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第032話:劉師父とその弟子たち

 話は、防衛省で他の冒険者たちと顔合わせをする前まで遡る。

 1月4日に札幌ダンジョンを攻略した2日後、俺たちダンジョン・バスターズは江戸川区鹿骨町にあるAランクダンジョン「深淵(アビス)」に集まっていた。木乃内茉莉、宍戸彰、田中睦夫の3人が揃い、Legend Rareの朱音、エミリ、劉峰光も顕現させる。茉莉はウサギ型魔物のミューと、モモンガ型魔物のプリンを顕現させた。これが、現時点でのダンジョン・バスターズ全メンバーである。


「フォッフォッ……こりゃ可愛らしいお嬢さんじゃぁ」


 巨体の老人が茉莉の頭を撫でた。怖がるかと思ったが、茉莉は意外なほどに胆力があり、老人を見上げてニコリと笑った。


「茉莉でいいですよ? 劉お爺ちゃん、お茶淹れましょうか?」


「フォッ! こりゃ嬉しいわい。まったく、男どもは気が利かんからのぉ」


 耐荷重150キロの折りたたみ椅子にギシッと座ると、茉莉が淹れた茶をズズッと啜った。朱音とエミリに劉峰光について聞いてみたが、他の一〇八柱についての情報はすべて消されており、知らないそうだ。


「劉老師。是非、手合わせをお願いします!」


 彰が早速、手合わせを申し込む。だが劉は深いシワを刻んだ顔を向けると、フンと鼻を鳴らした。


「老師とはな……儂はまだ103歳じゃっ! 師父と呼べぃ!」


 いや、茉莉からはお爺ちゃんって言われて喜んでたじゃねぇか。だいたい103歳なんて、日本じゃ後期高齢者の中でもかなりの年寄……まぁいい。俺は劉峰光の前に立った。


「では劉師父、貴方は先日討伐したダンジョン内でこう言った。『力は貸してやる』と…… 師父にお願いしたいことがある。貴方が最適のはずだ」


「フォッ……なんじゃ?」


 口周りから顎にかけて生えている真っ白な髭を撫でながら、面白そうに俺を見る。


「俺は闘い方を全く知らない。これまでランク差で力任せに闘い続けてきた。だが、このAランクダンジョンの第4層で思い知った。魔物も戦闘技術を使ってくる。これがB、Aとなれば力任せの闘いは無理だろう。貴方に、闘い方を教わりたい」


「ほぉ…… 第一接触者の殆どは、僅かばかりの享楽のためにダンジョンを利用し、そして死ぬものじゃがな。どうやらこの世界の第一接触者は、少し違うらしいのぉ。教えるのは構わぬが、その前に聞いておきたいことがある。お主の腹の中にあるものを聞きたい」


「どういうことだ?」


「お主、なぜ戦う? ダンジョンが出現した世界は滅びる。これまで数多の世界でダンジョン・システムが起動し、その尽くが死に絶えた。ダンジョンを討伐して滅亡を回避するなど、天に向けて拳を振り上げるようなもの。だから第一接触者の大半が、残り10年の命を面白可笑しく生きようとする」


「あぁ、それは聞いている。そういう奴が多いらしいな」


 朱音から聞いた。ダンジョン・システムは幾つもの異世界で出現し、その世界を滅ぼしてきた。滅びた数だけ、第一接触者が居たはずだが、立ち向かおうとした者などごく僅からしい。


「お主は、何によって突き動かされている? 第一接触者としての責任感か? それともダンジョンでより多くの富を掴みたいという金銭欲か? あるいは他者から認められたいという名誉欲からか?」


「ん……」


 俺は少し考えた。自分はなぜ、ダンジョンに潜り続けるのか。責任感は確かにある。庭に階段が出現した段階で、不動産屋なりに連絡を取って確認すべきだった。もう少し慎重になれば、ダンジョン・システムの起動を遅らせることはできただろう。だが、それ以外の動機が自分の中にはあった。


「幾つかあるな。俺には、友人がいるし親類縁者もいる。俺一人が死ぬならともかく、全世界が滅びるとなれば座視できん。だが、そうした責任感や、利他の気持ちだけではない。俺自身の中に、ダンジョンに対する拭い難い欲求がある」


「それはなんじゃ?」


「好奇心だ。俺は知りたいんだ。ダンジョン・システムを設計した奴は、どんな存在なんだ? 何を考えて設計し、なんのために世界に出現させ、滅びた世界を見て何を感じてきた? 札幌ダンジョン第七層で見つけたレリーフの意味は? すべてを討伐した後、ダンジョンはどうなる? 朱音やエミリたちはシステムから解放されて、人間としてこの世界で生きることができるのか? 疑問は山ほど出てくる。そして……」


 俺は口元を歪ませた。想像するだけで痛快な気持ちになる。


「全てが終わったときに、ダンジョン・システムの設計者に会ってみたい。そして聞いてみたい。ねぇねぇ、討伐されちゃったけど、今どんな気持ち?ってな」


「N・D・K! 江副氏、それマジでイイ!」


 睦夫は狂喜して叫び、彰はサムズアップしている。茉莉もミューの頭を撫でながら、嬉しそうに頷いている。朱音とエミリは誇りを感じているのか、胸を張っていた。そして目の前の老人は、肩を震わせて破顔する。


「フォーッフォッフォッフォッ! 面白い! 実に面白いわい! 恐らく、これほどまで明確な意志を持ってダンジョンに挑んだ第一接触者ファーストコンタクターなど、過去におるまい。たとえ万に一つの可能性でも、諦めてしまえばそれまでじゃ。十分な回答を貰ったわい。では、始めるとするかのぉ」


 そう言って、劉師父はのっそりと立ち上がった。瞳が鋭い光を放っている。


「一先ず、第一層で身体を動かすかのぉ。儂自身、ランクを上げる必要もあるからの。お主らも来い。一人ひとりの動きを見ておきたいでの」


 俺たちは一斉に準備を始めた。





「……変だな。魔物の数が多くないか?」


「なんだか、僕らに向かって一斉に集まってきているってカンジ?」


 鹿骨のAランクダンジョン「深淵」の第一層では、ゴブリンが出る。身長1メートルの、武器を持たない魔物であるため戦うことに苦労はしない。だがこの日は妙だった。やたらとゴブリンが出てくるのだ。しかも複数でトテトテと駆け寄ってくる。


「フォッフォッ! どれ……」


 劉師父は、まるで中国拳法のような動きで、掌底と手首を使ってパシパシとゴブリンを屠っていく。彰は、その動きをジッと観察している。素手の格闘家として、学ぶところがあるのかも知れない。


「一人で複数を相手にするときは、こうやって片手で一体ずつ倒していくのが効果的じゃ。ゴブリン程度では勉強にならんかも知れんがのぉ」


 動きは決して速くはない。Legend Rareといっても、初期のFランクなのだ。だが何故か、その動きに魅入られそうになってしまう。妙な美しさがあるのだ。


「頭の動かし方、足捌き……極限まで研ぎ澄ました、まるで技の結晶を見ているようだね。無駄な動きが一切無いから、視線がどこかに定まるわけでもなく、まるで絵画を見るように空間そのものを捉えてしまう……」


 彰がそう解説してくれる。とは言っても、俺は所詮、ド素人の中年男だ。拳法だの闘い方だの言われても理解できん。それより気になるのは、魔物たちが集まってくる理由だ。


「恐らく、劉峰光の持つスキル『子弟育成』の効果ではないでしょうか。魔物の数が多いほど、強化因子も集まり、より早くランクアップできますから……」


 朱音に言われて、俺も納得した。部下育成の基本は「経験させてやること」だ。だがそのためには、経験する仕事が無ければならない。部下に仕事を与えることが、管理職の仕事なのだ。スキル「子弟育成」は、成長を促すための「経験」を引き寄せるのだろう。


「劉師父、僕もやらせてもらって良いですか」


 我慢できなくなったのか、彰が進み出た。交代して襲いかかってくるゴブリンと戦う。先程見た技を真似て、両手をバラバラに動かしながら、ゆっくりと流れる水のように進む。


「フォッ! 一目見て本質を掴んだか。この技の要諦は手首に非ず。重心の移動じゃ。頭の動きと腰の位置、そして足捌き。これができるだけで、長時間の闘いも楽になるぞ?」


「フム……俺もやってみるか」


 彰と交代して俺が前に出る。同じ様に戦ってみる。だが劉師父は首を振って俺の襟を掴んだ。


「……まぁ仕方がないのじゃが、(ヌシ)は本当に『闘いの才』が無いのぉ。ただ見た目だけ、同じようにしても意味がないわい。そういうのを『小手先』というのじゃ。主の場合は、暫く練習が必要じゃな」


 あのなぁ。俺は元経営コンサルタントだぞ。拳ではなく言葉で戦ってきたんだ。お前ら脳筋と一緒にするな。だが僅かな時間であったが「Legend Rare 劉峰光」の効用は確認できた。俺たちもそうだが、今後、バスターズに加わる仲間たちを鍛えるのに役立つ。さらに魔物を引き寄せるというスキルの存在は大きい。なにしろ僅か1時間で、ゴブリン800体を倒したのだ。この半年間での最高記録だ。横浜ダンジョンに連れていけば、魔石集めにも使えるだろう。





 ガメリカ時間1月4日、バージニア州アーリントンにある国防総省は、陸、海、空、海兵隊の4つの軍を傘下に収め、ガメリカの国防を担っている。通称「ペンタゴン」と呼ばれているが、それは建物全体が五角形であることに由来しており、正式名称ではない。

 このペンタゴンの部門の一つである「ガメリカ合衆国統合軍部門」の中に、国内に発生したダンジョンの対策チームが存在する。統合軍部門は、全世界に合衆国軍を派遣するにあたって、4つの軍を統合して動かすために存在している。また、サイバー軍や戦略軍、輸送軍といった機能別の部門も存在している。その機能別部門の一つに「合衆(United)(States)ダンジョン(Dungeon)(Command)」が設置されたのは、昨年10月のことであった。


「参謀長、日本の発表資料をお持ちしました」


「レベッカ、僕のことは参謀長と呼ぶなって言っただろ。ギルド(Guild)(Master)と呼べ」


 白衣を着た銀髪の若い男が、部屋に入ってきた金髪碧眼の美女をギロッと睨む。ペンタゴン内にあるUSDC参謀長の部屋だ。参謀長ともなれば、通常は各軍の将官クラスが就任する。だがUSDCの参謀長は違う。ペンタゴン長官直々の指名で、外部から対ダンジョン専門家を招聘したのだ。彼の名は「アイザック・ローライト」という。


 アイザックは天才であった。11歳でプリンストン大学に入学した彼は、14歳で医者の資格を取得した。だが彼の興味は人体から物理の世界へと移った。15歳でマサチューセッツ工科大学に入り、18歳で物理学の博士号を取得している。知能指数は200以上とも噂されるが、本人はそんなことには全く興味が無いらしく、面白そうと思った対象に食いつき、それを徹底的に突き詰めて研究し、飽きたらアッサリ捨ててしまう。量子力学における画期的な論文を発表した翌日には、東洋の占星術にハマっていたような男だ。自分が医師免許を持っていることすら、忘れているかも知れない。


 この天才が、ダンジョンに興味を持ったのは昨年のG7における発表を知ってからだ。時間が144倍の速度で流れる異空間と聞いて、この酔狂な天才が興味を持たないわけがない。僅か2週間で日本語をマスターすると、日本国で売られている全ての「ダンジョン系ライトノベル」を取り寄せて1週間で読破し、その3日後には「ダンジョン・エネルギー論」を発表した。出現したダンジョンが「異空間」だとした場合、それを維持したり魔物を生み出したりするエネルギーはどこから来るのか。量子力学におけるゼロポイントエネルギーが関係しているのではないかと数式で証明し、仮説を発表したのである。


 その論文に興味を示したのは、ダンジョンという言葉すら知らない学会ではなく、国防総省であった。世界一の天才がダンジョンに興味を持っている。これを使わない手は無いと考えた長官が、直々にアイザックを訪問し、説得したのである。さすがにダンジョン軍司令官を任せるわけにはいかず、参謀長としてダンジョン政策策定や調査計画の全般を担当している。





 そのアイザックはいま、日本時間で1月4日に達成された「世界初のダンジョン討伐」についての資料を見ていた。参謀長室内は壁一面がホワイトボードになり、床には資料が散乱している。秘書官であるレベッカの仕事は、それを片付け、資料棚に整理することだ。天才にありがちだが、アイザックには整理能力が全く無い。


「ふーん。このエゾエって男、何か引っ掛かるんだよねぇ。行動が可怪しい」


「具体的には、どう可怪しいのでしょうか?」


 立派な執務机の上に胡座をかいて座りながら、アイザックは呟いた。レベッカがそれに応じる。「聴き役」も、彼女の重要な役割だ。アイザックに言われ、江副和彦のファイルを手渡す。礼も言わずにそれを開き、プロフィールを眺めながら自分の耳朶を弄った。


「普通に考えてみなよ。経営(マネジメント)コンサルタントをしている40歳の男が、ある日いきなり冒険者になったんだ。何が理由だ? 書類仕事をしていた人間が、ダンジョンに入って魔物を殺して魔石を集めるなんて仕事を選ぶか? チェスプレイヤーがプロレスラーにジョブチェンジするようなものだぞ?」


「それだけ、ペイが良かったからではないでしょうか? もしくはダンジョンに危機感を持ったとか?」


「グラム100円という情報か? 1日何グラム採れるのか判らない段階で、どうやってペイを判断する? それに魔物大氾濫を懸念したという可能性も低いな」


「どうしてでしょう?」


「ラノベ好きのニートなオタクだったらわかるけど、彼は経営コンサルタントだ。つまり論理的な思考ができる。去年の一次募集段階で判明している情報から、大氾濫(スタンピード)の可能性を論理的に導き出すのは不可能だ。オタクが妄想を膨らませてダンジョン冒険者に手を挙げたってほうが、ずっと納得できる」


「別にオタクなコンサルタントが居たって不思議ではありませんが? 何しろ彼は、アニメ大国に暮らす日本人ですし……」


「確かにねぇ。ただ……レベッカは年末に日本で放送されたエゾエの独占インタビューは観た?」


「翻訳編集されたものでしたら昨日観ましたが……」


「ダメだよ。日本語ってのはニュアンスが重要な言語だ。英語に翻訳したら行間の意味が掴めなくなる。レベッカも日本語勉強したら? 1ヶ月あれば十分でしょ?」


「私は貴方と違って凡人です。1年でも無理ですよ。それで、そのインタビューが何か?」


 天才の欠陥「なぜできないのかが理解できない」という特徴は、アイザックにも共通していた。国外に出たことがないのに、どうしてこの男は10ヶ国語も操れるのか。レベッカは畏敬を超えて呆れていた。そんなレベッカの内心も知らず、アイザックは自分の考えを口にした。


「あのインタビューでエゾエという人物がなんとなく解った。彼は非常に知的な人物だ。とても妄想で動くような人間とは思えない。だが知性だけではないものがあった。彼は本気でダンジョンを討伐しようとしている。僕はエゾエから『生半可ではない決意』を感じたよ。命懸けでダンジョンに立ち向かう。なんとしてもダンジョンを倒す。彼自身の中にそうした『強い決意』がある。でも、その決意、動機はどこから来ている?」


 そう言われてレベッカも動画を思い出し、頷いた。


「確かに、強い口調でした。ダンジョンを討伐せねばならない(・・・・・・・)と言っていましたし。まるで、ダンジョン討伐が自分の責任であるかのような口調でしたね」


「『ダンジョン討伐が自分の責任』?……」


 アイザックは固まり、そして指を震わせながら耳朶を弄り始めた。


「まさか……いや、それなら全て説明がつく。可能性は決して低くはない」


「参…… ギルド長?」


 だが、レベッカの言葉はアイザックの耳には届いていなかった。ブツブツと独り言を呟く。


「7月30日の36日前ということは、6月24日か25日あたりか? 彼は何を知っている? その最初のダンジョンで、何を見た?」


 やがてアイザックは顔を上げた。


「レベッカ、日本に行く。カズヒコ・エゾエにアポイントを取ってくれ」


 そういって立ち上がる。レベッカは慌てた。放っておけば、この天才は関係部署への連絡も調整もせず、エコノミークラスで勝手に訪日しかねない。いや無理か。重要なモノが不足している。


「でしたら、まずパスポートを取らないといけませんね」


 レベッカはニッコリ笑い、アイザックは溜息をついて肩を落とした。





 キャラクターカードの存在は、冒険者運営局のみならず日本政府や司法までを巻き込んで議論が発生した。すなわち、キャラクターカードの人物は人間なのか、そして日本国民なのか?という問題である。基本的人権に煩い某野党の議員が記者に対して「人権侵害をやめろ」と言ったのが発端だ。 防衛省に出向いたときに記者に囲まれ、人権侵害や魔物虐殺について聞かれたので、俺は真っ向から反論した。


「私は、キャラクターカードは人間ではないと考えます。もし人間だとおっしゃるのなら、カード化する人間を連れてきてください。もし普通の日本国民がカード化するのなら、私も自分が間違っていたと認めましょう」


 ダンジョン・バスターズには、動物愛護や市民団体からの抗議メールが殺到している。このまま常会が開かれたら、参考人質疑に呼ばれる可能性すらある。だがそれは、俺にとっても望むところであった。ダンジョン討伐の障害になるものは、右翼だろうが左翼だろうが宗教団体だろうが排除する。


「魔物は本当に生物なのでしょうか? 私は40年生きてきましたが、死んだ後に煙となって消えてしまう生物など見たことありませんね。私は、魔物はダンジョンが生み出した『生体ロボット』の一種ではないかと考えます。つまり、生物ではなく動物愛護の対象でもない。魔物を守れと言うのならば、RPGに出てくる魔物たちも保護対象にすべきでしょう。そもそも、動物愛護活動というのは『ペットの虐待や遺棄』に対する啓蒙活動でしょう? ダンジョンの魔物を殺すのがダメなら、殺虫剤の販売も禁止してくださいよ。虫だって動物なんですから」


 中にはしっかりとした信念を持って主張し、行動している者もいるだろう。だがそうした活動家は、あまり多くないように思える。大半が「反対すること、ただ自己主張すること」が目的で、成し遂げるための具体的な行動が見えないのだ。拡声器を使って自己主張して、国会前でラップダンスを踊れば自分の理想が実現できるとでも思っているのだろうか?

民主主義社会において自分の政治的、思想的理想を実現させたいのであれば、共感者を集めて多数派となって権力を握るか、武装蜂起なりして既存の権力を破壊するしかない。そのどちらも怠っている活動家は総じて「似非」である。少なくとも俺は、そう定義している。


「オーストラリアでは、環境保護団体がダンジョン討伐に反対してデモ活動をしていますが……」


「それはオーストラリア政府に聞いてください。ここは日本です」


「ですが、少なくない人たちが反対を……」


「具体的には何人ですか? 人口の何%が反対しているんですか? ダンジョン討伐に反対なら政党を作り、選挙に出て政権を担い、法で規制すればいい。私は別に、彼らの信念や言論は否定しません。ですから私の信念や言論も、否定しないでもらいたい。思想信条の自由、言論表現の自由は、誰にでもあるんです」


 そう言って、俺は防衛省の庁舎に入った。疲れる質問に、思わず溜息が出てしまう。俺の知る限り、第二次大戦後の近代国家において、言論表現の自由が規制されたのは全て「社会主義国家」だ。恐怖政治(テロール)の語源となったフランス革命の活動家ロベス・ピエールから何も変わらない。理想家は、自分の理想に反する存在を排除する。10年前に日本で行われた事業仕分けという名の「官僚糾弾裁判」や、現在のウリィ共和国で行われている「積弊清算」も同じ構造だ。


「少し気分を変えるか。確か、喫煙所は外だったな……」


 民間人冒険者を集めた会議はD棟で行われる。その横にある喫煙所に向かった。1月の寒空の下、外で吸わなければならない省員も大変だなと思いながら、屋根の下に入る。黒いスーツを着たハイヒールの女性が、細巻きのタバコを口にしていた。


 評価や感想を下さった方、ブックマーク登録をして下さった方、全ての読者様に御礼申し上げます。ブックマークやご評価をいただけると、創作活動の励みになります。これからも頑張って書いていきます。

 頂いた感想はすべて拝読しております。本当にありがとうございます。


 今後も応援の程、何卒、宜しくお願い申し上げます。

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師父の技と駆け引き!!
[気になる点] 老師、はただ単に先生って意味で老いぼれってニュアンスはないと思います、むしろ先達として敬う気持ちが込められてます。 師父は正式な直接の師匠なので弟子として認めてやるって文脈なら老師では…
[気になる点] 劉さん老師と言われて怒って居ますが、老師に年寄りって意味合いはございませんので、ここの下りは要再考かと存じます。 相手が日本人ならいざしらず、お名前からして中華文化圏のかたですからね。…
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