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第038話:2月上旬、国連での採決

【宍戸彰】

 僕たちはいま、横浜ダンジョンで「パワーレベリング」を行なっている。まぁ、やっていることは兄貴の二番煎じなんだけど、僕はあそこまでイカレ……真面目じゃない。だから地上時間で丸一日潜るようなことはせず、半日で終わらせている。それでもダンジョン時間では2週間なんだけどね。


「クッ……魔法ってのは厄介ね! ヨッシー、次が来るわっ!」


「ウッスッ!」


 横浜ダンジョン第3層の魔物は、一見するとフェネックのように可愛らしい魔物だけど、攻撃がエゲツない。硬い石コロを弾丸のような速度で撃ち出してくる。僕はそれを「見て」躱しているけど、さすがにそれを求めるのは無理かな。


「フォッフォッ! 考えるのではなく感じるのじゃ。弾が空気を切り裂く音が聞こえるじゃろ? ホレ、彼奴がまた、魔法を発動するぞい?」


 凛子ちゃんが石弾を躱して如意棒で刺突する。けれど、可愛らしいフェネックは別の魔法を発動させた。己の身を護るように、周囲に小さな砂嵐を起こして姿を消す。


==================

【名 前】 デビルウルペース

【称 号】 なし

【ランク】 D

【レア度】 Un Common

【スキル】 ストーンバレットLv3

      サンドウォールLv1

      ------

==================


「横浜ダンジョンはモフモフランドだね。このカード見せたら、きっとマリリンはまた、ペットにしちゃうだろうなぁ」


「彰さん! そんなこと言ってる場合じゃ……」


 寿人が叫んでる。あ、弾が飛んできた。寿人の顔面に命中する前に、僕は手を伸ばして石弾を掴んだ。


「ダメだよ。落ち着いてタイミングを見極めないと。魔物だって、別にマシンガンのように撃ってるわけじゃない。時間的な間隔がある。撃たれる前にヨッシーの背中に隠れて、終わった瞬間に飛び出して仕留めるんだ。ハイ、やり直し」


 この数日で、凛子ちゃんとヨッシーはDランクに、天音ちゃんと寿人はEランクに上がった。成長速度は悪くないね。兄貴がいたら、もっと早く上がっただろうけど、その前に潰れちゃうかもしれないしね。あのペースに付いていけるのは僕くらいじゃないかな?

 ストーンバレットが終わった瞬間、凛子が再び飛び出した。壁を駆けてフェネックの目の前に飛び出る。背中に杖を隠しているね。そのまま空中で身を翻し、背中に回していた手をそのままフェネックの方に突き出す!


「日下部流杖技『闇雨』!」


 死角を突かれたフェネックは、魔法で身を守る前に額に突きを喰らって煙になった。へぇ、あの突きは面白いね。僕でも初見なら躱せないかも。でも、見たからもう喰らわないけどね。


==================

【名 前】 日下部 凛子

【称 号】 なし

【ランク】 D

【保有数】 5/26

【スキル】 カードガチャ

      杖術Lv4

      回避Lv3

==================


「フォッフォッ! よし、では次は天音の番じゃ。(べん)術とは変わったスキルを発現させたの。どこぞで鞭を振ったことがあるのか?」


「無いわよっ! 本当に……このスキルって、私に悪意でも持ってるわけ?」


 元警察官の霧原天音ちゃんは、Eランクになった時に「鞭術」っていうスキルを得たよ。本来、スキルは熟練する中で発現するものらしいから、天音ちゃんは普段から鞭を打ってたわけね?


==================

【名 前】 霧原 天音

【称 号】 なし

【ランク】 E

【保有数】 0/29

【スキル】 カードガチャ

      鞭術Lv2

      -------

==================


 パァンッ! という音が響いた。フェネックの胴体に痛烈な一撃が入る。なんだろう。鞭の音ってなんか凄く痛々しく感じるんだよね。フェネックはクーンって鳴きながら消えたよ。寿人が自分の腕を擦っている。うん、気持ちは解るよ。


==================

【名 称】 愛の調教鞭

【レア度】 Rare

【説 明】

女性専用の武器。攻撃力は並だが、カード

出現率を20%高める効果がある。また人間

(男性のみ)に使用した場合は……

==================


(続きが気になる。凄く気になる。でも僕は打たれたくないね。というか兄貴がいたら、きっと封印したと思うよ。それにしても天音ちゃん、鞭使い上手いね)


「なに? 打たれたいの?」


 天音ちゃんが怖い目で睨んでくる。うーん、似合う。でも感心している場合じゃない。すぐに次が来るからね。


「来たッス!」


 ヨッシーが再び盾を構えた。うん、あと数日あれば全員がDランクになるかな。でもそこからがキツイから兄貴に一度、代わってもらおうかな。そうすれば一週間でCランクに上がれるよ。10回くらい死にかけるだろうけど、それも経験でしょ。





【江副和彦】

 仙台ダンジョン第二層は、剣を持った二足歩行の犬「コボルト」が出現した。Eランクだと思っていたら、なんとDランクだった。持っているスキルは剣術だけだが、かなりの速度で移動してくる。大阪ダンジョン第一層では、コイツが出現した。難敵ではないが、油断はできない。


「俺にとっては敵ではないが、一般人が初見でコイツに出くわしたら、確かに危険だな」


 魔石の重さは6グラムである。良い機会なので、4時間ほど狩り続ける。BランクとCランクはもっとも出現頻度が高い。それだけにAに近いBもあれば、Cに近いBもあるらしい。


「第三層まで行けば、ランクも見えると思われます。もしCランクが出るようであれば、このダンジョンはAに近いBですわね」


「いや、そう言われると本当にCランクが出そうな気がする」


 そして第三層に入る。少し進んだ分かれ道で、左側から黒い炎が襲ってきた。俺たちは同時に、バックステップで炎を躱し、左に顔を向ける。全身が真っ黒な犬のような魔物が、黒炎のような毛並みを逆立てている。


「ヘルハウンド! Cランク魔物ですわ!」


「やっぱり! 朱音、撤退だ。手を握れ! 無理する必要はない」


 漆黒の獣が猛スピードで駆けてくる。跳躍し、鋭い爪を突き立ててきた。だがその爪が届く前に、俺たちは第一層へと転移した。石床に片膝を突いて、俺は大きく息を吐いた。


「ギリギリだったな。仙台ダンジョンはBランク上位、B+ってところか」


「申し訳ありません、和彦様。私が余計なことを申し上げたために……」


 いや、それは関係ないだろう。俺はフラグなんて信じない。フラグとは、情報収集と分析、そして推測を怠った者がそれから目を背けるために生み出した言い訳に過ぎないからだ。


「お前のせいじゃない。元々、B+だったんだ。それに良い経験をした。やはりCランクとDランクでは隔絶した違いがあるな。ダンジョン・バスターズのメンバーは、全員がBランクになる必要がある。それがハッキリした」


 そう言って慰めても、朱音は落ち込んでいる。だから尻を撫でてやった。少し驚き、嬉しそうな表情になる。第一層には誰も入ってこない。このまま続きをしてやるか。





〈そう。仙台ダンジョンはブートキャンプには使えないのね?〉


「まったく無理というわけではないが、危険が大きい。むしろ冒険者たちが自分を鍛えるために使うべきだと思う。第二層までなら、Dランク冒険者でも戦えるはずだ」


 駐車場に仙台ダンジョンが出現したビルは、そのまま自衛隊の施設として使われている。その一室で、俺は石原局長に報告していた。今はまだ防衛省の一部局だからこうして気軽に話せるが、ダンジョン省となって彼女が事務次官になれば、話す機会も減るだろう。

 石原は画面の中で、考える表情を浮かべていた。仙台ダンジョンをどうするかで迷っているのだろう。


「……次にダンジョンが出現するのは、3月6日ね。いま出現しているダンジョンをそれまでに全て討伐するのは無理そう?」


「厳しいな。横浜なら可能だろうが、仙台ダンジョンはAランクに近い。ここを潰すには、Aランク冒険者が3人は欲しいところだ。俺自身が、あと1ヶ月でそこに辿り着けるかどうか……」


 石原は頷いて、当面の目標を決めた。


「ダンジョン・バスターズに依頼するわ。横浜ダンジョンを潰して頂戴。期限は3月6日まで。それと、大阪ダンジョンは自衛隊の方で第一層を調査するわ。習志野の『特戦』が、訓練を兼ねて調査したいそうよ」


 陸上自衛隊の最精鋭部隊である「特殊作戦群(通称、S)」は、公の場には滅多に出てこないが米国のグリーン・ベレーに匹敵する精強な部隊と言われている。もっとも、訓練内容などはすべて機密事項であるため、あくまでも噂である。事実であれば全員がEランク相当だろう。


「金沢は判らんが、大阪は第一層からEランクの魔物が出る。しかも武器持ちだ。油断すれば『S』でも死人が出るぞ?」


〈ウフフッ…… 特戦の藤林群長が聞いたら涎を垂らすわね。なにしろ『実戦』だもの。民間人の、しかも40歳の中年男が戦っているのに、自衛隊の精鋭部隊である自分たちが『訓練だけ』でいいのか、って上に詰め寄っているみたいだし。大氾濫が現実である以上、自衛隊も黙っていない。今後は順次、陸上自衛隊もダンジョンで訓練を始めるわ〉


「それは心強い。俺たちの分も残しておいてくれよ? 俺はこれから、金沢に向かう。金沢駐屯地の方に連絡をしておいてくれ」


 画面が切れると、伸びをして立ち上がる。仙台ダンジョンの調査任務は終了だ。午後からダンジョンに入ったが、地上時間では10分も経っていない。今日はこれから牛タンを食べに行く予定だが、時間が少しある。せっかくなら、朱音に地上を見せてやりたいが、くノ一の格好をさせたまま連れ歩くわけにもいかない。こういう時に役立つのが「コンシェルジェ・サービス」だ。ダンジョン・バスターズの名義で作ったビジネス・プラチナカードを使う。出張や会食などが多い個人事業主が使っているカードだ。

 電話すると、すぐに繋がった。





 仙台駅前のセレクトショップで朱音を顕現させ、服を選ばせる。そして着替えて出てきた姿を見て、俺は目眩がした。俺の感覚が可怪しいのか、それとも朱音の趣味が変わっているのか、恐らく後者だろう。


「ウフッ……これで、和彦様も殿方たちの視線も釘付けですわ」


 朱音が選んだのはドレスだが、どう見てもキャバ嬢が着るドレスだ。それも相当にセクシーな部類に入るだろう。素材は伸縮性のある黒い生地だが、肩から腕、そして背中が丸見えだ。首から胴体、そして下半身まで黒い生地で隠しているが、生地が密着しているためボディーラインがクッキリと浮かび上がり、99センチの豊かな胸が突き出ている。下半身は大きくスリットが入り、脇腹近くまで丸見えだ。白い太腿から腰骨まで全て見えてしまっている。


「……朱音、下着はどうした?」


「着けてませんわ」


 俺は額に手を当てて上を向いた。個人的には凄くいい。朱音の魅力を完全に引き出している。今は真冬だが、これにコートを着せれば問題ないだろう。だがこの姿で仙台の繁華街である国分町を歩いたら、周囲は俺をどう見るだろうか。あのコンシェルジェ、なんて店を紹介したんだと俺は溜息をついた。


「非常に魅力的だ。それも買おう。だが、その姿で外を歩かせるわけにはいかん。普通の服を用意してくれ」


 朱音に見とれていた女性店員は「常識人」だったらしく、20代の女性が着るごく普通の服を用意してくれた。朱音は少し不満げだったが無視する。そのドレスはホテルで着せれば良いだろう。





 仙台といえば「牛タン」と多くの人は思うだろう。それは決して間違いではないが、俺は仙台で牛タンを食べる時は、牛タン専門店には行かない。なぜなら、それらの多くは米国産や豪州産の牛タンを使用しており、多店舗化しているため東京でも食べることができるからだ。仙台で食べるべきは「仙台牛の牛タン」である。


「こうして、平和な地上を練り歩けるのも和彦様のお陰ですわ」


 仙台駅から宮城野大通を少し歩いたところにある、仙台牛専門の焼肉屋「伊達壱」に入る。既に予約をしているため、俺たちの分の肉は確保してくれているはずだ。店内に入ると、既に何組かの客がいた。男性たちは全員、コートを脱いだ朱音に釘付けだ。歩くたびに、突き出た胸がタユンッと揺れる。

個室に入ると、酒とともに1万円する特上の盛り合わせを5皿と花咲トロ牛タンを1キロ注文する。食い物にはとことん金を掛ける。これがダンジョン・バスターズの社風だ。


「この店は宮城県産の日本酒も揃っている。朱音も今夜は、食事を楽しんでくれ。明日は朝イチで金沢に向かう」


 この店で一番高い純米大吟醸酒(3万円)を猪口に注ぎながら、朱音に今後の話をした。金沢ダンジョンの調査が終わり次第、東京に戻ってBランクを目指す。俺と彰がBランクになり、他の4人がCランクになれば、横浜と船橋のダンジョンは攻略できるだろう。


「茉莉さんのことも気に掛けてあげてください。エミリが一緒ですが、寂しく思っているかもしれません」


「そうだな。国会で16歳からの『見習い冒険者登録制度』が議論されている。参考人質疑に呼ばれているが、衆院選前に通過するかは微妙だ。今度、新しいメンバーたちも一緒に、バスターズ全メンバーの宴会をやるか。瑞江の『銀翁』を貸し切りにして、フグでも食べよう」


 バスターズは冒険者の集団だ。命懸けでダンジョンを討伐した後は、宴席で大騒ぎして生きていることを祝う。いずれ、メンバーの中から怪我人、あるいは死者も出るかもしれない。だからこそ、そうした場は大事にしたい。


(今月中に横浜ダンジョンを討伐する。宴会はその後だな)


 牛タン寿司を口に入れ、冷酒を呷った。





【国際連合 ダンジョン冒険者本部準備委員会】

 昨年の8月に名古屋で開催されたG7会議では、国際協調によるダンジョン対策の必要性が提唱された。それを受けて、9月には国際連合内に「ダンジョン冒険者本部準備委員会」が設置され、安全保障理事会の15カ国に経済社会理事会の54カ国が加わっている、常任理事国の5カ国をはじめとして何カ国かが重なっているため、合計61カ国によって委員会が構成されている。また、ダンジョン出現が全世界的規模であることから、加盟国は希望すれば委員会で声を上げることができる。


「それでは、〈国際ダンジョン冒険者機構設置〉につきまして、採決を行います」


 議長であるデンマルクの委員が進行役となる。これは、デンマルクにはダンジョンが出現していないため、公平で中立な立場から進められると判断されたからだ。準備委員会の意見は機構設置については全会一致で賛成だが、そのルールについて圧倒的多数の賛成派と少数の反対派に分かれている。具体的には、ダンジョンの位置情報の共有や冒険者情報の一元管理、討伐申請制度や討伐後のダンジョンの取り扱いについてだ。

討伐申請制度については、大姜王国が強硬に反対している。これを認めれば他国の冒険者を受け入れざるを得ず、国内体制に影響が出かねないからだ。

 ガメリカ合衆国は、位置情報共有や討伐後ダンジョンの所有権の問題で反対している。位置情報を掴んでいるのは偵察衛星を多数持つガメリカであり、情報の持ち出しになること。討伐者が所有権を持ち、魔石買取などの利権を渡すことは、ダンジョン民間所有を求める軍産企業などが反対している。

 ウリィ共和国は、本来であれば反対する理由がないはずだが、何故か反対している。国内では「ダンジョン対策で日本が大きくリードしている中、この国際協定が結ばれれば共和国の国益を損ねる」という謎の意見が跋扈しており、日本政府も首を傾げていた。


「それでは、本件につきまして賛成の方は、挙手をお願いします」


 大多数が手を挙げる。当然であった。日本政府が隠しているため、スタンピードの時期こそ不明であるが、いずれそれが発生するであろうことは明確であり、対策を打とうにも従来の安全保障概念が通じないのがダンジョンである。その中で唯一、実績を挙げている日本が、積極的な情報共有と冒険者制度の支援を行うと言っているのだ。反対する理由がない。


「バカなっ! ガメリカはこの採決を拒否する。本枠組みからは抜けさせていただく!」


「我が王国も同様ですな。他国の……まして戦犯国の冒険者が我が国に入ってくるなど、断固として拒否する。ダンジョン問題など我が国だけで解決できる」


「ウリィ共和国も拒否します。大姜半島のダンジョンは、姜民族が討伐します。姜民族の偉大さをもってすれば、難しいことではありません」


 3カ国の代表は議場から去ってしまったが、これは予想されていたため各国代表の顔に焦りの色はない。採決後、日本や大東亜共産国代表のもとに各国代表が交渉に来ていた。いずれも「ダンジョンが発生していない国」である。ダンジョンは今でこそ危険な存在だが、討伐後はその国に、大きな利益を齎す可能性がある。魔石という新素材を得られない国は、最も魔石を確保するであろう国とパイプを持とうとするのは当然であった。


「我が国は既に、循環型水素発電を実用化しています。大規模発電所は今年後半に完成しますが、都市規模に電力を供給する小型発電機は量産体制に入っています。ベラウ共和国が無償供与を条件に、試験国として協力してくださいます。これが上手くいけば、人口数百万人の貴国でも導入が可能になるでしょう」


 北欧のフィンラントは、国土の割には人口が500万人強という小国である。原発によって電力を得ているが、核廃棄物最終処分の問題はどうしても発生する。小型水素発電は、ベラウやフィンラントをはじめとする小国にとっての希望であった。


 各国代表との立ち話後、日本代表に歩み寄ったのは、大東亜人民共産国の代表であった。これは日本にとっても望むところであった。世界一ダンジョン対策が進んでいる日本と、世界一ダンジョンが出現している国との協力関係は、感情的な部分を除けば必然であった。


「貴国が賛同してくださったお陰で、無事採決することができました。感謝します」


「ダンジョンは、我が国にとっても最大の課題です。日本とは色々とありますが、ことダンジョン対策では協力しあえるのではないかと思います。正式には外交ルートから話が行くと思いますが、周主席は近いうちの訪日を希望しています。ダンジョンという共通する問題で手を取り合うことで、両国間の関係が進展することを願っています」


 両国の代表は、互いに頷き握手をした。





【アイザック・ローライト】

 国防総省の執務室でその知らせを聞いたとき、僕は深くため息をついた。ラスベガスに出現したダンジョンに入ったDランクコマンドー部隊が、最下層まで行けたのにラスボスに負けて全滅した。僕は猛反対したんだけど、日本が討伐に成功したことに焦ったバカ共が、勝手に命令したらしい。


「それで、犠牲者の数は?」


「6名です。残念ながら、ダンジョン・コアを護る『ガーディアン』の情報は、一切が不明です」


「サッポロと同じって可能性も無くはないけど、まぁ低いだろうね。もう一度、徹底させて。Dランクなんてダンジョン冒険者としては駆け出し以下。それで討伐しようなんて死にに行くようなものだ。DランクとCランクでは、リトルリーグとメジャーリーグぐらいに違うってね」


 ガメリカでは民間人冒険者制度ではなく、軍から候補者を選抜して冒険者にする方向に進んでいる。その理由は「ダンジョン所有権」の問題だ。この国は、日本とは違って多民族国家であり訴訟大国だ。民間人が所有した場合、そのダンジョンで怪我人が出たら所有者が訴えられる可能性もある。なにより、スタンピードをオフにすることを条件に、政府と交渉しようなんて輩まで出かねない。


「ダンジョン・バスターズがいる日本が羨ましいよ。討伐はバスターズがやり、他の冒険者は採掘者(マイナーズ)として魔石でお金稼ぎしてれば良いんだもん。万一、怪我したところで『本人の責任だろ』で終わりだ。あの国には、ハンバーガー食い過ぎて太ったのは旨すぎるハンバーガーを作る店のせいだ、なんて訴える非常識人は殆どいない。単一民族国家であり社会的にもモラルが高いからね」


 僕が大統領だったら、ダンジョン・バスターズにガメリカ支社を置いてもらって、国内全てのダンジョンを討伐してもらうだろう。管理権限こそバスターズに握られてしまうが、交渉次第では「魔石利権なんていらない」とすら言うに違いない。彼らの目的はスタンピードをオフにすることであり、魔石で金儲けをすることではないからだ。先に100億ドル渡して「後はヨロシク」ってやったほうが遥かに効率的だろう。


「それにしても気になりますね。Dランク者はそれなりに出ていますが、そこからCランクに上がる者が出てきません。なにか理由があるのでしょうか?」


「……これが『命令を受ける者』と『自らの意思で動く者』の違いかもね。恐らく、Cランクになるには常識を超えた負荷が必要なんだよ。それこそぶっ続けでダンジョンに潜って、何十万っていう魔物と戦い続けない限り、Cランクにはならないのかもね」


「さすがに、そんな非常識で狂った命令をするのは……」


「ダンジョン自体が、非常識で狂った存在なんだ。それを討伐しようとするなら、労働時間だの危険任務だの、人間の常識で考えてはダメなんだよ。討伐者もまた、狂っていないとね」


 頭では解っている。でも実行するのは難しい。正直、ここで参謀長やっていても研究にならない気がしてきた。日本に行って、サッポロのダンジョン・コア、研究したいな。


19.08.27 デンマークの国名を「デンマルク」に修正しました。ご指摘いただいた方々、有難うございました。


 毎週「日曜日」「水曜日」「金曜日」の昼12時過ぎに投稿致します。7500文字(最近は8千文字以上が多いです)を毎日書くのは難しく、週3話投稿でお許し下さいませ。


 評価や感想を下さった方、ブックマーク登録をして下さった方、全ての読者様に御礼申し上げます。ブックマークやご評価をいただけると、創作活動の励みになります。これからも頑張って書いていきます。

 頂いた感想はすべて拝読しております。本当にありがとうございます。


 今後も応援の程、何卒、宜しくお願い申し上げます。

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