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死を恋う神に花束を 白百合を携える 純黒なる死の天使  作者: 高坂 八尋
第ニ章 猟犬の掟

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7.舞闘会

8



 会議が終わりジェイドが廊下を歩いていると、ルークが追い掛けて来た。

「どうした、ルーク。後少しで任務に出る時間だぞ」

「王が俺の事、弱そうとか言うんですよ。俺だって(ゴースト)の一員なのに」

「ヘルレアからしたら、皆、弱そうだろ。じゃあな」

「確かにそうですけど……待ってください。このままでは悔しいです」

「ルーク、ヘルレアに入れ込むなよ。いいか、お前はからかわれただけだ。痛い目を見るぞ」

 ルークの顔が赤くなった。

「それは関係ありません。とにかく、俺が正式な影である事を示したいのです」

 ジェイドは眉根を寄せる。

 ルークは良くも悪くも若い。美しいヘルレアへ直ぐに心を動かすのはよく分かる。しかし、ヘルレアとカイムの間に、横槍を入れられるのは困るのだ。

「正式な影である事を示すとは、何をする気だ」

「それは勿論王に相手をしてもらうんです」

「お前殺されるぞ。せめて誰かとの手合わせを見せるとか、そういう方向には考えがいかないのか」

「でも、今いる顔触れだと俺、まともにアピール出来ないと思うんです。そもそも隊長は強過ぎて無理だし、チェスカル副隊長は後が怖いし、ハルヒコはゴリラだし、俺の長所を殺しに来る人達ばかりなんです。見せ場を奪われるんですよ。王に直接打つかってみたら早いのではないかなと」

「手合わせは力量差前提で成り立つものだぞ。チェスカルはともかく」

「加減した手合わせで、王が俺の事を認めてくれるとは思えないんです。相手も本気になる程、拮抗した強さでないと。これは、悔しいですけれどハルヒコにまで劣っていると、言っているようなものですが」

 遠くから、少しだけ低い子供の様な笑い声が上がった。ジェイドとルークがそれに気を取られていると、ヘルレアがいつの間にか背後に立っていた。

 ジェイドは全くヘルレアの気配に気が付かなかった。

 二頭の猟犬(イヌ)は反射的に後退(あとじさ)っていた。二人の手は腰のホルスターへ無意識に添えられている。

「王よ、無駄に気配を消すな。風穴を開けているところだ。まあ、(むし)ろ開けたいところだが」

「驚きました。こんなことが出来るなんて」

「ルーク、弱そうとかどうとか気にしているのか」

「気にするに決まっています。俺に取っては死活問題です。王、俺と手合わせしてください。そうしたら俺が如何に優秀な影か分かる筈です。もう、弱そうとは言わせません」

「いいだろう、相手をしてやる。どこか人目がなくて広い場所はないか」

「訓練場があります。あそこなら人払い出来ますし、そもそもが早朝なので誰も居ません」

「待て、どアホ共。何を勝手に決めている。ヘルレア、綺紋はどうなった。戻ってないならそのような状態で闘ってどうする。相手はルークだが、この小僧も一応猟犬の端くれだ。怪我でもされたら迷惑だ」

「綺紋など関係ない。ルークに怪我させられるわけがないだろう」

「王は俺を侮り過ぎです。カイム様に許可を頂ければいいですよね」

 ジェイドは頭を抱えた。



 猟犬の棲家にある訓練場は地下にある。訓練場の広さは館の三分の一程度という中々に広い面積がある。主に音を伴う武器類の練習場所に使われて、射撃訓練専用の階層も設けられている。

 訓練場の地下一階は多目的な運動場になっており、壁の上層部には観覧席が設けられていて、耐防弾衝撃ガラスが張らて安全に観覧可能となっている。

 運動場の壁や床は灰白色をしている。特注品で耐久、耐刃、耐火に優れており特殊な訓練を行っても、褪せる事なく常に施工したばかりの状態に保てる。

 更に気密性が高く外部へは一切音を漏らさない。

 ヘルレアとルークが訓練場の中心で向き合っていた。ジェイドとカイム、チェスカルにハルヒコと、結局、ヘルレアを知る顔触れが集まって、二人を取り巻いている。

 カイムは弱い。押しに弱い。

 ヘルレアと交渉事で渡り合ったというのに、半端(はんぱ)な件だと(ことごと)く負けていく。

 カイムは王の声に折れた。ジェイドはこうなる事が分かっていた。完全に悪ノリしている王にカイムが勝てるとは思えなかった。

「ルーク来い。武器は何でも使っていいぞ。勿論、実弾入りの銃もだ」

「本当にいいんですか」ルークがベルトからダガーを抜いて、カイムとチェスカルを見る。

「やり過ぎない様に」

「殺す気で行け」チェスカルは腕を組む。

「お前も言うようになったな」

 ヘルレアは半眼で笑うとルークへ手招きした。

 ルークはダガーを構えるとヘルレアへ(おど)り掛かった。突き刺す形で頸動脈を狙う。ヘルレアは危ういところで首を反らすと、刃が引き切る前に首を戻した。様に、見えた。

 ルークは瞬時に諸刃で切り付ける角度に変えて、削ぐように風切る速度で執拗に首を狙っていく。だが、ヘルレアはその度に首を僅かに()らせているようで、当たった様に見えて触れてさえいなかった。

 焦れたのかルークはダガーに角度をつけて、肋骨の間から肝臓を狙い始めた。

 ダガーは正確に致命傷を狙っているが、ヘルレアの身体を皮一枚で滑り抜けて行く。()えて王は危うい距離間を保っているようで、実のところ何の苦もなくルークの諸刃を避けている様だった。

 王は明らかに遊んでいるが、その遊びようはジェイド等観戦者には冷や汗ものだ。少しでも刃から視線がずれ(﹅﹅)れば、ダガーがヘルレアを切り裂いて見える。ルークの腕で王が殺せるとは、当たり前だが思っていない。しかし、それをジェイド達が認識しているのを分かっていて、ヘルレアは危うい動きで動揺させているのだ。ルークではなくジェイド達を弄んでいる。

「あのガキ……」

 ルークの動きは鈍らない。その刃は連撃も正確だった。

「まだやるつもりか」

「王が猟犬(イヌ)と認めて下さるまで」

 ヘルレアがルークの背後に滑り込む。

「お前、なかなか呼吸が乱れないな」

「こんなの動いた内にも入りません」

 ルークが身を返そうとした瞬間、王は投げ飛ばした。ルークは床に叩き付けられる前に、猫よろしく身を翻して直ぐに体勢を立て直す。

「なるほど、少しやってやるか」

 王が言うが早いか、瞬く間にルークへ迫って張り飛ばした。まるで壁に引力が生まれたかのように、王から遠ざかって行く。飛ぶ勢いが弱まると、直ぐに受身を取って起き上がった。かなり遠くまで飛ばされた。

 王も王だが、ルークも大概だ。

 自分の体の状態など一切感知せず、ヘルレアへ突っ走って来た。

 王はにんまり笑うと、ルークの正面目掛けて突進する。

 ルークはそれでも速度を落とさなかった――生身の度胸試し。

 勿論ヘルレアが怯むわけもない。

 そして、おそらく打つかっても気にしない。トラック、電車、戦車、何でもいい――ルークは馬鹿だ。

 ジェイドは笑う。

「ルークの奴、吹っ飛ぶかもな」

「これから任務なんですから、困ります」

「二人共、少しはルークの身を心配してあげなさい」カイムは肩を落とす。

 ルークは早かった。ヘルレアへ近づく程、加速して行くようだ。一瞬、踏み出す一歩が異常な滑らかさを見せる。ヘルレアは素早く反応して立ち止まっていた。

「止めるんだ、中止だ」チェスカルは何の躊躇もなく二人の間へ飛び出した。

 ジェイドが肩を怒らせて、ルークの元へ行くと頭へ拳を落した。ルークはその重い一発で崩折れてしまい、頭を抱えて転がっている。それをカイムが見かねたのか、ルークの手を取り起こしてやっていた。

 ヘルレアは面白そうにニヤつく。

「お前、人狼か。躾のなっていない(けだもの)だな。あのままやり合ってたら、お前は挽肉になってるぞ」

 ルークは頭を抱えて屈み込んだままだ。

「すみません、ごめんなさい。もう、しません。赦してください」

「結論、カイムよりは強いな。任務に行って来い。骨は拾ってやる」

「――僕を巻き込まないでください」



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