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第015話:理想は現実に打ち砕かれて

 神奈川県横浜市神奈川区。東横線反町駅からほど近い横浜新道の上り線に突然出現した「横浜ダンジョン」は、日本国政府によってワンブロック分が封鎖され、迂回路が用意された。それに伴い通学路も変更を余儀なくされるなど、当初は混乱した。

 だが、不幸中の幸いはダンジョンが出現した上りのブロックは、駐車場と古い住宅があるだけであり、飲食店や商業ビルは無い。そこで日本政府は地主と交渉して土地を買い取り、ここを「ダンジョン冒険者日本本部横浜ダンジョン支部」とした。


〈ご覧ください。ダンジョン出現から五ヶ月、札幌、横浜、大阪、そしてつい先日は仙台にダンジョンが出現しました。およそ三六日周期で、全世界の大都市圏に出現するダンジョン。アメリカでは先日、『人類滅亡の予兆』と騒いだ宗教関係者が逮捕されるという事件がありました。ですが、世界はこの危機にただ手をこまねいているわけではありません。G7での共同声明を受け、国連では『ダンジョン冒険者制度』について真剣に議論が交わされています。そして、それに先立ち我が日本国では、ダンジョン冒険者制度を策定、異例の速さで導入が決められました〉


〈政府の迅速な対応の裏には、ダンジョンで取れる『黒い石』、通称『魔石』の存在があると言われています。水を水素と酸素に分解する性質を持つ魔石は、化石燃料が取れない日本にとってエネルギー問題の救世主となる可能性があり……〉


〈産官学が一丸となって魔石利用の研究と『水素発電所』の建設を進めており、茨城県つくば市に試験的な発電所が建設されました。魔石を粉末化し、一定量を水と混合させることで安定的に水素を生み出すことができ……〉


〈先日、防衛省内で行われました一次試験を突破した男女100名が、いま横浜ダンジョン前に建設されました冒険者支部に入っていきます! 彼らは、ダンジョン内において怪我、もしくは落命をしようとも日本政府及び自衛隊に責任は問わないという誓約書を書いています。日本政府も『ダンジョン内は国外であり、日本国憲法は通用せず、失踪した場合の捜索も行わない』と宣言しており、野党からの批判の声も出ています。はたして、この厳しい条件の中から何人のダンジョン冒険者が誕生するのでしょうか? 間もなく、二次試験が始まります!〉





 俺はいま、横浜ダンジョンに併設される形で建設された「ダンジョン冒険者横浜ダンジョン支部」の建物内にいる。一次試験は二部構成だった。まずはオンライン上でダンジョンについての基本知識や冒険者業についてのテストが行われた。要するに足切りのためのペーパーテストだ。無論、俺は楽勝だった。リアルで経験しているからだ。


 ダンジョン冒険者は武器を持つ可能性があるため、一定の基準が設けられている。「18歳以上であること、前科が無いこと、日本国国籍を有すること」の三条件を満たした応募者が、防衛省発表で8千人いたそうである。マスコミは「意外に少ない」と言っているが、俺から言わせれば多すぎだ。結局、ペーパーテストで上位2割だけが合格した。


 ダンジョンの知識だけで冒険者になれると考えていた奴は、恐らく軒並み落とされただろう。ダンジョンからの収入はどのような手続きで申請し、所得税や住民税はどれくらいになるのか。開業届の手続きの仕方など「個人事業主に必要な知識」や、公開されている民間人冒険者制度の運用についての問題などが、全体の半分を占めていた。オンライン上のテストだが、時間が限られていたためカンニングする余裕など無い。落とされた連中は、テストを見てようやく「冒険者業」について考えたのだろう。


 1600人のうち、防衛省が指定した運動場に集まったのは6割程度だった。残りは「次回以降のペーパーテスト免除」が目的だったのだろう。北海道に住む人が、横浜ダンジョンに通うのは厳しいはずだ。そして、運動場に集められた984名は、体力測定試験を受けさせられた。「10キロマラソン、握力および背筋力、肺活量測定、ジャンプ力や反復横跳びなどの運動能力測定」が行われ、俺はその全てを「上位30名以内」で通過した。本気になれば一位通過できただろうが、それでは目立ちすぎる。某リベラル系野党の女性議員が「男女平等」の声を上げたためか、男性枠70名、女性枠30名が決められていた、合計100名が二次試験へ進めると聞いていたので、「上の下」あたりを狙った。


「いやぁ、凄いな。江副さんがトップですよ」


「え? いや、私以上の記録なんて他に……」


「いえ、トップというのは『年齢』です。この記録、とても四〇歳以上とは思えません」


 試験官がそう言って笑った。確かにそうだ。残った100名は殆どが10代から30代前半だ。40過ぎは俺一人である。別の記録で目立ってしまった。

 そしていま、俺たち100名は横浜ダンジョン前へと来ている。





「これより、横浜ダンジョンで二次試験を始める。10名ずつの班に分かれ、一班ずつダンジョンで試験を行う。知っての通りダンジョン内はおよそ144倍の速さで時が流れるため、地上で待つのはごく僅かな時間だ。最後に確認する。この試験ではどのような怪我、落命しようとも、日本政府も自衛隊も一切の責任は負わない。これから行くのは死ぬ可能性のある『死地』だ。その覚悟が無い者は、ここで去れ」


 二次試験の責任者が最後の確認を行う。ダンジョン冒険者は、たとえダンジョン内で死のうとも「全てが自己責任」であり、日本政府も自衛隊もダンジョン冒険者本部も、一切の責任を負わない。ダンジョン内での失踪は死亡と見做され、捜索もされない。オンライン試験時は無論、テレビやラジオ、インターネット動画などで繰り返し流され、俺たちも幾度も確認を受けている。ここまで来て去るような奴は、とうの昔に去っているだろう。


「では、第一班から!」


 同じ服装をした二次試験者10名が、試験官に率いられてダンジョンへと向かう。冒険者支部の建物からダンジョンまでは、厳重な扉で封鎖されている。ダンジョン出現時に最初に行われたのが「細菌、ウィルス調査」である。レトロウィルスなども含め、未知の病原体は確認されていないが、万一のために消毒室やシャワールームが完備されている。現在は第二層に進んだ場合のみ、洗浄が義務付けられている。


「地上の5分がダンジョン内では12時間か。出入りもあるだろうから、1班あたり15分ってとこか?ま、ゆっくり待とうぜ」


 同じ班の若い男が、そう言って待機室の椅子に座った。各班は、体力測定の上位10名ごとに班分けされている。俺は上位21位から30位までの班で、3番目に入る予定だ。情報公開のため、テレビカメラや新聞記者たちも、俺たちとは別の部屋で待機している。待機室にはテレビが数台あり、リアルタイムでダンジョン入り口を監視しているカメラの映像のほか、生放送中の番組が流れている。


〈ついに、冒険者候補者たちが、ダンジョンという異空間の中に入りました。時間が流れる速度が違うため、我々からは一瞬で消えたように見えます〉


〈欧米でも民間人登用制度は研究されていますが、国家として公式に制度化したのは我が国が初めてであり、この放送は全世界も注目しています〉


 待機時間のあいだ、リポーターが熱心に報告し、生放送の番組内ではコメンテーターがアレコレ言っている。やがて十分後くらいだろうか。第一班が出てきた。その様子に、室内がざわつく。だが俺としては予想通りだった。


「何があったんだよ、いったい……」


 監視カメラには、泣いている女性や手や顔に怪我を負った男たちの、血まみれの姿が映っていた。





 室内が静まり返っている。皆が息を呑んで、画面に釘付けになっている。


「な、何よコレ……なんでこんな状態になるのよ!」


 体育会系出身者らしき若い女性が、ヒステリックな声で叫んだ。それを機に、全員が騒ぎ始める。俺は腰掛けたまま、頬杖をついて瞑目していた。耳栓を持ってくれば良かったと思った。


「ハイハイッ! みんな静かに。静かにぃ~」


 若い男と思える声と、パンパンと手を叩く音が聞こえて俺は目を開けた。ガタイの良い20代中頃と思われる男は、注目を集めるとニカッと笑った。


「僕らが怪我したわけじゃない。みんな、冷静になりなよ。これはダンジョン内でのテストなんだ。怪我することだってあるだろうよ」


「でも、あの様子は普通じゃないわよ。半数以上が怪我してるし、女性なんて皆、泣いてるじゃない!」


「うん。その説明については、僕よりも落ち着いている最年長者、江副さんにしてもらったほうが良いだろうね。江副さん、彼らがどういう状況になったのか、見当ついているんでしょ?」


 若い男はいきなり俺に話を振ってきた。なんで俺を巻き込むかな。俺は自分の冒険者免許が取れればそれで良いんだよ。お前らなんかどうなろうと知ったことか…… とも思ったが、騒がしいのも勘弁である。俺は仕方なく、説明した。


「恐らく、覚悟が足りなかったんだろうな。この中で、犬や猫を素手で括り殺したことのある奴、いるか?」


 俺の質問で、全員が気づいたようだ。そう。ダンジョンで魔物と戦うということは、魔物を殺すということだ。政治家やメディアは「倒す」なんて言葉で誤魔化しているが、俺たちがこれからやるのは異世界の動物との殺し合いなのだ。


「第一層はウサギみたいな魔物だったよな。それを素手で殺すんだ。頭を掴み、首を捩じ切る。腹を踏みつけ、内臓を轢き潰す。目や耳、鼻や口から血を溢れさせ、クークーと悲鳴を上げるウサギに、確実なトドメを刺すんだ。それをやる覚悟が無ければ、ああやって泣き叫ぶか、あるいは殺すのを躊躇って怪我を負うことになる。心構えの問題だよ」


 誰かが「うっ……」と声を漏らした。吐き気がしたのだろう。俺は頬杖をついたまま、若い連中に視線を向けた。


「知識はある。身体能力もある。だが、ラノベみたいなモノを期待してダンジョンに入ろうというのなら、止めておけ。現実はラノベとは全く違う。殺し、殺される覚悟を持つ奴だけが、ダンジョン冒険者になれる。二次選考は、その覚悟の見極めが目的だろう。もう少し、やり方を考えても良いとは思うがな?」


 そう言って、黙っている試験官に視線を向けた。試験官は俺と視線を合わせ、そして逸らした。シーンと室内が静まり返る。やがて笑い声が聞こえてきた。先程の若者が笑っている。


「クククッ……ハハハッ! いやぁ、やっぱ江副さん最高! 一次試験で最初に見かけた時に、ピーンと来たんだよね。この人は本物だって。強い奴が発するオーラっていうのかな。そんな雰囲気がバリバリ出てましたよ。体力測定だって、わざと順位下げたんでしょ?」


「そういうアンタは誰だ? 俺だけ名前が知られているってのは、不公平じゃないか?」


「アレ、僕のこと知りません? 少しは有名だって思ってたんですけど…… まぁいいや。僕の名は宍戸(ししど) (あきら)、ヨロピクねー!」


 軽い奴だ。そんな名前のクライアントはいなかった。宍戸彰なんて知らん。そう答えようとすると、その前に誰かが声を発した。


「おい、宍戸彰って、神明館空手世界大会の無差別級チャンピオンじゃねぇかよ!」


「思い出した! 世界大会六連覇、ブレージルの『バリトゥード』でも優勝した世界最強格闘家!」


 皆が騒ぐ。やれやれ、先程の悲愴感が消えてしまったではないか。残るべき奴だけ残ればいいのに。


「そうか、では宍戸さん。そろそろ第二班も戻ってくるだろう。俺たちも、準備しようか?」


 そう言って、俺は立ち上がった。





 私の名は「岡山亜由子」、大学院生だ。数年前、安保法制に反対するための学生組織に入り、日本の右傾化を危惧してデモ活動をしていた。結局、法案は可決して私たちの組織は解散になってしまったけれど、その後も仲間たちとの連絡は取り合っている。そして3ヶ月前、私たちは再び結成した。


『自由と平和のためのダンジョン保護活動』


 浦部内閣は、ダンジョン出現にかこつけて、防衛予算を急増させ、日本中に自衛隊を派遣している。ダンジョンが出現するとその付近一帯を封鎖し、国民の財産権を脅かしている。ダンジョン内に出現するという生き物を「魔物」と決めつけて殺戮し、魔石と呼ばれる資源を乱獲している。


 前回のデモ活動を反省し、国民に解りやすい証拠を突きつける必要があると考えた私たちは、ダンジョン冒険者登用試験を好機と捉えた。二次試験である横浜ダンジョンで、魔物が脅威ではないこと。日本政府はダンジョンという異世界に軍事侵攻し、そこに生きる動物たちを殺戮していることを証明するのだ。


 オンラインの試験は、まさか開業届や確定申告の問題が出るとは思っていなかったけれど、仲間たちが一室に集まって調べあってなんとか突破できた。そして体力測定は簡単だった。私は昔から体力だけは自信がある。男子との殴り合いだって経験している。そして私は、上位30位の中に入った。単純な記録だけならもっと下だったろうが、それだと女性が固まってしまうという判断で分散されたようだ。


 そして今日、いよいよ決行である。ダンジョンを出た時に叫ぶのだ。日本政府は間違っている!と……





 横浜ダンジョンの第一層に入る。安全地帯(セーフティゾーン)で装備の確認が行われる。自衛隊が用意した装備は、基本的には俺が最初に「深淵」に潜ったときと同じだ。防刃シャツとベスト、パンツ。強化プラスチックのヘルメットとゴーグル。安全靴に肘と膝を護るプロテクター。殴り合いなので、手にはテーピングを巻いている。唯一の違いはメリケンサックが無いことだ。もっとも、今の俺には必要ない。Fランクのウサギなどパンチ1発で倒せるだろう。


「ではダンジョン内に入るぞっ! 油断するな!」


 試験官が先頭に立ち、俺達は青白く光る第一層へと入った。俺にとっては見慣れた光景だが、他のメンバーは異様な空間が気になるようで、首を振ってあちこちを見ている。やがて左手からお客さんがやってきた。


「ミュッ? ミューッ」


 ウサギ型モンスターがピョンピョンと跳ねている。その光景に、女性たちは心が蕩かされているようだ。


「何をボーッとしている! 魔物だぞ!」


 試験官の声に、互いが顔を見合わせている。これを素手で殺すのだ。その覚悟ができていないらしい。仕方ない。俺が出るか……


「私が行くわっ!」


 女性の声がして、俺の足は止まった。





 僕の名は「宍戸彰」、格闘家だ。物心ついた時から空手に打ち込んできた僕は、神明館でも異例の速さで黒帯になった。普通なら小学生には与えられない「一般部の黒帯」だが、僕は11歳で許された。何しろ僕は天才だからね。見た技はすぐに吸収し、改良し、オリジナルを超えてしまう。身体も順調に大きくなり、18歳で国内大会、国際大会で優勝し、それから6連覇を果たしている。13歳から24歳までのおよそ10年間、僕は試合でもストリートでも、負けたことがない。そう、僕はあまりにも強くなりすぎたのだ。


 ダンジョンが出現した時は興奮したよ。昔、強さを求めて殺処分予定の飢えた犬を相手に戦ったことがあるけれど、あの緊張感は覚えている。現代社会では、野生の本能と戦うことは滅多にない。ダンジョンの中でなら、僕は思う存分に戦える。もっと強くなり、高みに昇れると思った。だからダンジョン冒険者に申し込んだんだ。試験? 僕は天才だよ? あの程度の試験問題、簡単だったさ。


 人間の気配でヒリついたのは久々だったよ。体力測定の時、40過ぎだっていうオジさんがいると聞いたので、冷やかしで様子を見たんだけど、背中から漏れる気配が普通じゃない。マラソンも握力計測も、明らかに手を抜いている。ありゃヤバイ。下手したら僕より強いかも知れない。本気で戦ってみたいと思った相手なんて、いつ以来だろう。一緒の班になりたいと思って、僕も体力測定で手を抜いた。


 江副さんというオジさんは、見た目は30くらいに見えるけど、存在感が別格だよ。ま、大半の人には理解できないだろうけどね。二次試験中に騒がしくなったから、試しに江副さんを巻き込んでみた。イイネイイイネッ! この人は、本気で殺しに来る「野生の殺気」って奴を知っている。そして「戦士」に必要なモノは何かを理解している。手合わせしてぇ~


そしてダンジョン内で江副さんの戦いが見れると期待したら、いきなり女の子が声をあげた。


「私が行くわっ!」


 あらー 女の子なのに腹が据わってること。大して強そうに見えないけれど、まぁいいか。そう思っていたら、その女の子は僕たちに怖い顔を向けて叫んだ。


「貴方たち、魔物魔物って言うけど、こんな可愛らしい動物が魔物なわけないでしょ! 彼らにとっては、私たちが侵略者なのよ! いきなり棲家に侵入して襲われれば、どんな動物だって牙を剥くに決まっているわ。まずは不戦を貫くことよ。こちらが愛情を持って接すれば、必ず理解り合えるわ!」


(……へ? この子は何を言っているの? こちらを殺そうと襲ってくる奴に愛情を持って接する? 不戦を貫く? 戦いませんって言えば、それで争いを回避できると思ってるの? バカなの? 死ぬの?)


「ねぇ君、ちょっと……」


 僕は止めようとしたけど、もう遅かったね。女の子はタッタと魔物の側に駆け寄ると、膝をついて両腕を伸ばした。ウサギさんが「ミュ?」って首を傾げてるよ。うん、僕も首を傾げたい。


「さぁ、いらっしゃい。私たちは敵じゃないわ。あなたとお友達になりたいの」


 そんな言葉を語り掛けているよ。通じるとは思えないけど。でも本人は真面目なんだろう。見えているのが背中だから判らないけど、きっと満面の笑みを浮かべているんだろうね。


「ミュッミュッ」


 ウサギがピョンピョンと近づき、そして膝の上に乗った。あれ? これって上手くいっちゃう?


「まぁ、可愛い。大丈夫よ。私があなたを護ってあげ……ギィィャァァァァッ!!」


 凄まじい叫び声がした。ウサギの表情が一変している。先程までの愛らしい表情から、まるで般若のような顔になり、女の子の鼻を齧ってる。ブチンッと肉を齧り取り、クチャクチャと喰む。


「イヤァァッ! なにアレッ!」


 他の女の子が叫んだ。いや、何って魔物を前にあんな無防備になれば、誰だってああなるだろ。そう思いながら、それぞれのメンバーを観察する。女の子は、鼻の次に頬肉を噛みちぎられている。皆その様子に呆気にとられ、そして恐怖している人もいた。さて、江副さんはどうだろう。あの人はどんな反応をしているかな? 真っ青なメンバーたちの後方に、江副さんは立っていた。そして僕は戦慄した。やっぱり、この人は凄いよ。


 江副さんは、魔物に襲われて悲鳴を上げている女の子を無視して、他の方角を観察していた。


(凄い。無表情とか興味なさそうとかじゃない。あの叫び声で他から魔物が来ないのか、それを気にしているんだ。この状況で、そんなことを考えられるなんて!)


「バカ野郎ッ! 魔物に無防備に近づくなんて、なに考えてやがる!」


 試験官が慌てて駆け寄り、短剣のようなものでウサギを斬り飛ばした。


「痛いっ! 痛いぃぃぃぃっ!」


 襲われた女の子が泣き叫んでいる。試験官が介抱しようとしていると、江副さんがそこに歩み寄ってきた。


「叫び声に引き寄せられて、魔物が近づいています。どうします? このまま試験を続けますか?」


「しかし、この状況では……」


「彼女なら放っておけばいいでしょう。ダンジョン内は自己責任です。馬鹿げた妄想を抱いて魔物に近づき、襲われた挙げ句に泣き叫んで、他の魔物を誘き寄せる。迷惑この上ない。おい、イカレた妄想女。不戦を貫き愛情を示した結果がコレだ。お前はまだ、アイツらとお友達になれると思ってるのか?」


 江副さんがアゴをしゃくると、5匹ほどのウサギがピョンピョンとこちらに向かってきている。やれやれ、こりゃ戦いは避けられないな。僕も出るとしようか。




コミック版「ダンジョン・バスターズ 第4巻」がもうすぐ発売されます。特典SSなども付いています。ぜひお手に取ってください。


《書籍版》

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

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《コミック版》

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] これはとても良いザマァ
[一言] あらま、これウンピョウの最期が。
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