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面倒な僕を助けてくれ  作者: 柱蜂 機械
第一章 入部編
2/69

序[1]

 始めの物語です。たらたら書いてあります。

 第1話までお付き合い下さい。(以降もたらたらだと思いますが)

 三月の麗らかな日差しを、校舎のガラス窓が眩しく跳ね返す。

 見ていると目を痛めそうだったので、顔を逸らしグラウンドを眺める。グラウンドではパーリーなピープルたちが、やんややんやとサッカーに興じていた。昼休みが始まったばかりだというのに、元気な連中だ。

 南校舎と北校舎を繋ぐ三階渡り廊下は、風通しの良い場所だ。自分の教室からも程近く、昼飯には打ってつけだ。

 右手に持った焼きそばパンをかじり、機械のように咀嚼しごくりと飲み込む。


「どうした?」

「ん?」


 顔を体の正面に向けると、僕と同様にあぐらをかいた眼鏡男子生徒が目に入る。

 その男子、深沢(ふかざわ)(れん)は気遣わしげにこちらを見ていた。何コイツ、僕の事好きなの? キモいなぁ。


「どうかしたのか?」

「何が?」

「お前が」

「何で?」

「さっきからため息ばっかだぞ。もう二十三回目」

「そうか……。はぁ」


 そんなの見てるとか、やっぱ僕の事好きなのかなぁ。キモいなぁ。

 気づかぬうちに、ついついしてしまったらしい。これでため息二十四回目だと思って深沢を見ると、眼鏡の奥から僕をからかうような視線があることに気が付く。


「部活か……。とんだ災難だな」

「……全くだ」


 そう。全く笑い事ではないのである。



 今日の朝、担任に呼び出されて職員室へ足を踏み入れた僕を襲ったのは、一つの命令だった。


「水野、部活入れ」


 何ッ!? やめるってよ、じゃなくて入れ、だと? 言ってくれるじゃねえかこのクソ教師、なんて言える訳もなく絶望した。


「終業式までに、どこ入るか決めとけよぉ」

 

 冗談じゃないと思い、何故かと問うた。


「だってお前、部活入ってないじゃん」


 おい聞いたか。この人日本語通じないんですけど。


「ま、決めとけ。用はそれだけ。はい、さっさと一限行く」


 おい聞いたか。この人日本語つ……。なんて言ってる間もなくポイッと廊下に捨てられてしまった。別に僕を拾ってくれる親切な生徒がいるでもなく、とぼとぼと教室に帰還した。



 ということがあり、実際僕の心は憂鬱なのだ。

 傷心の僕をねぎらうのが普通の人間のすべきことだと思うのだが、深沢にはそんな気は微塵もないらしい。

 ただ僕を馬鹿にするようにカラカラと笑うのみである。進化して喉ガラガラになれよ。


「しかし、水野が部活入ってる姿とか想像しただけで笑えるな」


 笑えねぇよ。もしかしたら深沢は僕の妄想をして、ウハウハする人間なのかもしれない。やっぱりキモい。


 そういえば僕の名前が水野(みずの)(りく)だということを説明するのをすっかり忘れていた。多分普通の高校1年生。日々をのほほんと過ごしている。

 しかしそののほほんとした日常を、今まさに悪辣陰険の教師が破壊し尽くさんとしている。到底許すことなぞできぬ、と思うのだがどうしようもない。バックレるか……。


 憎々しげに深沢を見ていると目が合う。深沢は怪訝そうな顔付きになる。


「何だよ」

「いや、別に……」

「何? ツンデレ?」

「別に、そんなんじゃないんだからな!?」

「うん……。ちょっとキモいな」

「じゃあ振るな」


 深沢はげんなりしたようだった。

 いやでもね、お前の方が六兆倍キモいと思うんだわ。


 心の中で愚痴って再び焼きそばパンに口をつける。

 やっぱパンの王様は、焼きそばパンとピザパンとレーズンパンだと思う。ってか多いな。三人も王いんのかよ。どっかの聖杯戦争か。


 にしても部活である。

 まさかこの僕が、再び部活に入ろうなどとは夢にも思わなかった。もしかしたら夢で見たかも知れないが記憶に無い。きっとバクが食べてくれたのだろう。ところでバクが食べるのは悪い夢だ。ということは部活の夢は悪い夢である。必然、部活イコール悪、という式が成り立つ。やっぱり部活に入るべきじゃないんだ……。したがって僕は正義。よっしゃ論破してやる。論破、できるはずだ。できる気がする。できるかな。できるの? できないか。まぁ当たって砕けろというし、ちょっと砕けてこよ。


「あ……そういえば、深沢って何部なん?」


 ふと気になって尋ねてみる。他人の部活の情報を仕入れるのも、選択肢を絞り込む重要な手段だ。っていうか入るしかないって思っちゃってるんだよなぁ、僕が。

 深沢はふふんと鼻を鳴らしておもむろに頷く。何だよムカつくな。


「知りたいかぁ?」

「やっぱいいや」


 冷たく突き放す。ウザいぃ……。

 しかしこの深沢と言う男、外見通りチョロい。


「あ……、俺バレー部なんだけど……」


 うん。やっぱすぐに返信あったぜ。

 深沢はすごぉく聞いて欲しそうに素に戻った。チョロ。カス。

 とりあえず聞いておく。


「それってどっちの?」

「ボールの方に決まってんだろ」

「あぁ、まあそうだよな」


 コイツが白鳥の湖とか踊り出したら、笑いすぎて死んでしまう自信がある。「ヒィッ! 死ぬぅ! 死ぬぅっ! ハッハッハッハッハ!」みたいに。

 深沢は僕に突っ込んだおかげか、幾分か調子を取り戻したようで揚々と喋り出す。


「ほら、何て言うの? 俺身長176もあるじゃん? 背高いし、どう? とか言われちゃってさ。まぁ、確かに背高いし、イケメンかもだし、二年からはすぐレギュラーになっちゃうかもだけど?」

「あっそう」


 やっぱウザかったわ。悪い奴じゃないんだ。ただウザいだけ。ただオタクで、中二感醸し出してて、ナルシストなだけなんだ。コイツを許してやってくれないか、僕。

 無愛想に答えると深沢はニヤニヤして、僕を手招く。何、宝くじ売ってんの?


「なぁ、水野も入んないか? 豪炎排魂(バーニングナイトメア)に。……っと言ってなかったけど、豪炎排魂はチームの名前だぞ」

「お前日本語と英語の勉強して? っていうかそもそも入んないし。バレーって柄じゃないし、身長も71だし。第一練習したくないし、チームプレーとか無理だし、というか部活入っても休むし」

 

 早口で捲し立て、深沢のペースに飲み込まれるのを回避する。

 別に運動が苦手という訳ではない。ただ面倒事が嫌いなだけだ。たとえ文化部に入ったとしても、教室の隅にいるかトンズラするぐらいしかやることがない。

 だから、部活は無理だ。

 それに深沢みたいな変な奴やリア充ばかりの中での生活なんて、息苦しくて酸素ボンベが必須すぎる。

 大体どの部活にも孤立している奴はいる。そしてソイツを皆の前に引きずり出して、仲間にしようとする良い感じの奴もいる。

 しかし、一人を好む人間からしたらありがた迷惑だろう。自分は独りが好きなのに余計なことしないでほしいという気持ちや、折角誘ってもらったのに話に入れなくて申し訳ないという気持ちになってしまうのだ。

 僕はあまり気にはしないが、どちらかというとそっち方面の人間だと思う。

 僕みたいな人間は一人で悠々自適に過ごせるのだ。無闇に他人に関わるのは、互いに煩わしさを増大させる無意味な行為。

 であるからこそ面倒はこの世の悪なのだ。

 そう考えるとこの深沢という奴、気兼ねする必要のない有数の人物やも知れぬ。

 焼きそばパンを食べ終わり、しばらくぼんやりとグラウンドを眺める。

 不意に肩に手が置かれた。


「何か用?」


 その手を払いのけ後ろを振り返ると、声の主がにこりと悪意ある笑顔を見せる。

 

「うん、用」


 深沢──ではなく、僕の担任教師の清水(しみず)五十六(いそろく)だった。別に五十六歳ではない。しかし、多分有名な山本さんから貰った名であろう。

 というかこの人が部活入れって言った張本人なんですけど、何しに来た?

 小柄な体躯の世界史教師は丸眼鏡の奥の瞳を閉じたまま呼び掛ける。


「なぁ、終わったか、レポート?」

「……え?」

「レ·ポ·オ·ト。終わったか? 提出できるか?」

「で……き……ま……──せ……ん、はい」


 驚きを長く引きずってしまったため、妙な返答になってしまった。まずい。もっと堂々と「YA·T·TE·NA·I·ZE☆ HA·HA·HA☆」とか言っとけば良かったな。

 逸らした目線を少し戻すと、清水先生は明らかに脱力していた。

 深沢がそれを心配したようで、先生に話し掛ける。


「大丈夫っすか先生? 調子でも悪いんですか?」


 しかし、清水先生は手で制す。何か手から魔法が出そうだ。


「……水野がまだ世界史のレポートを出してなくてね。催促に来たんだ」

「え、あれって先々週の奴じゃありませんでしたっけ?」


 深沢が目を丸くする。清水先生が力無く笑う。


「そうなんだよ……。ハァ……」


 とりあえず何か言っとかないとなと思い、ねぎらいの言葉を掛ける。


「それはご苦労様です。わざわざ僕なんかの為に来てくだすって。あ……焼きそばパン……」


 手に持つ袋を見るが中には何もない。


「……のカラがあります、よ?」

「要らない。さっさとプラスチックのゴミ箱に入れてこい。っていうかレポート出せ。朝言ったけど、期限は今日のこの時間のはずなんだけど? 何、忘れちゃった?」


 先生は立て板に水を流すように喋る。

 忘れちゃった? は失礼じゃないかな……?

 だが、今そのレポートは提出できない。何故ならソイツはこの高校に存在しないからである。


「無理です。あの……今、家で古紙回収を待ってるんで」


 テヘペロッ☆ と言ってみた。ふふどうだ。これが僕の必殺宿題法、「処分」だぁッ!

 だがしかし、気でも狂ったか清水先生はくっくっくと笑い出す。漢字で書くと苦ッ苦ッ苦。何それ痛い。


「何ですか、その奇妙な笑い声は」


 眼鏡のメタルフレームがキラリと輝く。


「ふふ、甘いな。甘すぎるぞ水野。そんなこともあろうかと、既に妹さんにお前の部屋を物色してレポートを発見して貰っている。その様子だと何も聞かされていないようだな。道理でいけしゃあしゃあとしていた訳だ」 

「な……に……!? そんなことを妹に……。卑劣な……」


 僕には妹がいる。しかも超可愛い。っていうか教えてよ!

 許すまじ。

 尚も先生は続ける。


「ふ、何とでも言え。お前はシスコンだからな。妹さんに宿題やって、なんて言われたら甘んじて受け入れるだろう? 君は」

「妹をダシにするなんて、とんだ人でなしですね」


 恨み憎しみ妬み嫉み、色々ぶっ込めて清水先生を睨み付ける。しかしそれをもろともせずに先生は悠々と続ける。


「人でなくて結構。僕の仕事はお前ら生徒に世界史教えることだ。レポートの催促はできるとこまでやるさ」


 先生も僕を睨んでくる。なかなか真面目な教師だなと思う。僕みたいな生徒はほっとくのが普通なのだろう。であればこの人は従順な社蓄いや校蓄? いずれにしろ僕にとっては天敵だ。そのくせ向こうは事あるごとに僕に絡んでくるから、(たち)が悪い。

 僕はやりたくはないのだが、まぁ妹が頼んでくれるとあれば甘受してやる。くそ、頭が働く教師だ。


「……分かりましたよ。明日出しますよ」


 僕の言葉に深沢が食いつく。


「おぉっ、お前がそんなに素直なんて。……焼きそばパンに何か入ってた?」


 いちいち余計な奴だな……。


「入ってたのはパンと焼きそばだけだ。あ……っ、その代わりと言っては何ですが……」


 あることに気が付き先生に提案をしてみる。

 清水先生は呆れた様に返してきた。


「本当に何だ、な。代わりも何もある訳ないだろ」


 取りつく島も無いっぽい。まぁ取り付けないなら引っ張るまで。先生の言葉は無視だ。


「僕を部活に入れないで欲しいんですが」


 多分漫画なら、「ドンッ」って出てるシーン。

 僕の視線と清水先生の視線が交錯し、互いに睨み合う。

 そしてその視線が解けたのは数秒後。


「却下」


 無慈悲な宣告だった。まるで末期ガンが発見されて余命一日と言われたような、途方も無い絶望に見舞われる。何だ一日って、医学進みすぎ。


「……理由は?」


 尋ねると清水先生は真剣な顔付きになる。


「これはお前の不真面目さが招いた結果だ。うん、懲罰とも言うな。とにかく強制だから。異論は認めないぞ」

「……理不尽だ」

「ようやく知ったか。この世は不合理、不当、(よこしま)で出来てるんだ。こんなので嘆いていたら、この先苦労するぞ」

「さらっと自分正当化しちゃってるけど……。じゃあ何か楽な部活ってありますか?」


 先生はうんうんと頷く。そして不敵に笑う。


「あるにはあるけど……。それは明日レポート持ってきたら紹介してやる」

「そうですか……」


 さっさと教えれば良いものを。やっぱ下っ端教師は役立たずだな……。

 キョウシ団のしたっぱが勝負を仕掛けてきた! リクはどうする? にげる。うまくにげきれた!

 やべぇ久しぶりにポケモンgetしたいぜ! と思っていると、先生は朗らかに笑う。


「まぁせいぜいレポート書き終われ」


 先生は腕時計を見る。


「じゃ、僕は戻るから。明日には出せよ、マジで」


 そう言って踵を返し、南校舎の中へと姿を消した。

 しばらくポカーンとしていると深沢が口を開く。


「やっぱ甘いのはあの先生の方だな……」

「あぁ。あんことメープルと練乳と生クリームと東関東名産、マックスコーヒーを混ぜたぐらいの甘さだな。ここで売ってないけど」

「不味そうだな……」


 色々言って返すと深沢が苦笑する。彼はボソッと呟くと、ぐいっとペットボトルのお茶を飲み干した。


「あぁ、綾鷹美味いわ」

「お前なぁ、静岡人として昼飯の茶くらい静岡の煎茶にしろよ」

「淹れるの面倒じゃん……」

「ちゃんと茶くらい淹れられるようにしとけ。静岡人の風上にも置けないな」

「はいはい……」


 深沢は面倒臭そうに言う。

 つまらない奴だな。少し元気に喋りすぎかなと思い、苦笑する。

 僕は水筒の蓋を開けて、その中身の茶を飲み込む。勿論家で淹れたものだ、妹が。これがホントの妹茶(いもちゃ)という奴だな、うん。何かヤバく聞こえる。

 これみたいに少し苦いくらいが僕の好みだ。

 初投稿どうだったでしょうか。

 まだ女子は出てきませんね。次は出ます。

 最後までお読み頂きありがとうございました。

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