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死を恋う神に花束を 白百合を携える 純黒なる死の天使  作者: 高坂 八尋
第一章 死の王

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28.雪に消えた行方


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 ジェイドとヘルレアは、シャマシュの誘導で森の中を歩いていた。

 森は根の隆起する部分が真っ白に覆われ、丁度庇が掛る場所は、黒い木部が露出していた。どこもかしこも同じ様な具合で、一周見回しても、既にどこから来たのか、分からなくなっていた。

 ジェイドは既に足が思うように上がらず、何度か滑ったが、ヘルレアは気にした様子もなく先を進んで行く。

「これでは埒があかないな」

「負ぶさるのは勘弁してくれと言いたい所だが、いざとなったら……」

「私も二度と大男を負ぶるのはごめんだ。それにこんな森の中だ。ズタズタになるぞ」

 木の幹や根の詰まり具合はきつく、人が一人伝い歩きするので精いっぱいだった。しかもジェイドのような大男なら尚更、狭い悪路に手こずる羽目になる。

 シャマシュはそんな道無き道を、軽快に浮遊していく。雪が降っていないだけ、まだましだと言えるが、ジェイドにはふらふら飛ぶシャマシュを追い掛けるのは、なかなかに難しい。大木の先に消えたと思えば、細い枝の端から急に飛び出す。そんな事を繰り返しながら、二人は森深くへ入って行く。

「目印も何もあったものではないな」

「いや、そうでもない。間隔は広いが点々と人間の血が滴り落ちている。これならシャマシュは必要ないくらいの痕跡だ。捜しやすい反面これは最悪だな。これでは失血死するぞ」

「人に手当を受けたわけではないという事か。人ならばこれ程乱雑な運び方はしないだろうからな。人を攫う可能性が高いのは、獣や妖獣よりも魔獣だろうが、それなら王には直ぐ分かるだろう」

「魔獣は知能が高い分、他の獣共とは一線を画すが、私には大してどれも変わらない。気配は直ぐに知れる。何も気配を感じないという事は、王の下僕共の可能性が高い――あるいは、王自身」

「何だと、そんな可能性があるのか。しかし、手負いの人間など攫ってどう……俺は何を考えている。確か双生児は人を食う。違うか?」

「そうだな、確かに人を食うが、攫っているくらいだ、巣があってもおかしくない」

「巣にかち合う? ヘルレアと二人で。誰の支援も無しに。勝てるかどうかの問題じゃない。生き延びられるかさえ危うい状況だ。今から念の為、危急に支援を要請する」

「なんの為にお前はここまで来た。それでは手遅れだぞ。この出血量は尋常じゃない」

「しかし……」

「忘れたか、私も王だ。お前はお前のやるべき事をやればいい。私もやるべき事をやる」

 王が言っている事が、分からないジェイドではない。

――だからこそ、尚更危ういのだ。

「分かった。相手が王だと確定したわけではない。しかし、支援要員は直ちに呼んでおく。間に合おうがそうでなかろうが進むぞ」

 ヘルレアは、分かるか分からないかの、微かな笑みを残して前に進んだ。

 再び雪がちらついて来た。気温が下がっているのを肌で感じ、シャマシュとヘルレアを見失わないように視線を送る。二つの影は触りの雪でさえ、既に霞むようだった。

 大きなぼたん雪だ。感じられる程ではないが、気温が少しばかり高いようだった。空を見上げると木々の切れ間から、大粒で少し湿った重たい雪片が、降り積もる間際が見て取れた。

 シャマシュは一つ大きく張り出した根を越えると、視界から消えてしまった。ヘルレアそれに合わせて急に走り出し、根を越えてから立ち止まったようだった。ジェイドも急いで根を乗り越えようとした時、食い荒らされた死体が、無造作に横たわっているのが、目に飛び込んで来た。丁度、木の根と岩が組み合わさって、屋根となっているところに死体があり、雪が積もって隠れる事なく露出していたのだ。死体には頭がなく、ヒグマにでも食われたように、(はらわた)がそっくりなくなっていた。頭上に投げ出された両腕は、肉がこそぎ落とされていて、ところどころ骨が剥き出しになっている。血は飛散したようにそこら中こびり付き、蔵物の肉片も木に張り付いていた。一見してこの死体が男なのか、女なのかさえ分からない状態になっていた。

「これは、オルスタッドなのか」

 ヘルレアは屈み込み死体を観察している。

「この死体は多分男だ。いくら私だとしても、オルスタッドに会った事がないから判別できない。ただ車付近でもこの血の臭いはしていたと思う」

「なぜだ、こんな原型も残らず」

 精鋭とよばれる影の猟犬(ゴーストハウンド)の一人が、こうも無残な姿を晒さなくてはならないほどの、大事に遭遇してしまうとは。しかし、それは間違いだとジェイドは思い直した。精鋭であるはずなのに迎えた最後なのだ。何人か(ゴースト)を送り出したが、遺体が帰って来ることがほとんどなかった。これはまとも(﹅﹅﹅)な姿で、オルスタッドもその部下達も幸運な部類なのだ。しかし、頭が無いのは無残に過ぎる。

「王、少しこの周りを捜索させてくれ。オルスタッドの頭を探してやりたい。あいつは、なんというか、頭だけで生きて来たような、奇矯なヤツなんだ。だから猟犬になった。普通に生きていれば、こんな姿にならずにすんだのにな。まったく頭が良いのか、悪いのか」

「これだけ血の臭いがぶちまけられていたら、私には臭での細やかな探索は出来ない。目視での捜索が頼りだ。これはお前がしたほうがいいだろう。私は少し調べたいことがある」

 ジェイドは頷くと、雪が積もり、更に降りしきる中を慎重に捜索した。根が瘤のようになり足を取るうえ、雪が容赦なく視界を奪う。手で雪を浚い、丹念に根の間を探り続ける。次第に呼吸が早くなり、呼気が白く(けぶ)る。手指の感覚が無くなったが、それでも手で雪を掻き続ける。

「人はそれ程までに骸を大切にするのだな」

「お前に取っては食い物か?」

「笑わせるな。そんな捻くれた物言いはいらない。私は感心しているのだから。今まで人の中で生きて来たが、死んだ人間をそこまで丁重に扱う者は見たことがなかった。死んだらそこで終わりだ。腐って朽ちていくだけ。どのような人間もそうだった」

「お前はどれだけ悲惨な世界に居たんだ。死者には敬意を払うものだ。死んでしまえば蛇とて人と何ら変わらない死人(しびと)だ。だからこそ蛇に酷い仕打ちをせず、速やかに殺す術を模索し続けている」

「それならこの戦いは、私が思うよりもずっと人間に取っては悲惨だろうな」

 そうなのだ。王には理解出来ない人間の(さが)がある。たとえどんな教育を受けようと、真に理解する事など出来ない。見様見真似では出来ない、言葉では伝わらない。その逆も然りで、人間は双生児の在り方が理解出来ない。残酷に過ぎると嘆き悲しむ事しか出来ない。相互に理解など求めても不可能だ。

「戦うしかない。それしか方法がない。これが双生児と人間の本性(ほんせい)だ」

「互いに何も知らないまま?」

「どう知ればいいというのだ。殺されるだけの俺達人間は、どうすれば双生児の虐殺を納得出来るという。お前はその理由を説明出来るのか」

「理屈ではない、そう思う。私にも分からない。考えた事もなかった。もし私が番いを得たら理解出来るのかもしれない」

「王、用がないならどこかに行ってくれ。気が散るんだ。気力が無くなる」

「用ならある。シャマシュの様子がおかしい。先に進むように延々と促している」

 ジェイドがシャマシュを見ると、雪が降りしきる中空で、回転し螺旋を画いていた。

「何かをアピールしているみたいだが、どうにも要領を得ない。付いて歩くしかない」

「しかし、オルスタッドが……」

「オルスタッドは居た。もうお前達との取引は達成したはずだ。これからは王を探す。ここから更に険しくなるぞ」



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