第027話:Dランクダンジョン
北海道札幌市中央区大通西の1丁目から13丁目までを「大通り公園」という。この公園は1丁目にある札幌テレビ塔から始まり、交流、オアシス、つどいなどテーマによって区切られている。毎年2月には雪まつりも行われ、札幌市民200万人の生活に根付いた公園だ。
昨年10月11日、この大通り公園8丁目にダンジョンが出現した。通称「札幌ダンジョン」と呼ばれるこのダンジョンは、滑り台のようなオブジェがある芝生に出現した。幸いにも人は巻き込まれずに済んだが、8丁目から9丁目に掛けての区画は、自衛隊によって封鎖された。
「今年の雪まつりは、8丁目と9丁目を封鎖してやるそうだ。ダンジョンから魔物が出てくるわけではないから、札幌市も許可したらしい」
「むしろおバカな人がダンジョンに入ろうとしないかどうかが心配だね」
「今年の『雪ミク』はどんな出来なんだろ。気になるぅ~」
すすきのから大通公園までは徒歩で移動できる。ホテルを出た俺たちは、駅前通りを大通公園まで歩く。そこを左折して暫く歩けば、自衛隊によって封鎖された区画が見えてくる。8丁目区画は金網が張り巡らされ、入り口には自衛官2名が精悍な顔で立っていた。俺たちはそれぞれ、ダンジョン冒険者の免許証を取り出した。
「ダンジョン冒険者の江副和彦です。冒険者運営局の依頼で、札幌ダンジョンの調査に来ました」
自衛官は免許証の顔写真と俺たちを見比べ、そして敬礼する。
「お待ちしておりました。皆様の部屋を用意してあります。こちらへ……」
札幌施設団内は、横浜ほどに物々しい雰囲気ではない。公園内であることや、ブートキャンプが行われていないことなどが理由だろう。仮設された建物の中に案内されると、全員が敬礼してくる。俺は丁寧に一礼し、案内されるまま机の前まで進んだ。一台のパソコンが置かれている。その画面には、切れ長の目をした見知らぬ女性が映っていた。だが江副には、それが誰なのか一目で判った。
〈明けましておめでとう。江副さん〉
「おめでとうございます、局長……いつ、ブートキャンプに?」
ダンジョン冒険者運営局長の石原由紀恵は、ブートキャンプに参加したらしくアラフィフからアラサーに変わっていた。
〈ブートキャンプに参加したのは一昨日よ。地上時間で24時間、ミッチリ体験したわ。そのお蔭で、久々にナンパされちゃった。若返るって良いわね〉
「いや、行動早すぎだろ。というか正月三が日に、なんで自衛隊働かせてんの! 休ませてやれよ!」
思わず素でツッコんでしまう。だが石原は気にしていないようでケラケラと笑った。
〈自衛官は当直制なのよ? 正月でも交代で各ダンジョンを見張ってるし、定期的に自衛官が入ったりしてるわ。葛城陸将補にちょっとお願いして、私も入れてもらっただけよ〉
「いや、どう考えても職権乱用だろ。葛城さんも正月早々、可哀想に…… まぁ局長が若返ったのは横に置くとして、俺への用件は?」
〈年始の挨拶もあるけれど、相談よ。札幌ダンジョンは、他のダンジョンとは様子が違うそうなの。第一層は足で踏み潰せるくらいに小さなスライムだわ。ただし、カードも落とさないし魔石も出ないみたい。貴方が言うように、ダンジョン毎に難度の違いがあるようね。恐らく、そのダンジョンは現状では最弱のダンジョンのはずよ?〉
「踏み潰せる程度のスライムか……横浜を難度Cと仮定するなら、札幌は難度Dってところか」
石原は頷いて、用件を述べた。
〈今回、ダンジョン・バスターズに依頼したのは、あくまでも調査。貴方の厚意で、経費を後で請求するって契約だけれど、それに追加をお願いしたいのよ。可能であれば『討伐』してほしいの〉
俺の口元は歪んでいたように思う。
「つまり、ぶっ潰してしまえってことか?」
「魔石もカードも生み出さないダンジョンなんて、あるだけ迷惑だわ。施設の維持費だって、馬鹿にならないのよ? どこかのヤンチャな大統領のせいで、自衛隊はこれから忙しくなる。世界に先駆けて民間人冒険者制度を導入した日本が、世界で最初にダンジョンを討伐する。ガメリカがいなくても日本は自国を守れる。国内外への良いアピールになるわ」
「アピールというより、プロパガンダだろ? だが、ウチのデメリットは何もないな。最下層を調査する良い機会にもなるし、ウチも初討伐実績を持てる。了解した」
「衣類や食料、シャワールーム、あとビデオカメラのバッテリーやメモリーも、480時間分を用意しているわ。急速充電も可能だから、地上に戻った際に交換して頂戴。それで、討伐報酬だけれど……」
「『例の件』をなんとかしてくれ。できれば、常会招集前に」
〈今年の招集は1月22日だから、それまでに討伐してくれれば、間違いなく手配できるわ。じゃぁ、契約成立ね。期待してるわよ、バスターズの皆さん〉
画面のアラサー美人はウィンクして画面を切った。それまで黙っていた彰が、フゥと息を吐いた。
「兄貴…… あまり言いたかないけど、オンナの趣味、悪いぜ?」
「ギルド長は女王様。葉巻咥えながら『跪けっ!』って言ってる場面、書いてみようかな」
どうやら二人には、画面の女性がどこかの漫画のキャラクターに見えたらしい。漫画やアニメは俺の守備範囲外だから知らん。まぁ確かに「勘違いしないでね? お願いじゃなくて命令なの」とか言いそうだ。付き合い方は考えよう。
「よし、では行くか。目標は最下層だ」
こうして、札幌ダンジョン討伐作戦が開始された。
兄貴は言う。ダンジョン討伐に最も厄介なのは、出てくる魔物の強さではない。「討伐させまい」とする人間が、一番厄介だと。そうした人間を減らすためには、討伐したほうがメリットが有るのだと証明しなければならない。だから兄貴は、国からの依頼は殆ど無償で受けている。そして討伐したダンジョンは、その管理を国に、もしくは国連に任せると言っている。討伐者がダンジョンを独占してしまったら、必ず争いが起きる。最初の討伐者が国に委ねるという先例を作る必要があるのだ。兄貴はそう言っていた。
「念のために朱音とエミリを連れてきているが、Dランクなら俺たち3人でも討伐できるかも知れない。今回はカメラを回しているし、できるだけ3人で進むぞ」
「僕は問題ないね。燃える戦いは先のようだし」
「でも江副氏ぃ。念のため、事前に朱音氏から話を聞いておいたほうが良いと思うよ」
「だな。カメラを付ける前に、第一層で朱音の話を聞こう」
安全地帯にはブルーシートが敷かれ、マットレスやバッテリーも準備されていた。僕たちは装備を整えるとカメラを外して、そして第一層へと入る。兄貴は早速、朱音を顕現させた。
「和彦様、お呼びでしょうか?」
「朱音、ここは札幌ダンジョンと呼ばれている。第一層を回りながら、お前の意見を聞きたい。俺の見立てでは、Dランクダンジョンではないかと思う。ダンジョンの難度判定と、Dランクダンジョンについて、お前の知っていることを教えてくれ」
「畏まりましたわ」
第一層は、聞いていた通り5センチ程度の緑色のスライムがプルプル震えているだけだったよ。踏みつけると簡単に消える。けれど魔石もカードも落とさないね。
「ベビースライムですわ。Fランクにも達しないほどに弱い魔物です。和彦様のお見立て通り、Dランクダンジョンでしょう。Dランクダンジョンは、出現する魔物の大半がDランク以下で強化因子も少なく、
最も早く討伐されるダンジョンですわ。深さは恐らく、6~7層といったところでしょう」
「俺たち3人だけで、討伐は可能か?」
「出現する魔物にもよりますが、まず問題ないかと。ただ一つだけご注意ください。ダンジョンの最深部にはダンジョン・システムの分身体であるコアがあり、それを護るガーディアンと呼ばれる魔物がいます。Dランクであれば、ガーディアンの強さは最大でもCランクでしょう。ですがガーディアンは単体とは限りません。Cランク魔物の群れである可能性もあります。その場合は、私たちをお使いください」
「なるほど。ラノベやゲームでは、ダンジョンマスターとか階層主とかは1体というのが定番だが、現実のダンジョンでは違うか。まぁ、考えてみれば当然か。助かった。カードに戻ってくれ」
姉御は一礼してカード化した。それをケースに入れている兄貴を見ながら、僕はもう一つの言葉を思い出した。兄貴はこうも言っていた。ダンジョン討伐者は、地表でもカードが使えるようになる。だから、誰がその能力を持つかを慎重に決めなければならないのだと。
「巨大な力を持てば、人は変わる。本来、俺のような人越者は存在してはならないんだ。ダンジョン・システムが人間を進化させる装置だったとしても、その進化の方向性が『強さ』だけならば、人類は手にした力で自らを滅ぼしてしまうだろう。俺は、ヒトは今のままで良いと思う。異世界のシステムで進化など、余計なお世話だ」
瑞江のクラブで飲んでいた時に、ふと兄貴がそんな言葉を漏らした。僕は強さを求めていた。だけど兄貴からは、強さの「使い途」を考えろと言われている。そういう人だから、僕はこの人を「兄貴」と呼んでいるんだ。
ダンジョンの初討伐。これをVTRに収めることができたら、世界中に大きな反響が起きると思う。そしたら僕は、ダンジョン・バスターズのIT管理の仕事に特化するつもりでいる。やっぱり僕は、魔物を殺していく最前線には向かない。プルプルと震えるスライムを見ると、どうしても可哀想に思ってしまう。だから僕は、この札幌ダンジョンを討伐し終えたら、冒険者業を止めるつもりだ。
「ヘルメットに小型カメラが付いてるけど、揺れると思うからハンディカムで録画するね。僕はあまり戦闘に役に立たないから、戦うのは江副氏と宍戸氏だけになっちゃうけど……」
「録画はこの任務における最重要の仕事だ。撮ることに集中してくれればいい。彰、前は任せるぞ。後衛は俺がやる」
「了解、マッピングしながらになるから、それほど早く進めないし、出てくる魔物もEランクまでなら僕一人でも十分さ。ムッチー、格好良く撮ってくれよ?」
「ま、任せて」
人類は今のところ、ダンジョンについて何も判っていない。世界中の国が、軍隊なり民間人なりをダンジョンに入れて、手探りで調査している。もし最深部、そして討伐までの全てを動画に収めることが出来たら、その価値は計り知れない。この動画は、世界中の政府、軍隊、そしてテレビ番組で使われるかも知れない。撮影担当である僕の責任は重大だ。
「この世のどこにも、やり甲斐のある仕事なんて存在しないし、誰かからやり甲斐を与えられるなんてこともない。いま目の前の仕事を自分の中でどう位置づけるか。やり甲斐とは、自分の中における仕事の位置づけに他ならないんだ」
ダンジョン冒険者になった時に、江副氏は僕にそう語ってくれた。自分の仕事は、仲間たちにやり甲斐を与えることではない。やり甲斐を見出しやすい環境を整え、見出しやすいように説明してやることだって。
「魔物を殺すことにどうしても躊躇いを覚えるのなら、別の仕事をすればいい。だが、ダンジョン・バスターズに所属することには意義を見出してほしい。俺たちは金銭目的でダンジョンに入るんじゃない。いずれ来る魔物大氾濫に備えてダンジョンを詳しく調査し、少しでもスタンピードの規模を抑えるために討伐するのが、俺たちダンジョン・バスターズの存在意義だ。そのためには、ダンジョンに入る冒険者だけじゃなく、得られた情報を正確に広報したり、他の冒険者と情報交換したりする専門の担当者が必要だ。睦夫はそれをやってくれないか」
江副氏はいずれ、100名を超える冒険者を集めて、巨大な「クラン」を作るつもりだ。拠点管理業務や移動手配などの事務、ネットを使った広報や情報収集などバックスタッフ部門が必要になる。その仕事なら、魔物と戦う必要は無い。世界中から集まる勇者たちを支えるんだ。うん。僕は物凄く、やり甲斐を感じているよ。
第一層のベビースライムは、敵でさえ無かった。念のために第一層全体を歩いたが、戦ったという感覚さえない。2時間掛けて第一層を歩き、魔石やカードが出ないことを十分に確認したうえで、第二層に向かった。
「第二層も……スライムだな」
30センチほどの大きさの、水色の半透明な肉体?を持つプルプルした魔物がいる。彰は歩を止めること無く、プルプルに向かっていった。
「ラノベだと、物理衝撃耐性を持つなんて設定もあったけど、これはどうか……なっ!」
サッカーボールのように蹴り飛ばす。スライムは壁に打ち付けられて、そして煙となった。そして案の定、魔石は出ない。
「これも魔物以下か? 第一層がベビースライムとするなら、第二層はキッズスライムといったところか。ダンジョンの構造も碁盤目状のままのようだ。念のためここでも2時間の調査をして、第二層の安全地帯で休憩後、第三層に行くぞ」
「「了解」」
水色のプルプルがポンポンと弾け飛んでいく。俺たちは良いが、ブートキャンプをやるには不向きなダンジョンだ。第三層に行くまでに、最短でも1時間は掛かるだろう。石原局長が言ったように、メリットよりデメリットの方が大きいダンジョンなのかも知れない。
「よし、メシにするぞ」
第二層の安全地帯で食事にする。アウトドア用の折りたたみテーブルを広げ、その上で料理をする。ガスコンロ3台を並べ、スープを作ったり米を炊いたりする。
「ダンジョン内の食事はとっても重要だよ。日本はこうした道具が揃ってるから、僕らは結構、豪華な食事をしてるんだ。今日はハヤシライスと野菜スープだね。レトルトだけど、銀座廣末の高級な奴をダース単位で用意しているよ。野菜スープは乾燥させた国産野菜を中華スープで戻して、溶き卵を入れたやつだね。キャベツと人参、椎茸、乾燥ネギが入ってるよ」
カメラを回しながら、睦夫が解説する。「魔法の革袋」や「魔法の水筒」はUn Commonカードだから自衛隊にも存在していることは確認済みだ。Rareカードの「異空間の革袋」さえ出さなければ、ビデオに映っていても問題ない。
食事を終えた俺たちは、少し休憩して第三層に入った。早速、魔物が出てくる。だが俺たちに焦りはない。出てきたのは馴染みのある魔物だったからだ。
「なるほど。第三層はゴブリンか」
鹿骨のAランクダンジョン「深淵」の第一層の魔物が、札幌ダンジョンでは第三層に出てくる。それだけ差が大きい証拠であった。彰はつまらなそうに、それでも容赦なくゴブリンを屠っていく。
そしてようやく、魔石とカードを落とすようになった。だがそれほど大きくない。俺はグリーンピースよりも小さな黒い石を摘んで計量してみた。
「3グラム以下だ。これは横浜ダンジョン第一層より小さいぞ。なるほど。ダンジョンによってコスパがあるわけか。だが魔石を落とす以上は、残すべきか? これは局長と要相談だな」
魔石の大きさやカードドロップ率などを計算しながら歩いていると、先頭を行く彰が止まった。
「あれ、行き止まり?」
第三層も碁盤目状かと思ったが、途中で行き止まりがあった。基本は碁盤目にしながら、所々に行き止まりを設けた迷宮構造のようである。
「なるほどな。念のため、一旦は入口前に戻るぞ。マッピングしながら、進み直そう」
第三層の入り口に戻ると、俺は睦夫に確認した。
「睦夫、ダンジョンの迷宮を自動的にマッピングするようなアプリって開発できると思うか?」
「ある程度の精度で良ければ、可能だとは思うよ。歩幅を登録して、歩いた歩数でマップを描いていけるようにすればいい。魔物と戦っている時は、音声で止めるようにするとか。あとはタブレットPCで逐次確認して修正するような感じかな。マッピング補助ツールって感じだと思う。でも、ガチャアイテムとかにそういったのありそうな気がするけど……」
「ガチャアイテムでは汎用性が無い。俺たちだけでなく、世界中の冒険者が使用できるツールが欲しい。まぁ、今後の課題だな。今は、紙とペンでやるとしようか」
再び、第三層の探索を始めた。
第三層はゴブリン、第四層はEランク魔物のホブゴブリンであった。ゴブリンより身体が大きいが、武器を持っていないため大した相手ではない。
「大阪ダンジョンは、第一層から剣を持ったコボルトが出てきたよな。札幌では第四層でも素手のホブか。いずれ、大阪を確認する必要があるな」
「迷宮が入り組み始めてるね。兄貴、左手法を使って進むから、マッピングお願いね」
「任せろ」
方眼紙のノートを使ってマッピングを始める。時折、ホブが後方からも襲ってきたが、蹴り一発で倒すことができた。Dランクダンジョンは、CとDの混成チームで攻略可能だろう。
曲がる時に、歩いた歩数を書き込む。こうやって距離を割り出しながら、マップを完成させていく。こうした伝統的なマッピング手法も、後続の冒険者たちに教えてやる必要があるだろう。
「左手法は時間が掛かるし、構造全体を割り出すには不向きだから、やっぱりアプリ開発が必要だね。仲間たちに確認しておくよ」
睦夫はカメラを構えたまま進んでいる。2時間もカメラを構え続けるのはかなり辛いはずだが、汗を浮かべながらも耐えている。これだけでランクが上がりそうだ。
俺たちは4時間掛けてダンジョン内を探索し、発見した安全地帯で休息を取った。あと4時間あれば、第四層のマッピングは終わるだろう。
「今日は第四層のマッピングを終えたら、休みにしよう。一旦、地上に戻って風呂に入るぞ」
「第四層も大したこと無いね。これなら姉御たちの活躍は無いかな? あ、ムッチー、今の部分はカットね」
「大丈夫だよ。休憩時間中はカメラ止めてるから。取ってるのは食事風景だけ」
「この動画も短くして、ダンジョンのマップと共にホームページにアップしたいな。世界中のダンジョン冒険者にとって、貴重な情報になるだろう」
「ホームページは、まだ『Coming Soon』の部分があるから、もう少しコンテンツ欲しいね」
ダンジョン・バスターズのホームページは1月1日にアップされた。とは言っても、コンテンツはまだまだ不足している。UCまでのカード情報や横浜ダンジョンについての記載など、情報量は少ない。
「3月末に本社が完成すれば、大きくリニューアルしよう。睦夫もホームページ管理に特化して、色々とコンテンツをアップしていってほしいからな。メンバーをもっと増やしたいところだが、こればかりはな……」
ダンジョン・バスターズに入るための条件は、ある意味で厳しい。戦闘狂の彰は別としても、金銭欲や名誉欲などの私的欲求だけでなく「誰かのためにダンジョンに入る」という利他の思いを重視している。
動機要因を重視する理由は、ダンジョンで力を得てしまった後が不安だからだ。仮に、私欲しか無い人間が「精神支配魔法」などを使えるようになったらどうするだろうか。その力を自己利益のために使おうとするだろう。
「ダンジョン・バスターズのメンバーは、地上ではスキルや魔法を私利私欲のためには使わない。自分の身を護るとき、そして誰かを助けるときのみに使う」
契約書にサインしているわけではないが、現バスターズ4名全員で話し合い、そう決めている。
「いっそ、自衛隊員をバスターズしちゃったら? 『国防』っていう公のために働いてるんだから、要件は満たしてるんじゃないの?」
「宍戸氏に一票、僕もそう思うよ。できれば、迷彩服着た巨乳の女性自衛官が仲間に欲しいよ」
「そりゃ、ムッチーの私的な願望でしょ!」
二人はボケとツッコミで笑い合っている。確かに、自衛官なら要件を満たすだろう。だが不安もある。これ以上、自衛隊そして防衛省に近づいて良いのだろうか。ダンジョン・バスターズが半官半民組織になりかねない。10年後の破滅を回避できるのであればそれでも構わないが、天下り受け入れ組織がマトモに機能するとは思えなかった。
「現役の自衛官、それも少数精鋭を『転籍させる』のなら、良いかも知れないな……」
玉ねぎとピクルスの微塵切りとコンビーフをマヨネーズで和えて、それをパンに挟んだ「コンビーフ・サンド」を齧りながら、俺は独り言を呟いた。
第2章は毎週「日曜日」「水曜日」「金曜日」の昼12時過ぎに投稿致します。7500文字を毎日書くのは難しく、週3話投稿でお許し下さいませ。
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