まれている。俺やバスターズの利益ではなく、恒久的にダンジョンを活用するための制度を整備したものだ。もっとも、民法や刑法など幅広い分野で法改正が必要となるため、今後も検討が続けられる予定だ。
「札幌ダンジョンの調査の方は?」
「ダンジョン・コアの分析は不可能みたいね。ダイヤモンド・ドリルでも傷一つつかず、X線による内部調査もできないわ。研究班は『現代科学では分析不可能』と結論を出している。一方で、出現物については面白いことが判ったわ。例の『赤い魔晶石』についてよ」
画面には「赤い魔石」が映っていた。出現物のリストに「黒魔晶石」「赤魔晶石」「青魔晶石」「黄魔晶石」「白魔晶石」とあったため、試しに赤魔晶石で設定して魔物から出現したものだ。
「この赤魔晶石は、ある鉱物資源を生み出すわ。炭化水素、硫黄、酸素、窒素などが混合した油……」
「石油か?」
石原が頷く。
「研究班が、試しに生活排水に混合してみたところ、水中の有機物を結合させて原油を生み出すそうよ。赤魔晶石1グラムで、1千立方メートルの生活排水から10リットルの原油を生成することが確認されたわ。生成の所要時間は、約2時間ね」
「……凄いのか凄くないのか解らん」
「そう? ちなみに現在の原油価格は1バレルあたり58ドル、10リットルでおよそ387円よ。赤魔晶石をグラム100円で買い取ったら、処理施設建設などを考えても、原油価格は半値以下になると試算されてるわ」
「原油価格の暴落は間違いないな。中東諸国が発狂するだろう」
「言っておくけど、インサイダー情報だから先物なんてやったら捕まるわよ? それはともかく、他の魔晶石も試したいって研究班から矢のような催促が来ている。彼らの仮説では、魔晶石は原子レベルでの分解、合成の能力を持っているそうよ。炭化水素ガス合成や核廃棄物の変換処理に使えるのではないか、なんて言ってるわ。もしそうなら夢の素材ね」
「試すとしたら札幌でだな。横浜はこれからクルセイダーズのキャンプで使う。いずれ世界に公表するんだろうが、今の段階で教えてやる必要はないだろう」
魔石を使った処理施設となれば、新技術が必要になる。その技術や設計などの特許を日本企業が独占すれば、日本経済は大きく飛躍するだろう。石原も同じ考えのようだ。
「討伐後のダンジョンは、奇跡のような物質を生み出す鉱床へと変わる。これが知られたら、世界中がダンジョン討伐に躍起になるでしょう。大氾濫を食い止めた後は、ダンジョン冒険者の数が国力を左右する新世界になるわ」
「まずは食い止めることを考えるべきだ。明後日から、クルセイダーズのキャンプを始める。マスコミが近づかないようにしておいてくれ」
石原への連絡、報告を終えた俺は、瑞江の自宅に転移した後、鹿骨のダンジョン・バスターズ本社建設現場へと向かった。建物はほとんど出来上がっている。必要な備品もそろそろ揃える必要があるだろう。木乃内茉莉の母親である「詩織」が、家事面でサポートしてくれる予定だ。明日、3月6日は金曜日で茉莉の高校では卒業式が行われる。その後で、木乃内詩織と打ち合わせをする予定だ。
「完全起動まで、あと3ヶ月半……」
小春日和の中、急ピッチで最後の仕上げが進んでいる現場を見ながら、俺は小さく呟いた。そして翌日、3月6日の夕方に、予想通りダンジョン群発現象が再び発生した。情報収集衛星のお蔭で、国内で発生したダンジョンは迅速に発見できるようになった。日本においては、広島県広島市紙屋町の「翔潤寺」の敷地内に出現した。
【横浜ダンジョン 江副 和彦】
本来、土曜日は横浜ダンジョンでブートキャンプが開催されるが、この日はクルセイダーズの貸し切りとなっている。彰は劉師父、凛子、正義、天音と共に、広島ダンジョンの調査に向かっている。寿人は俺と共にクルセイダーズのブートキャンプに付き合う。子弟育成や社会人経験のある3人と異なり、寿人は高校卒業後の経験が薄い。「人を指導する」という経験を積ませてやる必要があると考え、クルセイダーズ育成に同席させた。
「和さん。俺ってまだ19歳なんですが、クルセイダーズの人たちより年下ですよ?」
「気にするな。企業では年上の部下を持つことなんて当たり前にある。まして19歳だろうが23歳だろうが、俺のような中年オヤジから見れば同じ『若者』で大して変わらん。寿人も、いずれチームを率いるようになる。どうやってメンバーを育てるか、よく見ておけ」
クルセイダーズ6人が待つ部屋に入った。全員が自衛隊支給の装備と備品を持っている。マルコ・モンターレが早々に手を挙げた。
「あー、ちょっといいかな? 俺ッチとしては、この服装より騎士団のロゴが入った鎖帷子にしたいんだけど? なにせ俺、テンプル騎士団だから」
声には出さないが、皆がマルコと同じように思っていたらしく、頷いている。俺は鼻で笑った。
「今のお前たちに、騎士団の旗を掲げる資格があるのか? 魔物一体すら殺していないんだぞ? だがまぁ、そこまで言うのなら……」
寿人に近づき、肩に手を置いた。
「彼はお前らとほぼ同い年、19歳だ。この篠原寿人と一対一で戦ってみろ。もし勝てたら、すぐに騎士団の旗を掲げさせてやる。武器を使っても構わんぞ?」
「へ? マジでそんなんでいいの? 俺ッチのこと知ってる? こう見えても俺ッチ、結構強いぜ?」
「同感だ。ダンジョン・バスターズのメンバーを甘く見るつもりはないが、私は幼い頃より剣術、格闘術を学んできた。日本の剣道では初段だが、強さはそれ以上だと自負している。男とはいえ、年下の者を傷つけることはできん」
アルベルタ・ライゲンバッハまでそう言っている。プロフィールではメンバーそれぞれが、スポーツ経験などの特徴を持っていたが、そんなモノはダンジョンではなんの役にも立たない。そのことをまず教えてやる必要があるだろう。
「寿人に勝つことができたら、すぐにでもダンジョンを討伐できるだろうさ。まぁ、第一層で試してみればいい」
俺たちは早速、横浜ダンジョン第一層へと向かった。
【横浜ダンジョン 篠原 寿人】
和さんに言われた時は、少し焦った。魔物とは山のように戦ってきたけれど、対人戦闘は初めてだ。だから俺は、最初は手を抜かず慎重に戦おうと思っていた。すると和さんから言われた。
「寿人、もっと肩の力を抜け。そのままだと相手を殺しかねん。今のお前なら6人全員を同時に相手にしても、30秒以内に殺傷できる。それぐらい格差がある」
いや、そう言われても俺が訓練してきた相手は和さんであり彰さんであり、同じランクのメンバーたちだ。飛び抜けて自分が強いなんて思ったことはない。一応、指示を聞いたうえで、俺は身構えた。最初は、イタリア人のマルコさんだ。元サッカー選手でプロを嘱望されていたけれど、女性関係のトラブルがあったらしく、今はプラプラしているらしい。
「んじゃ、いくよぉー」
マルコさんはピョンピョンとステップを踏むと、一気に殴りかかってきた。サッカー選手が目の前で本気のダッシュをする。一気に俺の懐に……入らなかった。いや、遅くね? 彰さんなんて10メートル離れていても、一瞬で目の前にいるよ? まぁいいや、取り敢えずデコピンでいいかな?
ベチィィンッ
「ブヒョラャベヘェェッ!」
ゆっくり迫ってきた額に軽くデコピンしたつもりなのに、マルコさんは吹っ飛んで悶絶している。あー、そうか。和さんはこれを教えたくて俺に戦わせたわけか。
「クルセイダーズのランクはまだ不明だが、せいぜいEランクだろう。一方の寿人はCランク、象と蟻ほどに差がある。気をつけないと、本当に死人を出しかねん。さて、次も必要か?」
俺の強さに怖じけたのか、他のメンバーは首を横に振っている。だが1人だけ、険しい表情を浮かべたまま、棒状の袋を持って俺の目の前に進み出てきた。キツそうな目つきの金髪の女性、アルベイダさんだ。
「どうやら侮っていたのは私たちのようだ。だがそれでも、強者を前にして背を見せるような真似はできん。武器を使っても構わないと言っていたな? ならば遠慮なく使わせてもらうぞ」
アルベイダさんはそう言って、袋から日本刀を取り出したよ。いやいや、ダンジョンの中には持ち込めないはずだけど? あ、安全地帯は大丈夫なのか。
「ただ一合のみの交わり、私の全身全霊を懸ける!」
そう言って、日本刀を腰ベルトに挿すと、足を肩幅程度に前後に開いて、右手を日本刀の柄に置いた。マンガで見たことがある。「居合抜刀術」の構えだ。
「和さん、どうしよう?」
「少し面白いな。寿人、真正面から向かってやれ。心配するな。斬られても死にはしない」
俺は苦笑してしまった。まぁ確かに、斬られても死なないだろう。和さんはエクストラ・ポーションまで用意しているんだから。前屈みになり、動かないアルベイダさんの制空圏を想像する。日本刀っていうのは相当に範囲が広い。殺すわけにもいかないので、手加減しながら日本刀を相手にしなければならない。しかも相手は女性だ。できれば怪我もさせたくない。
「フー、フーッ」
アルベイダさんが静かに呼吸している。俺もバスターズの一員だ。負けるわけにも斬られるわけにもいかない。悪いけど、ちょっと本気で行くよ? 俺は歩を進め、そして一気に加速した。ダンッと床を蹴った瞬間には、もうアルベイダさんの制空圏を破っている。
「御免ッ!」
腕と腰がブレ、日本刀が横薙ぎで向かってくる。けれど俺の予想を超えてはいない。途中で身体を捻り、時計回りに刀身を躱しながら、柄を握るアルベイダさんの右手首を左手で止めた。
時間にしてはまばたき程度のはずだが、一瞬で押さえ込まれたアルベイダさんは呆気にとられている。手を放すと慌てて後ろに飛び退いた。
「クッ……」
いや、そんなこと言われるとラノベ世代の俺としては期待しちゃうんだけど。でもその後は続かず、アルベイダさんは刀を鞘に納めた。
「私の負けだ。さすがはダンジョン・バスターズ、強いな」
「あー、うん。まぁね」
本当は俺なんて最弱の部類だ。凛子さんは古武術師範代だし正義さんは元力士、天音さんは性格的に勝てそうにない。剣術のスキルを発現して、劉師父に手ほどきくらいは受けてたけれど、魔法もまだロクに使えない。いずれは「魔法剣士」になりたいなんて思っているけどね。
「さて、これからクルセイダーズの修行を始める。目標は、今の寿人と五分かそれ以上に強くなることだ。大丈夫だ。俺が必ずそこまで引き上げてやる」
和さんは笑っているけれど、俺は知っている。発狂寸前まで追い詰められるってことを……
【クロエ・フォンティーヌ】
「ち……ちー……超硬戦士ガオリンガー!」
私はいま、クルセイダーズの仲間たちと「しりとり」をしているわ。日本語の勉強にもなるし、いい時間つぶしにもなる。だってつまんないんだもん。いま私たちは、10キロのウェイトベストを着せられて、和と寿人がウサギをペシペシ倒している中をただ歩いているだけ。最初は可愛らしいウサギだなぁなんて思ったけど、和が小突いたら般若面みたいな顔になって襲ってきたわ。これが魔物なのね。
「ヘル・エゾエ、俺たちも戦ってみたいのだが?」
生真面目なロルフがそんなことを言っている。本当にライヒ人って勤勉よね。ファッション、グルメ、恋愛……人生をもっと楽しまないの?
「焦りは禁物だ。まずは肉体づくりだ。言っておくが、ウェイトはどんどん増えていくぞ? 50キロのウェイトを身に着けながら、エビル・ラビットと戦ってもらう。戦士だろうが魔法使いだろうが、まずは基礎体力が重要だからな。それとクロエ、しりとりに『固有名詞』は反則だぞ?」
な、なによ! 日本人ならガオリンガー知ってて当然でしょ! え、また私の番? り……りー……リリカル萌たん!
「『ん』がついたぞ。クロエの負けだな」
アルベイダが苦笑いしてる。キィィッ!
【フランカ・ベッツィーニ】
皆がキャッキャと騒いでいる。けれどアタイはそれには加わっていない。正直、ダンジョンだとか大氾濫だとかに興味はない。アタイの人生は高校生で終わっちまった。
「フランカ、今度は日本の食べ物クイズよ!」
「好きにやってな。アタイは興味ないよ」
クロエの誘いを無下に断っちまった。仕方ないじゃないか。アタイは欠陥品だ。高校時代にアキレス腱を断絶して、陸上選手の夢を絶たれた。それ以来、何をしても冷めたまま、夢中になれるものなんて見つかっていない。クルセイダーズの話を引き受けたのも、魔物に殺されてもいいかな、なんて思いがあったからだ。バチカンだのカソリックだの、アタイにはどうでもいい。神様がいるんなら、アタイの足を返してくれよ。
「皆に言っておく。ダンジョン討伐者となるのなら、己の利益以外の『目標』を見つけろ。神のため、家族のため、恋人のため……なんでもいい。誰かのために戦う。誰かのために強くなる。その精神がないと、いずれ潰れてしまうぞ」
エゾエは最初に、アタイらに向かってそう言った。だったらアタイは失格だ。自分のためでさえない。ダンジョンに入ったのは、まぁ「暇だったから?」くらいだ。
「ちなみに寿人の目標は、エクストラ・ポーションを手に入れることだ。どんな難病でも欠損部位さえもたちまちに回復させてしまう。寿人はそれを集め、世界中の難病患者を救うことを目標にしている。急ぐ必要はない。お前たちも自分の中に『理由』を見つけろ」
「なん……だって……」
欠損部位を回復させる? だったら、アタイの足も回復するのかい? 歩けはするけど陸上選手としては走れなくなったアタイが、再び駆けることができるってのかい?
(エクストラ・ポーション……)
アタイの中に、微かに光が灯ったような気がした。
Q.クルセイダーズのメンバーが「普通」すぎて、もう少し信仰心や狂信性をもたせたらどうか?
A.考えはしましたが、やはり現代世界で中世の十字軍のような、あるいは「ヘル◯◯グ」の神父のような神罰の地上代行者的な存在を出すのは違和感がありすぎたので、普通の青年たちを描きました。
投稿が遅くなりましたこと、お詫び致します。ブックマークや評価をいただき、大変嬉しく思っております。これからも投稿を続けますので、応援の程、宜しくお願い申し上げます。




