第035話:浦部総理との会談
前話より、試験的に「Side」を入れています。読者様からも様々なご意見を頂いておりますが、読みやすいというご意見も多いため、今回も取り入れています。
【江副和彦】
内閣総理大臣顕彰は「国家、社会に貢献し顕著な功績のあったものについてこれを顕彰することを目的とする」とされている。囲碁や将棋で史上初の「七冠達成」などの場合に、その本人に時の総理大臣が顕彰するもので、表彰状に加え、金一封が添えられる場合もある。内閣総理大臣が出す表彰には、その他に「国民栄誉賞」があるが、これは内閣総理大臣顕彰がプロスポーツ選手を対象外としていたため、ホームランの世界記録を樹立した選手を表彰するために新設されたものだ。内閣総理大臣顕彰は、名誉という意味では、国民栄誉賞の下位に置かれている。
「表彰状、ダンジョン・バスターズ殿。貴組織は不屈の精神によって世界で初めてダンジョンを討伐し、超常的な現象であるダンジョンに、人類が打ち勝てることを証明しました。全世界の人々が不安を覚えるダンジョン群発現象の最中に於いて、これは人類に希望を示す快挙であり、その功績は誠に顕著であります。よってここに顕彰します。令和2年1月19日、内閣総理大臣浦部誠一郎」
光と共に、シャッターの音が響く。内閣総理大臣顕彰は毎年2名くらいは出るので、テレビ局や新聞記者たちにとっては珍しくもないはずだが、やはり「ダンジョン」に関わることであるため、その数は普段の倍はあるらしい。日本のみならず、ウリィ共和国やガメリカからもメディアは来ていた。
「総理、少しお時間を頂けないでしょうか。少し、ご相談したいことがあるのですが……」
ダンジョンについての当たり障りのない話をした後、俺は浦部総理に切り出した。第98代内閣総理大臣の浦部誠一郎は、思った以上に背が高い。おそらく俺とほぼ同じくらいだろう。一見すると60代半ばの温厚な紳士に見える。だがこの男こそ、日本国1億2千万人の生命と財産を背負い、更には全世界の命運まで握っているのだ。総理大臣の協力なしに、残り665箇所のダンジョンを討伐することは不可能だ。
「マスコミの前では難しいお話のようですね。解りました」
浦部総理が秘書官にチラと顔を向ける。それだけで理解したらしく、秘書官は頷き、マスコミたちにこの先は取材不許可であると伝えた。それに不満を表明する記者たちもいたが、予め根回しも掛かっていたようで、大半のメディアは大人しく従った。いよいよ、ここからが本番である。俺は気を引き締めた。
「ここが、世界初のダンジョンですか。一見すると、普通の部屋に見えますが……」
石原局長の根回しのお陰で、別室に入った俺たちはすぐに、Aランクダンジョン「深淵」の安全地帯に転移することができた。ただし、浦部だけでなく2名のSPも同行している。身辺警備の関係からも、やむを得ないことだ。
「SPには守秘義務があります。彼らは口が固く、ここでの話し合いが外に漏れることはありません。それで、私への相談とは?」
浦部は促されてソファーに座った。俺は朱音を顕現させると、茶を淹れるように命じて、総理大臣と向き合って腰を掛けた。彰と睦夫は壁際に立っている。
「総理、既に石原局長からお聞きかと存じますが、ダンジョンは今年の6月24日まで、36日毎に出現します。最終的には、こちらを含め全世界666箇所にダンジョンが出現します。この状態になった時をダンジョン・システムの『完全起動』と呼んでいます。そして、カウントダウンが始まります」
「貴方が札幌ダンジョンの最深部で発見したダンジョン・コアというものに表示されていた数字のことですね? これが減り始めるということですか?」
「そうです。ダンジョン時間での454億4294万4千秒は、地上時間では10年です。このままでは10年後、世界中のダンジョンから一斉に魔物が地上に溢れ出し、地球は死の星になります」
「『大氾濫』という項目があることは、既に世界中に伝わっています。問題の『カウントダウン』についてですが、貴方はこれを公表すべきだと思いますか?」
「できることならば、隠し続けたほうが良いと思います。少なくとも、666箇所のダンジョンの所在が明らかになり、そこに辿り着くまでの移動手段が確立するまでは、公にすべきではないと思います」
浦部は少し考えて、頷いた。朱音が淹れた紅茶を飲むと、その味に驚いたらしくほぅと感嘆を口にした。俺は総理の目の前に、残りのLegend Rareカード2枚を並べた。
「このカードは全部で108枚存在するそうです。存在場所はランダムで、何かを達成した時にダンジョン・システムから得られる場合もあれば、ダンジョン内にポンッと落ちていることもあるそうです。私はこのカードが、魔物大氾濫を止める重要な鍵になると考えています。このカードをできるだけ集めるためにも、世界各国の協力が必要になります。そのためには、浦部内閣の外交力が欠かせません」
「現在、国連に設置された『冒険者本部準備委員会』の話し合いが大詰めを迎えています。貴方がたがダンジョンを討伐してくれたお蔭で、我が国の発言力は一段と強まりました。ダンジョン冒険者は、原則として他国のダンジョンに入ることはできないが、討伐申請制度を設け、討伐目的であれば、期限付きで他国のダンジョンに入ることが許される。このような制度になるでしょう。ですが、一部の国は反対しています。具体的には、大姜王国、ウリィ共和国、そしてガメリカです」
俺にとっては意外であった。大東亜共産国あたりが反対するのなら判るが、ガメリカが反対するというのはどういうわけか。おそらくハワード大統領の「モンロー主義回帰」が影響しているのだろう。
「大姜王国は理解できますが、ガメリカが反対の立場ですか……ヨーロッパ各国はどうですか?」
「EU各国は賛成の立場です。またASEAN各国も賛成しています。大姜王国とウリィ共和国は、南北連携を模索しているようで、他国から介入されたくないのでしょう。そしてガメリカですが、海外に展開していた米軍を撤退させたうえに、自国のダンジョン討伐すら他国に協力してもらったとなれば、ダンジョン討伐後の世界におけるグローバル・リーダーシップが大幅に下がる。その辺を見越してのことでしょう」
「討伐後の世界……そんなものが来れば良いのですがね。それにしても意外ですね。大東亜共産国が賛成の立場とは……」
「誤解されている人もいますが、大東亜共産国は現実主義、実用主義な国です。あの国は『孫子』を生み出した国です。半世紀前ならともかく、現在においては『平和と平等を齎す共産主義の理念』など残っていません。ある意味で日本以上に、資本主義な国です。『互いに利益がある関係』である限り、大東亜共産国は信用できる。私はそう考えています」
俺は意外に思った。浦部総理は思いの外、大東亜共産国を評価している。確かにあの国は利益を優先する。日本との領土問題においても、レアアース禁輸措置などで自国の被害のほうが大きいと判断すれば、すぐに禁輸措置を撤回する。「利益になるから反日」というのが大東亜共産国だ。そう考えると、半島南部の国よりも与し易いのかもしれない。
「とすると、国内全てのダンジョンをウチが討伐した後は、大東亜共産国やASEAN諸国、そしてヨーロッパが優先となりますね。ダンジョン討伐によって各国が利益を得始めれば、ガメリカも変わるでしょう」
「既に日本政府には、東亜民国やフィリピノ、ヴェトナム、ムアンタイなどから冒険者制度における協力要請が来ています。国連に冒険者本部が設置された暁には、ASEAN各国と連携し国連の支部が設置されると思います」
「素晴らしい。予想以上に早く世界が動いている。これなら、スタンピードを食い止められるかも知れない。いや、なんとしても食い止めなくては……」
俺は満足して頷いた。浦部総理は、そんな俺を観察するような目つきで見ていた。
【浦部誠一郎】
ダンジョン冒険者制度を策定するにあたり、議論の俎上に上ったのが「民間人冒険者の危険性」についてだ。ダンジョン内で、人間はどこまで強くなれるのか。この点が不透明である限り、民間人登用をすべきではないという意見もあった。だが私は、日本人の善性を信じている。前科者の排除や指紋登録の義務化などで、民間人冒険者が犯罪者となる危険性を抑えられると考え、制度策定を進めた。
〈ダンジョン・バスターズは、動機を重視します。誰かのために魔物と戦う。この気持ちがない限り、冒険者として長続きはしないと考えています〉
江副和彦率いるダンジョン・バスターズの活動が、日本そして世界に貢献していることに、疑いは無いだろう。だが私は、目の前の男にある種の危険を感じた。この男の第一は「ダンジョン討伐そのもの」なのではないか? 自分たちの活動を阻害する者は、国であろうが組織であろうが、腕尽くでも排除する。
確かに、ダンジョン・バスターズの他のメンバーたちは、愛する者のため、あるいは人類のために戦っているのかもしれない。だがこの男はどうだろうか。ダンジョン討伐そのものを「目的」としているように感じた。だから私は、各国の情勢を教えた後、彼に聞いてみた。
「江副さんは、なぜそこまで責任感を持つのですか? 確かに貴方はダンジョン群発現象を引き起こしてしまったかもしれない。ですがそれは予測不可能な出来事であり、貴方にすべての責任があるわけでは無いのではありませんか? にもかかわらず、貴方はまるで『全世界のダンジョンを討伐することが自分の責務』としているように私には見えます。そこまで、貴方が思い詰める理由はなんですか?」
いまさら、金銭や名誉のためという答えは無いだろう。だが回答次第では、ダンジョン・バスターズとの関わりを考えなければならない。そう考えて問い質すと、江副和彦は意外な行動に出た。ステータス画面と呼ばれる黒い枠を表示したのである。
「総理、これが私のステータスです。御覧ください」
==================
【名 前】 江副 和彦
【称 号】 第一接触者
種族限界突破者
第一討伐者
【ランク】 C
【保有数】 0/∞
【スキル】 カードガチャ(0)
回復魔法
誘導
転移
------
------
==================
この目でステータス画面とやらを見るのは初めてであった。なるほど、確かにゲームのような画面に感じる。だがこれがいったい、なんだというのだろうか?
「総理。私が気になっているのは、この『称号』と呼ばれるものです。なぜ、こんな項目があるのでしょうか。現在称号を持っているのは、私と宍戸彰の2名だと思われます。ですが、私と宍戸では明確に違う点が一つあります。それは一番上の『第一接触者』という称号です」
確かに「第一接触者」と書かれている。これがいったいなんだというのか?
「私には、この『第一接触者』という称号が、特別なものに感じるのです。他の称号は、宍戸彰や他のメンバーたちも、似たようなものを手に入れられるでしょう。ですが『第一接触者』だけは違います。カード保有上限がなくなり、私はダンジョン内で無限にカードを持つことができます。さらに、スキル枠が6枠に拡大するばかりか、ランクアップ時にはスキルを選択できる能力まで得ました。明らかに、他の称号と比べて第一接触者のボーナスは大きすぎるのです」
「なるほど。そこになにか理由があると?」
私は冒険者ではない。江副和彦が言う「大きすぎる」という感覚は理解できない。だが本人がそう言う以上、これは特別なものなのだろう。話を促すと、目の前の男は頷いた。
「私は先程、一〇八柱が鍵になると申し上げました。ですがもう一つ、鍵があると考えています。この『第一接触者』の称号を持つ者。つまり私自身が、ダンジョン・システムにおいて重要な鍵なのではないか。そう考えています。そうでなければ、この称号だけここまで優遇する理由がありません」
理屈は理解した。嘘を言っているわけではないだろう。だが私が聴きたかった回答とは違う。私は彼個人の「感情」を聞きたいのだ。その称号を持ち、そしてダンジョンに立ち向かう。だが日々の戦いは過酷なはずだ。普通の人間であれば、精神破綻を起こしても不思議ではない。彼をそこまで掻き立てるモノはなんだ? 彼の精神は、何に支えられているのだ? 私はその点を彼に問い掛けた。その時の彼の表情は、忘れることはない。彼はまるで子供のような笑みを見せた。
「知りたいんですよ。自分は何に出会ったのか。どんな存在になったのか。そしてダンジョン・システムを生み出した存在はいったい、なんなのか。ダンジョンに潜り討伐し続けることで、それが明らかになると信じています。私を突き動かしているもの、支えているもの……突き詰めてしまえば、それは好奇心であり、未知を解き明かしたいという欲求ですね」
私は確信し、そして笑った。そういう動機ならば仕方がないだろう。「知りたい」という欲求を抑えることなど誰にもできない。私は思った。なるほど、この男は間違いなく「冒険者」だと。
【江副和彦】
浦部総理との会談は思った以上に上手くいった。事前に根回しをしてくれた石原局長には感謝しかない。気になっていた「深淵のドロップアイテム」については、総理は何も言わなかった。ただ「討伐を頑張ってください」と言われただけである。残り5ヶ月だ。そろそろBランクにならないと間に合わないだろう。
「フォッフォッ! ホレ、どんどん来るぞい?」
深淵の第四層では「ゴブリン・ソルジャー」を相手に、俺と彰、朱音、エミリが戦っている。いつの間にかCランクまで上がってきた劉師父が、ところどころで手伝いながら助言してくれる。
「良いか。相手もまた集で戦ってくるのじゃ。無計画に突っ込めば、相手の思うツボじゃ。誰が何匹を引きつけ、誰がトドメを刺すか。チームの長が瞬時に判断し、的確に指示せねばならぬ。戦い方を考えよ」
ゴブリン・ソルジャー6体を俺たち4人で相手にする。ガチャで手に入れた盾を使って、ゴブリン・ソルジャーを弾き飛ばし、連携を分断する。1対1であれば、彰たちが負けることはない。
「壁役は無理に倒そうとせず、まずは相手をバラバラにするのじゃ。ゴブリン・ソルジャーはCランクではあるが、戦い方は単調じゃ。剣術こそ持っておるが、逆を言えば剣しか使えないということでもある。槍術や体術、苦無による遠距離攻撃や魔法によるフェイントなど、お主らは多様な戦い方を持っておろう? それらを組み合わせ、詰将棋の如く一体ずつ屠っていくのじゃ」
劉峰光の持つスキル「子弟育成」のお陰か、ゴブリン・ソルジャーは常に6体のチームで出現してきた。最初は5分以上掛かってそれを倒していたが、徐々に速度が上がってくる。身体能力もそうだが、チームによる戦いのパターンが見えてきたからだ。
==================
【名 称】 革の盾
【レア度】 Un Common
【説 明】
魔獣の革を鞣して堅い木の盾に重ね合わせた
頑丈な盾。使用後には脂で手入れが必要
==================
「UCアイテムでも結構使えるな。使い方次第で、装備ランクを補えるわけか」
剣を盾で逸らし、そのままドンッと叩きつける。ゴブリン・ソルジャーは簡単に壁まで弾き飛ばされた。だがCランクの魔物が、これぐらいで死ぬことはない。あくまでも時間稼ぎだ。後ろから斬りかかってきた時はスコップを振り回して剣を受け止め、足払いしてそのまま盾をぶつける。倒すことに集中しなければ2、3体を同時に相手にするのは難しくない。倒すのは後ろの3人に任せる。倒しやすい状況を作るのが俺の役目だ。
「うん?」
6体を屠る時間が4分を切ったころ、違和感を覚えた。ゴブリン・ソルジャーを壁に叩きつけるという戦い方はこれまでずっとしてきたが、叩きつけられたゴブリンがそのまま煙になったのである。ダンジョン時間で2400時間、倒した数は14万体、獲得したカード数は4千枚以上になる。ついにBランクかと思ったが、まだCランクのままだ。
「フォッ! ようやく『Cの上』じゃの。どれ、一旦戻るかのぉ。お主が大好きな『うぇいと』を着けるぞい。100キロほどな」
某人気漫画の「ナントカ仙人」を見習って、俺もウェイトを特注していた。横80センチ太さ30センチのターポリン素材の円柱型バッグを横に倒した状態で背負う。水は30リットル入っている。
「体幹とインナーマッスルを鍛えるためのウェイトだね。僕も使ってたけど……重さがヤバくない?」
片脚に7キロ、片腕に3キロ、ベスト30キロ、腰のウェイト20キロ、そして「コア・バッグ」が30キロ、合計100キロだ。
「この状態で軽々とゴブリン・ソルジャーどもを倒せるようになれば、Bランクへと上がれるじゃろ。常に軸を意識するのじゃ。さもなくば偏った水の重さに足がつられ、大きな隙を作るぞい」
確かに重い。だがこれでもBに届くかどうかだろう。ランクアップに時間が掛かり始めている。BからAに、AからSにとなれば、更に時間は必要なはずだ。
「彰よ、お主もいずれ背負うのじゃ。今のうちから覚悟しておけ」
劉師父は白い顎髭を撫でながら、フォッフォッフォと笑っていた。
いくら時間がないとは言っても、ずっと働き続けていれば精神が参ってしまう。それは俺でも同じだ。大手町の総務部門は完全週休二日にしているし、バスターズのメンバーたちにも休みが必要だ。
「というわけで、今週の土日2日間は休みにする。ここのところ、ずっと働き続けだったからな」
彰は瑞江で知り合った女性とデートでどこかに行くらしい。茉莉は母親との買い物や、友人たちと映画に行くそうだ。睦夫はフィギュアを作るらしい。新しく加わったメンバーたちも、それぞれに休みを満喫するそうだ。
「で、俺はどうするかだが……」
ダンジョン発生前は、それなりに遊んでいた気がする。だが金を手にした今になって、何をすべきか困ってしまった。読書や映画鑑賞などはダンジョン内でやれば遥かに時間が効率的に使える。今は1月で、篠崎公園で昼寝するというわけにもいかない。
「いざ時間ができたら、何もやること無いんだよなぁ」
結局、鹿骨ダンジョン第一層に入ってホワイトボードに今後のことを纏めたりし始める。つくづく自分は「楽しむ」ことを知らない人間だと自嘲した。
「マネジメントすべきは、①各ダンジョンの攻略速度、②新たな冒険者の採用、③ダンジョン・バスターズの経営、④冒険者制度への助言、⑤全世界のダンジョンの位置情報……」
ホワイトボードに書き込んでいく。6月24日の完全起動までにAランクダンジョン「深淵」を討伐するとなれば、俺自身が最低でもAランク、可能ならSランクに上がっていなければならない。Sランクを目指すのであれば、最低でも5月末までにはAランクになる必要があるだろう。
「1月30日には、また何処かにダンジョンが出現するはずだ。最終的には国内に11もしくは12のダンジョンが出来るだろう。それらの調査も同時に進めなければならない。攻略はともかく、ブートキャンプが開催できるランクかどうかを調べる必要もあるしな」
ホワイトボードの①にツリー図を作り「ランクアップ」「各ダンジョン調査」と書き込む。②の「新たな冒険者の採用」は、ブートキャンプとも密接に関わるが、同時に自衛隊からの出向を受け入れても良いと考えている。この辺は石原局長と相談だろう。②のツリー図は「ブートキャンプ拡大」「メンバーからの紹介」「自衛隊からの出向」と書き込む。
「バスターズの経営か。頭では理解していたが、外部からのコンサルティングと実際の経営はまるで違うな。アチラを立てればコチラが立たず……全体最適を考えないといけないし、それをメンバーたちに伝えるコミュニケーションも重要だ」
会社の使命と展望は明確になっている。具体的な中長期目標も明らかだ。となれば、それを実現する戦略と、そのために必要な制度、業務、人材を明確にすればいい。シンプルだが「ナドラー・タッシュマンモデル」の組織開発アプローチで考えよう。
「組織行動管理のためにも制度は重要だ。人事評価制度と業務管理システム、円滑な組織内コミュニケーションのためのルール作りも必要になる。俺一人でこれらを管理するのは不可能だ。『最高執行責任者』が欲しいな」
だが思いつく人材がいない。元人事部長や元経営企画部長などの知り合いはいる。それでもダンジョン・バスターズのCOOを任せるには足りない。知り合いで可能なのは石原局長くらいだろう。
「……行き詰まっちまったな。これ以上考えてもしょうがない。戻って飯でも行くか」
ホワイトボードをスキャンして印刷し、俺は地上へと戻った。換気扇の下で一服していると、スマホにメールが入っていた。一読して眉間を険しくする。防衛省ダンジョン冒険者運営局からのメールだった。
〈ガメリカ国防総省「合衆国ダンジョン軍」の参謀長より、江副氏との面会を求める連絡あり。面会内容は「始祖のダンジョンについて」とのこと。候補日時を返信されたし〉
こんな内容である。ついに他国にも「深淵の存在」と「俺の正体」を察知されてしまった。煙を深く肺に入れ、盛大に吐き出した。
毎週「日曜日」「水曜日」「金曜日」の昼12時過ぎに投稿致します。7500文字(最近は8千文字以上が多いです)を毎日書くのは難しく、週3話投稿でお許し下さいませ。
評価や感想を下さった方、ブックマーク登録をして下さった方、全ての読者様に御礼申し上げます。ブックマークやご評価をいただけると、創作活動の励みになります。これからも頑張って書いていきます。
頂いた感想はすべて拝読しております。本当にありがとうございます。
今後も応援の程、何卒、宜しくお願い申し上げます。




