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死を恋う神に花束を 白百合を携える 純黒なる死の天使  作者: 高坂 八尋
第一章 死の王

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34.真実の行方

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 約束の時間になって、エルヴィラとコニエルがカフェにやって来た。カフェと言っても、いつもエルヴィラと訪れている開放的なカフェではなくて、どちらかというと昔ながらの純喫茶店という感じで、席が個々に区切られている。

「呼び出してごめんなさい。今日はありがとう。コニエル、エルヴィラ」エマは立ち上がり、二人を席に促した。

 コニエルは、中肉中背でほとんどの兵士と同じように短髪だ。髪の色は濃い茶色で、肌の色素も濃い。

 確かにコニエルはどこか疲れているような、渋い顔をしていた。おそらくエルヴィラに無理矢理連れて来られたのだろう。

 エマは二人と向かい合って座る。

「何を注文するの。私はコーヒー」エルヴィラとコニエルも同じものを注文した。

「ここのパフェ美味しいのよ。果物が沢山入ってて、クリームも山に……」

「俺は何をすればいい」

「そうね。こんな話する事ないわよね――コニエルに聞きたい事があるの。あの日、私が館に居なかった時に、館を警備していたコニエルには何があったの?」

 コニエルが身体を一瞬だけ震わせた。

「何もないよ。エマ」

 何も受け付けない。そのような物言いだった。エルヴィラがコニエルの腕を優しく握った。

「お願い。エマに話してあげて。あの子はずっと悩んでいるのよ。カイム様はまるでエマを関わらせないような扱いをしたの。エマも猟犬の仲間なのだから、除け者にされているみたいな今の状況に傷付いている」

「なら、尚更話せないじゃないか」

 唐突に語気を強めたコニエルに、エマとエルヴィラは息を呑んだ。これは尋常じゃないかもしれない。エルヴィラとコニエルの事だと、どこか楽観視している自分がいた。それがコニエルのこの反応では気楽なオチというのは望めなくなった。

 あ然としている二人に気付いたのか、コニエルは目を逸らした。

「二人ともごめん。俺は力になれない。エマも、もう何かあったか探るのはやめた方がいい――よけいに傷付く事になるかもしれない」

「そんな意味深な言い方して、エマの心を乱しておいて何も聞くなだなんて」

「エルヴィラも、もう何もするな……危険だ。カイム様が何故、隠そうとするのか分からないわけではないだろう」

「それでも知りたいの。私には何も保証がないから、ステルスハウンドに居ていいっていう証がほしい。仲間でいたいの」

「ここで話したとカイム様に知られたら、俺は何も申し開きができない。誰にも知られてはならない。カイム様が何か仰られるまでは、沈黙を守り通すつもりだ」

「分かった。ありがとうコニエル。もう、聞いたりしない。私が間違ってた」

「エマ……それでいいんだ。何も自ら危険な目に合う必要ない」

「違うの、コニエル。私からカイムに直接聞こうと思う。隠れてこそこそ調べようだなんて、私らしくなかった。気になる事があるなら、本人に直接聞かないと」

「待ってくれ。どういうふうに聞くつもりだ。まさか俺やエルヴィラの話を出すわけじゃないよな」

「それは積極的に話すわけではないけど。辻褄が合わないとカイムに疑われるから、何か言われた時は名前を出す事になるかもしれない」

「駄目だ。俺が関わった事は、絶対にカイム様に知られてはならない。でないと――別部隊で前線に立たされる」

「それってどういうこと……」エマは理由が分からず、次の言葉を躊躇っていると、エルヴィラがコニエルにしがみついた。

「あなた、王か綺士に会ったのね」

 コニエルは諦めたようにため息をついたが、エマにはまだ話が呑み込めない。

「エルヴィラには分かって当たり前か。同じ兵士だものな」

「私達兵士は綺士か王、特に王だけれど、出会って接触を取ると、前線で戦う資格ありとされて部隊を変えられてしまうの――王と出会って生きている事自体能力ありと判断されるから……コニエル、あなた王に会ったのではない?」

 エマは息を呑んだ。王が館に来た。それで全ての辻褄が合う気がした。館の異常な警備、エマの排除、カイムのあるかないかの微かな緊張。どれもが王を迎えた前後の残り香だとしたら。

「コニエルは本当に王に会ったの?」

「……もう黙ってはいられないか。そうだ俺は、王に、ヘルレアに会って話した。でも、ただそれだけだ」

「王の顔も知らないのに、どうして王だって分かったというの」

「あれで王だって分からないなんて猟犬失格だ。会った時直ぐに分かった。あの蛍火のような真っ青の瞳。彫像のような滑らかで白い顔。そして何よりその挙動が尋常もなく静かだった。そこいらの子供だって普通じゃないって分かるさ」

「青い目と白い肌は王の特徴ね。王とは何を話したの?」

「道を聞かれた。どこから館へ入ればいいのかと。落ち着いた凄く静かな声だった。俺の口からは自然と警備に出会わない順路が出ていた。その瞬間だけ敵だとは思えなかった」

「あれは死の王よ。あり得ない」

「本当に敵意を感じなかった。薄く消え入りそうな程に儚かった」

 エマには王と儚いという言葉を結び付けるのがどうにも納得できないのだ。エマは勿論、他のステルスハウンドに在籍する誰とも同じように、王とは会った事がない。それでも昔から伝わっている王の特徴を考えると目立たない方が難しいのではないか。艷やかな黒い髪に、抜けるような白い肌。燐光を放つ青い瞳。王が子供ならば、更に華奢な肢体。大人なら性的魅力が如実に現れた体躯となる。確かに王が子供の頃ならば儚いという言葉が、似合わなくないかもしれないが、存在感まで失うような生き物のようには思えなかった。

「王は気配を消せるのだろう。目視の範囲ですら、それは可能らしい。まるで猫科の肉食獣だった。いや、それ以上か」

 エルヴィラはエマをなだめるように肩を叩いた。

「王なら何が出来たって不思議じゃない」

「やっぱり、本物の王だというの。でも、どうして館に……?」

「エマ、双生児は――ヘルレアはもうじき死ぬのよ。期限が来たの。(つが)いを持たない王の宿命だから」

――ならば決まっている。

 エマでさえどういう事か分かる。

 エマは座席に崩折れた。

「分かったろう。もうこの件はそうっとしておいてくれ。俺にも事情があるんだ……エルヴィラこんな状況ですまない、いや、こんな状況だからこそ言おう。エルヴィラ、結婚してほしい」

「コニエル……」

「エマ、いくら俺達が猟犬だとしても、命が惜しい猟犬だっているんだ。そこを分かってほしい。全てを捧げられない猟犬もいるんだよ。だから前線に立つような真似はしたくないんだ」

 エマには何も言えなかった。エマはコニエルの言葉を非難出来る程冷徹にはなれてはいないのだ。現にカイムに危険が迫れば、エマとて尋常ではいられない。何かあれば酷く心を乱して立ち直れないだろう。全てを投げ打って心血を注ぐのには、人方ならない覚悟と犠牲が必要なのだ。エマにはカイムを思う気持ちを手放す事など出来はしない。コニエルがエルヴィラを思う気持ちも同じなのだ。

「ごめんなさい、ごめんなさ……」エマの眼から大粒の涙が止めどなく零れた。眼は開いているが瞳には何も映していない。

――これは罰だ。

 この痛みは、紛れもない罰なのだ。

エマをあらゆる苦痛から、守ってくれていたカイムへの裏切り。隠されていたものを自ら(あば)いてしまった罪は重く、エマを(さいな)む傷は深い。

 だが、はたして知らずにいれば、それでよかったのだろうか。たとえエマの意思など介在できようはずもない事柄だとしても、知らずにいる事もまた罪ではないのか。カイムを慕っていながら、その優しさに、また、甘えようとしていた。

 結局、どちらを選んでも苦しい。

 それ以外、エマに道はないのだ。

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