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第043話:横浜ダンジョン討伐

【バチカン教国】

 現代において、その旗を知る者はあまり多くはない。アドリアーナ広場からコッリドーリ通りを歩き、バチカン教国の入り口「サン・ピエトロ広場」まで行進する3つの集団があった。黒白の上下縦長の旗に真紅の十字を描いた「テンプル騎士団旗」、白黒の上下横長の旗に、上は黒、下は白で十字を描いた「ライヒ騎士団旗」、横長の鮮やかな赤生地に白く十字を描いた「聖ヨハネ騎士団旗」である。人々は唖然とし、そして熱狂した。かつて聖地奪還を目指して東征を行なった「ヨーロッパ三大騎士団」が、今ここに蘇ったのである。


「かつて、クレルモン公会議においてウルバヌス2世は演説を行い、聖地奪還を呼びかけました。それからおよそ1千年、私は教皇として、再び人々に対して問い掛けたいのです。『神はおわすのか』という問い掛けを」


 三大騎士団が教皇庁に入ってから2時間後、バチカン教国ローマ教皇庁では、教皇フランチェスコの演説が全世界同時放送されていた。世界中の記者たち、そして10億人のカソリック教徒たちが、その演説を静かに聞いている。


「この1千年、科学は大きく進歩しました。そして、その進歩と共に人の心から、あるものが消えていきました。それは『畏怖の心』です。かつては天の轟きに、人々は畏怖し自らの行いを見つめました。季節外れの嵐に、洪水に、飢饉に、疫病に、人々は畏怖し主に許しを乞いました。この1千年間の科学の進歩は、私たちが畏怖していたものを解き明かし、理屈を解明しました。ですが、どれほど科学が進歩しようとも、人の心は変わることはありません。私たちは大いなる自然の前では、か弱き葦に過ぎないのです」


 そこかしこから、啜り泣く声が聞こえてくる。老婆は石畳に跪き、天に祈りを唱え始めた。


「いま、ダンジョンという科学では解き明かせない事象が起きています。私は、これを神の御業だとは思いません。いつの日か、科学はダンジョンを解き明かすでしょう。ですが、いま目の前に出現しているダンジョンに、魔物に、貴方は何を感じているでしょうか。千年前に、人々が感じていたものと同じもの『畏怖』を抱いているのではありませんか? 宇宙はなんと広大にして、なんと深淵なのでしょうか。世界の壮大さを前にした時に、私たちが抱く原初の感情「怖れ、そして畏まる心」にこそ、主はおわすのです。科学では証明できません。証明する必要もありません。私たちは、既に知っているからです」


「科学者、哲学者、経営者、政治家……すべての人に、私は伝えたい。怖れ、畏まる心を恥じてはいけません。ダンジョンという未知に恐怖し、何かに縋ろうとする気持ちは、誰もが持つ原初の感情なのです。祈ることで心が癒やされるのであれば、カソリックでも、仏教でも、ムスラームでも良い。祈りなさい。それは決して、無意味なことではありません。祈りの中で、貴方は自分の心に『主』を見出すはずです」


 いつの間にか、サン・ピエトロ大広場には無数の人々が膝を折っていた。目を瞑り、両手を組み、静かに祈っている。


「主は、貴方の心を癒やすでしょう。ですが、畏怖の対象であるダンジョンを消してはくださいません。これは私たち人類が直面した試練なのです。この1千年間、大自然に挑みそれを解き明かしてきたように、ダンジョンという畏怖に立ち向かい、克服しなければなりません。私は、今こそ再び、旗を掲げる時だと確信しています。カソリック教会は、心に主を懐き、試練に、ダンジョンに立ち向かいます。私は、ローマ教皇として勅命を下しました。今ここに、ダンジョンへの宣戦を布告します。かつて教会を支えてくれた騎士修道会を集結させ、ダンジョン討伐のための『十字軍(クルセイダーズ)』を興します。道は険しく、苦難が続くでしょう。ですが必ずや、私たち人類はこの試練を克服します。そしていつの日か、心の中に安らぎという名の『聖地』を取り戻すでしょう」


 教皇の演説が終わると、サン・ピエトロ大広場は静まり返っていた。誰かが小さく声を発した。やがてそれは大きくなり、そして大地を揺るがすほどの歓声へと変わった。人々は一斉に叫んだ。


「Dieu le veult!(神の望みのままに!)」と……





【横浜ダンジョン 江副 和彦】

 横浜ダンジョンの第五層で俺たちが出くわした魔物は、仙台ダンジョン第三層の魔物「ヘルハウンド」であった。黒炎の塊を口から放ち、黒い毛並みを(ほむら)のように逆立てて襲ってくる。


「シィッ」


 天音が鞭を振る。だがヘルハウンドは音速の鞭を躱し、壁を蹴って正義の盾を飛び越えた。だがそれは4人の想定内だった。飛び掛かってくるヘルハウンドの左右上に、凛子と寿人が武器を構えていた。


「ハァッ!」


「セイッ!」


 棒と剣を食らったヘルハウンドは、空中で煙となる。鞭によって相手を誘導し、逃げ場のない空中で挟み撃ちにして倒す。4人連携の攻撃であった。ハイタッチする4人に問い掛ける。


「どうだ。初めてCランク魔物と戦った感想は?」


 4人は互いに顔を見合わせ、最年長の天音が答えた。


「確かに、魔法の威力も速度も、Dランクとは比べ物にならないわね。Eランクの時は、Dランク相手でも戦うことができたけれど、DランクのままCランクと戦うのは無謀だわ。今回だって、4人の連携ではなく1対1での戦いだったら、勝てなかったでしょうね。今後は私たちもチームを持つんでしょ?」


「そうだな。それぞれが6名チームのリーダーとなり、ダンジョンを討伐してもらう。現在、メンバー候補となる『次のバスターたち』を募集している。具体的な顔合わせやチーム結成は、拠点ができる3月末以降になるだろう。それまでに、ルールや評価基準なども定めるつもりだ。横浜ダンジョンの討伐後、皆の意見も聞かせてほしい」


 3月になれば、移転のために色々と忙しくなるだろう。横浜ダンジョンはあと1週間で、決着をつけておきたい。その後はバスターズ全社員の社員旅行を予定している。今後の方針は、その場で発表するつもりだ。


「次、来たッス!」


 レブルドルが出現した。Cランク魔物との戦いは、メンバーの良い経験になる。今日はこの第五層で戦い続けるとしよう。





【防衛省 石原 由紀恵】

ダンジョン・バスターズとは、次のダンジョン出現予想日である3月6日までに、横浜ダンジョンを討伐してもらう契約であった。だが彼らの仕事は極めて迅速だ。2月中には討伐が完了してしまうだろう。さらには、メンバー4名がCランクになっている。ガメリカの知人から内緒で聞いたところ、連中はまだDランクでモタモタしているようだ。「種族限界突破者」という称号を得られるCランクが、一つの区切りなのだろう。


〈第五層は犬型の魔物レブルドル、第六層は熊型のデビル・グリズリー、第七層は獅子型の……これはなんて読むんだ? テウフェ……〉


「トイフェル・レーヴェ、ドイツ語で『悪魔の獅子』って意味ね。なんでドイツ語なのかは知らないけれど…… それで、第八層は?」


 画面にはスキャニングした魔物カードと男の顔が映し出されている。男は別の画像を表示した。札幌ダンジョンと同様、一本道の画像である。


〈横浜ダンジョンは第八層で終わりだ。最下層の形状は同じようだな。それで、例の天井のレリーフなんだが……〉


 画像が切り替わる。私は思わず身を乗り出した。見るからに邪悪そうな、悪魔のような魔物が、苦悶の表情を浮かべながら渦巻く線に飲み込まれそうになっている。着色されていないため、詳細までは判らないが、邪悪な何かが滅びる直前の絵だろうか?


「……意味不明ね。これは何を表していると思う?」


 だが画面の男も肩を竦めた。666のダンジョンすべてに、別々のレリーフがあるとするならば、討伐を続ければいずれ一つのストーリーが見えてくるのではないか。今のところはそれくらいしか言えないだろうと返ってくる。私も同意見だ。ダンジョンはまだ無数にある。すべてを討伐するのに、あとどれくらい掛かるのだろうか。ダンジョン・バスターズの新規加入メンバーたちがCランクになってから、既に4日が経過している。期限までは十分あるが、私の中にはチリチリとした焦りもあった。


「札幌は調査から討伐まで1日で終わったのに、横浜は時間を掛けているわね。一層ごとに丸一日を費やしている。なにか理由があるの?」


〈札幌の場合は、最初から討伐できると判っていたからな。だが横浜は違う。メンバー4人がCランクになったばかりだ。ダンジョン討伐に慣れるためにも、時間を掛けている。心配するな。横浜ダンジョン討伐後は、4人はそれぞれにパーティーを結成し、独立チームとしてダンジョン討伐に乗り出す。討伐者(バスターズ)はどんどん増えていく。ちゃんと間に合わせるさ〉


 男はどうやら、私の懸念を察したようだ。666のダンジョンすべてを一つのチームで潰そうとしたら、5日に一つずつ潰さないと10年を超えてしまう。飛行機での移動時間なども考えれば、ほぼ不可能だ。だからダンジョン・バスターズは「複数チームを束ねるクラン」を目指している。やがて20を超えるチームが、世界中に散ってダンジョンを討伐し始めるだろう。


〈今はまだ基礎づくりだ。極端な話、討伐数は月1カ所でも構わないと思っている。それよりも連携を身に着けた、地に足のついた冒険者たちを育成する。育成し続ける体制をつくるほうが重要だ〉


「貴方が作った組織よ。貴方に任せるわ。最下層に挑むのは明日ね? 気をつけてね」


 画面を切った私は、現在防衛省内で進めている「新制度」について打ち合わせるため、会議室へと向かった。





【横浜ダンジョン 江副 和彦】

 横浜ダンジョンは、その気になれば1日でも攻略できただろう。だがDランクからCランクに上がったばかりで急いだ戦いは避けたかった。俺はCランクからBランクになるのにかなりの時間を掛けたし、彰も1ヶ月の間がある。「種族限界突破者」であっても、普通に人間として暮らしていかなければならないのだ。ダンジョン内の戦闘や日常の暮らしに慣れるため、数日を掛けた。


「さて、ここが横浜ダンジョンの最下層だ。札幌でもそうだったが、このように一本道があり、最奥にダンジョン・コアを守るガーディアンがいる。ガーディアンのランクは、ダンジョン・ランクと同等かひとつ上のランクだ。また、一体だけとは限らない。複数の可能性もある」


 ガーディアンがいる部屋の手前で、4人に説明する。念のため、朱音、エミリ、劉峰光も顕現している。Dランクの札幌ダンジョンのガーディアンはCランクだった。横浜ダンジョンではBランクが出る可能性も十分にある。念入りに確認したうえで、凛子が扉に手を掛けた。左右にゆっくりと開いていく。


「……ガーディアンは一体だけのようね。アレは、ハイエナ?」


 部屋の奥にいたのは、身体を丸めて床に寝ているハイエナのような魔物であった。それがのっそりと起き上がる。かなり大きい。全長は優に2メートルを超えている。白目のない、サクランボのように赤い瞳を向け、牙を剥いた。朱音が魔物の正体を教えてくれた。


「ヘル・ハイーナ、Cランクの魔物ですが、Dランクの眷属を召喚して集団で襲い掛かってきます。あの赤目のボスを倒さない限り、次々と仲間を呼び出します」


「そうか。凛子、正義、天音、寿人、お前たち4人でまずやってみろ。ヤバそうだったら、俺たちが加わる」


 ダンジョンを討伐したという経験が自信に繋がる。できればこの4人で討伐してもらいたい。だが目の前のハイエナは思った以上に手強そうだった。床に白い円が複数浮かび上がると、一回り小さいハイエナが10匹以上出現した。


「ハイエナは群れで狩りをするという。4対12か。少し厳しいか?」


「まずは私たち4人にやらせて頂戴。危なかったら助けてね?」


「来るッス!」


 天音が笑みを浮かべた途端、正義が盾を構えた。ハイエナたちは4匹ずつ左右に分かれ、残り2体が真正面に向かってくる。


「俺は魔法で左を防ぐ! 凛子と天音は右にあたって!」


 寿人は、エミリから教えられたファイア・アローを放ち、ハイエナを足止めする。正義は突撃してきた2匹を右方向へと弾き返した。そこに天音の鞭が飛ぶ。複数といっても、Dランク魔物だ。Cランク4人が連携して戦えば対処はできる。だが凛子と天音が倒した瞬間、新たなハイエナが出現してくる。どうやらあの魔物が召喚できるのは11体までのようだ。


「凛子、貴女は私たちの中で一番速いわ。3人で雑魚をひきつけるから、その間にボスをヤって頂戴!」


「了解!」


 正義もシールドバッシュと打撃で戦い始める。魔物を惹き寄せる匂い袋を持っているため、召喚されたハイエナたちは正義に向かっていった。その横を凛子がすり抜け、一気にボスに迫る。


「グァオォォンッ!」


 凛子が突きを放とうとした瞬間、ボスは咆哮し右前足で宙を掻いた。瞬間、凛子は突きを止めて防御の構えを取る。バシンッという音がして、凛子の手足に無数の切り傷が生まれた。


「カマイタチ?」


「いえ、爪に魔力を込めて放った風魔法よ。初見で防いだのは凄いけれど、厄介ね」


「……俺が出るか」


 斬鉄剣に手を掛けようとしたとき、彰が俺の肩を叩いて首を振った。彼らはまだ戦える。ギリギリまで見守れ。彰の目はそう言っていた。初撃を防いだ凛子は、その後は風魔法を躱している。回避のスキルを使っているのだろう。そして11匹を相手にした3人も、傷を負いながらも徐々に倒し始めている。


「なるほどね。見切ったわ。その魔法を使っている間は眷属召喚ができない。そして……」


 凛子が真っ直ぐに突っ込む。ボスが再び前足で斬撃を放つ。凛子はスライディングをするように床を滑りながら、見えない刃を躱した。そしてボスの口内に棒を突き入れた。


「……その斬撃は真っ直ぐにしか飛ばない」


 棒は血まみれでボスの頭を突き抜けていた。





【日下部 凛子】

 4人全員が傷を負っているけれど、それほど深い傷ではない。ポーションで十分だろう。和さんと彰さんが拍手している。劉師父は顎髭を撫でながら嬉しそうに頷いていた。


「4人とも見事じゃ。今回、儂らはなにもしておらん。お主ら4人の手柄じゃ」


そう。私たちは4人で、Cランクダンジョンを討伐したのだ。劉師父、そして和さんたちがいなければ、ここまで来ることはできなかっただろう。だが、この戦いは、私たち4人が掴んだ勝利だ。急に嬉しさが込み上げてきた。他の3人も同じらしく、拳を掲げて叫んだ。

そして、私たちの目の前に正八面体の漆黒の水晶のようなものが出現した。ダンジョン・コアだ。寿人がビデオカメラを用意している。どうやら討伐の証拠を撮影するようだ。


「さて、ではダンジョンの討伐を終わらせるぞ。事前に打ち合わせていた通り、ダンジョン所有者を彰に設定する。無論、ダンジョンから入る収益はバスターズに納められる。彰に設定するのは『討伐者(バスター)』の称号を得るためだ。今後、みんなにも順次、称号を得てもらう」


 討伐したダンジョンから得られる魔石は、その収益の10%を討伐者に渡すことで仮決定されている。正式には国会での議決待ちだが、圧倒的多数派の与党と一部野党が賛成しているため、来月には決まるそうだ。もっとも、それはすべてクラン「ダンジョン・バスターズ」の口座に振り込まれ、運営資金に充てられる。彰さんが得られるのは「討伐者」という称号だけだ。

 彰さんがコアに触れる。すると事前に教えられていた通り、ダンジョンの情報が出現した。


=============

ダンジョンNo.069

ランク:C

所有者:なし

階層数:008

供給DE:1059

出現物:魔晶石

大氾濫:On


〈管理権限を取得しますか? Y/N〉

〈当ダンジョンを消去しますか? Y/N〉

=============


「彰、管理権限を取得してくれ」


 彰さんがYを押すと、所有者が彰さんになりました。そして奇妙な声が聞こえてきました。


《ダンジョン討伐を確認しました。宍戸彰には『討伐者』の称号が与えられます。またCランクダンジョンを最初に討伐した特典として、Legend Rareカード『戦鎚の巨人 ンギーエ』が贈られます》


==================

【名 前】 ンギーエ

【称 号】 戦鎚の巨人

【ランク】 F

【レア度】 Legend Rare

【スキル】 盾術Lv1

      鎚術Lv1

      守護結界Lv1

==================


 彰さんが、出現したカードを読もうとした瞬間、カードが輝き形を変えた。そして、まるで壁のような巨体が目の前に出現した。私は思わず退いた。巨人というのは、存在だけで威圧を感じる。


「んん? ここ、どこ? オデ、呼ばれた?」


 2メートル半近くあるだろう巨人は、キョロキョロと周りを見ている。エラの張った四角い顔を傾げ、頭を掻いている。和さんが巨人の前に立った。


「ンギーエ、ようこそ人間の世界に。お前を召喚したのは、ここにいる討伐者、宍戸彰だ。俺たちはダンジョン・バスターズ。すべてのダンジョンを討伐することを目標としている。できればお前も手を……貸し……」


「zzzz……」


 なんと、ンギーエという巨人は和さんの話を聞かずに寝ていた。和さんが無表情になる。彰さんは苦笑して、脇腹を指でついた。巨人がビクンッと反応する。


「あ、あれ?」


「ンギーエ、ダンジョン討伐に手を貸せ」


 和さんが短く言う。ンギーエは和さんを見下ろしながら、コクコクと首を縦に振った。


「オ、オデ……頭悪いけど、いいの?」


「ん? 別に問題ないが?」


「み、みんなからデカイだけだって……大飯食らいのでくの坊って呼ばれてるけど……」


 特に悲しそうな表情も見せずに、ンギーエは呟いた。すると和さんは笑った。


「デカイだけ?結構じゃないか。その体躯は立派な才能だ。でくの坊は、お前の才能を活かせない周りの方さ。お前が壁として守ってくれるだけで、皆は安心感を持つ。それが壁役の存在意義だ」


「オデ、バカだからよくわからない。で、でも役に立つなら働く」


「あぁ、頼む。飯もたらふく食わせてやる。取り敢えず今は、カードに戻れ」


 ンギーエはカードに戻った。壁役のキャラクターなのだろうが、本当に大丈夫だろうか。和さんはカードをケースに入れて、私たちを見回した。


「このように、キャラクターカードはふとしたことで出現する。皆もこれから、手に入れることもあるだろう。今のンギーエだが、俺が言ったことは本当だ。どんな奴にも強みの一つや二つくらい、あるものだ。その強みを引き出し、伸ばしてやるのがリーダーの役目だ。今後、みんなもバスターズのチームリーダーになってもらうが、メンバーの力を引き出すことに注力してくれ」


 和さんは以前も言っていた。人格や価値観を矯正するのは、時間も掛かるし難しい。変わるか変わらないかは、本人次第だからだ。だが、本人が持っている強みを引き出し、自信をつけさせることはできる。だからダンジョン・バスターズは、強みを伸ばす育成をするのだと。


「兄貴、スタンピードをオフにしたよ。表示されている数字は、札幌と同じだね」


 和さんは眉間を険しくしたまま頷いた。私も憂鬱な気持ちになる。大氾濫(スタンピード)の発生は、もう確定的と言って良いだろう。これから出現するダンジョンも含めて、あと664箇所を討伐しなければならない。気が遠くなりそうだ。


「さぁ、地上に戻ろうよ! 今夜はお祭りだ!」


 そんな空気を吹き飛ばすように、彰さんが手を叩いて笑った。ガーディアンの部屋から第一層に転移し、階段を上っていく。ダンジョンを覆い隠しているテントから出ると、太陽の眩しさで思わず目を細めた。


 評価や感想を下さった方、ブックマーク登録をして下さった方、全ての読者様に御礼申し上げます。ブックマークやご評価をいただけると、創作活動の励みになります。これからも頑張って書いていきます。

 頂いた感想はすべて拝読しております。本当にありがとうございます。

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ダンジョンに宣戦布告や!
[良い点] 教皇の演説を創作出来るって凄いな。
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