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第024話:それぞれの年末

 少し薄暗い部屋の中に、男と二人きりでいる。広めの部屋には寝台もある。私だって女だ。男性を「雄」と意識する時だってある。だがこの時ばかりは、そんな意識は吹き飛んでいた。


「『転移』のスキル…… 貴方が自分のステータス画面を隠す理由がよく解った。こんなスキルを持っていたら、社会的不安を呼び起こしかねない。幾らでも犯罪に使えてしまうもの」


 東京都江戸川区鹿骨町に出現したという始祖のダンジョン「深淵(アビス)」の第一層に私はいた。市ヶ谷の焼肉屋の個室から、一瞬でここに移動したのだ。


「ダンジョン内は地上の144倍の速度で時が流れる。地上の30秒はダンジョンの72分、個室から移動したから、問題ないだろう」


 男はそう言って、二枚のカードを取り出した。魔物(モンスター)カードではない。人が描かれている。そのカードは輝きを放ち、そして人間へと変化した。


「初めまして。和彦様の忠実なる下僕、忍びし者『朱音』と申します」


「天才魔法師、エミリよ」


「……もう、驚くことすらできないわ。少し混乱してるの。飲み物を頂けないかしら? それと、タバコある?」


 朱音という見たこともないほどの美女は、江副に少し視線を送り、そして紅茶を用意し始めた。エミリという女子高生のような娘は、革張りのソファーに寝転がっている。江副は引き出しからタール1ミリのタバコを取り出して差し出してくれた。


「タバコ、吸うんだな」


「久しぶりよ。25年前は吸ってたわ。国家Ⅰ種に合格した時に止めたの。出世に響くから……」


 会議室にあるような肘掛け椅子とサイドテーブルが用意された。そこに座り、フゥと紫煙を吹き出して部屋の中を観察する。大臣の執務机のような立派なデスクが置かれ、革張りのハイバックチェアがある。その背後には壁一面にガラス張りのコレクション・ボードがあり、棚にはケースに入れられたカードが整然と並べられている。

 振り返るとパーテーションが並んでいる。あの向こう側はなんだろうか。その手前にはローテーブルと革張りのソファーが置かれていた。ダンジョンは石床のはずだが、この部屋は板張りでラグまで敷かれている。折りたたみ椅子が何脚かあり、ホワイトボードが用意されていた。


「どうぞ。和彦様がお好きなアールグレイですわ」


 サイドデスクに紅茶と焼き菓子が置かれる。まるで夢のような非現実的な気分だが、茶の香気が現実であることを教えている。私はソーサーを手に取って、一口啜った。


「美味しいわね。ロイヤルフェルトかしら?」


「いや、それは『和紅茶』だ。佐賀県から取り寄せた。国産100%の紅茶だよ」


「へぇ……初めて聞いたわ」


「日本は隠れた銘品が多い。そのティーカップは、江戸川区の土を使って焼かれたモノだ。小岩に住む陶芸家が、一点ずつ生み出した作品だから、割らないようにしてくれよ?」


 暫く、紅茶の話で盛り上がる。江副は紅茶党のようで、西葛西にある「インド紅茶直輸入店」からも茶葉を仕入れているそうだ。こうして話をしていると、彼の好奇心と知識量には驚かされる。


「日本茶だって、煎茶、ほうじ茶、抹茶で茶葉を変えるだろ? 紅茶も同じだ。ストレートならダージリン、ミルクティーならアッサム、レモンティーやアイスティーならニルギリ。鉄板の飲み方だが、興味があるならそこから始めると良いだろう」


「そう。私も学生時代は紅茶が好きだったけれど、今はコーヒー党なのよ。官僚の業務量には、紅茶は合わないわ。まさかダンジョンの中で、こんな優雅な一時を過ごせるなんてね。ありがとう、酔いと共に気分も落ち着いたわ。それで、話の続きを聞かせてくれないかしら。貴方は何を知っているの?」


 眼の前の男、江副和彦は紅茶を一口啜り、語り始めた。





魔物大氾濫モンスタースタンピード……」


「正直、先日まではなんとかなると思っていた。だが、この『深淵』の第四層で思い知らされたよ。Cランクの魔物でさえ、人類は苦戦する。ましてBやAの魔物となれば、その力は想像を絶するだろう。俺が貴女に相談を持ち掛けたのは、今の俺のやり方では滅亡を止められないと考えたからだ」


 石原に、これまでの経緯の全てを打ち明けた。「深淵」では金銭がドロップすること、それを回収し、クライアントを使ってマネーロンダリングしていることを話した時は、メモを取る顔をチラと上げただけであった。全てを語り終わった後、石原はメモの内容を読み返し、暫く考え込んでいた。


「最初に発見した時に、国なり警察なりに相談していれば……なんて言うのは後からだから言える台詞(セリフ)ね。色々と考えて、貴方なりに動いてきたことは認めるし感謝もするわ。少なくとも、貴方以外の人が発見していたら、この情報は得られなかったかも知れないもの。でも貴方の言う通り、このやり方では限界が来るわ。例えば、世界中のダンジョンを討伐するとして、他国のダンジョンにどうやって入るの? 魔石を生み出すダンジョンは資源採掘場としての側面を持ち始めている。他国の冒険者が、しかも『討伐』を目的に入るなんて許さないはずよ? 国家間の交渉が必要になるわ」


「その通りだ。ダンジョンを討伐すれば、そのダンジョンの管理権限を得られるそうだが、実際のところは判らない。ガメリカのダンジョンでさえ、入れないだろうな」


「あら、どうして? 10年後の破滅を大々的に公表すればいいじゃない。国家間のイザコザなんて、目の前の破滅を知れば綺麗に無くなるんじゃないの?」


 エミリの言葉に、俺と石原が顔を見合わせる。石原はため息混じりに呟いた。


「いいわね。若いって…… もうすぐ世界が破滅する。争っている場合じゃない。みんな力を合わせてダンジョンに立ち向かおう…… そんな夢物語を描けるのが若さの特権だわ」


「エミリ、人間というのはそんな生き物ではない。10年後にスタンピードが発生するという確たる証拠が無い以上、殆どの人間が信じようとはしないだろう。いや、目の前に朱音やお前を顕現させて、お前たちから説明してもらっても信じない。信じたくないという気持ちが勝り、結果、もっと愚かな行為に走る」


「でも、その人は信じているじゃない」


「信じてないわよ? 証拠がないんだもの。ただ私は、江副和彦という人物に一定の信頼を置いている。だから、彼が語る言葉を『傾聴』はする。でも世界各国の首脳は別。浦部総理だって、聞いてはくれるでしょうけど信じはしないでしょう。それに下手に公表しようものなら、世界的な大軍拡が起きかねないわ。少なくとも現在は、可能性を提示する程度に留めるべきね。ダンジョンの深奥に到達すれば、明確な証拠が手に入るかもしれない。年末にテレビに出るんでしょう? その時に、このダンジョンやレジェンド・カードには触れずに、スタンピードの可能性を提示しなさい。その程度、貴方なら可能でしょう?」


 石原は頷いて立ち上がった。カツカツとホワイトボードに近づく。その背中を見ながら俺は思った。もし石原以外が局長だったら、俺は相談しただろうか。運営局長が石原だったのは、俺にとっても、あるいは人類にとっても幸運だったのかも知れない。


「確認だけれど、このダンジョンが現金をドロップすることを知っているのは?」


「バスターズのメンバー以外では、貴女だけだ。葛城陸将補にも、この話はしていない」


「賢明ね。現金を出現させるダンジョンなんて知られたら、財務省と国税庁がすっ飛んでくるわ。さて、貴方のことだから既に考えているでしょうけど、ダンジョン・バスターズの直近の目標は、この『深淵』を討伐することよ。目標は半年以内」


 石原がホワイトボードに「目標、アビス討伐」と書く。俺も勿論そのつもりだが、念のために確認する必要があるだろう。


「敢えて聞くが、その理由はなんだ?」


「ダンジョンを討伐すると、その管理権限が得られる。これが事実なら、スタンピードの証拠が手に入るかもしれない。それにドロップ品を現金ではなく魔石に切り替えることも可能なはずよ? そのうえで、このダンジョンの出現日を来年の6月にするのよ。つまり、他のダンジョンと一緒に出現したことにしてしまう。そして管理権限をダンジョン・バスターズが握り、ここでメンバーたちを鍛えていく。冒険者運営局は特例としてそれを認める」


「だが冒険者は俺たちだけじゃない。他の冒険者には情報を隠すのか?」


「理由は付けられるわ。東京都のベッドタウンのど真ん中、しかも民家の中に出現したから、混乱を避けるために少数精鋭の冒険者による討伐が必要だった、なんて言い訳はどうかしら? これなら極端な話、最初のダンジョンとして公表しても追及を凌ぐことは可能よ? 安全確保のために、情報を隠しつつダンジョンを封鎖するために周囲の土地を買っていった、と言えばいいわ。要は結果よ。発表した段階でダンジョンを討伐し終えていれば、世間もそこまで糾弾しないわ」


 上手い言い訳だ。経営コンサルタントになっても稼ぐことができるだろう。だが俺がこれまでやっていたことは、詐欺、あるいは脱税行為ではないのか? それを告発しないのか?


「ハッキリ言えば、貴方がやってきた行為は、限りなく犯罪行為に近いわ。ダンジョンが落とすお金は本物なの? それとも偽物なの? 本物なら、落とし物は警察に届けないといけないし、偽物なら『収得後知情行使等の罪』に問われるわね。でも、そんなことはどうでも良いわ。貴方はダンジョンを最も深く知り、バスターズはダンジョンを鎮圧できる可能性を有している。貴方以上の可能性が出てこない限り、たかが数十億の脱税なんて大事の前の小事よ」


「貴女も『不作為による幇助』に問われるかもしれないぞ?」


「バレればね。バレなきゃ犯罪じゃないのよ。それに私は防衛省の官僚であって、財務省や国税庁の役人じゃないわ。自分の仕事をやり難くしてまで、彼らに教えてあげる義理は無い。でも、彼らだって間抜けじゃない。いずれ露見する可能性もある。だからできるだけ早く、指弾できないような状況を作ってしまうのよ」


 石原はホワイトボードにダンジョン出現日を書き始めた。


「大阪梅田が7月30日、横浜市反町が9月5日、札幌市が10月12日、仙台が11月18日、そして千葉県船橋市が12月24日……次に出現するのは1月29日未明ね」


「恐らくな。ガメリカや大亜共産国では同時に複数が出現している。日本でも同時に出現したところで可怪しくはない」


「来年の6月24日、それがこのダンジョンの公式的な出現日とするわ。あと半年間、それまでにできるだけ仲間を集めて、可能なら一、二箇所のダンジョンを討伐するの。これは、人類とダンジョンとの戦争だわ。バスターズはその最前線に立つ英雄。必要不可欠な勇者たち。そういった風潮をつくり出せば、滅多なことでは指弾されないわ。貴方のやっていることは法に反しているかもしれないけれど、それで誰かが不幸になったわけじゃないのだから」


 俺は肩を竦めた。英雄、勇者……本当にファンタジーだ。少しだけ愚痴ってしまう。


「俺はコンサルタントだ。本来は裏方の人間なんだ。やれやれ。鹿骨町の小さな家で、慎ましく暮らしていくはずだったんだがなぁ」


「諦めなさい。それに、貴方はもう覚悟ができているでしょう? 貴方は選択できた。ダンジョンの存在を知った時、人類滅亡の未来を知った時、それを公表して国に相談を持ち掛けることだってできたはずよ? でも貴方は、自分の手で解決する道を選択した。その時からもう、普通の生き方はできないのよ。そして、貴方のこれまでの行為に目を瞑る決断をした私もね」


 俺は石原を見つめ、頷いた。また1人、心強い同志を見つけることができた。





 市ヶ谷の焼肉屋で別れた私は、寒空の下を歩いている。マンションは九段下だ。都営新宿線に乗れば一駅だが、歩いて帰りたい気分だった。靖国通りを神保町方面に歩く。


「私って、そんなに魅力ないかしら?」


 江副は焼肉屋で会計を終えると、さっさと一人で転移してしまった。雰囲気のあるバーあたりに誘ってくれても良いものを。だが自分も40代の後半になり、江副も40を過ぎている。女としては終わっていないつもりだが、お互い大人であることも自覚している。


「やっぱり、ダンジョン・ブートキャンプに入隊しようかしら?」


 ブートキャンプは今月から申込受付が始まったが、その効果は抜群だ。メタボな中年男性やアラフォーの女性などが参加し、見た目も肉体年齢も10年以上は若返っている。江副のプレゼンが効いたのか、21世紀初頭の就職氷河期に派遣社員となり、そのまま40を迎えた世代たちが軒並み参加し、冒険者登録を始めている。現在は横浜ダンジョンだけだが、船橋や仙台、札幌でも順次受付を始める予定だ。


(大阪は止めたほうが良い。アレは恐らくSランクダンジョンだ。死人が出るぞ)


「Sランク……ダンジョン・システムでも7つしか存在しないという最凶のダンジョンね。まったく、困ったものだわ。下手に自衛隊を突入させようものなら、それこそ責任問題になるでしょうし……」


 現在、自衛隊はダンジョン外の地上施設を維持管理することが、役割となりつつある。だが手を拱いているわけにはいかない。最善を尽くしたとしても、10年後の魔物大氾濫を食い止められるとは限らない。その時は、日本を護るために自衛隊の力が必要になるはずだ。


(魔石による水素発電が本格稼働すれば、経済は活気づくし防衛予算も増える。だが銃火器を揃えたところで、魔物に勝てるだろうか。むしろ江副たちのような、ダンジョン冒険者を育てるべきではないか……)


「自衛隊で希望者を募り、バスターズに出向させるというのはどうかしら? 自衛官と民間との交流のため、出向制度は既に存在しているわ。一年ごとの交代制とかで出向させ、冒険者を養成していく。でも、その場合は対ダンジョン部隊を組織しなければダメね。横浜施設団下の部隊として試験的に運用してみてはどうかしら?」


 気がついたら、靖国神社の交差点まで来ていた。国の未来を思うと、英霊たちにも縋りたくなる。腕時計を見て、交差点を左に曲がった。





「和彦様、本当にやるおつもりですか?」


主人(マスター)、ダメよ。本当に死んでしまうわ」


 二人が止めるのを押し切って、俺は鹿骨ダンジョン「深淵」の第四層に入った。索敵を徹底させ、挟まれないように気をつけながらゴブリンソルジャーと戦う。


「クッ……また傷を負ったか」


 鋼の胴鎧を着ているとはいえ、腕や足は防刃布のままだ。ゴブリンソルジャーの攻撃を受けても斬られることはないが、かなりの衝撃を腕や足に受ける。これで三度目の骨折だ。ハイ・ポーションを飲んで回復させる。


「和彦様、ゴブリンたちが回り込みつつあります。一旦、撤収すべきですわ」


 俺は頷き、第三層のセーフティゾーンに転移した。そして再び、第四層へと向かう。


(必ず、攻略方法があるはずだ。それを見つけ出すまで、骨折だろうが四肢喪失だろうが受けてやる!)


 地面を蹴り、回り込みながらゴブリンソルジャーにスコップで斬りかかる。常に動き回り、囲まれないように気をつける。コイツらを一人で倒せなければ、B以上の魔物などに勝てるはずがない。既に数百体を屠っているが、怪我を負った回数もそれに比例している。第一層の安全地帯(セーフティゾーン)に戻ると、朱音が意見してきた。


「和彦様、ガチャを回すべきですわ。胴鎧だけでなく、ズボンやシャツなども出るはずです。レアランクの装備で身を固められれば、攻略も容易になるでしょう」


「解っている。だが一対多の戦い方がまだ見えない。装備に頼った戦い方ではこの先、行き詰まると思う。それまでは今の装備で進みたい」


「違うわ。戦いは相性よ。主人(マスター)のスコップは強力だけれど、相手は剣と盾を持つ戦士なのよ? その相手に相応しい装備を用意すべきよ。主人(マスター)がこれ以上傷つくのを見たくないわ」


 エミリが縋るように諭してくる。俺は数瞬瞑目し、そしてカードを取り出した。


==================

【名 前】 ゴブリンソルジャー

【称 号】 なし

【ランク】 C

【レア度】 Rare

【スキル】 剣術Lv4

      身体強化Lv3

      ------

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「ちょうど10枚ある。試しに、ガチャッてみるか」


 ステータス画面から武器ガチャを呼び出す。レアカードによるガチャは初めてだ。本当は100枚集めて検証したいところだが、このままでは見通しが立たない。


「始めるぞ」


 10枚が消え、画面のレバーが回る。やがて画面からカードが出現した。見たところ、これまでとは変わらない。俺は祈るような思いで、カードを手にとった。


=================

【名 称】 彗星・斬鉄剣

【レア度】 Super Rare

【説 明】

「この世に斬れぬ物は無し」といわれる

伝説の一振り。ただし蒟蒻のようなプルプル

したものは斬れない。

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「今度は、ル◯ン◯世かよっ! 外見までソックリじゃねーか!」


 白鞘に納められた一振は真っ直ぐに近い曲線を描いている。試しに顕現させて抜いてみた。直刃で刃紋のような遊びは一切無い。長さは80センチほどで、太刀に入るだろう。


「これ、アニメのようにキエーッとか言いながら振るのか? まず第一層で試してみるか」


 朱音たちと共に、俺は再び深淵(アビス)に入った。





「なんだ、この刀は?」


 第一層のゴブリンを倒した時、俺は唖然とした。斬った感触がないのである。ゴブリンを両断したのに、まるで素振りをしたような感覚だった。第二層のオークで試すが、やはり同じであった。胴体を薙ぐと、アッサリと上下に分かれてしまった。第三層のスケルトンナイトは剣ごと両断した。そして、第四層に入る。


「……盾ごと、斬ってしまわれていますね?」


「えぇ、アレでは防御の意味ないわ」


 斬鉄剣の切れ味は変わらない。ゴブリンソルジャーを盾ごと斬ってしまう。あまりの切れ味に、俺は怖くなった。剣の届く範囲にゴブリンが入れば、それで終わりなのだ。プリンにスプーンを刺す時の手応えすら無い。


「コレは素晴らしい。素晴らしいが……」


 このままでは、斬鉄剣に頼るようになってしまうだろう。そしていずれ、この刀が通じない相手に出くわすはずだ。そのためにも、道具に頼るような戦い方は避けなければならない。


「斬鉄剣を使うのは良い。だが同時に、他の戦い方も研究するぞ。この武器は、レアカード収集用だな」


 5体が飛び掛かってきた。斬鉄剣をただ振るっただけで、煙となって消えた。





 12月31日はいつも彼女と過ごす。今年は美紀ちゃんだ。去年は祥子ちゃんで、一昨年は……忘れちゃった。まぁ来年は誰と過ごすか判らないけれど、良い年になるといいなぁ。


「あ、そうだ。兄貴がテレビに出るんだった。一応、見ておくか」


 僕はいま、品川のラブホテルにいる。ベッドの上で美紀ちゃんと楽しいひと時を過ごした後、僕はテレビを付けた。年明けは実家に帰って、その後は兄貴と一緒に横浜ダンジョン攻略に乗り出す。深淵の第四層を攻略するには、僕自身がCランクになる必要がある。兄貴の感覚では、横浜ダンジョンはCランク相当らしい。そこを攻略すれば、上手くすればBランクまで上がれるかも知れない。


「でも兄貴のことだから、この年末も一人で深淵に入ってるんだろうなぁ」


 兄貴は、良く言えばストイック、悪く言えば狂ってる。ファンタジーなダンジョンを徹底的に調べてる。魔物を倒すことでの成長度合いを割り出すためとか言って、100体ごとに倒した時間を計測してグラフ化したのを見せられた時は、狂気すら感じたね。でも、そんな兄貴がいるから僕やムッチー、マリリンは安心してダンジョンに入れるんだと思う。それくらい狂ってないと、万分の一以下の可能性なんて掴めないのだろう。


「お、始まった」


 年末のTV番組なんて、バラエティーが殆どのはずだけど、今年はダンジョンが出現した年ということもあり、兄貴への取材も殺到していた。兄貴は結局、一番組だけインタビューを受けることを了承した。美人女子アナかと思ったら、相手は東テレでビジネス番組やってる「大須賀アナ」だったよ。





 これまでの僕は、年末が嫌いだった。リア充たちのイベント、クリスマス・イブやその後の年の瀬のお祭りムードなんて、僕には全く関係なかった。僕の唯一の慰めは、有明国際フォーラムで毎年年末にある世界最大の同人誌即売会「スーパーコミックセール」だけだった。仲間たちと片隅でひっそり、自作の同人誌を売るだけだったけど……


「でも、今年の僕は違うんだな!」


 今年はウチの展示コーナーは大盛況だ。何しろダンジョン特集しているからね。江副氏にお願いして、Rare、Un Common、Commonカードを一枚ずつ貰って展示しているし、ポーションを一瓶、顕現させて置いてあるから、凄い注目だよ。何しろ世界中でここでしか見れないからね。集まった人たちは、次々と同人誌を手にとってくれる。ダンジョンモノの同人誌が飛ぶように売れてるよ。


「スゲェ、本物の田中睦夫だよ。俺たちと同族っていうの、本当だったんだな。サイン貰おうぜ」


 ダンジョンのことやバスターズのことも聞かれるよ。うん、僕はいま、凄く充実してる!





 今年は去年よりも豪華な年の瀬です。海老天とカマボコの入った年越し蕎麦で、お祖母ちゃんとお母さんの三人で、幸せな年末を迎えました。お母さんも、久々にお節料理を作れて嬉しいと言っています。本当に、ダンジョン・バスターズに入れて良かったと思います。


「でも江副さんは最近、注目されているみたいだから、茉莉も素行に気をつけなきゃダメよ?」


「大丈夫だよ。友達には『叔父さん』ってことで誤魔化してるし、私がバスターズの一員だって、まだ誰も知らないよ」


 明日はお節料理です。大好きな栗きんとんを山程食べられます。お母さんも来年3月から、バスターズの拠点で、家事手伝いなんかをして働くそうだし、お祖母ちゃんもハイ・ポーションで回復し、いまではヘルパーさんも必要ありません。来年は今年よりもっと明るいと思います。


「あ、和さんがテレビに出るって言ってた。番組、変えるね」


 東テレに変えると、和さんが映っていた。器を手にして汁を飲む。テレビ画面の和さんが言った。


「私は、ダンジョンとは人類を進化させるためのシステムだと考えています。そして、進化に値しないと判断した時、ダンジョンがどのような行動に出るか。私はそれを非常に恐れています」


 あ、お出汁美味しい。


コミック版「ダンジョン・バスターズ 第4巻」がもうすぐ発売されます。特典SSなども付いています。ぜひお手に取ってください。


《書籍版》

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)


《コミック版》

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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