第044話:ユーは何しに日本へ?
遅くなりまして申し訳ありません。水曜日は通常通り投稿できると思います。
【衆議院 ダンジョン対策委員会】
討伐を終えてから3日後、俺は衆議院に設置されたダンジョン対策委員会に、参考人として呼ばれていた。横浜ダンジョンの最下層には研究者たちが籠もっているが、第一層から第三層は民間人冒険者にも開放され、ブートキャンプも行われている。冒険者運営局の方針で、民間人冒険者は「採掘者」と「討伐者」に分けられているが、討伐者に魔石採掘量の10%が入るという制度は法制化が必要であった。
また大亜共産国やEU、バチカン教国などからの応援要請に迅速に応えるためには、現状のような外務省経由ではなくダンジョン政策を一元管理する組織体が必要となる。そのため、国会では「ダンジョン省」の設置が話し合われている。
「庁」ではなく「省」なのは、ダンジョンが全世界的な規模であり、リスクと同時に大きなリターンが得られる可能性があること。そのリターンも魔石という新エネルギーのみならず、人類の科学技術全般に及ぶ可能性があることから、いずれ巨大な利権が発生するのが確実であること。同時に「大氾濫」という人類存続の危機が発生する可能性があることから、物理的な抑止力も必要であること。
簡単にいえば、一部局どころか「庁」ですら責任を担うに不足しているのだ。ダンジョン対策を一元管理するには「省クラス」の組織が必要であった。
そしていま俺は、与野党の委員からダンジョン対策についての質問を受けていた。中にはしっかりとした考えを持つ議員もいるが、現実とかけ離れた認識の議員もいる。例えば立憲民政党の某議員などだ。
「参考人にお尋ねします。魔石1グラム100円というのは、あまりにも高額とは感じないでしょうか。たとえば横浜ダンジョンでは1時間ごとに民間人冒険者がダンジョンに入っていますが、彼らは平均して10万円を得ています。たった1時間でです。高すぎるとは思いませんか?」
有り得ない数字に俺は呆れかえって返答した。
「お答えします。具体的な数字を聞いて、いま呆れています。たった10万円ですか? 横浜ダンジョン第一層では、魔物1体で3グラムの魔石を得られます。地上の1時間は、ダンジョン時間では144時間です。その半分を魔石採掘に使ったとしましょう。10秒ごとに1体ずつ魔物を倒し、それを12時間行って休憩する。そのサイクルを6回やると地上時間で1時間程度です。私であれば200万円以上を得られますね。週5日で1千万円、200日で4億円です。これくらいは稼いでいると思っていたのですが、どうやら採掘者たちは少し怠けているようですね」
「私は高すぎると思わないかとお聞きしたのです。お答えください」
「全く思いません。プロ野球選手の年俸は幾らですか? いま私が例示した「4億円」も、地上時間では200日ですが、ダンジョン時間では144倍なんですよ? つまり実質的には年収300万円以下です。これを高いとおっしゃるのなら、議員報酬を144分の1にしてからおっしゃってください」
現実を見ず、観念論で議論することが「賢い」とでも思っているのだろうか。民間企業で3年も営業やれば、こんな下らない議論など無意味だと気づくだろうに。
もっとも、中には真面目に考えている議員もいる。万一、地上に魔物が溢れ出た場合は自衛隊で戦えるかという質問があった。これに対しては判らないとしか答えられない。
「魔物に銃が効くのかどうか、試したことがないので判断できませんね。ただ私の感覚としては、高位の魔物はみなさんが想像しているより遥かに危険と思われます。想像ですが、Sランクの魔物1体を倒すのに、陸上自衛隊の全火力を集中する必要がありますね。要するに、怪獣映画に出てくるような奴です。そんなのが何万、何十万と溢れ出てきたら、半日で人類は滅亡するでしょう」
「では、やはり防衛力の強化が必要とお考えですか?」
「防衛力の強化は必要でしょうが、私は『Sランク冒険者』を大量に育成し、大氾濫を未然に食い止めることに集中すべきだと考えます」
参考人質疑を終えた俺は、その足で防衛省へと向かった。クルセイダーズ受け入れのために、国際政策課の担当者と打ち合わるためだ。
「クルセイダーズの6名は明日の夜、成田に到着します。防衛省で開かれる顔合わせは明後日の10時です。彼らにもそのように伝えています」
「6名のプロフィールは見ました。中々、個性的な人たちのようですね」
【ライヒ騎士団】
■ロルフ・シュナーベル(男性 23歳)
■アルベルタ・ライゲンバッハ(女性 20歳)
【聖ヨハネ騎士団】
■レオナール・シャルトル(男性 21歳)
■クロエ・フォンティーヌ(女性 19歳)
【テンプル騎士団】
■フランカ・ベッツィーニ(女性 22歳)
■マルコ・モンターレ(男性 19歳)
「最年長はライヒ騎士団のロルフ・シュナーベル、カールベルク大学の哲学部ですか。てっきり、神学部や修道院から来ると思っていました」
「カールベルク大学の神学部は新教のほうですので、カソリックとは違いますから…… 江副さんが気にされていた『敬虔度』ですが、それぞれの両親は社会的にも地位のある騎士団員ですが、子供である彼らはバラツキがあります。聖ヨハネ騎士団のレオナールはフラヴィーニ神学校の学生で、敬虔なカソリック教徒ですが、クロエ・フォンティーヌのほうは、漫画家になりたいとかで、大学にも……」
俺が依頼したのは、各人のパーソナリティだ。これまでの経歴や目指しているものなどから、コイツらがどんな人間かを探る。「日本語の勉強をしておけ」と伝えているが、勉強の仕方までは教えていない。その成果で、コイツらがどれくらい真面目に取り組むつもりかを計る。バチカンが話題作りにぶち上げた「見せかけのアイドル」程度であれば、真面目に付き合う必要はない。
(俺ならローマのダンジョン第一層に籠もって勉強する。1週間が2年半になるんだからな。果たして彼らはどうかな)
今後、海外に出るにあたっては語学の勉強もしておく必要があるだろう。英語と中国語から始めようか。打ち合わせながら、そんなことを考えていた。
【成田国際空港 ロルフ・シュナーベル】
成田空港に降り立った俺は、ドイツの眼鏡メーカー「ローゼンストック」のサングラスを掛けた。コンベアから出てきたリモーワのスーツケースを回収する。俺の横には、頭一つほど背の低い女性、アルベルタが立っている。ガメリカのブランド「ゼロハリボストン」のキャリーケースとスキーケースのような鞄を手にしている。「ジオーネ&ランゲ」の腕時計を確認する。入国手続きに時間が掛かってしまった。待ち合わせの時間まで、あと10分しかない。
「急ごう。我々ライヒ人同様、日本人は時間に正確だ」
「待て。マルコとフランカが、まだ来ていないようだ」
俺は思わず舌打ちしてしまった。我々ライヒ人とイタリー人とでは、時間に対する感覚がまるで違う。時間通りに集合するライヒ人に比べ、イタリー人は待ち合わせ時間に起床するような連中だ。特にマルコは、その傾向が強かった。
やがてマルコが姿を見せる。フィウミチーノ空港から乗ってきたイタリー人の女性に声を掛けているようだ。奴はいったい、なにをしに日本に来たのだ?
「遅いぞ、マルコ。同じ飛行機に乗ってきたのに、なぜお前は15分も遅れるのだ」
電話番号を交換したのだろう。スマートフォンを操作しながら歩いてきたマルコに、アルベルタ・ライゲンバッハが眉間を険しくして叱責した。
「だから言ったじゃん。ロルフもアルベルタも真面目なんだから、待ち合わせ時間は守れって」
フランカ・ベッツィーニが呆れた表情を浮かべている。いや、一緒に出てきたお前も遅れているのは同じだろう。イタリー人は時間にルーズだ。ではフランツ人はどうかというと、男のレオナール・シャルトルは、いかにも神学生という真面目な男だが、女のクロエ・フォンティーヌは俺にも理解不能だ。紙袋の中には、ピンクに塗装され、先端にハート型の造形物を接着したプラスチック製の棒が入っている。
「ワハァッ! ここが憧れの日本! リリカル萌が住んでる国なのね?」
頭痛がする。アルベルタなど一歩距離を取っていた。やれやれ、先が思いやられる。
【アルベルタ・ライゲンバッハ】
成田空港から都内のホテルで一泊した私たちは、日本国の国防の中枢、防衛省へと急いでいた。これは私たちにも責任があるが、朝の待ち合わせに遅れたバカがいたのだ。
「会議は10時からだ。10分前には防衛省に到着する必要があったが、これでは正門に到着するのが10時だな。5分遅れそうだ」
「いや、別に5分くらい問題ないでしょ! 俺らはおおらかなイタリー人だよ? だいたい、イタリー人は朝10時までエスプレッソタイムだよ。10時から会議なんて方が間違ってる」
ロルフとマルコが言い争っている。まったく、この2人の相性は良くない。真面目で几帳面なロルフと、適当でいい加減なマルコ…… まぁお互いもう子供でもないし、我慢すべきところは我慢している。それよりももっと理解不能なのがクロエだ。今朝、ホテルを出てきたときの格好を見て、私は呆れてしまった。日本のアニメが好きなのは構わないが、白とピンク色の短めのスカートのドレスを着て、肘近くまである白い手袋、赤い大きなリボンで亜麻色の髪を留めている。私はさすがに注意した。
「クロエ、これから日本のダンジョン・バスターズと大事な会合だというのに、その格好はなんだ?」
「大事な会議だからよ! これが魔法少女の正装よ! 相手が文句言ってきたら、キラめくスティックでやっつけてやるんだから!」
私はもう、注意する気すら失せた。侘び寂びの文化を持つ日本だが、同時にこのようなアニメも文化として持っている。一方には凛と張り詰めた武士の世界があり、もう一方には派手さ、軽さ、幼さの文化も形成している。この多様性こそ、私が日本に魅了される理由だ。
「お待ちしていました。会議室にご案内します」
10時過ぎに、私たちは防衛省に到着した。既に門衛が待っていたため、すぐに会議室に案内される。ビルに入ると、事務官らしき男が待っていた。クロエの格好に一瞬呆れた様子だったが、なにも言わず会議室まで案内された。さて、いよいよ世界最強の冒険者集団「ダンジョン・バスターズ」との顔合わせだ。私たちは緊張しつつ、会議室へと入った。男女数人の日本人が、既に部屋で待っていた。
【江副 和彦】
社会人たるもの、5分前行動は当たり前だ。9時40分には防衛省内の喫煙所で一服し、10分前には会議室に到着した。だが10時を過ぎても連中が来ない。彼らが来たのは、俺が部屋に入ってからおよそ20分後のことだ。約10分の遅刻、舐めてるのかコイツらは?
「遅れてしまい、申し訳ない。お詫びする」
パンツスーツ姿の金髪の女性が、部屋に入るなり日本語で謝罪し、頭を下げてきた。写真で予め知っている。アルベルタ・ライゲンバッハだ。続いて、金褐色の髪をサッカー選手のように短く刈り込んだ男が同じ様に一礼する。ロルフ・シュナーベル。この男もスーツ姿だ。まぁ常識的だろう。
「ゴッメーン! 遅れちゃったぁ♪」
亜麻色の髪をしたフザけた格好をした女が軽い調子で謝りながら入ってくる。クロエ・フォンティーヌ。一応、日本語ができるらしい。
「Je vous prie de m'excuser(本当に申し訳ありません)」
ジャケットとスラックス姿の茶髪の男が、申し訳無さそうな表情で入ってくる。フランツ語だろう。
「Scusate(悪ぃ)」
そして入ってきたのはカラーシャツとセーター、ジーンズというラフな格好の黒髪の男と、レザージャケットとジーンズを着た明るい茶色(赤毛)の女だ。
ハッキリ言おう。俺はもうこの時点でやる気をなくしていた。帰ろうかと思ったが、その前に隣にいた石原局長が、俺の足を軽く踏んだ。微かに首を横に振る。仕方なく俺は、席についた。会議室では向き合う形で座っている。こちらからの出席者は、俺と石原局長、国際政策課課長と係長および主任の5名だ。
「では、少し遅れましたが会合を始めたいと思います。私は防衛省ダンジョン冒険者運営局長、石原由紀恵と申します。カソリック教会から選ばれた6名の十字軍をお迎えできて、嬉しく思います」
石原が日本語で挨拶する。念のために、ライヒ語、フランツ語、イタリー語の同時通訳を用意していたため、6人はそれぞれがイヤホンをしている。石原は見た目こそアラサーだが、実際は50歳近いキャリア官僚だ。心にもないことを言う腹芸などお手のものだろう。
それぞれが立ち上がって挨拶した。俺はただ一言、ダンジョン・バスターズの江副和彦としか告げていない。コイツらへの興味を無くしていたからだ。
6人がそれぞれ母国語で挨拶してくると思っていたが、アルベルタ・ライゲンバッハとクロエ・フォンティーヌは日本語で挨拶してきた。
「私はアルベルタ・ライゲンバッハという。再び日本の地を踏むことができたことを嬉しく思う。クルセイダーズの名に恥じぬよう、修行に励むつもりだ」
「魔法少女クロエ・フォンティーヌです。『クロエたん』って呼んでね♪」
一方は堂々とした挨拶だが、もう一方はフザケているとしか思えない。実力、実績、名声があるのなら呆れはするが腹は立てないだろう。だがコイツらはクルセイダーズの看板を背負い、学びに来た人間だ。ローマ教皇とカソリック教会の権威が掛かっている。その責任意識を持っているのだろうか。
だから、一通りの挨拶を終えた後、俺は椅子の背もたれに寄り掛かり、見下すように言い切った。
「お前ら、何しに日本に来たんだ?」
舐めたガキを躾けるには痛みが一番だが、コイツらはそれ以前の問題だ。だから俺は顔合わせ早々、横浜ダンジョンにガキ共を連れてきた。万一を考えて横浜ダンジョンを5日間貸し切りにしていて正解だった。
「ここは横浜ダンジョンだ。時の流れは地上の144倍、ここでなら十分に時間が取れる。お前らはこれから5日間、ここで日本語を勉強してもらう。ダンジョン時間で1日12時間、食事やシャワーを合わせると、地上時間でちょうど1時間になるだろう。それを120回繰り返してもらう。勉強時間は累計1440時間、日常会話くらいはできるようになるだろ」
「待て、私は必要ないだろ!」
「そ、そうよ! なんで私まで!」
「連帯責任だ。お前らはチームだろう。クルセイダーズはバチカン教皇庁で既に顔合わせをしているはずだ。その時に、日本語を勉強しろと言われなかったか? なぁに、心配するな。できる奴がいたほうが、より早く終わるだろう。3日目にテストする。それで最低限をクリアすれば、地上に解放してやる。言っておくが、逃げ出そうとはするなよ? お前らを監視するのは陸上自衛隊のDランカーたちだ」
「私たちは教皇猊下に選ばれた十字軍なのよ? その私たちにこんな扱いして、タダですむと思って……グゥゥッ」
俺は、ペラペラと煩い魔法少女の首を片手で締め上げた。
「黙れ。教皇? 十字軍? 知るかそんなの。ここは日本のダンジョンだ。お前らの常識も、価値観も、宗教も、神の教義も通用しない地獄だよ」
そう言って俺は手を放した。ゲホゲホと咳き込む少女を一瞥し、そして全員を見渡す。
「お前らこそ勘違いをしていないか? お前らの働き次第で、カソリック教や十字軍の歴史、バチカンや騎士団の名誉が崩壊するんだぞ? 今のお前らの姿を見たら、10億人のカソリック教徒はどう思うだろうな? 選択肢は2つだ。黙って日本語を学ぶか、荷物をまとめて逃げ帰り、カソリックとバチカンを嗤い物にするか、どっちだ?」
通訳に指示して、俺の言葉を訳させる。自分たちの立場をようやく理解したのか、全員の顔が微かに引き締まった。
【マルコ・モンターレ】
まったく、カズヒコ・エゾエには困ったものだよ。イタリー人は陽気で明るいのが長所なんだよ? メッチャ悲壮感満載で、僕とはまったく合いそうにないね。でも、彼の言っていることは間違ってはいない。僕らはバチカン教皇庁から指名された十字軍だ。その僕らがなんの活躍もしなかったら、先祖が築き上げてきたカソリックの権威が崩壊する。
だから僕らは、強くならなければならないし、そのために日本語が必要なら学ぶべきだ。ただ、ライヒ人と日本人の共通点は、目標に目掛けて悲壮に頑張るところなんだよね。別に悲壮に成る必要ないじゃん。気楽に頑張る。これが僕らイタリー人さ。
【フランカ・ベッツィーニ】
なんでアタイが勉強しなきゃいけないんだよ。いや、確かにオヤジからは「カソリックの名誉」って言われてきたけどさ。アタイにはピンとこないんだよ。教会だって子供の頃に行ったきりで。この数年は足も運んでいない。聖書だってロクに読んでない。そんなアタイが十字軍って言われてもさ。まぁ就職もせずにプラプラしているアタイにとって、冒険者ってやつの報酬は魅力だったから引き受けたけどさ。
そんなアタイが日本語の勉強なんて、イタリー語すら曖昧なんだよ? 鉛筆なんて持ったの何年ぶりだろう。まぁとても逃げ出せそうにないから、仕方なく勉強するけどさ。はぁ、イカスミパスタ食べたい。
【レオナール・シャルトル】
神学生であった僕が十字軍に選ばれた。子供の頃から聖書とともに過ごした僕にとって、ダンジョンの出現を危機に感じたのは確かだ。まるで「ヨハネの黙示録」のようだ。世界の終焉を食い止めるため、カソリックの聖職者も立ち上がるべきという猊下のお言葉は正しいと思う。
けれども僕は、喧嘩すらしたことがない。そんな僕が剣を振って戦えるのだろうか。ダンジョン内に連れてこられたとき、僕の中は不安でいっぱいだった。まずは日本語を勉強しろと言われたとき、正直に言うとホッとした。
カズヒコ・エゾエという人物は、当初こそ知的な雰囲気を持っていたが、クロエの首を絞めるなど暴力を厭わない人間だ。暴力一辺倒より、そっちのほうが怖く思う。彼に逆らえば、僕らは本当に死んでしまうかもしれない。だからまずは、日本語をマスターしよう。騎士団員である父と、教会の名誉を守るためにも……
【石原由紀恵】
江副から提案を受けた時、私を除く局員たちは「そこまでする必要があるのか」という表情だった。なにしろ「最初に日本語を叩き込み、同時にダンジョン内の食事にも慣れさせる」という提案だったからだ。確かに、ビールやワイン、ピザやソーセージがある恵まれた地上とは違い、ダンジョン内では食事が制限される。念のために手配をしておいたけれど、彼らを見た瞬間、それが正しかったと確信したわ。
「それで、これからどうするの?」
「日本語ができるようになったら、次はブートキャンプだ。少なくともEランクまで引き上げる。魔物と戦うのは、その後だな。問題は一人前の冒険者という定義だが……」
「彼ら6人で、最弱のダンジョンを攻略できる程度にしてほしい。これが依頼よ。つまり全員で札幌ダンジョンが攻略できる程度ね」
「Cランクだな。だが戦闘技術やチームワークは時間が掛かる。短期間では無理だ」
「あと3ヶ月、6月24日の『完全起動』までに仕上げてほしいわ。貴方なら可能でしょ?」
「やれるだけやってみるさ。取り敢えずこれから4日間、ダンジョン・バスターズは沖縄に社員旅行だ。日本語を叩き込むのは自衛隊に任せる」
沖縄と聞いて、私のコメカミが少しヒクついた。まったくこの男は、私への当てつけのつもりなのか。
「彼らが、日本語をマスターしているとは思わなかったの?」
「可能性は限りなくゼロだと思っていたよ。あの年齢なら、十字軍に選ばれたと有頂天になっていて当然だからな」
そう言って江副は沖縄へと飛んでしまった。沖縄は3月には海開きが始まる。シュノーケリングなどもできるだろう。その一方、私は今日も残業だ。自分も冒険者になろうかという思いが少しだけ湧き上がり、私は笑って首を振った。
後書きの書き方を変えようかと思います。各話ごとの解説や、感想でいただいた質問への回答なんかを入れようと思います。
Q ダンジョン内の時間が144倍になるのなら、江副たちの老化も速くなるのでは?
A 強化因子の「若返り効果」によって、老化が抑制されている状態です。また種族限界突破により肉体そのものが変異しており、いわゆる「ハイ・ヒューマン」になっているとお考えください。
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