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面倒な僕を助けてくれ  作者: 柱蜂 機械
第一章 入部編
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第2話 再会の宣告

 忙しいですが、土日があるというのはこの上ない喜びです。色々サクサク進みます。

 先日、初のブックマークが付きました。何とも嬉しいものです。ありがとうございます。

 もっとも、これからさらに忙しくなりそうですが…………。

 次の日、清水(しみず)五十六(いそろく)先生は学校に来なかった……。


 って、マジかよ……。

 朝から副担任がHRを執り仕切り、あれやこれやと話している間に気付いたら放課後になっていた。いやそんな訳はなくて、ちゃんと授業がありました。


 副担任は「今日は清水先生が体調不良でお休みでーす」と言っていた。しかしそれを聞いた瞬間、僕は総毛立った。


 体調不良。

 よく、風邪とか腹痛とかの総称として使用されるワードだ。一見すると、あぁ体調良くないのね、で片付けてしまいそうだが実際のところコイツは恐ろしい言葉なのである。何が、というとどんな体調不良なのか、ということが分からないことだ。

 心臓が止まったことを心不全と言うがアレと同じことだ。

 心不全も何故心臓が停止したのかそれ自体までは教えてくれないのである。要は原因が分からなければそれは心不全という曖昧な定義によって片されてしまうのだ。ひえぇ、恐ろしすぎて心不全になる。


 今日、副担任は「体調不良」としか言っていなかった。つまり清水先生が何故学校を休んだのかは、全くと言っても良いほど不明な状態なのである。


 やはり昨日の白化事件が気になる。昨日のあの様子、まさかあれから戻っていないのか? 燃えつきたぜ……真っ白にな……のままなのか? ジョォォォォォーーッ!

 しかし彼は呻き声を発する状態であったが、歩けそうではあった。あのまま職員室に行ったらさぞかし目立ったはずだ。教師間ではその話がされている可能性もある。だがそれを確かめようにも、僕にはそのツテがないんだよなぁ……。うーん、残念。


 他に考えられるのは、大川井(おおかわい)(はなだ)に取っ捕まったとかか……。捕まるなとは言ったんだけどなぁ……。まぁ今この場にいないのだから致し方ない。先生が僕の命令を破り、大川井さんに捕獲されたと仮定しよう。


 第一に先生があの白化状態のままだったら、大川井さんが調教し直して元のウザいテンション状態の先生に戻っているだろうから、今日の休みはないはずだ。まぁ英語で言う「repair」直すってことですね。


 第二に、まさか、先生が自身の秘密による制限から脱するためにその秘密を外に暴露して……、その口を封じるために大川井さんが殺っちゃった? その事後連絡として、大川井さんが虚偽の休暇を申請したのか? ……いやないな。


 ってことは第三の可能性。燃えつき以下略のダメージからか。うーん明日とかに来てくれれば良いんだけどなぁ。これが二日三日、一週間なんてことになるとちょっと問題だ。




 話は変わるが中学の時にも似たようなことがあった。


 僕の隣のクラスが学級崩壊したのである。担任は細かな理由を伝えず「体調不良」として休職した。

 その先生は、春から晴れての中学教師になったばかりの新人だった。


 教職員というのはただでさえ学級、部活で時間を忙殺されているのに、下っ端にどんどん仕事が丸投げされるらしい。そこにクラスの崩壊と来たら、言ってはアレだが休んでも仕方のないことと思えた。純真な僕ら中学生はきっとすぐに戻ってくるだろうと先生の復帰を期待していた。しかし、二週間、一ヶ月、三ヶ月と休みっぱなしだった。

 その年度の冬休みに入る直前には、皆薄々ストレスかな? とか鬱かもとか、やっぱ◯組のせいじゃない? などと疑り始めていた。


 結局先生は冬休みが明けても、春休みを目前にしてもいよいよ学校には戻ってこなかった。そして三学期の終業式の終わりに、教頭が「学校をお休みしていた◯先生は、ご自身の都合により退職されました」と、ほんのこれだけを僕たちに伝えた。

 もうその頃には皆の話題にも上らなくなっていて、あ~とか、やっぱなとか、果ては誰だっけ? なんてのもいた。

 たったこれだけの紹介で先生は学校から姿を消してしまった。無論他の先生も僕たちには何かを教えようとはしなかった。


 学校は貴重な、新たな人材をふいにしたのだ。どう考えても学校サイドに落ち度があったと、僕は一抹の苛立ちにも似た感情を抱いたのである。




 そして我らが担任、清水五十六が今まさに「体調不良」なのである。大丈夫かなぁホントに。


 僕が不安を抱きつつリュックに必要な教科書類を詰めていると、机の隣にカツッと黒のパンプスが立ち止まる。

 あれ、まさか……奴が、やって来てしまったのか? 


 いやぁな予感がしたので絶対に顔を合わせることがないようにと、せっせと作業を続行する。


「おい」


 頭に衝撃が走る。

 イッタァッ! 思わず片手で叩かれた後頭部を押さえてしまう。何だこの固い物は? 何でこの人は叩いた? っていうか体罰で訴えたい!

 

「おい」

「ィッタァ……」


 またしてもバンッ! 頭を叩かれる。

 おいおいとか、ここは油屋か。

 ってかさっきの数倍は痛い。うん確実に。


 ヒリヒリする部位を両手で必死に押さえ、ブルブルしながら左隣の人物の顔を見上げる。

 パンツスカートに紺のワイシャツ。この黒い長髪は……。


「やっと気が付いたか……。神経が通ってないんじゃないかと心配したぞ」


 アンタの神経がどうかしているんだろうと、言いたくなった。まぁ言えないが。


「心配した結果がクリップファイルで頭を叩く、ですか……?」

「そうだが? 何か問題でもあったか?」


 むしろ問題しかないまである。アリよりのアリ、ってやつだ。しかしこの人に何を言ってもダメだというのは、一年くらい前から知っていることなので何も言わないことにした。


 この人は僕の理科教師、小澤(おざわ)(のぞみ)である。

 教師の中でも若いわ、背高いわ、美人だわで、校内で最も有名な教師かも知れない。しかし唯一の欠点はこの生徒に対しての接し方である。まぁこんなにも扱いが酷いのは僕くらいなものだろうが。「ぼっち=悪」の方程式を崇拝する教師陣の中では珍しく、ぼっちに絡み肯定した上で改心させようとしてくれる(力によって)素晴らしい先生だ。


 でそのワンダフル·ティーチャー·オザワ略してWTO(世界貿易機関)は、言ってしまうと僕の苦手な人の一人だ。っていうか得意な人の方が皆無。あ、今のダブルミーニングな。


 僕としてはできれば職員室で永遠に仕事をしていて欲しいのだが、暇があるとこうしてぼっちや、ぼっち擬きの所へ出張ってくるのである。

 今日はなんじゃいなと思いながら先生を見ていると、先生はフッと笑みをこぼす。


「安心しろ。今日は生活指導ではない」

「そうなんですか」


 では一体何だろう。それよりも生活指導、そんなにされてたかなぁ? 


「ちょっと使いを頼まれてくれ」

「えぇ……?」


 使いってお使いでしょ? 嫌だよ、面倒ちゃんだよ。


「何だ嫌か?」


 先生は困った奴だと言わんばかりである。


「えぇ、まぁ。嫌です」

「良かろう。なら使いに行きたくなる暗示をかけてやるぞ」

「え、いや、結構です。あの、行きますお使い」

「何だ、やりたいんじゃないか。ではよろしく頼む」


 先生は嬉々として言うが、そんな風にクリップファイルをポスポス手で叩かれているのだから、OKしない理由がない。もしする奴がいたら、ソイツは阿呆だ。


 やはり全ては拳で決まるらしい。憲法第九条に戦争ダメって書いてあるんだけどなぁ。戦争ダメ絶対。

 何だか強迫紛いな事をされている気がしたが、まぁ仕様が無い。


「で、どんなお使いですか?」


 尋ねると、先生は凶器のクリップファイルから一枚紙を取り外し僕に手渡す。

 それに目を通す。世界史の、問題だろうか? ずらーっと設問が羅列され、所々に図やらグラフやらが貼付されている。どうやら手作りのようだ。

 一年ではまだ世界史の授業は無いので、恐らく二年の準備か何かと思われた。この間のレポートもその一環だ。


「それを、八組の大川井に渡してきてくれ」

「ッゲッホ、ゴッホッ……!」

「どうした、急にむせて」

「いえ、……何でも」


 それ、大川井さん宛てなのね……。思わず咳が出てしまった。あぁ……唾、気管に入ったかも。

 小澤先生はそうか……? と首を捻ってたが気にしないことにしたらしく話を続ける。


「まぁ良い。この間大川井が欠席した日に配布したプリントらしい。昨日、清水先生が渡し損ねたと言っていてな。あっ……、そういえば……昨日のアレ、君は知っているか?」


 先生は急に声のトーンを落とし、僕に耳打ちしてきた。

 何のことかと、僕も同様小声で問い返す。


「アレ?」

「あぁ。昨日、何だか魂が抜けたような状態で清水先生が職員室に戻ってきてな。君に、そのプリントを大川井に渡すよう伝えてくれと頼まれた。そしてそのまま帰ってしまったんだな、仕事を残して。いやぁアレは怖かったぞ」


 小澤先生は、発言とは裏腹にどこか面白そうに感じているようだった。まぁ傍目から見ればただのネタだもんな。


 しかし、ここで思わぬラッキーな情報を取得した。清水先生が昨日の一件で休んでいるのは、もうほとんど明らかとなった。そして、しっかりと自分の足で職員室に戻り帰宅したのだと言う。つまりは大川井さんには昨日の一件以降、会っていないということだろう。良かった。死んではないっぽい。安心安心。


「君は何でか知っているか? 放課後は清水先生と一緒にいたと聞いてるが」


 小澤先生は僕の顔を覗き込んでくる。気だるげな瞳が僕の視界に入ってくる。このクソ教師め、髪の毛良い匂いなの自慢したいのか。

 面映ゆさゆえに顔を背けて答える。


「いや……何も。お役に立てず、すみません」

「謝ることではないだろ。まぁ良い。明日来たら、それも分かることだな。では使いをよろしく」


 小澤先生は片手を小さく挙げて颯爽と11HRを去る。やっぱりその後ろ姿は格好よくて、男子なら普通に見とれてしまう。はぁ……せめて暴力さえなければ……。


 しかし今のでうっかり知ってるなんて言わなくて良かったぜ。

 だが、何と言うか……嫌だなぁ。

 小澤先生の話によると、どうやら清水先生からのご指名らしい。自分で僕に頼むのは秘密を握られててできないから、他人に頼む、か。中々やるじゃないか。僕がカードを切れない&僕が小澤先生に脅されて強制的にやるハメになってしまう、というところまで考えてたのならグレートだ。

 というかこのプリントそんなに大切なの? それとも僕への嫌がらせ? まぁ後者の方なら納得いくが。


 また、あの人に会わなきゃいけないのか……。意図せずため息が漏れる。


 会う、じゃなくて見掛ける、なら結構ある。そりゃ同じ学校にいるんだから当たり前だし、それに何よりあの人は目立つ。本人自体目立つのにさらに取り巻きがいるのである。幹部三人に下っ端十人程。校内最大のグループを、大川井さんは有している。

 だから彼女らはどこにいても目立つ。


 廊下なんかで、前から歩いてきたら皆そのパワーにたじたじである。大名行列よろしく端に避けねばなるまい。基本土下座などするはずはないが、一部の信者紛いな奴や調子乗ったおちゃらけ野郎は土下座することもある。

 女子の集まりなので当然男子はウハウハする心臓を押さえつけるのに苦労するものだが、告白お断り現場なんかを目撃すると反対に肝を冷やす。体はお大事に。


 しかし大川井グループに属さない女子たち、一部のギャル連中は大層機嫌悪そうにその行列を睨み付ける。

 大川井さんの次に大きいグループはせいぜい六、七人だが、他にもそのような小規模グループは存在している。しかも、最近は反大川井グループが接近し始めているという噂も流れているのだ。

 毒舌天才美少女軍団VSギャル同盟組の抗争開始が今まさに危ぶまれているのである。ふえぇ、そんな学校嫌だよぅ。


 学校の行く末を憂慮しつつ、僕は教室を後にした。

 最後までお読み下さりありがとうございます。

 話ごとの長短がまちまちですが、区切り良くしたいのでそうなってます。

 ノロノロですが、もし良ければこれからもよろしくお願いします。

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