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道を作る星  作者: KEITA
本編
3/10

【かわりゆく冬空】



 白く煙る呼気が、季節の巡りをわかりやすく告げる。

 時が流れるのは早い。田畑の色が黄金から茶黒に移り変わる合間、人や物の流れも変わる。多くの国に挟まれるこの小さな国において、些細な変化は大きな渦となるのが早く、そして時流を掴めないものは流れに翻弄され、いずこともなく消えていく。

 

春椿はるつばきの一軍が国境を侵した」


 その伝令が宮中に届いたのは、そんな季節であった。


「北東の一角。先の地震で礎がゆるんだ際、高台より物見役が降りた隙を突かれ砦が制圧された。北東の境は山肌で死角が多いゆえ、高所の目を失うと接近に気づくのが遅れる。してやられた」

「卑劣な」

「ああ、いかにもあの国の将のやりそうなことよ……!」

「……」

「……」

 悔し気に歯噛み顔をしていた者らの会合。しかし一拍置いてのち、その空気は入れ替わる。――彼らの顔と声に浮かぶのは、焦りを鼻で嗤い飛ばすような歴戦の施政者の表情だった。

「まあ、予測はしていたがな」

「思っていたよりも早かった」

 伝令が来る前に既に交易の道は封鎖してある。小競り合いの域を超えた場合、一連の対応手順も整っている。境近くの農民は逃散の振りをして領主の下に避難済み、これもいつものことだ。

「間諜の報告から想定したよりは遅かったな」

「もう少し早ければ我らとて慌てたものを。田の収穫が済み穀倉へ運んだ直後にとは、だいぶ相手方も賢い・・ようで」

「まさに」

 領主の敷地内に避難した農民らは、敷地内や周囲に簡易住居を建て、そこでしばらく暮らす。彼らの生活費並び日々の食糧はその間、領主を始め周辺豪族の倉より出される。また、有事の連絡経路から他地域よりふんだんに補給される。なんのことはない、農民かれらのものが農民かれらへ還元されるだけの話だ。そして一か所に人が集まることにより、武器も支給されやすくなり統率も取りやすくなる。

「幾ばくほどが、集結できそうか」

「こたびは民の行動が早かったゆえ、三日とかからないはずだ」

「上出来よ」

 この国において、身分階級とはあって無いようなもの。平時こそ見せかけの制度を謳ってはいるが、戦時はすべての基準がひとつとなる。すなわち、犠牲を最小限に今の状態を一日も早く終わらせること。

「地形からして向こうの死角こそ多く、援軍も期待出来る。油断はならぬが、手筈通りに」

「うむ」

「道は我らの前に開けている」

 国税は民のもの。士華きぞくは蓄えた米や財を惜しげもなく使い、平民を護る。平民は士華の指揮下にて兵と成り、また士華を護る。彼らの相互扶助が集落の枠を護り、引いては国全体を護る。また身分の上下関わらず兵役の志願者は多く、士気も高い。

 戦乱に巻き込まれやすい、軍人出世が優先される小国だからという理由に隠された裏の背景は。


「我が国の『星』は変わらず都に在る。―――琉夏あのねこの動向に変化は無い。ゆえに、予言はひとまず我が国の味方といっていいだろう」


 道を照らす「星」が、彼らの前に燦然と輝いてるからだ。




「―――『星』殿」

 火鉢も温床も懐炉も無い、そんな寂しく寒々しい場所にその人は一人で座っていた。

「『星』殿。この昏き世に光明として輝くあなたに、頼み事がある」

 薄暗い座敷牢。

「……如何様な」

「これを預かっていただきたい」

 格子の下より差し出されたのは、薄紙に畳まれた文と、そして一房の黒髪である。

「わが国の軍が約定を破り国境を侵した、その瞬間から自分の学徒としての役も放免となった。有るのはただ、敵国者としての罪状だけ」

 色を失いひび割れた唇から、白く呼気が洩れる。声もやや掠れ、張りが無い。かつて学の間にて椿の刺された袖を翻し堂々としていた若者とは思えない姿。

 彼は、母国に見捨てられた。

「ゆえに、既に明日の命は無いものと考えている。数ある側妃腹の一人、そして後ろ盾の弱い身ゆえ、祖国の命乞いは期待していない。事実、ここで刑に処されたとて、後々の交渉にさして響きもしないであろう。元より覚悟の上、わが身はどうなっても構わない。しかし、ただ一つの心残りはわが身の最期を、」

 言葉を一瞬詰まらせた彼の頬に、ひとすじ乱れ落ちた髪。かつてあった耳飾りは、もう既に無い。

「……、祖国がために使ったこの命を、誰よりも識って欲しい方がこの場に居ないことだ」

「――」

「どうか、『星』殿」

 一か月半前とは違う一枚きりの粗末な薄い単衣姿で、やせ細った若者は私に頭を下げた。

「今現状は不可能と知れている。ゆえに、あなたにしばし預かっていてほしい。この国で誰よりも光り輝き、道を照らすゆえ誰より安全な場所に居るあなたに」

「……」

「迷惑であろうことはわかっている。申し訳ない。しかし、それでも今の自分は、こうして密やかに見舞ってくれたあなた個人の恩情に縋りたい。ほとぼりが冷めたら……条約がまた結ばれる運びとなったのなら、その文と髪を春椿国に送って欲しい。春椿の後宮に住まう……私の、母に」

 せめて形見を残したいのだ。彼はそう言って、微笑んだ。




 罪人を収容する監獄宮から出たあと、暫く黙って歩く。常よりも監視の目は多いことに気づいているので、迂闊なことを話せない。しかし、歩が早い私の様子に傍らの従者は気づいているようだった。

 噛みしめた唇が、ひりひりと痛い。

 屋敷に戻ってからも、私は『星』の装いを解かなかった。


――清秋、


 門を閉め、私は唇の動きだけで従者に語り掛ける。おそらく外で聴き耳を立てている者がいるため、二人で考えた秘密の会話方法である。清秋は、読唇の術も覚えるのが早かった。


――私は、あの者を助けたい

――駄目です


 語尾にかぶせるように即答が来る。


――今の情勢からして琉夏さまが動かぬことこそ肝要。『星』は妙な動きをしてはなりません。上層部に悟られたらこれからの扱いが苦しくなります

――わかっておる、しかし、

――『星』は平時には動いてはなりません。そして戦時には、『星』でいなくてはなりません

――ッわかっておる!


 かぶりを振るよう、乱雑に頭を上げた。簪が振り回され、何度も鳴った。私を戒めるそのいつもの音も、悲鳴のように聴こえる。ああそうだ、これは私の悲鳴なのだ。

 託されたものを、懐の上から押さえる。一度下を向き、息をついた。


――悪かった、私情を挟んで。私はやはりああいうのに弱いな。今日は早く寝る


「琉夏さま」


 急な肉声に、はっと目を見開いた。


「琉夏さま、そんなに塞ぎ込まないで。干し柿を買って参ります。きっと美味しいですよ」


 私の正面に立つ少年従者は、いつものように静かな表情をしていた。



 ……そして、屋敷よりそっと出ていく小さな影が、一つ。








 薄墨を白灰に溶いたような冬の空。

 切り立った渓谷に、死体が投げ落とされた。山間の砦を護っていた兵士の一体である。それを為した一兵は、凍え切った瞳で空車を押し、持ち場へと引き返す。殲滅の予定ではなかったが、死兵もかくやという勢いで抵抗されたのでそうするしかなかったのである。今ので最後、全員を砦より離れた場所に棄て終わった。

 敵兵とは言え、数も多くない遺体を埋葬せず無碍に扱う文化はこの大陸の先進国として野蛮である。任務を為した直後にすべきは確かな場の確保と援軍への警戒であって、かのように無駄に労力と時間を食う行動をしたくもない。しかし、自分らの大将はこう言ったのだ、「死体が傍に在っては勝利の美酒が不味くなる」――と。

 阿呆か、と兵士は粗末な鎧の下で歯噛みする。寵姫の一族であり高名な士華の出身というだけで成り上がった脳無し将軍は、いっとう暇な場所――地形の複雑さが線引きを曖昧にしている国境――の守りに封じられ、刺激という名の軍功を望んでいた。停戦条約を結んでいる隣国を小国と侮り、最近は対外に消極的な本国を不甲斐ないと断じ、我らの手で砦を落とし版図を広げようと。それが大国たる春椿の気勢を取り戻すきっかけになると。……馬鹿馬鹿しい。

 辺境のちっぽけな守りを破ったからとて、なんになる。それ如きでこの国を制せるのなら、とっくにそうなっている。強大な勢力に囲まれた小国である秋橘国が今まで盤石に長らえている理由は、高い文化性と外交力を保持しているからだけではない。国軍が大変に、精鋭なのだ。

 自然区域の異能を兵器として発揮できる「霊法師」の軍団、それは互いに保持している。むしろこちら側の方が数が多く、総力もあるだろう。しかし高潔な精霊は人同士の争いには殆ど手を貸さないため、彼らの手を借りる「霊法師」の能力発動には大いなる制限があり、国同士の戦争には事実上役立たずである。よって、霊力の濃い自然区域内においての諍いは、泥臭く只人同士の殺し合いだ。

 規模の違いゆえ、総力戦となれば力押せることは出来るだろう。しかし、それは同時に春椿こちらの国力減退を余儀なくされる。そしてその隙を複数の国に突かれれば、いくら大国といえ危ない。秋橘軍は大変に高度な諜報の網を保持している上、一兵に至るまで大変に士気が高いのだ。恐ろしいほどに。

 事実、この砦の兵は誰一人として最後まで抵抗をやめなかった。退路は無く逃がすつもりも無いこちらの進撃に覚悟を決めたゆえのことだろう――とあの阿呆大将は言っていたが、兵士らは薄々勘付いている。彼らは、単に時間を稼ぐために抵抗したのだ。

 死兵の瞳は、ひたすらに輝いていた。まるで中空に輝く導を見つけた時のように。




 兵士が砦の持ち場へと戻ると、既に宴会は始まっていた。……そう、宴会である。戦地だというのに。

「まずは一勝!」

「さすがでございますな、沈壇どの」

「容易いことよ! むしろこのような小さな詰所・・相手に、なぜ今までの者どもは手をこまねいておったのか。我が戦略を見よ!先の天変が妙を見逃さず、隙を突いてやったわ」

 かかか、と高く笑いながら盃を傾ける大将に、周りの衆はへらへらと調子を合わせ酌をする。灯された篝火が、白々とその頬を照らした。

「沈壇どのが慧眼はまこと、歴戦の如きですな! これが初陣とは思えぬほどの豪断ぶり。さすが、春椿一の士華出身であられます」

「それはさすがに言い過ぎよ。我が家は確かに名家であるが、現時点では従妹が第二妃の座に収まっているにすぎぬ。伯母上が先代の正室だったことに比べれば威は落ちているともいえる。ゆえに、我が奮起せねばな。こうして軍功をあげ気勢を高めれば、自然と我が家の威勢も取り戻せる」

「成程。沈壇どのはまこと、お家の次期当主に相応しいお方で」

「おいおい、それも先走りすぎだ」

 機嫌よく盃を傾けつつ、酒精で赤らんだ顔はふと幕内の出入り口を向く。

「おお、戻ったか。……何をしている、そんな辛気臭い顔をしているなら外に出ていろ」

「まことまこと」

 虚構そのものの笑いを背に受け、兵士はその場を辞した。





 一兵士が幕外へと消えた数分後、新たに幕内へと入ってきた者が居た。すわ戻ってきたのか、と顔を上げた将らは、その認識違いに気づく。

「――ん?」

 だいぶ小さな足音とわずかな衣擦れ、垂れ下がった布を手で持ち上げる必要が無いほどに小柄な身体。声変わりの片鱗すらまだ見当たらない、高く幼い声。

「お邪魔いたします」


 入れ替わるよう幕内に入ってきたのは、小柄な少年であった。


 帯刀もせず、足元は軽い旅具足。一分の隙も無く結わえられた総髪、泥飛沫のひとつも見当たらない小袖の装い。なめらかな頬に、軽く笑みを浮かべて。

 それは、戦地においてあまりに場違いな存在であった。

「おい、禿がいるぞ」

「かむろ?」

「これは余興か?」

「いいぞ、ならば踊れ」

 少年の存在に気づき、赤らんだ顔で口々に囃し立て始める酔漢に、少年はまた微笑んだ。白皙の中、つぶらとも言える黒目が妖しく瞬く。

「なかなか美形ではないか。本国で禁じられている禿の戦地連れなれど、ここは『外国』ゆえな、」

 幼いながら整った造作に興が乗ったのか、手を伸ばす者も居た。少年は、その腕を避けなかった。にこりと柔らかく微笑み返し、顔に伸ばされた手をみずからの小さな手でまた握る。

 そして。


みしりっ……ごきゅり


 その場に、何かの音が響いた。まるで玩具の車輪を足の裏で踏み潰してしまったかのような、軽く鈍いそれ。

 あまりに突然で、誰しもが事態を把握できずに数泊の沈黙が訪れる。そう、幼い子供に手首を潰された男自身も。

「あ……? あ、あぁあああぁあぁ!!」

 自分のそれより二回りちかく小さな手が、貝殻の如く小さな爪宿した細い指が、まるで万力のように己の手首を掴んでいる。なぜ、指を伸ばしたところで半周も精々であろう子供の手が、大人の自分の手首を掴めて・・・いる!?

 今の状況は言の葉で称せられるほど生易しいものではなかった。そう、この子供は尋常ではない指先の力で肉を圧し、内部の腱さえも諸共に摘まんで・・・・しまっている。

 赤かった男の顔が、見る間に紫色となった。

「ぁあああ、ぎゃぁああああッ、はな、はなぜ、ばな”ぜぇええッ」

 泡を吹きながら叫び、じたばたと暴れるが、自分の腕はぴくりとも動かない。滑稽なほどに、見かけの膂力差が逆転していた。まるで、大人の自分が子供の細い手首を指だけで摘まみ圧迫するように。いや、それよりも遥かに容赦なく。

「……!?」「なっ……」

 最初は何を戯れているのだと笑っていた者らも、それが遊びでないことに徐々に気づき始める。

 清らかな笑顔のまま大の男の手首を潰した少年は、次いでその手を無造作に捻り、打ち棄てるように離した。聴くに堪えない絶叫を放つ男は、あり得ない方向に手首を曲がらせたまま地面に転がる。

 少年はふと笑顔を消し、されど白皙の頬を崩さぬまま周囲の大人達を見やった。動作の小ささと比例するよう静かすぎるほどの眼差し。まるでその身から冷気が湧き出るよう、場が凍り付いていく。

 幾つもの酒瓶が落ち、割れる音。場の酔いは一気に醒め、赤ら顔にようやっと警戒を宿した者らが、立ち上がりざまに得物を抜いた。


 将の至近に控えていた衛兵の一人が、斬りかかる。部門者として形の整った一撃は、呆気なく空を切った。少年が後ろに軽く跳んで避けたのである。見る者が見れば、彼の身のこなしはさほど小慣れてはいないことがわかっただろう。それはまるで、年相応に攻撃に怯んで背後に下がったかのような動き。

「っらえ!」

 それに勢いづいたのか、一人が卓上から酒器を投げつける。まともに食らえば額が割れるだろうそれを片手で払う少年に生まれた、数瞬の間。男は隙ありとばかりに卓を飛び越え、斬りかかる。

 捉えた。完全に、殺った。その場で刃を手にしていた者ら全員がそう思った瞬間、またもあり得ない光景は繰り広げられた。

がきィんっ

 容赦無く細い首を刎ねる勢いで薙ぎ払われた一刃が、真っ二つに折れたのだ。

「!? ぅあっ」

 男は、愛刀を折ったその正体を確かめることなく気絶する。首に刃を叩きつけられても微動だにしなかった少年が、細い手を伸ばして男の胸倉をつかみ、そのまま別の方向へと無造作に投げつけた・・・・・からである。

 それは背負い技など武技の類ではなく、やはり完全に素人めいた動き。周りの者らは、決して小柄ではなく武装も解いていないその男が小さな少年に片手で投げ飛ばされ、宙を舞って先ほど飛び越えたばかりの卓を巻き込み壁へと激突するのを目の当たりにした。

「……、……ッ」

 もうもうと上がる埃と呻き声。衝撃音ののち、誰しもが、沈黙した。皆が皆、戦場の勘を取り戻そうと、必死に今の状況を把握しようとしている。

 しかし、理解が追い付かない。


 なんだ、これは。


 小さな手の平が、ひらりと振られる。細く白い指を伝い、薄色の酒雫が払われるように垂れた。眉を顰めた彼の面持ちも相まって、まるで小さなこどもが汚いと信じるものをうっかり触ってしまったかのような風情。

「お酒の入った器を投げつけるのは、してください。万が一、衣に匂いがついて、わが主に知られたら、怒られます。私はまだお酒が飲めませんので」

 少年こどもの声が、何かを言っている。しかし何を言っているのか。

「けがをしたくなければ、大人しく降参してください」

 目の前のこいつは、自分達の背丈の半分ほどの幼子だ。見るからに成人もしていない、ガキのはずだ。実際、動きに洗練されたところなど無い。なのに。


 なのに、なんだ、これは。


「……、護りの者は、」「おい、であえ!!」「――なぜ来ない?!」

 曲がりなりにも陣中、幕内の入り口を護る最低限の兵は居たはずである。どうしてそれが目の前の危険人物を排斥しなかったのか。――否、どう見ても危険・・には見えないとしても、なぜこの場違いな存在はこの場に居る。どうして今、誰もこの場に現れない。

「この砦はあなた方に一旦落とされましたが、私が落とし返しました」

 突如の危機に右往左往する間抜けなおとならに、少年は静かに落ち着いた、しかし声変わり前の高い声で答えを放つ。

「外に居た人達なら、もう逃げましたよ?」


 鈍色の曇天下、繰り広げられていた宴会。その場の勝利に酔いしれ顔を赤くさせていた面々は、やがてその空よりも薄白い顔色と化す。



「おのれ化生の類かッ! 皆の者、怯むでない、射よ!!」

「降参しませんか。では、しかたありませんね」

「ぎゃあっ」「矢も効かぬ……っ火を! 獣の化生ならば火気で、」

「火もしてください。この衣、そこそこに気に入っているのです」

「がふっ」「う、ぅわああああああ」

「殺すまではしません、そんな野蛮なこと。私は『無力なこども』。『こどものうちに人を殺すと、心を喪う』『こどもは長い将来を考え罪は最小限に、選択肢を多く持ったほうがいい』『罪人は善人と結ばれない』そうなので」

「ば、ば、ば、ばけもの……ッ」

「全員、気絶していただきます」


「たすけてくれたすけてくれお願いだわたしは何も悪くないわるいのはこいつらで、」

「だから殺さないと言ったでしょう。ああ、もしかしてあなたは、逃げたいのですか?」

「た、たす、たすけ、」

「では、そうしてください」

「……は?」


「さあ、逃げなさい。むざむざと生き延びるのをゆるしてさしあげます」



―――せいぜい、生き恥をお晒しなさい。


 そう言って、少年は冬空のごとく笑んだ。



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