『尊い』の嘘手話を広める方へのお願い
最近ツイッターで
(鳥)の手話イラストを載せて、「これは天に召される様子から(尊い)の手話になります」
と、嘘の情報が投稿された時に、18万7千回以上の「いいね」が付くくらい多くの方に誤解を植え付けてしまい聾者の怒りをかっている、と言った問題が起きたのですが、それに対して
「鳥の手話の絵が馬鹿にしてるような表情だから不快なんじゃないのか?」
「そんなに怒る事じゃないと思うのに冗談を冗談として捉えられないの?」
「よく分からないけど手話界隈では大問題なんだって」等々
色々な意見が書かれています。
それらを読んでみて感じたのは、なぜ聾者があれほど怒っているのか……なぜ冗談だと済ませられないのか……それが理解されていないように感じました。
そこには『手話を全く知らない健常者』や『日本語対応手話を話せる聴者』と『日本手話を第一言語としている聾者』との間に、分かり合えない高い高い壁があるように思えてなりません。
手話と日本語は全く違う言語です。
日本に暮らしている聾者は日々『分からない言語の世界』で生きています。
テレビやイベントで何かボランティア的な事があれば必ずと言っていいほど出てくる『手話』……
よく目にはするけど実際に話せる人は? と問われれば、手を揚げられる人は決して多いとは言えないのが現状で、健常者にとっても『手話』は決して馴染みのある言語とは言い難いものなのだと思います。
例えば日本語以外は話せない人に「外国語で『愛しています』って言えますか?」と質問した場合
「I love you」
「Ich liebe dich」
「Ti amo」
「Je t'aime」
「我爱你」
「喜欢你」
等々、文字で書く事は出来なくても、音声でいくつかの言語は答えられると思います。
でも『手話で言えますか?』と聞かれたら場合、殆どの方が「言えない」と答えるのではないでしょうか?
私達聾者が住む世界は、簡単な日常会話どころか、たった1つの手話単語でさえ通じないのが当たり前の世界なんです。
そんな世界の中で、何とか手話に興味を持ってもらおうと……聾者の事を理解してもらおうと努力している人達が居るんです。
皆が自分に出来る事を考え、漫画を書いたり、小説を書いたり、ツイッターで呟いたりして頑張っています。
今回のデマはそんな努力を無駄にする行為だと思うんです……
例えば……
あなたは言葉の分からない外国に住んでいる、たった一人の日本人です……
その国の言葉はとても難しく、あなたは誰ともお話出来ません……
普段は物を指さしたり、簡単なジェスチャーで何とか生活は出来ています……
当然あなたの話す日本語は誰にも通じないし、話してくれる人もいません……
しばらくして、何人かの人が日本語に興味を持ち、あなたの所へ訪ねてきます……
あなたは日本語を覚えてもらえればみんなとお話ができる、生活も楽しくなる……
そんな夢を見て大喜びで教えてあげます……
日本語は難しいけれど集まってくれた人は少しずつ少しずつ単語を覚えてくれました……
そんなある日、あなたが留守の時を狙って悪意を持った人が
「俺は日本語が得意だから今日は俺が教えてやるよ」
と集まってくれた人達に言い
「好きな人に思いを伝える時は『大嫌い』って言うんだぜ」
「愛する娘や奥さんの事は『豚』って言うんだぜ」
とデタラメを教えます……
あなたが気付いたのはデタラメが広まってしまった後です……
間違いだと訂正しようとしても、その国の言葉を話せないあなたはうまく訂正する事が出来ません……
訂正しようと努力しても、現地の言葉で広まる嘘の方が伝わる速度は速くどうしようもありません……
日本語を教わりに来てくれてた人の中には「何が本当なのか分からないからもういいや」と興味が薄れた人も居ます……
まだ教わりたいと残ってくれた人に対しても、一度デタラメな情報を訂正してから正しい言葉を教え直すと言った手間が増え、あなたの夢は一歩も二歩も後退してしまいました……
その後デタラメを教えた人が分かり「なぜこんな事をしたのか?」と問いただしても真面目に答えてくれません……
「本当に勘違いをしていたんです、聾者にとって良かれと思った事だけど結果的に間違っていました、スミマセン」と言うのならまだ理解できます……
けれど「軽い冗談じゃないかよ、そんな事もわかんねぇのかよ」と開き直られたらどう思いますか?
日本語に全く興味の無い人が……あなたの努力や夢など全く理解しようとしない人が、自分が楽しむ目的の為だけにこんな事をした場合、あなたは何と答えますか?
「なんだ冗談だったのかよ、はははは」と笑って許せますか?
手話は聾者にとって大切な言葉なんです……
『冗談』と言う名の『言い逃れ』で……
『自分が楽しむだけ』等と言った『身勝手な目的』で嘘を広めては欲しくないものです……