第025話:ダンジョン・システム
話は少しだけ時を遡る。田中睦夫のダンジョン・ブートキャンプを終え、横浜ダンジョンで魔石確保に勤しんでいた頃、俺のもとには雑誌の取材やTV番組の出演、講演会など複数の依頼が舞い込んでいた。
「年末恒例の『朝まで生討論』に参加頂けませんか? 今年のテーマはダンジョンおよび対ダンジョン政策です。司会は俵屋壮太郎、他にも元自衛隊幕僚長やライトノベル作家、与野党の政治家の方々も参加予定です」
「申し訳ありませんが、お断りします」
80歳を超えてる司会者はともかく、他の連中はダンジョンに入ったことあるのかよ? 現場も見てないのにどうやってダンジョンを語るんだよ。空中戦の議論はどちらかと言うと得意だが、彼我の知識量と認識に差がありすぎて、議論にならないと思った。
すると今度はバラエティー番組からの出演依頼だ。なんでも、ダンジョン冒険者の身体能力を見せるコーナーに参加してほしいらしい。
「TNG47も出演します。ぜひ!」
「申し訳ありませんが、お断りします」
その利根川さんたちがダンジョンに入って強くなるための手伝いをしてくれって言うのなら良いけど、握力測定だのなんだのして「わーすごい」って言われるだけのオチが見えた。そんな話は俺じゃなく彰に持っていってくれ。
そんな中、「安定の東テレ」が面白い企画を持ってきた。独占インタビューをさせてくれというのだ。しかも生放送でだ。ダンジョンだけでなく、ダンジョン冒険者制度や魔石出現による経済の変化、各国のダンジョン政策など、幅広く意見を聞きたいそうだ。
「江副さんは、ダンジョン冒険者であると同時に、経営コンサルタントでありダンジョン・バスターズの経営者でもあります。多角的な視点から、ダンジョンについて語っていただきたいのです。インタビュアーは『ワールド・ビジネス・ニュース』のメインキャスターである大須賀文香です」
「……面白い」
ワールド・ビジネス・ニュースは、ビジネスマンなら知らない者がいないほどに有名だ。そのメインキャスターの大須賀アナはベテランであり、数多くの経営者や証券アナリスト、経営コンサルタントのインタビュー経験を持っている。時間も良い。20時00分から22時00分の2時間だ。その後は「独りのグルメ」の大晦日スペシャルらしい。帰りにワンセグで見よう。
その企画を聞かされた時、私の脳裏に浮かんだのは「ブートキャンプ」という言葉であった。人類史上初のダンジョン冒険者である江副和彦氏への単独インタビューは、報道に身を置く者ならば鼓動が高鳴るはずだ。彼は名が知られている割には、あまりマスコミの前に姿を現すことはない。テレビカメラの前で稀に喋るときでも「より多くの冒険者が集まることを期待する」程度しか言わない。彼は、ダンジョンの中で何を感じ、ダンジョン冒険者制度をどのように考え、そして人類の未来をどう憂いているのか。聞きたい質問は山ほど浮かんだ。
だがその前に、私自身がダンジョンに入らなければならないだろう。冒険者になるつもりはないが、ブートキャンプにはエクササイズコースもある。私は局に根回しをしてもらい、12月中旬から始まる「ダンジョン・ブートキャンプ」に参加した。
そして今夜、江副和彦をゲストに迎え、独占インタビューをしながらダンジョン、そして世界の今後について考える。メイクを受け、特設した会場に入ると既に江副氏がいた。カメラマンやディレクターたちに挨拶している。私に気づいたようで、近づいてきた。
「はじめまして。ダンジョン・バスターズ代表の江副和彦です」
渋みのある声と柔らかい物腰、頭髪は軽くクリームをつけて整えている。上質なテーラードのスーツとそれによく似合うネクタイ、シャツはカフスボタンで留め、時計はWWCのようだ。しっかりと磨き上げられた靴は夫と同じJ&Mだろうか? なるほど、確かに一見すると、若手経営者や経営コンサルタントに見える。だがそれだけではない。私がこれまで出会ってきた経営者やコンサルタントとは明らかに違う雰囲気がある。そう、逞しい雄の雰囲気だ。この男は経営コンサルタントでありながら、同時に冒険者として暴力の世界で生きている。知性と野性、言葉と暴力、この対立する二つが融合している。
「はじめまして。東京テレビ報道部の大須賀文香です。本日は、宜しくお願いします」
名刺交換を行い、私たちはそれぞれの席についた。
「テレビ番組に出るのは初めてです。至らぬ点もあるかもしれませんが、ご容赦ください」
私は軽く頷いた。本番に入る合図が始まり、姿勢を整えた。
「こんばんは。大晦日の夜、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。去年と同じように過ごしている人、あるいは新しい出会いがあり、去年とは違う過ごし方をしている人も、いらっしゃるかもしれませんね。さて、今夜の東京テレビは去年とは違います。52回目を迎えた『忘年、日本の歌謡』をあえて短くし、これからの日本、そして世界について考える2時間の番組を用意しました」
ここで画面が切り替わる。別のカメラに顔を向ける。
「今年は人類の歴史に残る年でした。ダンジョンと呼ばれる未知の空間が全世界に出現しました。そこには見たこともないような生物が棲み、科学では説明がつかないような物質が発見されています。世界は、この後どのようになってしまうのか。今夜は、世界初の民間人冒険者であり、恐らく世界中で最もダンジョンに詳しいであろう人をゲストにお呼びし、独占インタビュー形式で、世界の未来についてみなさんと考えたいと思います。それではご紹介しましょう。民間人ダンジョン冒険者であり、株式会社ダンジョン・バスターズの代表でもある、江副和彦さんです。江副さん、今夜は宜しくお願いします」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
「本番組では視聴者の皆さんからも、江副さんへの質問を受け付けています。SNSや番組のホームページに、江副さんへの質問をお寄せください。さて、聞きたい質問が山程あるのですが、最初に、本質的な質問をさせていただきます。ダンジョンとは、なんでしょうか?」
江副氏は微かに目を細め、そして口角を上げたように見えた。
やはりこの番組に出演したのは正解だった。まさか目の前の美人キャスターから、俺が朱音に聞いた最初の質問が出てくるとは。俺は頷き、机の上で指を組んだ。
「魔物が出る、魔石が採れる、時間が早く進む……恐らくそんなことを聞きたいのではないでしょう。いつ、誰が、なんの目的でダンジョンを生み出したのか。そういうご質問だと思います。『いつ』というのは解りません。この地球だけなのか、全宇宙の他の星にも出現しているのか、過去にも同様のケースがあったのか。こうしたことは、情報が不足しているため判断しようがありません。『誰が』という点も同じです。ネット上では異星人の仕業とか、粒子加速器実験のせいで異世界と繋がったとか、あるいは神が人類を罰するために生み出した、なんて言われていますが、これも証拠がありません。ただ恐らく、人間がやったことではないでしょう。現時点で言えるのはそこまでです。ですが『なんの目的で』という質問に対しては、私なりの仮説はあります」
「ぜひ、聞かせていただけませんか?」
大須賀が前のめりになった。スタジオ内も静まり返る。俺は数瞬、間をおいてカメラに向かった。
「結論から言いましょう。私は、ダンジョンとは人類を進化させるためのシステムだと考えています。そして、進化に値しないと判断した時、ダンジョンがどのような行動に出るか。私はそれを非常に恐れています」
ゴクリッと誰かが唾を飲む音が聞こえた。
「これはあくまでも私の仮説です。ですから大須賀さんも、テレビの前の視聴者の方も、鵜呑みにせず自分で考えてみてください」
「それは勿論です。ですがその前に、その仮説の根拠をぜひ、聞かせてください」
これが、この男の話し方なのだろうか。巨大な石を落とし、波紋が十分に広がったのを確認して、それからおもむろに語り始める。経営コンサルタントというが、一歩間違えれば詐欺師に近いだろう。江副は頷き、そして語り始めた。
「私は幾度もダンジョンに入っていますが、確信していることがあります。ダンジョンは明らかに、なんらかの意思が働いています。例えば『カードガチャ』です。不思議に思いませんか? ガチャなんて言葉は、日本のオンラインゲームで使われている言葉です。実際、欧米ではステータス画面には『カードスロット』と出るようですね。機能は同じようですが、明らかに国籍や言語に応じて理解しやすいよう、言葉が選別されています。これが単なる自然現象なら、共通の文字で統一されているはずです」
「つまり、ダンジョン群発現象は単なる自然現象ではなく、何者かが意図していると?」
「『何者』と擬人化できるかはわかりませんが、仮に『ダンジョン・システム』と呼称するならば、このシステムを設計した存在がいると考えます。そうでなければ、ガチャやスロット、あるいはポーションなど、この百年で人類が生み出した言葉が使われている理由が説明できません」
私はゆっくりと頷いた。ステータス画面はブートキャンプ中に見たことがある。地上では見ることができないが、参加者全員が画面表示の力を得た。私はFランクだったが、確かに奇妙であった。まるでゲームで、とても自然現象とは思えない。
「ダンジョン・システムを設計したのは、恐らく超越的ななんらかの存在でしょう。神と呼ぶ人もいれば、悪魔と呼ぶ人もいるかも知れません。いずれにせよ、意図して生み出されたシステムである以上、なんらかの目的があるはずです」
「それが、人類という種の進化を促すことだと仰るのですね? その理由は?」
「ダンジョン・システムの中途半端さにあります。例えば……参考に持参した二つの道具を出していただけませんか?」
江副氏の要望で、スタジオ内に台座が入ってくる。台の上にはメリケンサックとスコップが置かれていた。江副は立ち上がって、台に近づいた。私も立ち上がる。
「ダンジョンには、武器は持ち込めません。銃もナイフも、第一層に持ち込んだ時点でカード化してしまいます。ですが、全ての武器が持ち込めないわけではないのです。このメリケンサック、これは持ち込めます。魔物を殴る際に、破壊力を高めると同時に自分の拳を護るための防具にもなる。攻防一体の道具です。これはダンジョン内で使用可能です。では、同じく攻防一体の道具として、現在でも陸軍などで使われているスコップはどうか? これは持ち込むことができませんでした。メリケンサックは良くて、スコップはダメ。なんらかの判断基準が存在していますが、いずれにしても中途半端です。カード化するのであれば、パンツ一枚まで残らずカード化すればいい。なぜダンジョンは『武器だけ』をカード化するのでしょう?」
「確かに……そうですね。ヘルメットや安全靴は持ち込めて、武器だけは持ち込めない。中途半端な気がします」
「同じことが、ダンジョン内の魔物にも言えます。横浜ダンジョンは、第一層より第二層の魔物のほうが強くなっています。ダンジョンに深く入れば魔物が強くなる……ライトノベルに慣れている人は当たり前に感じるかも知れませんが、可怪しくありませんか? ダンジョン内に人を立ち入らせたくないのであれば、第一層から強力な魔物を出せばいい。ですが、実際は逆です。まるで、私たちをもっと奥へと引き込もうとしているかのように、女性でも倒せる魔物を出現させているのです」
私は頷いた。このインタビューの仕事を受けるまで、ライトノベルなど読んだことはなかったが、小説投稿サイトでローファンタジー系の作品を読むと、その殆どがダンジョンの第一層は「弱い魔物」を出している。話を面白くするための設定なのだろうが、現実的に考えると不自然だ。これは「ゲーム」ではないのだから。
「これらのことから、ダンジョンは必ずしも人の立ち入りを拒んではいない。むしろ多くの人を招き寄せようとしている。私はそう感じます。そして、ダンジョンが人を集めようとしているとしたら、その目的は何か? カードガチャ、魔石、ポーションなどの未知の技術、そして強化因子……これらを勘案して考えられるのが……」
「『人類の進化』……」
江副氏は私を見つめて頷いた。
新聞記者にとって、一年間で最も忙しい時期はいつか。大半の記者は、この問に迷わず「年末」と答えるだろう。実際、学芸部に移動したばかりの私でさえ、この年末は仕事に追われていた。
「藤原七段のインタビュー原稿、上がってます!」
「コッチもだ! 『ラノベ作家が語るダンジョン攻略作戦』、上がったぞ!」
紙面割もほぼ完成しつつある。社会部とは違い、学芸部はそれほど時間が変動的になることはない。不本意な異動ではあったが、夫も全国紙の新聞記者だ。子育てをしながら記者として活動するのはキツい。学芸部に異動したことで、子供に時間を割くことができるようになった。それだけが唯一、良かったことだろう。この年末も、子どもたちは二人とも家にいる。そろそろ帰らないと……
「スマン、みんな! 紙面割が一気に差し替えだ! ダンジョン・バスターズの江副が爆弾発言したぞ!」
(は? 江副? って、江副ぇぇっ! また私の邪魔をするのかぁっ! この、疫病神めぇぇぇっ!)
「うるせーぞっ! 如月っ!」
いつの間にか声に出ていたらしい。学芸部の皆が、テレビの前に集まっている。画面には、私に災いを齎した忌々しい男が映っていた。
「江副さんがそのように考えた理由は解りました。ですが、その仮説には続きがありますよね? 先程、進化に値しないと判断した時、と仰られました。どういうことでしょう?」
「ダンジョン・システムが、出現した世界の知的生命体……ここでは人類と仮定しますが、人類を進化させることを目的としているならば、必然的にある疑問が生まれます。どうやって『進化』を判断するか。私は、ランクがその目安ではないかと考えています」
「ランクは、強化因子を吸引してトレーニングを重ねることで、徐々に上がっていくんでしたよね? テレビゲームで言うところの、レベルのようなものでしょうか」
「強さの判断基準という点では似ていますが、因果が違います。ゲームでは、レベルアップで強くなります。次のレベルまで必要な経験値が100としたら、99までは同じ強さであり、100になった段階でレベルアップし、攻撃力プラス3、素早さプラス2といったように強くなります。ですが、実際のダンジョン・システムでは違います。戦い続ける中で、攻撃力や素早さが、ほんの少しずつ上がり、一定の基準に達した時にランクアップするのです。レベルが上がって強くなるのではなく、強くなった結果がランクに反映されるのが、現実のダンジョンです」
「なるほど。つまりランクとは、人類の進化を解りやすく表現するための仕組みだと?」
「私はそう考えています。ですが、どこまでランクアップすれば良いのか、その目安がありません。人類の大半はFランクで、人類最強と呼ばれている宍戸彰でさえ、最初はEランクでした。DやCなどは、もはや人間の限界を超えていると考えられます。ならばCランクで良いのか? 私は懐疑的ですね」
「その理由は?」
「あまりにも中途半端だからです。Cの上は無いのでしょうか? BやAは? Cランクをゴールとするならば、わざわざCなどと表現せず、それをAやSなどにすれば良いではありませんか。このことから私は、ランクは目安ではあるが目的ではないと考えます。そうした場合、ダンジョンは何によって、人類の進化を判断するか。私の出した結論は『ダンジョンを討伐すること』です」
「ダンジョンの深奥に入り、その秘密を解き明かし、そしてダンジョンそのものを消し去る。これができれば、人類が進化したと判断する……そういうことでしょうか?」
「そうです。ダンジョン・システムが人類の進化を促す装置だと仮定するならば、ダンジョンそのものを倒すことができた時に『進化』となるのではないでしょうか。そう考えると、同時に恐怖が湧き上がります。もし、誰もダンジョンを倒せなかったら、どうなるのでしょう? 人類の力が届かず、進化の限界を迎えていたとしたら、ダンジョン・システムは次に何をするでしょうか?」
「………」
スタジオ内がシンとする。俺はスタジオ内を見渡し、そしてカメラに顔を向けた。
「人類を滅ぼそうとするのではないでしょうか?」
ダンジョン・バスターズ。まるでライトノベルのタイトルのような名前だが、その名は国内のみならず海外でも知られ始めている。その代表である江副和彦は何を考え、何を目的として組織を作ったのか。今回のインタビューでは、それを掘り下げることが私の目標だった。だが、そこから出てきたのは途方もなく重大、あるいは荒唐無稽な仮説だった。
「ダンジョン・バスターズは、いずれダンジョンから魔物が溢れ出てくるのでは、と危惧しています。ライトノベルで言うところの『魔物大氾濫』ですね。ダンジョンがあり、ポーションがあり、ガチャがある。魔物大氾濫が無いと言い切れるでしょうか? そうしたスタンピードは無いかも知れません。ですが、ダンジョン群発現象は現実に発生している事態です。根拠のない希望的観測を持つのではなく、最悪の可能性を想定しておくべきでしょう」
魔物が地上に出てくる。横浜ダンジョンの第一層のウサギでさえ、人を食い殺す力を持っているそうだ。そんな魔物が世界中に大量に出現したらどうなるだろうか。
「江副さんの言葉を聞いていると、鳥肌が立つような暗い未来しか浮かばないのですが…… ですがそれは、全て江副さんの『仮説』ですよね? なんら物的証拠は無いのでしょう?」
「ありません。ですから私たちは、ダンジョンの深奥を目指しているのです。ダンジョンの最深部に達した時、なんらかの解が得られるのではないかと期待しています。大須賀さんは『暗い未来しか無い』との言葉がありましたが、私は決して悲観はしていません。ダンジョン内では確かに、人間は強くなれます。視力の回復など、医学的には説明のつかない事象も起きています。私は、人類の可能性を諦めません」
私の中に、なんとも言えない気持ちが広がった。この男は本気だ。本気で、ダンジョンに立ち向かおうとしている。私はジャーナリストだが、同時に一人の日本人でもある。同じ日本人がここまで本気になっているのだ。応援したくなる気持ちを持つのは当然だろう。
「最初の問いから、いきなり重大な答えを頂きました。視聴者の皆さんも、江副さんが本気で取り組んでいるのを感じたのではないでしょうか。さて、CMの後は、ダンジョンが齎す経済効果について、お聞きしたいと思います」
江副は頷き、水滴のついたグラスを手にとった。
生放送が終わり、神谷町の東テレの建物からタクシーで瑞江方面に向かう。転移で帰ろうとも思ったが、局側がタクシーを呼んでくれていた。使わないのもどうかと思い、その厚意に甘えることにした。高速は使わず、一般道を進んだ。新大橋通りを進んでいると、年の瀬の賑わいを見せている。とてもダンジョン群発現象に襲われているようには見えない。
「申し訳ないが、新中川の橋で降ろしてくれないか。少し歩きたい」
一之江通りから環七を越えて、新中川を越える橋で降りる。「涼風橋」と呼ばれるこの橋の上は、川を通る冷たい風が吹いている。夜空を見上げると、ちょうど満月が頭上にあった。橋の中ほどにある石台に腰掛けて、月を見上げながらタバコに火を付けた。
「あと10年と6ヶ月……」
生放送では、言える範囲のことは全て伝えた。あとは視聴者がどう判断するかである。全員に共通した危機意識など期待できない。大半の人は、危機が眼の前に迫るまで気付かないものだ。だが、ごく一握りの人でも、自分と同じ様にダンジョンに立ち向かってくれたら、最悪の未来を回避できるかも知れない。
「さて、来年は新年早々から札幌出張だ。せっかくだから、転移の有効範囲も実験してみようか」
携帯灰皿にタバコを押し付け、俺は立ち上がった。ちょうど0時を迎えたらしく、橋の上から盛大な花火が見えた。
第一章:了




