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面倒な僕を助けてくれ  作者: 柱蜂 機械
第三章 二年一学期編
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第27話 火花散る

 いやぁ暑い。勉強とかする気になんない。

 二人が入ってくるなり教室は、大川井(おおかわい)(はなだ)のそれと同じくらいにざわめき出す。それも仕方のないことだ。元々、四ノ宮(しのみや)紅葉(くれは)由比藤(ゆいとう)紫苑(しおん)の二人は、嫉妬される位に顔立ちが整っていたのだから。


 小澤(おざわ)(のぞみ)先生は二人に顎で指示する。どうやら黒板に名前を書けということらしい。物語の中でよくあるような光景だ。っていうか先生ヤンキーっぽくないですか態度が。


 二人とも黒板に書こうとするが、幼そうな少女の方は白チョークが見つからないのか、さっきから右を向いたり左を向いたりおろおろしている。それをしっかりと把握しているらしいブロンド髪の方は黒板の端からさっと白チョークを拾い上げ、もう一方に微笑んで渡す。

 渡された方はありがとうと言って照れるように顔を赤くして苦笑し、黒板に名前を書き始める。

 どうやら二人の今の表情を見た瞬間、男子の輩は心臓を撃ち抜かれてしまったらしく、まぁきっと心の中で悶え苦しんでいるだろう。あ、でも心が撃ち抜かれちゃったんだよなぁ……。


 二人共名前を書き終え、正面を向く。

 先生が口を開いた。


「あー、今回このクラスに転入してきた二人だ。まぁ、自己紹介でも頼む」


 言われた幼そうな方はビクッと震え、心配そうにブロンドの方を見る。ブロンドさんは笑って頷く。それと同時に教室の隅の僕にも目を合わせてきた。幼い方も僕を見つけほっとしたように笑った。ホントに、困った人達だな……。


 再び正面を向いて、彼女は言った。


「えっと……東京(とうきょう)から転校してきた、四ノ宮紅葉です。もともと、中学一年生まで静岡(しずおか)にいたので、みんなともすぐに仲良くなれると思います。……よろしくお願いします」


 ペコリと下げられた頭が再び上げられると、そこにはにこりとした笑顔が在った。

 男子は、大丈夫だろうか……。初見でない僕でさえ、おいおい可愛いじゃねぇかよ、とか思っちゃってるくらいだよ。


 次に、その隣のブロンドが目を閉じて落ち着いた口調で言う。


「紅葉のお付きということで、同じく東京から転校して参りました、由比藤紫苑です。私がこの場で言いたいことは一つだけです。もし紅葉にちょっかいでも出そうものなら、当然──」


 ゆっくりと目を開く。


「命はないとお覚悟下さい。以上です」


 ほんわかした空気が一瞬にして凍りついた。まぁそりゃそうだ。自己紹介で命がなくなる話なんてされたことない。


 ご主人様は、今の発言をどう思うのだろうかと見てみると、苦笑していた。許容なのかよ。


「という訳だ。お前らも仲良くするようにな」


 小澤先生が総括する。勿論、この人もこの人だから転入生の発言には言及しなかった。教師として良いのだろうか。まぁそれでも教師やってんだから良いのか。


 僕の心配も露知らず、先生は二人に席につくように指示した。

 二人共、それぞれ自身の座席へ向かう──と言っても転入生は出席番号がなぜか後ろになるので、二人は前後並んだ席配置になっている。着席して紫苑なんかは終始、前と紅葉をちらと見る程度だったが、紅葉は自分の方を向いてくる輩にいちいち会釈なんかしていた。そして彼女は、僕の横を通り過ぎた時、口元を綻ばせていた。いや、何でそういうことしちゃうかな、勘違いが激しいお年頃の僕に。

 紅葉に限らず紫苑も着席の所作なんかは格好良く、良い家の人は違うなぁなんて頭の悪い感想を持った。


 その後は小澤先生のかったるそうな話をこちらもかったるそうに聞き流し、運命の時、HRが終了する。


 それと同時に僕の周囲ではある事が立て続けに起こった。


 ガラッと教室の後ろ扉が開き、適度に日に焼けた小麦色の肌の女子が入ってくる。


「縹ー! いるかー? あれ、水野(みずの)じゃん」


 中村(なかむら)(あや)は大川井さんより先に、目敏(めざと)く僕を見つける。


 そしてそれとほぼ同時に、僕の目の前に二人の女子がこれまたやって来る。


「久し振りね水野くん。また相変わらず犯罪後のゴミみたいな目をしてるわね」

「あ、あはは。ちょっと驚かそうと思ったけど、びっくりした、陸?」


 そして大川井さんと紅葉は互いに顔を見合わせる。


「「…………?」」


 そして暫く見つめ合う。というかそれぞれ相手の行動を胡乱(うろん)に思い、また、訝しみ首を傾げているのだ。

 その奇妙奇天烈な空気を断ち切ったのは大川井さんだった。


「誰、これ?」


 別に、直接紅葉に尋ねれば良いものを、紅葉を一瞥しわざわざ僕の方を睨んで訊いてきた。っていうか久々に怖いです。

 紅葉は何か言わなくてはと思ったらしく、僕がビビっている間に口を開く。


「あ、えっと、私は……」


 その時、大川井さんは紅葉をギロリと睨んだ。ギロリって文字だけ見るとゴロリに似てるなぁなんて思ってる暇はなかった。いやホントに。

 紅葉はひゃぅっと体をビクつかせる。そして、おろおろした結果、身を縮こませる。


「ご、ごめんなさい……」


 最終的には謝ってしまった。別に悪いことはしてないんだけどなぁ……。まぁ僕にも少なからずそういうことはあるけど。例えば消しゴムを落とした時、その程度なら拾ってくれる輩も居るけど、結局拾ってもらっても「ごめんなさい」って言っちゃうんだよね。「ありがとう」って言えれば良いんだけど、僕ってシャイボーイ☆ いや違うね。ただのコミュ障でした。


 まぁそんなことはどうでも良くて、目の前では現在進行形で修羅場ってきていた。

 大川井さんは、紅葉の謝罪が気に食わなかったらしく再度問う。


「謝罪とか求めてないんだけど。誰?」

「え、えっと……四ノ宮、く──」

「名前じゃなくて──」

「紅葉に頭を下げさせるとは無礼千万ですね。……あなたがどこぞの馬の骨とも存じ上げないですが、何かご用でしょうか?」


 攻勢を強めようとしていた大川井さんを、どこから現れたか紫苑が紅葉の前に入って牽制する。というか身長の関係で上から睨め付けていた。


 ってか、馬の骨って……。確かにアンタからしたらそうなんだろうけど。

 今この瞬間、由比藤紫苑は学校中を敵に回したらしい。


 しかしながら、大川井さんも一歩退かずその場で紫苑を眇める。


「おっとぉ、どうしたどうした?」


 大川井さん側にも中村さんがササッと参上し、紫苑を見据えてニヤリと笑う。


 ヴァイオレットと漆黒の瞳が交錯する。それと同時にその交差点には、二陣営を分断するかのような電光が顕現した…………ように見えるマジで。こんなところでメンチ切り合わないでよぅ。


 そんな僕の思いなぞ露程も知らず、マスターとサーヴァントたちは対立する。

 一方のマスターは気弱そうでサーヴァントの制服の裾をギュッっと握り、一方のマスターは腕組みして相手を威嚇する。

 どうやら第六次聖杯戦争はここ、清水(しみず)の地で行われるらしい。

 止めてー、一般市民を巻き込まないでー! こんなところでエクスカリバー使われたら普通に終わる。ヘルプミー!


「おーい、水野ー?」


 来たか! 僕のサーヴァント! と思ったらただの深沢(ふかざわ)(れん)だった。何だよ、おじさんはお呼びじゃねぇよ……。


 一方、こちらでは白熱したバトルが行われそうになっていた。っていうか、クラスの人達ガン見してるんだけど、これって大丈夫……? いや、主に僕が。


 そんなことを思っていると、目の前の四人が一様にこちらを向く。うわぁ何このラブコメ展開……。あぁヤダヤダ。こういうのがちょこっとあるからって、何だよただのハーレムかよって勘違いする奴いるんだよなぁ。いや、マジでそういうの勘弁。ホントにお断りですわー。どうせこういうのもさ、僕の後ろにいるへのへのもへじって顔に書いてある奴に向かってるだけなんでしょ? あぁ僕知ってるからそういうの。ホント、良かったねぇもへじさん。


 後ろを振り向く。ただの壁があった。これがもへじさんの正体……んな訳あるか。

 はい、おふざけが過ぎました。僕を睨んでるんでした。テヘペロッ☆


「陸……この娘……」(この気弱そうな声は紅葉ですね)

「水野君、この無礼者は」(怖いですね金髪)

「水野ぉ……コイツら」(気安く名前呼んで友達かと勘違いさせちゃう作戦ですか素晴らしいですね)

「アンタ……これ」(……はい怖い)


「「誰 (なの)(ですか)(だよぉ)(な訳)?」」


 皆の声が反響して耳が吹っ飛びそうだった。そのくせ、こんな状況な訳で頭は正常に働いていない。何だかぼんやりしてしまって、口を衝いて出た言葉はあまりにも安直だった。


「あ……えっと……後で、言うよ……うん」


 何だか一瞬シラーッとした空気が流れたので付け足して言う。


「絶対。絶対説明するから。今は、抑えて……」


 という訳でその場は一時休戦となった。いやよもう……。

 最後までお読み下さりありがとうございます。

 展開無理矢理すぎワロタとか思っても気にしないで下さい自分の為に。もっと面白くなんねぇかな…………(´・ω・`)

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