四、朽草
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星が、うつくしい。
満天だ。
いつか、あなたに教えてもらったことを思い出す。
星に宿る、神々の恋物語。
人よりも人らしい、彼らの夢。
「 」
唇を開いてみたけれど、もう声が出ない。
息すら出来ているかわからない。
ゆっくりと、でも確実に、向かってゆくものがある。
逸れることは出来ない、これがあの道というものなのか。
これが、あの人も辿った道。
「 」
ああ、それでも。
今夜の星は、なんて美しいのだろう。
漆黒の空に広がる、無数の光。
手を伸ばしても届かない、永遠の光。
あの日見た花びらよりも白く、眩しく、細やかで、そして遠い。
しかし、儚くはない。
あれだけ遠いのに、散ることも消えることもない。
星は、花びらではない。
星は、星なのだ。
「 」
声が出ない。
言の葉は消えた。
音も生まれない。
なのに、どうしてだろう。
耳にはずっと、あなたの声が残っている。
あの日からずっと、あなたの唄う声が聴こえる。
あなたはもう、いないのに。
「 」
ごめんなさい。
ごめんなさい。
あなたがいなくとも生きるという、あなたとの約束を守れなくてごめんなさい。
私はやっぱり力が無くて、この道しか選べなかった。
どうか、ゆるして。
でも、これからもう一つの約束を果たしにゆくから。
待っていて。
あのとき傍にいられなくて、ごめんなさい。
ついてゆけなくて、……ごめんなさい。
これからは、ずっと一緒にいる。
今度こそ、違わない。
だから、待っていて。
「 」
……あなたが手を離した、あのとき。
生きるしかなかった。
生きることが約束だったし、証だとも思った。
この小さな手を握って、生きようと思った。
でも、結局は……
「 」
……ごめんね。
あなたをひとりにして、ごめんね。
でも、あなたなら大丈夫だと思ったの。
あの瞬間、あなたなら生きてゆけるとわかったの。
このろくでもない世界で、生きるに酷すぎる世の中で。
力を持たない私達は、生きるために逃げ出した。
愚かで弱いなりに、努力はしたけれど。
やっぱり、上手くはいかなかった。
でも、 あなたなら。
「 」
星が、きれいね。
あなたが生まれたのも、とても星がきれいな夜だった。
あなたは生まれた瞬間から、多くのものを教えてくれた。
こんなに小さくとも生きているのだということ。
こんなに弱くとも生きているのだということ。
こんなに……いとおしい存在がこの世界にまだ在ったのだということ。
あの人も、私も。
あなたが生まれて、沢山のことを識ったのよ。
あなたがいたから。
あなたが、生まれてくれたから。
「 」
あなたなら、大丈夫。
あなただから、大丈夫。
あなたは私に似ていて、あの人にも似ているから。
そして……私達とは、遠く離れた存在になったから。
きっと……大丈夫。
「 」
でも、今のあなたはまだ小さくて。
あんなに小さいのに……手を放してしまった。
ごめんね。
本当に、ごめんね。
ゆるして、なんて、いえな、い
「 」
どうか
どうか
あのこが であいに めぐまれますように
やさしい ひとに
きれいな ものに
すこしでも おおく であえますように
あのひの わたしのように
たいせつなひとと
だいすきなひとと めぐりあえますように
どうか どうか
せかいが うつくしいことを しらないまま おわらないで
「 」
もう とどかない
くるしさも すくな く
「 」
ごめんね
ごめ んね、
……清秋。