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第012話:もふもふな魔物を召喚しました

「うぅぅ……足が痛いです」


 僅か1時間であったが、第一層の安全地帯(セーフティゾーン)に戻ってきた茉莉はそこで倒れてしまった。朱音に揉ませようかと思ったところ、意外な提案が出た。


「ポーションをお使いになられてはいかがでしょう? ゴブリンカードは有り余っていますし、必要なら私が狩って参ります」


「そうだな。ではポーションを……」


 ポーションカードを取り出そうとした時、何かがハラリと落ちた。横浜ダンジョンの第一層にいるウサギのモンスターカードだ。どうやら挟まっていたらしい。ヒラヒラと茉莉の前に落ちた瞬間、凄まじい速さで茉莉がそれを手にとった。


「こ、これ……これ、可愛いっ!」


 どうやらツボにハマったらしい。そのカードをジッと見つめている。茉莉は横浜ダンジョンに連れていかないほうが良いだろう。


「それは横浜に出現したダンジョンの第一層の魔物だ。偶然、ダンジョンが出現する時に出くわしてな。試しに潜ってみたら、第一層にソイツがいた」


「か、和さんっ! モンスターカードって召喚できるんですよね? ダンジョン内なら問題ないですよね?」


「……言っておくがダメだぞ。可愛いからなどと、ペット目的でモンスターカードを使うなんてダメだ」


 眉間を険しくして釘を刺す。少なくとも今は、ウサギのみならずモンスターカードを使うつもりはない。召喚魔物に頼る前に、まずは自分を鍛えなければならないと思っているからだ。


「あら、良いじゃない。Fランク魔物だって、強化因子を吸い続ければ強くなるのよ? それにこの魔物、エミリも可愛いって思うわ。茉莉、召喚しちゃいなさい」


「お、おい……」


 だが時すでに遅し。「召喚」と念じたのか、茉莉が手にしたカードはポンと音を立て、体高50センチほどのウサギが出現した。


「ミュッ?」


「キャァァァッ!」


 茉莉は歓喜の悲鳴をあげて、ウサギを抱きかかえた。


「ミュゥゥッ!」


 頬ずりする茉莉に驚いたのか、ウサギは逃げようともがいている。だが茉莉の力が上回っているのか、逃げられない。幸せそうにウサギのモフモフを楽しんでいる茉莉の後頭部に、俺は垂直チョップを落とした。


「こらっ、なに勝手に召喚してるんだ。元に戻せ」


「嫌ですっ! もうこの子は私のモノです! 名前は……ミューちゃんにしようか? ね、ミューちゃん!」


「ミュッ?……ミュゥゥゥッ……」


 何かを諦めたらしく、ウサギは大人しくなった。どうしようか迷っていると、朱音が意見する。


「宜しいのではありませんか、和彦様。それに、召喚魔物がどのように成長するのか、成長速度や成長度合いなどは、和彦様もご存じないはず。ここは一つの実験としてお考えになられては?」


「ふむ……」


「そうよ。茉莉も喜んでるんだし、もう暫くは第一層を回るんでしょ? ミューも一緒に連れていけば、茉莉と良い意味で競争になるわ」


 二人の意見に反駁できるほどの論拠を俺は持っていなかった。





「ミュッ……ミミュッ……」


 茉莉の横をウサギがピョンピョンと跳ねている。このウサギでは第一層すら荷が重いだろう。茉莉と一緒に、とにかく歩かせるしかない。


「ミューちゃん、ご飯にしましょうねぇ」


「ミュッ!」


 嬉しそうに茉莉の膝に乗り、ビーフシチューを食べている。可怪しい。ウサギって肉食だったか?


「基本的に、魔物は雑食ですわ。肉でも野菜でも食べます。でもこうしてみていると、確かに可愛らしいですわね。頭を撫でたくなるわ」


 朱音が手を伸ばすと、ミューは大人しく撫でられた。どうやら女性三人の「マスコット」の地位を獲得したらしい。俺は引き出しからカードケースを取り出した。


「そのウサギ……ミューのためのケースだ。大事にしろよ?」


 受け取った茉莉は嬉しそうにミューに頬ずりした。まぁ良しとしよう。俺のように魔物討伐に狂った人間でない限り、ダンジョン内での生活は退屈なはずだ。ペットがいれば、それだけで気分がだいぶ違うだろう。

 1時間歩いて20分休むことを5回繰り返し、この日はそこで切り上げとした。地上に戻って茉莉を帰そうと思ったが、意外なことに茉莉はダンジョン内で泊まりたいと言う。


「私だって、早く強くなりたいんです。ですからもう少し、いさせてください。着替えだって持ってきています」


 魔法の革袋には、先に渡した100万円でパジャマや下着などが入っているらしい。


「よし。なら食事が終わったら、次は2時間コースだ。2時間歩いて20分休む。これを3回やって、今日は終わりにしよう。地上で風呂に入って、ダンジョン内で寝るぞ」


 ビーフシチューを皿に盛り、茉莉に差し出した。





「ファイヤーアロー!」


 炎が槍の形となって、魔物の腹に突き刺さる。エミリの能力を確認するために、俺はあえて後ろに下がった。たとえFランクでもLegend Rareのキャラクターカードである。ゴブリン如きに負けるはずがない。エミリは次々と魔法を繰り出し、オーバーキルを続けていた。


「はぁ……エミリとしてはもう少し手応えのあるヤツと戦いたいんだけど?」


 エミリはそう文句を言うが、初めて魔法を見た俺と茉莉は、その威力に目が点になっていた。


「これは、思った以上だな。魔法というのは相当に便利だ」


「フフンッ、当然よ。エミリは偉大なる一〇八柱の中でも最高峰の才能を持つ天才魔法師なんだから!」


「エミリちゃん、凄いわ。私も魔法、使えるようになるかな?」


「エミリの勘だけれど、きっと魔法スキルが出るわよ。そうしたら教えてあげるわ」


 二人は仲良く歩いている。いや、二人と一匹か。エミリを出すはずなのに、いつの間にか茉莉まで出ている。そしてエミリの歩くペースに余裕でついていく。可怪しい。ついさっきまでゼーゼー言っていたはずなのに、なんでそんな余裕がある? 若さか? コレが「若さの力」って奴なのか?


「和彦様、お気になさらず。エミリや茉莉の成長は、和彦様の利になるのですから……」


 朱音が慰めてくれる。俺の癒やしはお前だけだよ。





 外泊(正確には違うけれど)は久しぶりです。和さんのマンションでシャワーを借りて、そしてダンジョンへと戻った私を待っていたのは、お揃いのパジャマを着たエミリちゃんでした。二段ベッドですが、二人で一つのベッドに横になりながら、お話しします。


「大丈夫よ。簡単な防音結界を張っておいたわ。外からの音も聞こえなくなるけど、安全地帯(セーフティゾーン)なら問題ないわ」


 エミリちゃんのお陰で、パーテーションの向こう側で寝ている和さんたちを気にせず、お喋りができます。学校のことや家のこと、ダンジョンのことなんかをいっぱい喋りました。


「ゴメンね。私だけいっぱい喋っちゃって……」


「いいのよ。エミリは記憶が消されちゃってるから、あまり喋ることが無いのよ。これまでもきっと、こうしてお喋りしてたと思うんだけれど、覚えてないわ」


「私とこうしていることも、忘れちゃうの?」


 どんなに親しくなっても、楽しい思い出をいっぱい作っても、世界の崩壊とともにそれが全て消えてしまう。それはとても悲しいことだと思う。エミリちゃんは少しだけ黙って、そして悲しそうに笑いました。


「10年後の話よ。10年後、もし世界が滅びていなければ、きっと忘れずに済むと思うの。エミリも、茉莉のこと忘れたくない。もっともっと、いっぱい思い出作りたい。だからエミリは、主人(マスター)に協力するの」


「私も……エミリちゃんとずっと友達でいたい。だから、私も戦うわ」


 それから少しお喋りしたと思います。でも疲れていたのか、いつの間にか寝てしまいました。





 ダンジョン時間で第二日目から、茉莉のウェイトを少し上げる。ウェイトベストの重さを5キロから10キロにした。理由は簡単だ。ポーションによるものらしいが、成長速度が普通ではない。5キロのウェイトに、僅か一日で慣れてしまったのだ。


「和彦様の時は、ポーションが少なかったですし、それにマッサージをして差し上げたかったものですから……」


 朱音がそう言い訳する。ズルイ言い訳だ。これでは叱ることもできない。昨夜はエミリが防音結界を張ってくれていたお陰で、俺も気兼ねなく朱音と共に過ごせた。まぁ、良しとしよう。

 最初の六日間は、とにかく第一層での体力づくりに集中する。ポーションは回復力を劇的に高める効果があるようで筋肉痛は一瞬で治まり、筋力は高まる。タンパク質を中心としたバランスの良い食事と十分な睡眠、ストレスを溜めないための気晴らしがあれば、普通の女子でも耐えられることが判った。


「茉莉も、少し試してみたら? ゴブリンくらいなら簡単に倒せるわよ?」


 三日目、エミリにそう促された茉莉は、俺からミドルソードを受け取った。ランクアップしていないため、スキルが発現していない。戦闘手段は素手か武器による近接戦闘しかない。


「えいっ」


 茉莉の一振りでゴブリンが煙になる。最初は怖がっていたが、一度倒させたら後は簡単だった。茉莉とエミリがゴブリンを殺戮していく。この分なら、予想以上に早くEランクに上がりそうだ。


「あ、カード出ました。これで10枚目、ガチャ引けますね」


「あー、カードは100枚あると11回引けるんだが……朱音、保有制限に達した場合、どうなる?」


「その時はカードがドロップしなくなります。ですが、制限数以上を他者から渡された場合については、私にも判りません。試してみられますか?」


「ひゃ、100枚ですか? 気が遠くなりそうです」


「大丈夫。ガチャなんか無くても、大抵のモノは揃うんだから。というより、主人(マスター)はDランクのスケルトンを何千枚単位で持ってるでしょ? 茉莉にガチャやらせてあげたら?」


「ダメだ。自分でカードを稼いでガチャをやる。その習慣をつけないと、甘えてばかりになる。こういうのは最初が肝心なんだ」


 その後も順調に茉莉とエミリはゴブリンを倒し続けた。そしてついにランクアップを迎える。と言っても、ランクアップしたのはエミリとミューだ。


==================

【名 前】 エミリ

【称 号】 小生意気な魔法使い

【ランク】 E

【レア度】 Legend Rare

【スキル】 秘印術Lv2

      招聘術Lv1

      錬金術Lv1

==================


==================

【名 前】 ミューちゃん

【称 号】 木乃内茉莉のペット

【ランク】 E

【レア度】 Common

【スキル】 ミューちゃんぱんちLv1

      ------

==================


「エミリの招聘術と錬金術が上がっていないのが気になるが、問題は…… 称号がペットになってる。それに『ミューちゃんぱんち』? スキルに固有名詞が付いてるぞ? それになんでパンチが平仮名なんだよ! いや、それ以前にウサギといえばパンチよりキックだろ!」


「ミュッ!」


 そう言ってミューはピョンと跳ねた。シュバッという音がして、パンチが空を切る。茉莉は嬉しそうに拍手している。


「凄いすごーい! ミューちゃん、強くなったね。これでゴブリンとも戦えるかなー」


「ミュミューッ!」


 ウサギが「任せろ」と言いたげな表情を浮かべている。ツッコむ気が失せた。もう直立二足歩行しても俺は驚かん。諦めた俺は、エミリに顔を向けた。こっちの話を聞くほうが建設的だろう。


「基本的に、スキルは使わないとレベルアップしないからね。招聘術や錬金術を使おうにも、材料がないんじゃ使えないわ」


「どうやったら材料が手に入るんだ?」


「さぁ? ダンジョンの中で手に入るんじゃないの? あるいは、主人(マスター)のガチャとか?」


「いや、そんな素材らしきものは出なかったな……」


 だが、これまでダンジョン・システムに無駄はなかった。あの魔石も、エネルギー革命の素材として注目されている。エミリのスキルも、必ず使う場面が来るはずだ。


「取り敢えず、茉莉がまだEランクになっていない。それまでは第一層を回るぞ。ミューのスキルも試したいしな」


 ミューは、見た目はウサギで体高50センチしか無い。ゴブリンにすら勝てるとは思えない。そう思っていた時期が俺にもありました。


「ギャギャギャッ」


 体高1メートルくらいのゴブリンがトテトテと走ってくる。ミューはピョンピョンと跳ね、ゴブリンに向かっていった。そして2メートルくらいの距離で、それは起きた。


「ミュッ!」


 バシュッと地を蹴り、ミューが一気に加速した。一蹴りで床に水平に飛び、ゴブリンとの距離を詰める。そして手前で再び床を蹴ると、ゴブリンの顔面付近まで跳び上がった。


「ミューッ!」


 ボコォッ!


 パンチ1発でゴブリンが数メートル殴り飛ばされ、そして煙になった。


「なんでだよ! 加速はいい。パンチもこの際認める。だが体高50センチのウサギが、なんでゴブリンを殴り飛ばせるんだよ。物理的に可怪しいだろ!」


 ミューの見事な攻撃に思わずツッコんでしまった俺は悪くないと思う。だがエヘンッと偉そうにしているウサギの頭を撫でながら、茉莉がジロと睨んできた。


「和さん、ミューちゃんはただのウサギさんではありません! 私の可愛い相棒なんです!」


「そうね。主人(マスター)は頭が良いけど、ちょっと理屈っぽすぎるわ。目の前の事実を受け入れなさい」


「和彦様、ここはダンジョンですから……」


 いや、なんの説明にもなってないだろ。「ダンジョンだから」の一言で、論理と常識が消し飛ばされたような気がする。その後も、ミューはピョンピョンと可愛らしく跳ねながら、ボコボコと魔物を殴り飛ばしていた。もうゴブリンでは相手にならないだろう。





「今日は色々と驚かされたが、ミューのスキルなど幾つかが確認できた。ウサギの格闘技(マーシャルアーツ)というのは理解しがたいが、それはダンジョンだからということで無理やり納得しよう。茉莉がEランクになり次第、ガチャで装備を整えて第三層へと向かう。この方針で良いな?」


 全員が頷く。茉莉は自分の櫛を使ってミューの毛並みを整えている。ピスタチオを両手で持ってカリカリ齧っている姿は、どこから見てもただのウサギだ。


「俺はゴブリン5千匹を殺すうちに、Eランクへと上がった。だがあの時は朱音しかおらず、しかも素手で戦っていた。武器を持った茉莉がEランクに上がるにはもう少し時間が必要だろうな」


「ご、5千…… ずいぶん先のように感じます」


「大丈夫よ。茉莉は着実に成長してる。だって、最初は軽い重りでも息切れしていたのに、今では倍以上の重りでも平気でしょ? それだけ体力や筋力がついてきてる証拠よ」


「うん。そうだね。エミリちゃん、ありがと」


 こうしてみると二人は本当に、同じ女子高の友人同士みたいだ。エミリにとっても、茉莉の存在は大きいだろう。この組み合わせは悪くない。


(茉莉が成長したら、エミリのカードを譲渡するか)


 そう思っていた俺は、カードで思い出したことがあった。ゴブリンカードを40枚取り出す。


「茉莉、このカードを手にしてステータス画面を開いてみてくれ。カードとガチャがどう反応するか、確認しておきたい」


 もし30枚しか持てないのであれば、11連ガチャのメリットは俺一人ということになり、今後のバスターズ運営に大きく関わる問題となる。茉莉は40枚が入ったカードホルダーを手にとった。どうやら持つことはできるようだ。そしてステータス画面を開いた。


==================

【名 前】 木乃内 茉莉

【称 号】 なし

【ランク】 F

【保有数】 40/30

【スキル】 カードガチャ(4)

      ------

      ------

==================


「フム。どうやら保有数はドロップに影響するだけで、ガチャ機能は問題なさそうだな。よし、ゴブカードをあと60枚渡すから、試しにアイテムガチャをやってみてくれ」


 ゴブカードを渡すと、普通に11連表示が出た。ポーションだの綺麗な指輪だのが出てくる。CとUCの出現率は俺と変わらない。ランクとレア出現率に相関性は無さそうだ。ステータス画面からウィーンとカードが出現する光景に、茉莉は目を丸くしていた。


「ガチャのレア出現率に影響するのはカードのレアリティであって本人ランクではないようだな。これなら問題ない。バスターズに加わったメンバーたちには『怠け者の荷物入れ』を配布し、カードを一括回収するようにしよう」


 判明したことをノートに書き記す。ダンジョンについてもステータスについても、まだまだ不明なことが多い。疑問を感じたら都度メモし、機会があれば検証していく。地道だが、これ以外にダンジョンを理解することは不可能だろう。

 休憩後、茉莉はさらにウェイトを重くしてダンジョンに入った。





 和さんがお手洗いに行っている間に、朱音さんとエミリちゃんから、初めてのダンジョンについて感想を聞かれました。確かに大変だけれど、難しくはないように思えます。戦うのも、少し慣れてきました。


「でも意外なこともあります。和さんって、結構明るい人だったんですね。もっと寡黙で、怖い人かと思ってました」


「あー、それはきっと茉莉の影響ね」


 エミリちゃんの言葉に、朱音さんも頷いています。どういうことでしょう?


「エミリや茉莉さんが加わる前までは、和彦様は私と二人きりでダンジョンに立ち向かっておられました。確かにその頃は、鬼気迫るものがありました。黙ったまま、何千もの魔物を作業のように殺戮しておられました。誰にも話せず、相談できず、ずっと孤独でいらっしゃったのです。茉莉さんが入ってくださったお陰で、和彦様の心も軽くなられたのでしょう」


「そうね。主人(マスター)があんなツッコミや冗談を言う人だとは、私も思ってなかった。茉莉が思っている以上に、主人(マスター)にとって茉莉の存在は大きいと思うわ。だからこれからもよろしくね!」


 10年後、ダンジョンから無数の魔物が溢れ出し、地上の生き物は全て絶滅するそうです。和さんはその未来を変えるために、必死に戦っています。その重荷を誰とも分かち合えなければ、私だったらきっと、押し潰されてしまうでしょう。私は弱いから、ほんの少ししか背負えないけれど、それが和さんの救いになるのなら、助けてあげたいと思います。


 初出勤は、地上時間で4時間、ダンジョン時間で144時間を過ごしました。ゴブリンといっぱい戦いましたけれど、残念ですがEランクにはなりませんでした。でも、これは和さんにとっては想定通りだったようで、むしろ成長が早いって褒めてくれました。「やはり若さだな」って前置きがありましたが。


「ミューがランクアップしたこともあるので、初出勤だが時給2千円で計算してある。28万8千円だ。もうすぐ日が暮れるし、自宅まで車で送ろう」


 分厚い封筒の中には、1万円札が28枚、千円札が8枚、ピン札で入っています。初めてのアルバイトで手にした、人生初のお給料です。お母さんに何か買って帰りたいので、送ってもらう途中でケーキ屋さんに寄ってもらいました。


「あの、明日もアルバイトできるのでしょうか?」


「ん? そうだな。二週間くらいで予定を組んでおくか。だが明日は午後からだ。午前中は地上でテレビを見たい」


 日曜日の午前中のテレビといえば、バラエティーでしょうか。私がそう聞くと、和さんは笑って首を振りました。


「そうだな。茉莉にも教えておこう。横浜にダンジョンが出現してから、今日で36日目を迎えた。恐らく今夜0時前後に、再びどこかにダンジョンが出現するはずだ。明日はきっと、そのニュースで持ち切りになるだろう。茉莉も今夜は、出歩かないようにな」


 私は半信半疑のまま、家に帰りました。お母さんにケーキを渡すと、泣いて喜んでくれました。私はお小遣いとして、1万円だけ貰いました。これだけあれば生活費も楽になりますし、おばあちゃんの介護ヘルパーも雇えると思います。お母さんはダンジョンについては聞いてきませんでした。ただ、無理をしてはダメよ、とだけ言われました。


 自覚していないだけで、精神的に疲れていたのだと思います。夜10時過ぎに布団に入ると、すぐに寝てしまいました。そして翌朝、朝ごはんを食べながらテレビをつけると、臨時ニュースが流れていました。和さんが言った通り、世界中にまた、ダンジョンが出現したそうです。



コミック版「ダンジョン・バスターズ 第4巻」がもうすぐ発売されます。特典SSなども付いています。ぜひお手に取ってください。


《書籍版》

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)


《コミック版》

挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

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