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SS:年末の棚卸し

 経営コンサルタントの仕事をしていると、クライアントから「どうやったら生産性が伸びるか」などの質問を受けることがある。集合研修で社員を集め、どこぞの講師にリーダーシップだのコミュニケーションだの研修をやってもらっても、あまり効果が見えないそうだ。そういう質問に対して、俺は常にこう答える。


5Sファイブ・エスです」


 「5S」とは、工場で使われることが多い。「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」の5つの頭文字を取って5Sと呼ぶのだが、俺はこの5Sこそ「ビジネスマンの万能解」だと考えている。生産現場であろうがオフィスワークであろうが研究開発であろうが営業であろうが、地球上の全てのビジネスマンは、この5Sによって生産性を高めることができる。俺はそう言い切っている。

特に、オフィスワークにとって5Sは極めて重要だ。パソコンのデスクトップが汚い奴は、大抵の場合は仕事ができない。「社会人は自己管理が大事」というが、自己管理を具体的にしたのが5Sである。そして、5Sは当然、ダンジョン内でも有効であった。





「さて、今月の収支を計算するか」


 個人事業主は青色確定申告であるため、領収書の整理は必要不可欠である。俺は毎週末にスクラップし、毎月末に一ヶ月間の収支を会計ソフトに入力している。だがその作業に、新たに加わったものがある。ダンジョンから得た収入や各種魔物カード、ガチャで手に入れたカード類の整理だ。12月30日は終日掛けて、それらの整理を行なった。場所は無論、鹿骨ダンジョンの安全地帯(セーフティゾーン)である。


【現状保有魔物カード】

1.ゴブリンカード(ランクF):803枚

2.オークカード(ランクD):549枚

3.スケルトンナイトカード(ランクD):5,018枚

4.ゴブリンソルジャーカード(ランクC):15枚

5.エビルラビットカード(ランクF):51枚

6.エビルモモンガカード(ランクE):54枚

7.迷宮オオゲジ(ランクF):18枚


 深淵第三層までは定期的に狩りを続けているため、カードはそれなりに保有している。だがゴブリンソルジャーカードを使えば「Super Rare」が出現する。今後はこれを集める必要があるだろう。エビルラビット(ミューカード)やエビルモモンガカード(プリンカード)は、魔石納入の中で手に入れたものだ。枚数がそれほど多くないのは、彰と分けていることもあるが、持っていたら茉莉が勝手に召喚しそうなので、ガチャでの消費を優先させているからだ。


「ポーションもそうだが、装備類やアイテムをもっと充実させたいな。バスターズのメンバーを1チーム6名として20チーム作れば120名になる。基本装備くらいは用意しておかないとな」


 ガチャで出現したそれぞれのカードをガチャの種類とレアリティで分類し、枚数を記録していく。また不必要に多いカードはガチャで消費していく。


「この半年間で使用したカードは、ゴブが8千410枚、オークが9千150枚、スケルトンナイトが1万6千320枚、エビルラビット4240枚、エビルモモンガ4530枚、回したガチャの累計回数はおよそ6千回か。あまり使えなそうな奴とかは数枚残してガチャで再利用したから、レアリティが低い奴ほど種類が少ないんだよな」


 カードケースを取り出して、枚数を確認しながら表計算ソフトで作成した管理表と照らし合わせていく。ガチャで出現したカードを再度ガチャで使用した場合、Fランクのエビルラビットカードくらいの価値であることが判った。迷宮オオゲジのカード15枚でガチャ1回分であった。このことから、ダンジョンのランクによって、同じFランクでもガチャに必要な枚数が異なるようだ。どの魔物であれば何枚でガチャ1回分かも確認していく必要があるだろう。


 続いて収入を計算する。鹿骨のAランクダンジョン「深淵(アビス)」でドロップした現金から計算を始める。


「倒したゴブリン数17万7千174体、オーク数26万9千417体、スケルトンナイト66万6千813体、ゴブリンソルジャー1千250体、合計10億3106万7千円」


 続いて横浜ダンジョンの計算に入る。


「倒したエビルラビット数7万1千516体、エビルモモンガ数12万631体、収めた魔石量704キロと223グラム、収入は7千42万2300円……」


 表計算ソフトで毎回の討伐数と獲得魔石量は管理している。横浜ダンジョンに限っては彰と完全に折半している。わずか20日弱、しかも折半でこの額だ。冒険者稼業がいかに儲かるかが判る。


「だがいずれ、深淵での現金収入は無くなる。その場合はスポンサー契約を解除しなければならないな。まぁ、ホームページに『協賛企業』と載せるくらいは構わないか……」


 表計算ソフトと会計ソフトの数字がピッタリと一致する。俺は満足してファイルを閉じた。だが仕事はこれで終わらない。次は各カードの棚卸しをしなければならない。





【アイテムカード】※一部表示

■Common

1.ポーション 60枚

2.マギ・ポーション 251枚

3.解毒薬 245枚

4.麻痺回復薬 205枚

5.気付け薬 197枚

※「おしゃれなペンダント」「ただの毛布」「ただの水筒」などは2枚を残して全てガチャに使用


■Un Common

1.ハイ・ポーション 135枚

2.ハイ・マギ・ポーション 122枚

3.状態異常回復薬 108枚

4.使い捨て結界 92枚

5.魔法の革袋 49枚

6.魔法の水筒 52枚

7.誓約の連判状 68枚

8.ラッキーリング 47枚

9.マジック・トーチ 67枚

10.召喚獣の巣穴 45枚

11.電撃のトラップ 48枚

12.落とし穴のトラップ 45枚

13.ウフフなローション 12枚

14.魔法の緊縛縄(封印中)

15.お黙り!ハイヒール(封印中)

※「高級なペンダント」「モフモフ毛布」などは2枚を残して全てガチャに使用


■Rare

1.エクストラポーション 11枚

2.異空間の革袋(小) 10枚

3.怠け者の荷物入れ  12枚

4.素早さの靴 4枚

5.ガード・リング 7枚

6.パワー・リング 3枚

7.マジック・リング 3枚

8.ドロップ・アップ・バンド 4枚

9.真純銀(ミスリル)の鉱石 5枚

10.モフモフブラシ 2枚

11.マジカル・トイレット 3枚

12.もふもふ靴下 3枚

13.イフリートの召喚石 2枚

14.アスラの召喚石 1枚

15.シルフの召喚石 2枚

16.オークの精力剤 3枚

17.性奴隷の首輪(封印中)

18.女王様の鞭(封印中)



【武器カード】※一部表示

■Common

1.短剣 10枚

2.棍棒 10枚

3.苦無 10枚

4.青銅の剣 10枚

5.短弓 10枚

6.杖 10枚

※各種10枚ずつ残し、随時、ガチャに使用


■Un Common

1.鋼鉄槍 10枚

2.ウォーハンマー 10枚

3.魔法師の杖 10枚

4.頑丈な棍棒 10枚

5.ロング・ボゥ 10枚

6.ミドルソード 10枚

※各種10枚ずつ残し、随時、ガチャに使用


■Rare

1.忍刀 3枚

2.総鋼の円匙 2枚

3.聖なる魔杖 2枚

4.大魔術師の杖 1枚

5.獣のグローブ 2枚

6.探求者の戦槌 1枚

7.真純銀(ミスリル)の拳鍔 1枚


■Super Rare

1.彗星・斬鉄剣 1枚



【防具カード】※一部表示

■Common

1.革の胴当て 2枚

2.木の盾 2枚

3.丈夫なズボン 2枚

4.麻のシャツ 2枚

5.革の帽子 2枚

6.木綿の忍び服 2枚

7.可愛いワンピース 2枚

※2枚ずつ残し、随時、ガチャに使用


■Un Common

1.鉄の胸当て 2枚

2.革の盾 2枚

3.鎖帷子 2枚

4.丈夫なシャツ 2枚

5.丈夫な忍び服 2枚

6.格闘着 2枚

7.魔法師の服 2枚

8.鉄の兜 2枚

※2枚ずつ残し、随時、ガチャに使用


■Rare

1.黒鋼の鎖帷子 3枚

2.鋼の胴鎧 3枚

3.防刃忍び服 3枚

4.魔道士の外套 3枚

5.魔術師の戦衣 2枚

6.処女の聖衣 2枚

7.豪腕の格闘着 3枚

8.真純銀(ミスリル)の手甲 1枚

9.小生意気なホットパンツ(封印)

10.女王様のボンデージ(封印)


 こうして見てみると、レアリティが上がるほどにカードの種類が増えていく。恐らくダンジョン・システムを設計した存在は、レアリティの低いカードは使い所が限られるため、Rare以上のカードの種類を増やしているのだろう。中には首を傾げざるを得ないカードも存在したが、これは恐らく、システム設計者の「趣味」なのだろう。


==================

【名 称】 小生意気なホットパンツ

【レア度】 Rare

【説 明】

10代中頃の少女に履かせるだけでアラ不思議、

小生意気でツンデレな無抵抗少女になります。

後は貴方の思いのままに……

==================


「……ハッキリ言って、アホとしか思えん」


 エミリに履かせてみたいという欲望は全く浮かばなかった。浮かばなかったハズだ。浮かばなかったんじゃないかな? まぁちょっとだけあったかも知れん。


 俺は首を振って、カードを封印用のケースに入れた。





【12月30日(曇)】

今日は終日掛けて、部屋の大掃除をした。仮住まいであるマンションを終えると、「深淵」第一層の安全地帯(セーフティゾーン)の掃除を始める。床板のワックス掛けや革張りソファーや椅子に保湿クリームを塗り、ベッドの布団も全て引き上げた。来年は1月3日までは休みだ。私も久々に、地上で連日を過ごすことになる。僅か4日間が、ダンジョン内では576日間に相当する。しっかりと掃除をして、時間停止の結界を貼った。


来年1月4日は札幌出張だ。念のために、朱音とエミリも連れていくつもりだ。だがレジェンドカードを地上に持ち出せば万一のこともあるかもしれない。私が相当量のカードを保有していることは知られている。そのため、カードは全てこのダンジョンに保管する。念のため、ダンジョンに続く階段には電撃のトラップを複数仕掛けた。侵入者が来るとすれば、地上から階段を使って下りてくるはずだ。このトラップがあれば撃退も可能だろう。誤って私自身が掛からないようにしなければならない。1月4日、札幌出張の直前に、深淵に入る。その際のタスクリストに入れておいた。


 明日は東京テレビの生放送に出演する。それに先立ち、この半年間を振り返った。倒した魔物の数をカウントすると、愕然とする。これだけの数を屠っていながら、私は未だにCランクなのだ。ロールプレイングゲームであれば、とっくにレベルカンストしているのではないか? これがゲームではなく、現実のことなのだと実感した。私がBランクになるには、あと何十万の魔物と戦わなければならないのだろうか。


 カードを整理していると、やはりダンジョン・システムを設計した存在が気になってしまう。その存在は恐らく、日本のライトノベルやアニメなどの影響を受けているだろう。だが、これがガメリカ人などの他国民だったらどうだろうか。例えばSRランクの武器である「彗星・斬鉄剣」だ。これは日本人ならアニメを思い浮かべるだろう。だがガメリカ人はどうだ? むしろ、映画「ギャラクシーウォーズ」に出てくるライトニングセイバーのようなものを期待してしまうのではないだろうか。


 ガチャで出現するカードは全世界共通なのか、それとも回した人間の国籍や文化によって変化するのか。カードに表記される文字は日本語のままなのか、それとも英語やハングル、東亜語など各国言語に分かれるのか。これらはいずれ、検証する必要があるだろう。


 新年早々には、睦夫がリーダーとなって進めた「ダンジョン・バスターズ・ホームページ」が公開される。出せる範囲でのカード情報も載せている。きっと多くのアクセスがあるだろう。私の目的は、ダンジョンを討伐することだ。それは何も、私の手だけでやることではない。世界中に同志が生まれてくれるのならば私は喜んで、これまで得たダンジョンの情報を提供しよう。そのためにも、明日の生放送は失敗できない。世界に向けて、ダンジョンの危険性を示唆するつもりだ。




 日誌を書き終えた俺は、全てを確認して安全地帯(セーフティゾーン)の時間を止め、ダンジョンから転移した。転移した先はマンションではない。飯抜きで集中的に掃除をしたため、かなり腹が減っている。あまり知られていないが、一之江駅にはラーメンの有名店がある。「ラーメン次朗 一之江店」だ。今日は、今年最後の営業日だ。「大ダブル全マシ味玉」を頼もう。一之江駅前のトイレから出た俺は、かなりの空腹を感じながら、環七通りを葛西方面へと歩き始めた。




コミック版「ダンジョン・バスターズ 第4巻」がもうすぐ発売されます。特典SSなども付いています。ぜひお手に取ってください。


《書籍版》

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

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《コミック版》

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

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[一言] お黙りハイヒールに思わずわろてしもた
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