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第021話:モフモフ再び!

「ふぅ~ やっとテスト終わったよぉ~」


 同級生の真由美が机の上にクターとなる。高校生の12月上旬は、期末テストの期間だ。約1週間、全科目のテストを受ける。成績の悪い人は、その後は補講期間になるが、私の場合は問題ない。


「茉莉は成績良いから羨ましい。私、数Ⅰがヤバいかも……」


「茉莉~ お茶しに行こー」


 女の子たちがワラワラと集まってくる。何故だか最近、クラスの皆が私に近づいてくる。なんでなんだろう? 以前、真由美に聞いてみたら呆れた顔をされた。


「決まってるじゃない。茉莉ってアイドル的オーラがあるのよ? 学校中の男子が狙ってるんだから!」


 そんなことを言われても、私には心当たりが無い。母子家庭で部活にも入っていないし、化粧だってしていない。あ、でも化粧水とかは最近、使い始めたかな。アルバイトのお陰で、暮らしに余裕ができたから、お母さんが買ってきてくれた。CK-3とかいう有名な化粧水らしい。


「いいなぁ、茉莉は。お肌ツルツルでニキビとか全然ないし、胸も結構大きいし、何より痩せてるし」


 帰り道に女の子たちがワイワイと騒ぐ。大杉橋通り沿いにある喫茶店は、私たちの御用達だ。松江高校女子だけは、紅茶もコーヒーも1杯100円なのだ。女性店長なのだが、松江高校の卒業生らしく、趣味で喫茶店をやっているらしい。そんなに広い店ではないが、数人でお茶を飲むには手頃な店だ。


 店に向かっていると、何台かのバイクが喧しい音を立てて大杉街道を通っていった。私たちは思わず眉を顰める。江戸川区全体を見ると、言われているほどには治安は悪くない。葛西などの一部地域で、暴行事件などがあったりするが、松江や鹿骨町などは穏やかな住宅街だ。でも稀に、こうして昼間からバイクを走らせる「半グレ集団」みたいな人たちがいる。


「ねぇ、彼女たち! どこ行くのぉ?」


 横を通り過ぎたはずのバイクの1台が戻ってきて、私たちに声を掛けた。頭にタトゥーを入れている「いかにも」な人だ。一台が戻ったのを機に、他のバイクも戻ってくる。合計で5台だ。


「ヤッベ! あの子、メッチャ可愛くない?」


「ねぇねぇ、遊びに行こうよ!」


 そんな声を掛けてくる。正直言ってウザい。他の女の子たちはかなり怯えているが、私にはどうということはない。ダンジョン第二層でオークに襲われることを考えれば、どうということはない。


「お構いなく。みんな、行こ」


 私はツンとして無視し、彼女たちを先導した。すると無視されたことに腹を立てたらしく、男たちがバイクを降りて前を塞いだ。今どき、昼間からこんな行動をとる人がいるなんて、やっぱり江戸川区は治安が悪いのだろうか。


「おい、無視すんなよ。ちょっと可愛いからって調子ん乗んなよ?」


「プッ……ウフフッ」


 私は思わず笑ってしまった。眼の前の半グレチンピラが眉間を険しくしている。


「ゴメンなさいね? だって今どき、そんなマンガみたいなセリフを口にするような人がいるなんて、思ってなかったんですもの……アハハハッ! 可笑しいっ」


「ッ……テメェッ!」


 男が怒りの表情で掴みかかってきた。私は左手で男の右腕を弾き、そして……


「セイィィッ!」


相手の鳩尾に正拳突きを叩き込んだ。彰さんから教えられた「新明館空手正拳中段突き」がモロに入る。入れ墨男は白目を剥いて、その場で悶絶している。あ、ちょっとやり過ぎちゃったかしら?


「この女ッ! おい、お前らっ!」


「ま、茉莉っ」


 4人同時。勝てなくはないけど、手加減はできないかしら。あーぁ、普通の学生したかったんだけどなぁ。諦めかけたその時、クラクションが鳴らされた。横に、黒いセダンが停まっている。男たちが慌てる。警察か何かと思ったに違いない。だが私には、誰かすぐにわかった。


「和さん!」


 スーツ姿の30歳くらいに見える男性が車を降りて、3メートル近くを跳躍して私の側に降りる。


「茉莉、今日は睦夫の歓迎会するから、学校終わったら連絡しろって、言っただろ?」


「あっ……そうだった! ゴメンなさい!」


 謝る私の頭を和さんが撫でる。男たち、そして他の女の子たちがポカンとしている。和さんが男たちに視線を向けると、途端に騒ぎ出した。


「なんだ、テメェ!」


 そう言ってナイフを出してくる。見ると和さんは苦笑していた。そして呟く。


「驚いたな。こんなストリートギャングがまだ生息していたのか。殆ど天然記念物、絶滅危惧種だぞ?」


「プッ……」


 先程の言葉を思い出して、私も笑ってしまった。ナイフを向けてくる男たちの間を、和さんは流れるように動いてパンパンッとビンタを張っていった。全員がその一発で失神してしまう。


「いやぁ、危なかった。殺傷能力のある刃物を複数人から向けられ、あと少しで殺されるところだったよ。誰がどう見ても、完全な正当防衛だ。彰もそう思うだろ?」


「兄貴、それはちょっと……いや、まぁそうかな?」


 助手席から彰さんが苦笑いして顔を覗かせて、「ヤッホー、マリリン」なんて軽い口調で挨拶してくる。すると遠くからパトカーのサイレン音が聞こえてきた。どうやら誰かが通報してくれたらしい。





「ダンジョン冒険者の江副和彦さんと、宍戸彰さんですね? この度はご協力、感謝いたします。女子たちからの証言や、他の通行人からの目撃証言もありますから、江副さんも木乃内さんも、正当防衛で間違いありません。ただ、木乃内さんの場合は少々やりすぎです。次からは気をつけてください」


 結局、小松川警察署まで同行を求められてしまった。茉莉の友人たちからも証言があったため、俺たちは正当防衛として認められ、その場で解放された。茉莉は友人たちに説明するのに苦労していた。俺のことは「伯父」ということにしたらしい。宍戸から空手を習っていたため、チンピラに1発入れることができた。そんな設定だ。


「やれやれ、余計な時間を食ってしまったな。睦夫を待たせているから、早く行くぞ」


 江戸川区瑞江駅前にある「黒毛和牛焼肉クロ」に向かう。なんでこんな東京の外れに、こんな名店があるんだ? と不思議に思うほどに、この店の焼肉は最高だ。


「うんまっ! うんまぁっ!」


 予約していたが、店に入った瞬間、客全員からの注目を受ける。俺と彰、睦夫はかなりの有名人だ。だが二人ともそんなことは気にしないらしく、俺たちは座敷席の奥に通された。そして「上牛タン 10人前」から順番に持ってきてもらう。睦夫は肉好きらしく、パクパク食べている。彰や茉莉もそれに負けていない。こう見ると、俺たちは相当な健啖家だ。


「美味いな! 焼肉は結構食べてきた方だけれど、ここはかなり上位だよ」


「焼肉クロは聞いたことありましたけど、入るのは初めてです。ごちそうさまです」


「うまー!」


 仲間たちが嬉しそうに食べている。茉莉をタクシーで返した後は男の時間だな。東京の外れ、瑞江駅前にも飲み屋はある。店を借り切って豪遊するか。





 ダンジョン・ブートキャンプの成功を受けて、防衛省内のダンジョン冒険者運営局では、課長以上が集まって情報共有と議論が行われていた。予想以上の反響で、今度は冒険者登用の基準を見直す必要が出てきたのだ。


「先の田中睦夫氏は、『強化因子』の存在を証明してくれました。つまりダンジョン内で戦い続ければ、人はどんどん強くなるということです。これは、冒険者にとっては望ましいことですが、治安維持や国防を考えると由々しきことでしょう」


「企画課長の言うとおりだ。真面目な中年サラリーマンがダイエットで申し込む程度なら問題ないが、暴力団や半グレ集団などの反社会的勢力、あるいは前科者などが強化したら社会的不安を助長させるだろう。かと言って、そうした連中を全て排除するには、応募数が膨大過ぎる。選抜基準と基準適用の方法を検討しなければならんだろう」


「局長、ブートキャンプ発案者の江副さんは、なんと仰っているのです?」


「江副さんは、サンプル数が不足していると言っていました。同じ冒険者の宍戸氏は、最初からEランクだったそうです。つまりEランクとは世界的な格闘家という基準になります。ですが、FランクからEランクに上がるのにどれぐらいの時間が必要なのか、これは個々人で差が出ると思われます。実際、資料にある通り、田中さんは1ヶ月間のブートキャンプを終えても、Fランクのままでした」


 石原局長の言葉で全員が資料に目を落とし、納得する。


「だが体力測定結果だけなら、田中さんはプロスポーツ選手に匹敵していますね。つまりFランクと言っても、Eに近いFもあれば、遠いFもあるということでしょう。やはり事前排除が望ましいですか」


「日本国籍以外の人、前科者、反社会的勢力に属する者、これであれば国民の理解も得られるとは思いますが、問題は……」


「左翼団体。彼らは『平和を口にしながら暴力を振るう』という自己矛盾を、『平和のために必要なことだ』という自己陶酔で無視しているような連中だ。まるで十字軍だ。共産主義は宗教だと言った人がいるが、実に的を射ているな」


「局長、ダンジョン政策は浦部内閣の肝いりです。公安の力を借りて、監視団体の所属メンバーは入れないようにできないでしょうか」


「難しいわね。前科があるのなら別だけれど、ただ危険思想を持っているからというだけでは、排除することはできないわ。そんなことをすれば、思想弾圧だと反発するでしょう」


「ダンジョン内は自己責任。これを徹底して広報するしかないですな」


 ダンジョン冒険者運営局は、ダンジョン対策だけを考えれば良いわけではない。むしろダンジョンが与える国内政治、外交安全保障への影響のほうが大きい。


「次の36日目は、クリスマス・イブね」


 石原は暗い表情で呟いた。





 鹿骨ダンジョン第一層で、俺達はホームページの話し合いをしていた。ダンジョン・バスターズのホームページが徐々に完成に近づいている。コンテンツ内容は、横浜ダンジョン第二層までの動画やダンジョン内でのキャンプの様子、必要な装備類などの情報だ。またダンジョン内のルールについても解説している。特に誤解が多いのが「ランクアップ」についてだ。ランクアップを「レベルアップ」と勘違いしている人が多い。強さが認められてランクが上がるのであって、ランクが上がったから強くなるわけではない。こうした情報を図解しながら解説するページもある。ダンジョンについての総合情報サイトに近い。


「民間人冒険者が増えたら、ココに情報交換用の掲示板も設けようよ。ダンジョンについてのデマが流れると困るから、情報の質についても精査していくつもりだよぉ」


「札幌、仙台、大阪のダンジョンに入る許可は貰った。ダンジョン・ブートキャンプの申込みが殺到しているらしく、横浜だけではさばき切れないそうだ。札幌と仙台はいけるかも知れないが、大阪は無理だろう。あそこは恐らく『Sランクダンジョン』だ」


「僕としては、ソッチの方に興味があるね。兄貴のダンジョンでオークと殴り合うのも飽きてきたからね」


 最近は、彰は一人で鹿骨ダンジョンの第二層に入っている。その際は、第一層の安全地帯(セーフティゾーン)で、俺と睦夫がホームページの打ち合わせなどをする。その御蔭で彰はついにDランクへと上がった。


==================

【名 前】 宍戸 彰

【称 号】 なし

【ランク】 D

【保有数】 0/25

【スキル】 カードガチャ

      打撃 Lv3

      身体強化Lv1

==================


「オークと戦っている時に、三戦(サンチン)を使っていたからかな。呼吸法を使わなくても、集中力や耐久力が上がってるんだ」


「彰は完全に、近接打撃戦闘要員だな。ゲームだったらさしずめ『武闘家』ってところか?」


「良いね。ただ横浜第二層のモモンガは火炎魔法使ってたからね。近接戦闘の時は魔法に気をつけないとね」


「モモンガ?」


 革張りソファーに座っていた茉莉が、ピクリと反応した。膝の上では、ミューがタプタプした腹を上にして気持ちよさそうにブラッシングを受けている。


「そういえば、横浜ダンジョンの第二層って、どんな魔物がいたの? 主人(マスター)のことだから、モンスターカードを集めたでしょ?」


 エミリまで聞いてくる。俺は内心で舌打ちしながら、話題をなんとか逸らそうとした。


「飛翔する魔物だ。空を飛びながら、火炎魔法を放ってくる」


「ふーん……で、モモンガというのは、見た目がそうなんですか?」


 俺は彰に視線を送った。全く、黙ってろと言ったのに困ったやつだ。


「いやいや、モモンガっぽいってだけだよ。たとえ見た目がエゾモモンガでも、あれは魔物で……」


「宍戸氏ぃ。墓穴掘ってるよぉ」


 ノートパソコンに向かいながら、睦夫が彰にツッコミを入れた。彰は天然なところがある。言い繕うつもりが、かえって悪化させてしまう奴だ。


「……和さん」


「理解ったよ。エビルモモンガのカードと、どうせペットにするんだろうから、巣穴カードが必要だな」


 キャビネットからカードケースを取り出した。


==================

【名 前】 エビルモモンガ

【称 号】 なし

【ランク】 E

【レア度】 Common

【スキル】 火炎魔法Lv1

      ------

      ------

==================


=================

【名 称】 召喚獣の巣穴

【レア度】 Un Common

【説 明】

召喚獣専用の巣穴。獣に応じて形と

大きさが変化する。巣穴では召喚獣の

回復力が高まる。

=================


「兄貴、ゴメン」


「いいさ。どうせいずれバレるはずだったんだ。ホラ、茉莉の好きなようにしろ」


 茉莉はミューを膝から下ろし、エビルモモンガのカードを手にした。そこに描かれている愛くるしい姿に、キラキラと瞳を輝かせる。ポンッという音がして、体調三〇センチくらいのリスのような可愛らしい魔物が出現した。


「キュィ?」


「キャァァァッ!」


 茉莉がムギュッと抱きしめようとする。だがモモンガはスルリと抜け、茉莉の腕を駆け上がり肩に乗った。


「ミュッ?」


「キュッ?」


 ウサギとモモンガが顔を見合わせている。そしてモモンガがピョンと飛び、ミューの前に降りた。二匹のモフモフが見つめ合う。互いに手を伸ばし、そして触れ合う。


ミュゥ(よろしく)!」


キュゥ(こちらこそ)!」


「なんで異種族間なのにコミュニケーションが取れるんだよ!」


 思わずツッコんだ俺は悪くないと思う。生物学的には、ウサギとモモンガは人間とチンパンジー以上に違いがあるはずだ。だが茉莉は細かいことを気にせず、顔を蕩かせながら二匹を撫でている。


「和彦様。ここは、ダンジョンですから……」


「兄貴、ここは、ダンジョンだから……」


 朱音と彰にそう言われ、俺は考えるのを止めた。


==================

【名 前】 プリンちゃん

【称 号】 木乃内茉莉のペット

【ランク】 E

【レア度】 Common

【スキル】 火炎魔法Lv1

      ------

      ------

==================


 エゾモモンガことプリン(正確には「プリンちゃん」だが)は、早速、ミューの巣穴の真上、天井近くに巣を作った。丸い穴が空き、その中に潜り込むと顔だけ巣穴から出す。可怪しい。凹凸が殆ど無い垂直の壁をどうやってあそこまで登ったんだ? 何やら壁を駆け上がっていったのは見たが。


「可愛い。おいで、プリンちゃん」


 案の定、茉莉はそんなことを気にせず、下から見上げて両手を広げた。プリンは巣穴から飛び出して両手両足を広げて滑空する。そして茉莉の腕にワシッと抱きつき、そのまま肩まで登り、頬ずりした。


「さぁ、ミューちゃんもプリンちゃんもブラシしましょうね」


 ペットに囲まれた茉莉は幸せそうに「もふもふブラシ」を手にしたのであった。





 日本の北西にある極東半島、通称「姜半島」は、北緯38度で北と南に分かれている。北は金氏一族を王家とする「大姜(だいかん)王国」、南は大統領制の「ウリィ共和国」となっている。20世紀中頃にあった姜半島戦争により、この両国に分割して以来、軍事境界線での小競り合いが続いていた。だがダンジョンの出現により、その状況が一変する。


「それで、ソウル市と世宗市に出現したダンジョンの様子は?」


 ウリィ共和国の首都ソウル特別市にある大統領府で、(パク)帝昂(ジェアン)大統領を中心とした対策会議が開かれていた。7月末、9月初旬、10月中旬、11月中旬と、世界では4度にわたってダンジョンが出現している。そのうち、最初の2回はウリィ共和国内でもダンジョンが出現した。3回目、4回目も出現したかどうかは、現在も確認作業が続いている。


「両ダンジョンとも完全に封鎖しており、民間人は立ち入っていません。ですが軍部からは、ダンジョン内の活動に対しての手当を出すべきという声があり、また民間でも国論が割れています。右派はダンジョンを民間に開放すべきだと叫び、左派はダンジョンを封鎖、保護すべきだとデモ行進をしています。24時間体制で警戒していますが、侵入しようとした民間人数名を逮捕しました」


「世宗市のダンジョンは市街地に出現したとは言え道路上でしたが、問題はソウル市江南区のダンジョンです。『未来(ミレ)自動車』の本社建設予定地です。以前、10兆ウォンで取得したとして話題になった……」


 閣僚たちが顔を見合わせるが、パク大統領は「それがどうした」という表情をした。財閥企業は貧しい庶民から不当に搾取する「積弊」である。未来財閥がどうなろうが知ったことではない。

 江南ダンジョンについては「対策を検討する」ということで封鎖したままとする。未来財閥から抗議が来るだろうが、眼の前の大統領なら「だったら自分たちでなんとかしろ」と言いかねない。次の大統領に交代する3年後まで、この問題は塩漬けにするしかないだろう。閣僚の一人が咳払いして、話を続けた。


「日本は先んじて、ダンジョンで魔石を調達する『民間人ダンジョン冒険者』を登用し始めています。国連もこの取り組みに注目しており、上手くいくようであれば国連内に対ダンジョンの国際機関が設けられるでしょう」


「日本では、すでに複数の民間人冒険者が誕生しており、その後も増えつつあります。また魔石を利用した水素発電の試験も成功し、100万キロワット級の発電力を持つ発電所も建設予定です。世界に先んじた取り組みに、我が国内でも焦りの声が上がっているのは確かです」


「彼らは70年代のオイルショックの時から、水素エネルギーを研究している。50年近い研究の蓄積により、こと水素発電に関しては世界最先端の技術を持っている。日本に技術協力を持ち掛けることはできないだろうか?」


「現状では難しいな。積弊清算を進める中で、対日関係は戦後最悪となっている。持ち掛けたところで、鼻で笑われて終わりだろう。まさかダンジョンなどという非現実的なモノが出現するとはな……」


 パク大統領は、閣僚たちの話し合いを黙って聞いていた。だが出てくる意見は「日本の取り組み」「国内の意見対立」など後ろ向きの声ばかりである。なぜ、この機会を利用しようという声がないのか。


「ダンジョンは、北にも出現している。この非常事態に、北も南も関係ない。『姜民族』存亡の問題だ。大姜王国と新たな休戦協定を話し合い、『対ダンジョン協力体制』を構築できないだろうか」


 大姜王国は核兵器の開発を進めており、国際社会から厳しい制裁を科せられている。だがダンジョンの出現は世界共通の問題だ。この問題については、北とも協力体制を取れるだろう。パク大統領はこの機会に、南北融和を進めようと考えていた。

 こうして、ウリィ共和国のみならず様々な国が、ダンジョン出現という異常事態に対して、それぞれに方針を検討して対応しようとしていた。


 そして世界は、12月24日を迎えた。



コミック版「ダンジョン・バスターズ 第4巻」がもうすぐ発売されます。特典SSなども付いています。ぜひお手に取ってください。


《書籍版》

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

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《コミック版》

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

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[一言] 本日ですが、夜に誘いが入ってしまい、22時投稿が難しそうなので12時過ぎに投稿します。投稿時間が安定せず、大変申し訳ありません。 ちょくちょく前書きにあるけど 予約投稿とかそういう機能あっ…
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