第023話:局長に打ち明けました
主人との出会いから、地上時間で4ヶ月が経ったわ。その間、エミリは主人や茉莉と共に戦い続け、そして気づいたの。エミリの主人は、良く言えば几帳面、率直に言えば、狂ってるわ。
「一体でも厄介なのに、それが隊になって出てくるなんて反則でしょ!」
ゴブリンソルジャーの最大の特徴は、集団行動。5~6体が一つのパーティーを組んで、互いに背を守りながら集団で突っ込んでくることよ。最初の単体は、おそらく偵察だったんだわ。すぐに、5体がまとめて襲ってきたから。
「イフリートッ! 爆裂魔法っ!」
「オォォッ」
エミリが召喚したイフリートが爆裂魔法を放ち、襲ってきた集団を爆発で吹き飛ばしてやったわ。けれど生意気にも、Cランクのゴブリンソルジャーはこれだけでは全滅しないわ。だから爆裂魔法は、集団をバラバラにすることが目的よ。ゴブリンソルジャーの強さは集団で戦うところにある。エミリの初手でそれが崩れる。頭脳的でしょ? 決して、主人に命令されてやっているってわけじゃないんだからね! エミリだって、そうすべきだと考えてたんだから!
「エミリの役目は、あくまでも『牽制』だ。フレンドリー・ファイアには気をつけろ。俺たちが戦っている間に、他のゴブリンが来ないように、炎で牽制するんだ」
「理解ってるわよっ!」
エミリは魔法使いよ。べ、別に近接戦闘ができないわけじゃないけど、身体を動かして汗臭く戦うのは嫌よ。だから魔法で援護してるわ。主人からは、無理に倒そうとするな、とキツく言われている。もし間違って味方に魔法を当てようものなら、きっとお尻ペンペンだわ。それだけは嫌!
「よし。まずはこの戦い方で10戦ほどするぞ。次からはエミリ自身が爆裂魔法を放て」
「え? でも爆裂魔法ならイフリートを使ったほうが、消費魔力が……わ、わかったわよ。この戦いにはスキルのレベルアップも兼ねてるんでしょ? エミリだって、やれるんだから!」
そう。主人の何が狂っているかと言うと、戦いの回数を決めて時間を測り、戦い方を検証して試している点よ。仮説、実行、検証を繰り返すその姿には、狂気すら感じるわ。主人は「自然と」という言葉が嫌いだと言っているわ。自然とランクアップする。自然とできるようになる。主人はそれではダメだって言うの。それでは、なぜ出来るようになったのか、本人すら理解できていないから、他者に教えられず、改善もできないそうよ。主人の好きな言葉は「計画、実行、記録、検証、改善」らしいわ。ホント、面倒なんだから。そんなんだから、40歳になっても独身なのよ!
和彦様にお仕えしてから半公転が経ちました。安全地帯で、ダンジョン内で、そして寝台の上で、和彦様とは多くの言葉を交わしました。なぜ、和彦様が効率や合理性に拘られるのか疑問でしたので、寝物語で聞いたことがあります。
「俺は以前、営業という仕事をしていた。その会社は良くも悪くも体育会系で『営業は足で稼ぐもの。とにかく客先に行け』と、バカの一つ覚えみたいな管理をしていた。数さえこなせば、後から質がついてくるってな。質を高めるための肥やしとなった客のことなんて、誰も考えていない。『それが営業だ』の一言で終わりにしている。愚かだと思ったよ」
和彦様が計画と検証に拘られるのは、以前働いていた仕事に影響されてのことらしいですわ。和彦様は「脳筋」と仰られていましたが、どうやら和彦様の対極に位置する人たちと働いていたそうです。その中で和彦様は効率や合理性によって、誰よりも少ない時間で誰よりも高い成果を出したそうですわ。その結果、和彦様はさらに多くの仕事を背負わされ、バカバカしく感じて、お辞めになられたそうです。
「その手の脳筋組織に限って『我が社は人を大事にしています』なんて言ってるんだ。鼻で笑ってしまうな。年間離職率が二桁に達する企業が、人を大事にしているわけがない。だからダンジョン・バスターズは、それら組織とは違う企業にする。科学的に合理的に効率的に、楽して高い成果を出す。俺が検証と改善に拘るのは、そこから得られた知見が今後の冒険者育成に役立つと考えているからだ」
10公転後に必ず来る「破滅」を防ぐため、和彦様はダンジョン攻略の最前線に立っておられます。その方が、これほどまでに確固たる信念を持ち、ダンジョンを解き明かそうとされているのです。私は期待してしまいます。万分の一以下の可能性を本当にお掴みになるかもしれません。
兄貴は常に言う。がむしゃらな戦いはするな。突きや蹴りはどうだったか、他に戦い方は無かったか、一戦毎に検証しろ。本当に面白いね。神明館では「正拳突き千本」とか普通にあるんだけれど、兄貴のような考え方はしていない。兄貴は神明館の対極に位置している。「気合や根性は差別化にはならない。学びの無い千回よりも、学びのある一回のほうが重要だ」って言うんだ。館長に聞かせてやりたいよ。
「剣の分だけ、ゴブリンの方が制空圏は広い。だがその分、近接に持ち込めばコッチが有利だ!」
剣での戦いは突きか払いだが、戦っているうちにその初動が読めるようになってきた。足の構えや重心移動が違うからだ。相手の初手が読めれば、戦いはグンと楽になる。
「グギャッ!」
「読めてるよっ!」
ゴブリンの薙ぎを数ミリで躱し、左足で相手の足先を踏みつける。これで軸の移動を封じ、あとは左拳のフックを叩き込む。ゴブリンは左手に盾を構えている。足先の移動を封じれば、盾の動きも限定的になる。その隙を穿てばいい。うん、だいぶ楽に戦えるようになってきたよ。
仕事でも運動でも、必ず「慣れ」というものがある。慣れたやり方、慣れた戦い方……俺はそれを危険視する。慣れとは、いわば型だ。そして人間は、成功のパターンを覚えると、今度はそれに固執しはじめる。「営業は数だ」と言っている奴は、それで成功した人間からマネジメントを受け、そして一定の成功をしてしまったため、そのパターンしか知らないのだ。経営においても、現場の仕事においても、人間関係においても、パターンは常に存在する。そして時代や状況の変化によって、パターンは使えなくなる。
「よし、次は爆裂魔法を使わない戦い方を考えてみよう」
およそ3時間掛けてゴブリンの集団20隊を倒した俺たちは、第一層の安全地帯へと戻った。初手でエミリがゴブリン集団をバラバラにし、後は各個撃破していくという戦い方は、その有効性が検証できた。ならば次は、俺と彰、朱音の3人だけで、最初から近接戦闘したらどうだろうか。
「その場合、エミリちゃんを中心にして三方向を僕たちが固めるって感じかな」
「その場合、火炎系の魔法は使わないほうが良いわね。石礫のような物理系の攻撃でゴブリンの意識を逸すのはどうかしら?」
「彰さんが仰る通り、三角形の防御陣が有効かと思われます。ですが、それはゴブリンに囲まれた時に有効な陣形ですわ。一方向から迫ってきた場合は、やはり範囲攻撃が有効と思われますが……」
それぞれが意見をホワイトボードにまとめ、マグネットを使ってパターンを模索する。こうした議論はやっておくだけでも価値がある。その状況が来た時に、即座に対応するためだ。そしてすぐに、その状況はやってきた。
「三方向同時?」
第四層を進んでいると、前方と左右からゴブリンソルジャーの集団が出現した。俺はすぐに指示をだした。
「三角陣を組め! エミリは中央に入って爆炎魔法と石礫で支援! それとハイ・ポーションを準備しておけ。俺は回復魔法があるが、朱音と彰はポーションを飲んでる時間はないはずだ。攻撃を受けた場合はエミリが後ろから掛けてやれ!」
「「「了解ッ!!」」」
三方向からそれぞれ5体ずつのゴブリンソルジャーが攻めかかってくる。彰の方角から爆発音が聞こえる。朱音は苦無による遠距離攻撃を仕掛けたようだ。そして俺は真っ向から突っ込んだ。突き出される剣を辛うじて躱し、ゴブリンの足元にスコップを突き立てて飛び越えると、石礫がゴブリンたちに襲いかかる。背後に回った俺は短剣をゴブリンの首に突き立て、スコップで脳天を叩き割る。だがゴブリンたちも黙ってはいない。それなりに研がれた剣を叩きつけてきた。防刃シャツが切り裂かれ、腕に深々と傷を負う。左足の太腿にも鋭い痛みが走った。だが気に留めてはいられない。雄叫びを上げて、目の前のゴブリンを殺した。
ゴブリンソルジャー15体との戦いを辛うじて越えた俺たちは、すぐに第一層へと転移した。
「へ……ヘヘッ…… シクッちまった」
彰が重傷を負っていた。顔面左側に額から頬まで深い傷を負い、眼球も潰れているかも知れない。すぐにエクストラ・ポーションを掛ける。朱音も所々に切傷を負っていた。持てるポーションを総動員して全員の治療に当たる。ポーションが無かったらと思うとゾッとする。治療が終わると俺は三人に頭を下げた。
「スマン。俺のミスだ。Aランクダンジョンを……いや、『ダンジョンそのもの』を甘く見ていた」
「いいえ、和彦様の責任ではありません。索敵で気づいていながら、道を誤った私の責任ですわ」
朱音が片膝をついて謝罪する。俺は首を振って、朱音を立たせ、そして全員をソファーに座らせた。俺は今回のミスを反省するため、これまでの探索方法や戦闘方法を振り返った。これまでの俺の戦い方は、真正面から突っ込んでいくだけの単調なものだった。それでも勝てたのは、朱音やエミリなどのサポートがあったこと。魔物自体が個々バラバラに戦い、集合ではあっても集団ではなかったこと。そして包囲されるほどの大量の魔物に出くわさなかったことにある。
「この戦い方ではダメだ。人数も、戦い方も、全てを見直す必要がある」
幸いなことに、俺はスキル「転移」を持っている。今回のような場合は、すぐに転移して逃げるべきだろう。そのうえで、パーティーとしての戦闘モデルを構築しなければならない。後背の守り方、連携の仕方といった戦闘時のみならず、移動時における索敵やその後の道順なども考えなければならない。
「俺たちは朱音がいるから索敵できる。だがそれに頼る進み方ではダメだ。それでは『俺たちだけ』になってしまい、汎用性がない。手痛い失敗だったが、これを経験にしよう」
ホワイトボードの前に立ち、ペンを手にとった。「ダンジョン内の移動方法」「罠や魔物の索敵やマッピング方法」「戦闘における連携方法」「万一のための退路の確保方法」と書いていく。これらを標準化、マニュアル化し、誰もが実践できるようにしなければならない。
「計画変更だ。『深淵』の第四層攻略は延期し、先に横浜ダンジョンの攻略を進める。あそこならCランク魔物が多いはずだ。そこでランクアップと連携の検証を徹底的にやる。だがそのためには、協力者が必要だ。そろそろ、運営局長に明かすべきか……」
俺はやるべき事とその順番を脳裏にリストアップした。
「まったく…… 今日は年末、仕事納めの日なのよ? ただでさえダンジョン騒動で忙しいというのに、こんな日に『借りを返せ』だなんて」
年末の金曜日、防衛省を始めとする中央官庁は仕事納めを迎えていた。ダンジョン冒険者運営局長の石原由紀恵は、呆れながらも笑って俺の誘いを受けてくれた。
「まぁ良いわ。どうせ家に戻っても独りだし。話題のダンジョン・バスターと一緒に食事するのも悪くないわね。個室のある店を予約してあるわ。歩きましょう」
防衛省庁舎から靖国通りを市ヶ谷駅方面に歩く。局長ともなれば運転手付きの車を利用できるはずだが、業務外ではあまり利用していないらしい。
「色々とあるの。ただでさえ40代の局長、しかも女性となれば色々と言われるのよ。ホント面倒臭いけれど、組織で生きる以上は仕方ないわ」
女性キャリア官僚で、40代で局長にまで昇った石原である。組織内での足の引っ張り合いなど、色々とあるのだろう。石原は結婚指輪をしていない。先程の言葉からも、どうやら未婚のようだ。ダンジョンに入れば強化因子で若返ることもできるはずだが、それは本人の意思次第だろう。
「局員たちには申し訳ないけれど、年末年始休暇は交代で取ってもらうことにしたわ。36日周期はほぼ確実だと思うけれど、万一のことを考えるとね。私も殆ど、自宅待機よ」
そう笑って肩を竦める。40代女性としては、かなり美人のほうだろう。ダンジョン・ブートキャンプに誘いたいくらいだ。だが顔には疲労の色が濃い。ここで更に重荷を背負わせるのはどうかと気が引けたが、それは運営局長の責任として諦めてもらうしか無いだろう。市ヶ谷駅を越えて少し歩くと、予約していた店に到着した。
「好きなだけ食べていいわよ? 瑞江の焼肉屋で豪遊したんでしょ?」
「SNSで知ったのか? やれやれ……」
市ヶ谷にある「炭火焼肉しちりん亭」は、かなり高級な焼肉屋らしい。コースは最低で1人9千円からとなっている。今日予約したのは、一番高いコースらしい。お値段は2万5千円。
「牛タン10人前を食べる貴方だから、コース一人前ではきっと足りないでしょう。けれど、言っておくけどワリカンよ? 貴方とは利害関係があるから、国家公務員法でそう決められているわ」
解っていたことだが、相手はエリート官僚だ。奢って恩に着せるという手は通じない。俺は頷き、出てきたビールグラスを手にとった。
「それで、私に何か相談があるんじゃないの?」
石原が切り出してきたのは、最初のビールが終わり、塩系からタレ系の焼き物へと変わった頃だ。俺は頷き、手にしていたグラスを置いた。
「証明は後からする。まずは驚かずに聞いてほしい。今年の7月末、大阪梅田をはじめとして、世界中にダンジョンが出現しはじめた。それが、世界で最初にダンジョンが出現した日と考えられている。だが実は……」
「実は、その36日前にダンジョンが出現していた。場所は東京都江戸川区鹿骨町。そう言いたいわけ?」
石原の言葉に、俺は思わず目を見開いた。きっと驚愕の表情を浮かべていたに違いない。俺の顔を見て、石原はクスクスと笑った。
「別に手品じゃないわ。得られた情報を組み合わせ、事実から帰納的に思考した推論よ? でもその表情を見る限り、どうやら当たりのようね?」
「いつからだ? いつから、その推論を持っていた?」
石原は勿体ぶるように、ロースを焼き始めた。思わずせっつきたくなるが、伊達にコンサルタントはしていない。ここは我慢である。炙るだけで食べれる極上のロース肉を口に入れ、石原は目を細めた。ビールを一口のみ、そして語り始める。
「最初の違和感は、冒険者募集の一次試験の結果よ。私の部下は、紙上の処理で終わらせてしまっていたけれどね。貴方は上位30名の中に入っていた。あの30名の中には、空手の黒帯やそこそこ知られたスポーツ選手、プロボクサーもいたわ。その多くが20代。一方の貴方は40歳、しかも経営コンサルタントというおよそスポーツとは無縁の仕事をしている。にもかかわらず、アスリート並みの身体能力を持っていた」
「なるほど。確かに二次試験で『江副さんがトップです』って言われたな。あの時か」
石原は頷き、次の肉を焼き始めた。俺も得心し、同じ様に焼き始める。
「で、違和感が強くなったのは、横浜ダンジョンでの二次試験か?」
「確かに、それもあるわ。二次試験の事故時、貴方は格闘家の宍戸彰と一緒にダンジョンに残った。宍戸彰は『戦いそのものを求める』という動機があるけれど、貴方にはそれが見えなかった。初めてダンジョンに入るはずなのに、自衛官以上に落ち着いて事故に対処していたことが引っかかったのは事実よ。でも問題はその後、ダンジョン・バスターズよ」
焼けた肉を食べる。次はカルビだ。最高ランクの肉らしく、脂が既に溶けている。
「書類上の不備は無かったはずだ。会計処理もしっかりしていたはずだが?」
「そうね。登記も終え、商標登録も申請し、ロゴも名刺もできている。まったく不備はないわ。まるで数ヶ月掛けて準備したみたいに、完璧すぎるくらいに完璧だったわ。だから逆に違和感を覚えたの。そして調べた。大阪にダンジョンが出現したのは7月30日、そして死者が出たことなどがニュースで流れたのが翌日の午前中。その日の午後、貴方はダンジョン・バスターズの登記を提出している。可怪しいわね。その日のニュースでは『未知の洞窟』としか流れていないはずよ? 誰も『ダンジョン』なんて言葉は使っていないわ。でも貴方は、まるで今日の状況を予期していたかのように、最高のタイミングで社名を登記し、同日に商標登録申請までしている」
「………」
俺はもう黙ってビールを飲んでいた。振り返ってみれば確かにそうだ。気づく者は気づくだろう。
「40歳とは思えない身体能力、ダンジョン群発現象を予期したかのような行動。ここから導き出される推論は一つ。大阪やニューヨークに出現したダンジョンは、最初のダンジョンではない。その前からダンジョンは存在していた。そして貴方がそれを見つけ、現在も潜り続けている。横浜ダンジョンの葛城陸将補が貴方に協力的なのは、ただ冒険者だからってわけじゃないでしょ? 彼も知っているのね?」
「その通りだ。このことを知っているのは葛城施設団長および二人の自衛官、そして貴女だけだ。あぁ、バスターズのメンバーたちは勿論、知っている。彰も睦夫もな」
ふぅと俺は息を吐き、そしてダンジョン冒険者運営局長と向き合った。半分諦め、半分意を決したような心境で告白する。
「俺が、ダンジョンを起動させたんだ」
石原は少し目を細め、そして黙っていた。
刑法38条1項にはこうある。
〈罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。〉
また過失については「予見可能性」が考慮される。そう考えた時、果たして目の前の男を刑法で問えるだろうか? ダンジョンの出現なんて、誰が予見できるというのか。何より、現行の刑法に「ダンジョンを出現させた者」に対する罰則規定などない。つまり目の前の男、江副和彦を罪に問うことはできない。
「ふぅ…… まったく、こんな重い話を年末の今日にされても、困るんだけれど?」
そう言って少しだけ時間を稼ぐ。その間に情報を整理する。この半年間、江副和彦は重大な情報を隠し続けてきた。それは何故か? 当初は、ダンジョンなどという荒唐無稽なモノなど信用されないと考えたのだろう。あるいは自分の私有地などに出現したため、土地の没収を恐れた……
(違うわね。それなら梅田や横浜にダンジョンが出現した段階で報告しても良かったはずよ? でも彼は今日までひた隠しにしてきた。ダンジョンに関わりたくないわけでも無いでしょうに……)
江副和彦は、一方でダンジョンの情報を隠しながら、もう一方で民間人冒険者の募集には一番に名乗りを挙げている。ダンジョン・バスターズという組織まで創り、積極的にダンジョンに入り、国や自衛隊に協力姿勢を見せている。マスコミの前に出て仲間を募集し、既に二人が加わっている。一見すると矛盾する行動だ。これを整合させるような理由とは何か? そう考えた時、私はある気づきを得た。江副は言った。「俺がダンジョンを起動させた」と……
「ダンジョンには、まだ秘密があるのね? 発表すれば世界中が混乱するような、重大な秘密が。最初にダンジョンに入った時、貴方はその秘密を知った。それをどう扱うべきかで貴方は迷いながら、ダンジョンを放っておくわけにもいかず、民間人冒険者になり仲間を集めている…… その秘密とは恐らく、全世界の安全保障に関わる問題ね?」
眼の前の男は理知的な男だ。その行動には必ず理由がある。私は確信し、そして声を落として自分の推論を述べた。その時の彼の表情は忘れない。彼の顔には、悲壮な決意が浮かんでいた。




