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第034話:チームから組織へ

※展開速度を上げるために、書き直しました。遅くなりまして申し訳ありません。また、視点切り替えについてご意見を頂いておりましたので、私の作品では初めて「Side」を入れました。ただ「Side:◯◯」と書くのが嫌いなので、誰視点か判るように、名前だけ入れています。


 作風が変わる可能性もあるため、皆様のご意見を頂けますと大変嬉しく思います。


【木乃内茉莉】

 私がダンジョン・バスターズに入った頃は、和さんと朱音さん、エミリちゃんがいて、ミューちゃんもいました。私がダンジョンに慣れるまで、第一層から第三層までゆっくり歩いて魔物と戦っていました。和さんや朱音さんは、オークやスケルトンを倒しても、もう強くなれないそうなので、これは私のためだったと思います。でも、いつまでも和さんに甘えてはいられません。ダンジョン・バスターズが大きくなれば、和さんだって私に付きっきりというわけにいかなくなります。だから私は、できるだけ一人で、ダンジョンに入るようにしています。


「でも、できることなら学校のクラスメイトとかも一緒だと嬉しいなぁ」


「ミュゥ?」


 ミューちゃんを膝の上に乗せて頭を撫でていると、プリンちゃんが肩に駆け上がってきて頬ずりしてくれます。この子たちがいてくれるお陰で、私は寂しくありません。それに、人間じゃないかも知れないけれど、友達も一緒にいてくれます。


「茉莉、どう?」


「わぁ、可愛い!」


 エミリちゃんが洋服に着替えて出てきました。エミリちゃんはハーフみたいに綺麗な顔をしているので、どんな服でも似合います。今日はウチの学校の制服を着ています。濃紺のブレザーにチェック柄のスカート、胸元にはリボンを付けています。思わず拍手をしてしまいました。


「エミリはこういうの着たこと無いと思う。いつも魔術師の服ばかりだから、憧れるわ」


「雑誌も持ってきたよ。地上ではこういうファッションがいっぱいあるの! エミリちゃんが地上に出られるようになったら、一緒に原宿とか行こうね!」


 和さんと彰さんは、横浜ダンジョンで新しいメンバーの育成をしています。時々、私たちの様子を見に戻ってきます。和さんは地上でお風呂に入らないといけないけれど、私は神聖魔法の「浄化」があるので、地上に戻らなくても清潔でいられます。気分的にはシャワーを浴びたいけれど。


「もうちょっと先になるわね。茉莉が18歳になるまで、冒険者には成れないんでしょ?」


「和さんが、見習い登録制度ってのを提唱しているけど、反対する人も多いみたい。強化因子が、成長期の子供にどんな影響を与えるか解らないからって……」


「ふーん…… こーんなに胸が大きくなるって教えたら、みんな賛成すると思うけど?」


「きゃぁっ!」

 

 後ろに回ったエミリちゃんに胸を揉まれて、思わず声が出てしまいました。ダンジョン・バスターズに入ってから、ちょっと胸が大きくなりました。ブラのサイズ上げたのに、そろそろキツくなりそうです。

 エミリちゃんはケラケラと笑って、着替えに戻りました。あと4時間回ったら、御飯にして今日はお休みになります。スケルトン・ナイトにはプリンちゃんの火炎魔法が効果的なようで、私は全然戦ってないのにどんどんお金が貯まっていきます。


「やっぱり、この鈴が効果的なのね。今度、和さんに教えてあげよう」


=================

【名 称】 魔物の呼鈴

【レア度】 Rare

【説 明】

鈴を鳴らすと、その階層の魔物を呼び

寄せることができる。使う場所次第では

囲まれてしまうのでご注意を。

=================


 プリンちゃんは全方向に火の玉を撃ち出せるので、四方向から攻められても大丈夫だけれど、念のために一本道とかで使っています。この鈴のお蔭で、1時間で500体くらいのスケルトンを倒すことができます。そのお金は、ダンジョン・バスターズの設備投資に使われるそうです。出てくるカードは12、3枚。その半分が私のカードになります。


「茉莉、準備できたわよ」


「うん、じゃぁ行こっか!」


「ミュッ!」


「キュッ!」


 私たちは再び、ダンジョン内に入りました。





【宍戸彰】

 新しいメンバーは全員がダンジョン・ブートキャンプを経験している。けれど、未だFランクの人が2人いる。まずは全員をDランクまで引き上げるのが当面の目標だ。


==================

【名 前】 日下部 凛子

【称 号】 なし

【ランク】 E

【保有数】 0/26

【スキル】 カードガチャ

      杖術Lv1

      ------

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【名 前】 墨田 正義

【称 号】 なし

【ランク】 E

【保有数】 0/22

【スキル】 カードガチャ

      シールドバッシュLv1

      ------

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【名 前】 霧原 天音

【称 号】 なし

【ランク】 F

【保有数】 0/29

【スキル】 カードガチャ

      ------

      ------

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【名 前】 篠原 寿人

【称 号】 なし

【ランク】 F

【保有数】 0/27

【スキル】 カードガチャ

      ------

      ------

==================


「天音ちゃんと寿人君は、まずはEランクになろう。リンコちゃんとヨッシーは、劉師父と一緒に第2層に行こうか。……ん? どうしたの?」


 四人がポカンと僕のことを見つめているよ。なんだろう? 何か変なこと言ったかな? 最年長の天音さんが皆を代表して教えてくれたよ。


「宍戸さん、下の名前で呼ぶことは理解しました。ですが、私たちは後輩です。君などは不要だと思いますし、ちゃん付けはむしろ迷惑です。それとヨッシーという呼び方は……」


「んー……呼びやすい名前で呼んでるだけだよ。だから僕のことも彰で良いんだけど?」


「そういうわけには……解りました。彰さんと呼ばせてもらいます。私のことは呼び捨ててください。それと、代表の江副さんのことは……」


「兄貴のことは、兄貴でも良いし、和さんでも良いし、カズッチでも良いと思うよ?」


「では、和さんと呼ぶようにします。ダンジョン・バスターズは、あまり相手の呼び方には拘らないのですね?」


「呼びやすい名前が一番だよ。だってチームプレーで戦うんだよ? イチイチ、社長だの霧原さんだの呼んでたら、いざという時に対応できないでしょ?」


 こうした話し合いで、皆は兄貴のことを「和さん」、僕のことは「彰さん」と呼ぶようになった。僕は「天音、寿人、リンコ、ヨッシー」で呼ぶようにする。本当は「天音ちゃん、凛子ちゃん」の方が呼びやすいんだけど、本人が「ちゃん付け」は嫌だって言うから仕方がないね。


「んじゃ、始める前にダンジョン・バスターズ加入のお祝いに、兄貴からボーナス貰ってるんだ。それを皆に配るね。Dランクの魔物カード100枚。これで武器ガチャやって、Rareランク装備を手に入れようか。あ、ヨッシーは防具ガチャの方が良いかも。シールドバッシュって盾使うんでしょ?」


「自分は、シールドバッシュって知らないッス。どんな戦い方なんでしょうか?」


 すると、劉師父が口を挟んでくれた。この師父は本当に、戦闘技術の知識が凄い。


「冒険者たちが集団の力を発揮する場合、重要になるのが『壁役』の存在じゃ。どの魔物を受け止め、どの魔物を誰に流すか。それを瞬時に判断せねばならぬ。そして壁役自身も戦う。その時の攻撃方法がシールドバッシュじゃ。お主がやっていた相撲で言えば、攻撃の受け止めは『立ち合い』、シールドバッシュは『かち上げ』に近いのう。まぁ、後で実際にやってみせよう」


 兄貴からは500枚が渡されている。残り100枚? これは僕が回して劉師父の装備を出すためだよ。さて、どんな装備が出るかな?





【墨田正義】

 自分のこの大きな身体は、壁役というのに丁度よいらしいです。壁役はパーティーの先頭に立って、相手の攻撃を食い止めつつ、仲間たちに上手く魔物を流す役らしいです。そのために重要なのが「盾」なので、防具ガチャを回すことにしました。まず6回ガチャして、それで良い盾が出なかったら、残り5回を回すことにします。このガチャというのは、回数が多いと必要な装備が出るそうなので、自分は祈りながら初ガチャをしました。


==================

【名 称】 真純銀(ミスリル)の大盾

【レア度】 Rare

【説 明】

魔法防御力に優れた真純銀(ミスリル)製の

大盾。覗き穴も付いているので、構えたまま

敵を観察できる

==================


==================

【名 称】 鉄の胸当て

【レア度】 Un Common

【説 明】

鍛えられた鉄でできた胸当て。頑丈だが重い

のが難点。大きさは自動で調整される

==================


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【名 称】 鉄の兜

【レア度】 Un Common

【説 明】

鍛えられた鉄でできた兜。頑丈だが重い

のが難点。大きさは自動で調整される

==================


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【名 称】 丈夫なシャツ

【レア度】 Un Common

【説 明】

防刃で火にも強い丈夫なシャツ。洗濯可

==================


==================

【名 称】 鉄の脛当て

【レア度】 Un Common

【説 明】

鍛えられた鉄でできた脛当て。頑丈だが重い

のが難点。大きさは自動で調整される

==================


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【名 称】 革巻きベルト

【レア度】 Common

【説 明】

丈夫な革をなめしてできたベルト。巻きつけ

て使用することで斬撃や噛みつきから腕や脛を

護ることができる

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「お、ヨッシーって強運だね! 6回でRareカード1枚出たよ。それに他の装備も使えそう。残り5回は別のガチャにしたら?」


「そ、そうッスね」


 彰さんから勧められて、自分はアイテムガチャを回しました。すると、驚いたことにまたRareが出ました。どうやら今日はツイてる日のようです。


==================

【名 称】 不動の革靴

【レア度】 Rare

【説 明】

攻撃による衝撃を緩和してくれる靴。崖などで

退けない場所や滑りやすい場所での戦いに有効

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【名 称】 魔物の匂い袋

【レア度】 Un Common

【説 明】

魔物の攻撃を引き寄せる効果がある匂い袋。

3ヶ月で匂いは消える

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【名 称】 ハイ・ポーション

【レア度】 Un Common

【説 明】

内臓に届く重度の切傷や脳の損傷などの

重傷にも効く、効果の高いポーション

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【名 称】 ポーション

【レア度】 Common

【説 明】

無味無臭の一般的なポーション。

飲めば風邪薬、掛ければ傷薬として有用

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【名 称】 解毒薬

【レア度】 Common

【説 明】

毒蛇に噛まれたり毒キノコを食べたりした

ときに有効。全ての毒に効くわけではない

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 5回やって2枚はCommonカードでした。これは仕方がないらしく、江副……和さんが呆れるほどに回し続けた結果、Dランクのカードでは、Rare10%、Un Common70%、Common20%だそうです。今回、11回を回しましたがRareが2枚出た分、Commonが3枚でもラッキーだと思うことにします。それにしても、このカードって面白いです。またやってみたいと思います。





【日下部凛子】

 まさか私のスキルが「杖術」とは思っていなかった。いや、文句はない。日下部流古武術において、杖術は重要な位置を占めている。神道夢幻流杖術の流儀歌にもある。

「突けば槍、払えば薙刀、打てば太刀、杖はかくにも外れざりけり」

「痕付けず、人をこらしていましむる、教えは杖の外にやはある」

江戸時代において、日下部流は杖術を取り入れた。戦国時代とは異なり、太平の江戸時代では不殺が重視されるようになった。日下部流も変化し、人を殺せる技を「裏伝(りでん)」とし、相手を捕縛する柔術や杖術が「表伝ひょうでん」となった。薙刀術は武家の女性の必修でもあったため、日下部流でも教えており、現在の「競技なぎなた」にまで続いている。


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【名 称】 如意棒

【レア度】 Rare

【説 明】

自分の希望する長さに変化させられる棒。

素材は精霊の祝福を受けた魔法樹で、

滅多に折れない

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「如意棒というと、西遊記の孫悟空が使っていた棒でしょうか? ちょっと振ってみましょう」


 杖術では、使う棒の長さは決まっていないが、私は自分の背丈くらいが使いやすい。1メートル68センチの長さに調整し、構えてみる。


「良いわね。重さも太さもしっくり来るわ。……ハッ!」


 日下部流表伝の中段型を取ってみる。相手をイメージしながら、突きや払いを行う。するとキャラクターカードの劉峰光先生が、鋼鉄の槍を持って目の前に立った。石突きの方を私に向けて、槍を背中に通した構えを取る。その構えに、私は瞠目した。


「これは棍術と言ってな。お嬢の術によく似ておろう?」


 私は頷き、太刀の構えを取り打ち込んだ。劉先生は身体を回しつつ槍でカンカンと私の杖を受け止める。そして石突きの部分で私の喉を狙ってくる。持ち手を変えてそれを受け流しつつ、足捌きと杖の長さを活かして劉先生に払いを掛ける。だが劉先生も持ち手を変えて、背中に槍を収めながら私の払いを受け止めた。互いに身体がすれ違うように立ち位置が変わり、劉先生は掌を見せて私を止めた。


「中々に練っておる。この分なら、遠からず江副を超えられるであろうの。あ奴は才が乏しいからのぉ」


「そんなことは。和さんはお強いのでは?」


 動画で見ただけだが、人間とは思えない速度で戦っていた姿は瞼に焼き付いている。だが劉先生は笑って首を振った。


「身体能力はダンジョン内で鍛えればすぐに上がる。じゃが戦闘の才は天賦のものじゃ。強化因子では補えぬよ。それに勘違いするでないぞ。江副は強い。お嬢とは異なるところで、江副は恐ろしく強い。人の強さとは、戦いの強さだけではない。それは理解できよう?」


 そう言われて、私は頷いた。私には、和さんのようなことは無理だ。たった一人でダンジョンに潜り、数十万の魔物を相手に延々と戦い続け、さらにはその時間や倒した数を記録し、そこから法則を導き出す。統計データを見せられた時、その記録を蓄えるために費やされた膨大な時間と労力を想像し、私は思わず震え上がった。そんな精神力は私にはない。


「経験を積み、戦いに強くなれば集の長くらいはできる。じゃが、集をさらに束ねた『組』となれば話は別じゃ。別の強さが求められる。お嬢はまず、集の長を目指すべきじゃの」


 そうだ。ここには、私と一緒に冒険者登録した道場の高弟3人はいない。いずれ合流するが、彼らを束ねるのは私なのだ。ダンジョン・バスターズという大きな組織の中の、日下部チームを束ね、ダンジョンを討伐する。それが私の目指す姿だ。日下部流古武術の名に泥を塗るわけにはいかぬ!





【霧原天音】

 「天音ちゃん」と呼ばれた時、私のコメカミには青筋が立ったかも知れないわ。男性社会の警察組織において、キャリア組であった私は、年上のノンキャリを使わなければならない立場だった。女から指示されることを嫌がる連中が「アマネーチャン」などと陰口を叩いていたことも知っている。呼び捨てにされたほうがずっとマシだわ。


「んじゃ、第一層行こうか。棍棒でボコるだけだから、気楽にね」


 宍戸彰という人は、私の嫌いな「チャラ男」のような話し方をする。だが実力は間違いないわね。冒険者としては世界最強だと江副さん(和さんと呼ぶのは、本人の許可を得てからよ!)が断言していたし、根は真面目なのでしょう。不真面目な男が、空手の世界大会で6連覇などできるはずがない。


「目標はEランク。それまではガチャしないでね。2人のスキルの方向性を確認してからガチャったほうが、効率が良いから」


 私と、年下の篠原寿人さんはFランク、だから装備は地上で手に入る防刃スーツや安全靴にして、武器だけ棍棒を渡されている。まずは身体能力を高め、Eランクになるのが目的よ。こう見えても、体力には自信があるわ。中学から水泳をやっていた私は、今でもスポーツジムで週2日は泳いでいるし、ランニングもやっているのよ? 27歳だけれど、19歳の男の子にだって負けないわ。


「ハァッ……ハァッ……」


 ダンジョン・ブートキャンプで慣れていたはずなのに、1時間もせずに息切れが始まった。その理由は、このベストやリストウェイトのせいだ。最初から20キロのウェイトベストを着せられ、片足3キロ、片腕2キロのウェイトを付けている。合計30キロ、まるで少年漫画の「ナントカ仙人の修行」みたいじゃない! 私だけじゃなく、19歳の寿人さんも息切れしているのが、せめてもの救いだわ。


「んー、やっぱり自衛隊のブートキャンプって温いよね。まぁ年齢幅があるからなんだろうけど、ダンジョン冒険者やるんなら、これくらいは耐えられないとね。あと50匹ずつウサギ倒したら休憩にしようか」


 宍戸彰は爽やかな笑顔を浮かべた。彼は片足7キロ、片腕3キロのウェイトを付け、30キロのベストの他に腰には潜水用ウェイトを20キロ付け、さらに私たち3人分の飲水や食料が入ったリュックを背負って平然としている。同じ人間とは思えない。


「さぁ、ウサギが来たよ。じゃぁ天音ちゃんからボコッてみようか」


「クッ……」


 だ・か・ら、私を「アマネーチャン」と呼ぶなぁ! 怒りの感情に任せたまま、ウサギに棍棒を叩きつけた。





【江副和彦】

 東京駅から歩いて10分ほどにある「大手町ツインタワー」には、外資系企業「リーガル・オフィスサービス」が貸しているレンタルオフィスがある。イーストタワー4階のレンタルオフィスは、1坪で10万円もするが、それぐらいは必要経費と割り切る。


「おぉっ! 凄いオフィス。ハイバックのこの椅子って、幾らするの?」


「9万くらいだったか? まぁそれは横に置いて……皆さん、本日はよく集まってくださいました」


 ダンジョン・バスターズのバックスタッフ部門は、全部で6名から始まる。総務および経理関係全般を担当するのが、元銀行マンの「向井純平」だ。アシスタントとして、瑞江のクラブROCOで採用した「山下歩美」と、横浜ダンジョン出現時に時計を預かってもらい、その後も連絡を取り合っていた女性「柏木玲奈」が入社してくれた。向井は、会計担当の山下と、事務関連処理の柏木に指示を出す。


「ダンジョン・バスターズはできたばかりの組織です。向井さんには組織づくりの中でも、守りの領域、つまり財務や法務関連での助言を頂きたく思います。必要だと思うことは、なんでも仰ってください」


「ありがとうございます。まさか、銀行の支店で総務をやっていた私が、そんな重要な役割を任されるなんて…… 精一杯、務めます」


 そしてホームページ管理や情報発信を担当するIT部門には、予定通り田中睦夫に付いてもらった。他2名は睦夫のいる同人サークルの仲間で、動画制作担当とホームページ管理担当らしい。その辺は睦夫に任せている。アプリ開発なども考えているらしく、今後は規模も大きくなるだろう。


「江副さん、このオフィスはいずれ変えるご予定ですか?」


 向井総務部長(名刺にはそう書いてある)が今後の方針を確認してくる。確かに、このオフィスは素晴らしい。だがやはりコストが掛かる。1坪10万は高すぎだ。


「できれば、そうしたいと思います。バックスタッフ部門まで鹿骨にある必要は無いと思いますが、大手町か赤坂あたりはどうかと思っていました」


「私の意見ですが、バックスタッフ部門も鹿骨に集めたほうが良いと思います」


「その理由は?」


「ダンジョン冒険者は、一人ひとりが並み外れた力を持っています。それは一般人にとっては不安要素にもなるでしょう。できるだけ透明化、つまり『庶民感』を出すべきだと思います」


「なるほど。こんなところにオフィスを構えていたら、儲けやがって!となるわけですか?」


「私は、広島県の支店にいたときに地域密着のスーパーマーケットを担当したことがあります。そのスーパーは、店にはお金を掛けていましたが、社屋には全くお金を掛けていませんでした。バスターズは人が財産である以上そうはいかないでしょうが、大手町に豪華なオフィスを構えているなんて知られたら、反感を買うかも知れません」


 俺は顎を擦って頷いた。現時点では、通勤の関係から江戸川区にオフィスを構えるのは難しい。だがバスターズの社屋が完成したら、バックスタッフたちも受け入れて、江戸川区密着の企業になっても良いかも知れない。いや、むしろそうなるべきだ。Aランクダンジョンの存在が知られた時に、バスターズなら良いんじゃないかと思ってもらうためにも。


「解りました。現在お願いしたいのは、3月末までの確定申告や決算です。社屋もその頃には完成するでしょう。4月からは、バックスタッフも新社屋で働けるよう、今から手を打っておきたいと思います」


 いずれは法務部や人事部も必要になるだろう。マネジメント経験が豊富な60歳以上の元サラリーマンをブートキャンプで若返らせれば、今の日本経済の課題でもある人手不足や医療費問題も解決できるかも知れない。やり方は考えなければならないだろうが。


「江副氏ぃ…… 明日、浦部総理と合う約束だけれど、なに着ていったら良いと思う? やっぱりタキシードかな?」


 いや、皇居に行くわけじゃないから、タキシードは不要だろう。普通に、ネクタイとスーツで良いんじゃね? そう言うと、睦夫は困ったような表情を浮かべた。


「スーツなんて、持ってないよぉ。だって僕、20キロ痩せたんだよ?」


 俺は大きく溜息をついた。仕方ない。ここは大手町だ。丸の内ブランド街まで歩けばすぐだ。総理大臣に会う以上、安物のスーツというわけにもいくまい。かと言って、オーダーは時間が掛かりすぎる。


「行くか。丸の内、そして銀座へ。言っておくがカネはお前が出せよ?」


 皆に断り、俺は睦夫を連れて外に出た。


 毎週「日曜日」「水曜日」「金曜日」の昼12時過ぎに投稿致します。7500文字(最近は8千文字以上が多いです)を毎日書くのは難しく、週3話投稿でお許し下さいませ。


 評価や感想を下さった方、ブックマーク登録をして下さった方、全ての読者様に御礼申し上げます。ブックマークやご評価をいただけると、創作活動の励みになります。これからも頑張って書いていきます。

 頂いた感想はすべて拝読しております。本当にありがとうございます。


 今後も応援の程、何卒、宜しくお願い申し上げます。

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― 新着の感想 ―
アマネーチャン!
[良い点] ちょー面白い好き。 [気になる点] 名前を入れるのは反対です。読めば誰の視点かわかるし、なんなら、本文冒頭に名乗らせてもいいと思う。 物語外で名前を書くのは安っぽく感じて、私は嫌いです。せ…
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