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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者PTを追い出されたオッサンをスローしたらレベルが上がったオレの語り継がれる英雄譚

作者: 長月充悟







「おい、聞いてるか、そんときな、賢者のヤツに言われたんだよ。お前なんかいらねえって」


 今日も酒場で、オッサンの話を聞く。

 オッサンは、数年前まで勇者様のPTにいたそうだ。だがある日、「お前なんかいらねえ役立たず」と言われ、十代二十代揃いのPTから放逐されたそうだ。


 突然の出来事に失意のどん底にいたオッサンは、以前世話になったという、オレたちの村へとやってきた。

 仮にも勇者様のPTにいたオッサンだ。

 途中までとはいえ、勇者PTの斥候役として活躍したので 辺境の村にくれば敵無しだ。

 あっという間に英雄として崇められ、村では「さすがオッサン」「さすがオッサン」「さすオッサン」「さすオ」「さすオ」の連呼になった。


 かくいうオレも幼かったせいか、毎日「さすオ」してた。

 オッサンが薬草を山ほど取って帰れば「さすオ」。オッサンがゴブリンを退治してくれば「さすオ」。オッサンが村一番の美人と評判だった姉ちゃんと年の差結婚したときは、なんかおかしいなと思いつつも、周囲の空気に押され「さすオ」してた。

 そんなさすオ少年だったオレだが、幼いときはオッサンみたいな冒険者に憧れてた。

 だからオッサンに弟子入りして鍛えてもらっていたんだ。



「お前、なんか成長抑制のスキルとかあるんじゃねえか」

 

 ある日、オッサンにそんなことを言われた。


「普通なら、毎日こんだけゴブリンを倒してたら、レベルが上がってくるはずだぞ……」


 こんなことも言われた。

 事実、冒険者ギルドに金を払って鑑定してもらった結果、オレは「条件付きレベルアップ」というスキルを持っていた。

 このスキルは、どれだけモンスターを倒しても、レベルが上がらない。強くならないそうだ。

 ただし何らかの条件、例えばとてつもなく強いモンスターを倒すとか、二体をまとめて殺すとか、そういう特殊な行動をしたときにのみ、レベルが上がるとのことだ。


「しっかし、条件わかんねえな」


 さすがのオッサンも困惑してた。オッサンは気の良いヤツだし、義理の弟であるオレにとても良くしてくれた。


「よし、オッサンがお前に付き合って、とことんまで条件探してやろうじゃねえか」

「さすオ!」

「よせやいよせやい。お前の姉ちゃんと約束してんだからな。お前の面倒はとことんまで見てやろうじゃねえか」

「さすオ! さすオ!」


 かくして、オッサンとオレの長い修行が始まった。



 ぶっちゃけ一ヶ月で飽きた。



 だってわかんねんだもん、レベルアップ条件。

 色々やったぜ?

 オレじゃ当然勝てそうにないゴブリンエンペラー相手に、オッサンに助けてもらいながら、トドメを刺したり。

 冬の雪山に埋もれている希少な薬草を、背負いカゴいっぱいになるまで拾ってみたり。

 逃げ出したペットを探す依頼を百件こなしてみたり。

 失恋は男を強くするとか言い出して、村中の女に告白するなんてこともやらされた。一人目だけなら上手く言ったが、他の女にも告白したことがバレ、村の女全員から総スカンだ。

 極めつけは、女湯を覗いてレベルが上がったヤツもいるという噂を聞いて、王都中の女湯を覗いたことだ。もう王都には行けない。


 もう挫けそうだった。否、挫けていた。

 村に帰って畑を耕すんだと思い直していた。スローライフするんだって決意してた。

 

「諦めるなぁ!」


 しかし、オレが弱音を吐くたびに、オッサンに殴られ諭された。


「オレはな、お前が憎くて言ってるんじゃない。お前のためを思って言ってるんだ。いいか、お前のためなんだ!」


 オッサンはかつて勇者様のPTにいた。だからそんなオッサンに殴られたらめっちゃ痛い。

 そして殴られて厳しいアドバイスを貰った後、いつも飲み屋に連れて行かれる。


「むふぅ……いいかぁ、やればできる、やればできるんだぁ……」


 その結果、今日も酔いつぶれたオッサンを担いで帰る。

 ヤレばデキる。うん、知ってる。オッサン、何人か他の子に浮気してるもんな。断り切れねえとか言ってさ。


 はぁ……何やってるんだろう、オレ。

 いや、確かにオッサンに憧れて、さすオ! って思って冒険者になろうとしたよ。

 でももう良いんだよ……。疲れたんじゃねえんだよ、めんどくせえんだよ……。オッサンの相手するのがよ。相手してもらって悪いけどさ……。


「何、あんた、今日もオッサン担いで帰ってるの。オッサンは英雄なんだから、絶対に粗相するんじゃないわよ!」


 同世代じゃ姉ちゃんの次に可愛いと言われていたツンデレ幼馴染みも、今じゃオッサンにぞっこんだ。オレにはツン、オッサンにはデレだ。


「おい貴様、オッサンの修行つけてもらって、まだレベルが上がってないとは、たるんでるじゃないのか!」


 これは王都から追いかけてきた女騎士様だ。男みたいな口調だが、オッサンと二人きりになると、もの凄い甘えて来るらしい。


「ねえねえ、オッサンは今日も酔いつぶれてるの? うちに連れてくる? アンタの姉ちゃんに内緒で。固いこと言わないでさ!」


 これは冒険者ギルドの受付嬢をしていたエルフの美人さん。オッサンを追いかけて辺境も良いとこのウチの村まで来てた。


 その全てをあしらいながらも、何とか我が家近くまで辿り着く。

 

 オッサンは姉ちゃんと夫婦なので、一緒に住んでいる。当たり前のことだが。

 今は酔って寝ているオッサンだが、家につくと起きて、姉ちゃんと一緒に寝る。

 そして野獣になる。

 すんごい声が聞こえてくるんだ。

 生家なのに間借り状態のオレは、耐えるしかない。


 ああ、何もかもが嫌になってきたなぁ……。

 くそ、別にオッサンは悪くねえが、全てオッサンが悪い。

 チクショウ。

 何が田舎で老いた体を休めるだ。下半身は思春期じゃねえか!

 てめえの思いつきのせいで、村中の女に嫌われたオレの恨みを思い知れ。


 こうして何もかも嫌になったオレは、背中に担いでたオッサンを地面に下ろした。

 そして両足を掴み、その場でグルグルと回る。


「くそがああああああ!! 何がさすオじゃああああ!!!」


 そのまま勢い良く、オッサンをその辺の川に向けて放り投げた。


 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --


「え?」


 遠くで派手な水しぶきが上がる。



 こうして、オレのレベルアップ条件がわかった。

 つまり、中年男性(おっさん)を投げることだったのだ。








 条件がわかればこっちのものだ。

 無駄に魔物を倒す必要すらないこともわかった。オッサンを投げることでレベルアップし、身体能力が上がって強い魔法が使えるようになる。

 だからオレは一流の冒険者になるため、オッサンを投げることにした。




 こうしてオッサンをスローするライフが始まったのだった。









「お、おい待て!」


 投げた。


 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --


「ばか、やめろ! その勢いは死ぬ!」


 投げた。


 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --


「た、助けて、サイゼちゃん! ミラノちゃん! ドリアちゃん! グラスワイーンちゃーん!」


 投げて投げて投げまくった。


 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --

 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --

 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --

 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --

 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --








 そうして一ヶ月、毎日十回はオッサンを投げ続けただろうか。


「あんまり上がらなくなってきたな……」


 最初は一回投げればレベルが十は上がっていた。

 だが、いつのまにか一回投げても、一ずつしか上がらなくなり、仕舞いには十回投げても上がらなくなった。


「……これは、どういうことだ?」


 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --


「あ、上がった。やっとかよ……」


 今日は三十二回も投げてようやく上がった。

 成長しまくった身体能力でオッサンを投げてはダッシュで探し、拾ってはまた村から投げる。それを三十二回も繰り返してだ。

 最後は探すのが面倒になって、オッサンを投げた後、全力でジャンプして空飛ぶオッサンの上に乗って移動することにした。往復で二回も投げられるからお得だ。

 しかも、レベルが上がったオレの回復魔法のおかげで、オッサンはすぐ回復するので、いくらでも投げられる。

 だが、それでもこのままではマズい。



 色々考えているとき、ふとオレは思い出した。

 同じ魔物で、初めての一匹と数十匹倒した後では、経験値の入り方が違う。

 たまに冒険者ギルドで、「オークの初めてを貰ったらレベルが上がった」なんて楽しそうに会話している若者もいる。

 そして、そのまま何百匹も倒すと、一匹あたりの経験値がどんどん下がっていくそうだ。

 これを冒険者用語で「モンスターに飽きる」と言う。

 使い方としては「ゴブリンに飽きた」とか「オークに飽きた」なんて言葉になる。

 条件付きレベルアップというオレのスキルも同じなのではないだろうか、という疑問を抱いた。

 オッサンを倒しているわけじゃないが、同じ(もの)を投げ続けることで、経験値が下がっているのかもしれない。




 つまり、オレは……オッサンに、いや、オッサンの(モノ)に、飽きたんじゃないだろうか、と。





 ひょっとしたら、違う中年を投げれば、また上がるかもしれない。

 藁にもすがる思いで村を飛び出し、より沢山の中年を求めて、この辺で一番人口の多い王都へと辿り着いた。

 毎日オッサンの体を飽きるまで投げたので、身体能力はかなり高い。

 ゆえに違う中年を探し、背後に忍び寄っても、誰にも気づかれない。

 目の前にいる得物は、商人っぽい中年だ。


「悪いが、そこのおじさんの初めては、オレが貰うぜ」

「なっ!?」


 驚愕するおじさんの両足を掴み、回転して遠くに放り投げる。

 この中年商人さんは初めてだから、優しくしといた。

 ああああーーーんとか言いながら落ちていった。


 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --


「よし!」

 

 思わずガッツポーズをしてしまう。

 やっぱり、やっぱりだ。オッサンに飽きてたんだ、オレ。

 そうと決まれば、やることは一つだ。


 西にくたびれた中年がいると聞けば駆けつけて、その体を弄ぶかのように放り投げる。

 東にダンディな紳士がいると耳にすれば、背後からその初めてを貰う。


 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --

 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --

 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --

 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --



「中年はいねえかあ!? なあ、中年はいねえか!? おまえ、中年だろ!? おっさんだろ!?」

「ぎゃー、妖怪オッサンスローだ! 逃げろぉ」

「逃がすか、中年!」


 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --









 そんなことを毎日をすれば当然、そのときはやってくる。


「投げていない中年がいない……だと!?」


 有り余る身体能力を駆使し、王国中の中年を投げ続けた結果、もう全ての中年を投げ尽くしてしまったらしい。


「くそ、なんてことだ……レベルが上がらなくなってしまう!」


 解決策を探し、色んなことをしたが、行き詰まってしまったのだ。

 そうだ、こういうときは初心に返ろう。






「ただいまー」

「ひっ!?」

 

 村に帰ると、門のところにいたオッサンがいた。

 足を取られまいと内股になっていた。


「やだなぁ、オッサン。もうオッサンにゃ飽きたんだ……」

「ほ、ほんとか!? ホントだな!?」

「ホントホント。怖がるなよオッサン。ところでオッサン、何か良い中年男性、いねえか?」

「いい、いや、知らん、知らんぞ。この村も全部、お前に投げられまくったんだ、もう全員駄目だぞ」

「そうか……そういや王都にいなくなって、この辺りの村も全部投げたんだったな……」

「お、お前、そんなに強くなったんだったら、ゆゆゆ勇者たちを助けに行ったらどうだ?」

「勇者様を?」

「あ、ああ。風の噂だが、そろそろ魔王城に突入するらしい」

「魔王か……役に立てるかな、自信がないよ……」

「お前、れれ、レベルはいくつだ?」

「えっと、五十三万」

「あほかああ! オレと別れたときの勇者たちだって、百も行ってなかったぞ!」

「え? まじで?」

「今からでも良い、追いかけるんだ。そして立派な、そう立派な冒険者になるために、この村を今すぐ、そう今すぐ出るんだ!」


 オッサンが頬に汗を垂らしながら、真剣な眼差しでそう告げる。


 そうか、忘れてたよ。オレ、立派な冒険者になるためにレベルを上げたかったんだ。

 そう、目の前のオッサンみたいな……。


「オッサン! サンキュ-! 大事なことをようやく思い出せた気がする!」

「そ、そうか? じゃ、じゃあ、行くんだな、気をつけてな!」

「ああ!」


 オッサンはオレの旅立ちを見ていたくないのか、背中を向けてウチの方へと走り出していく。内股で。


「オッサンの背中が小さく見える……昔はあんなにデカく見えたのにな……」


 でも、どうやって今から勇者様たちを追いかけるかな。

 確か、魔王の城はここから東にずーっと行ったところらしい。今の身体能力なら、一日走れば着くかもしれない。

 しかし、それでは遅いかもしれない。

 何か高速な移動手段を……。

 ふと、オッサンとの修行が脳内に蘇る。

 あのときは、毎日、オッサンを投げたっけな……。


 オレは走り去っていこうとしたオッサンの背後に駆け寄る。


「なっ!?」


 そのままオッサンの両足を掴み、その場で高速回転し始めた。

 

「ば、ばか、やーめええーてええぇぇぇー」


 高速で回っているせいか、オッサンの声が良く聞こえない。

 そして、そのまま魔王のいる方向へと、全力で放り投げた。


「ああああぁぁぁぁぁぁぁァァァァ!!」


 遠くなっていくオッサン。


「ハッ!」


 オレは全速力で駆け出し、一足飛びでオッサンの背中に飛び乗った。

 オッサンを投げる修行の最後の方で開眼した、高速オッサン・スロー式空中移動だ。


 そのまま、空気の壁を突き破りつつ、魔王城を目指す。


 ふと、足元にあるオッサンの背中の感触に、懐かしい気持ちになった。


「へっ、やっぱ、オッサンの背中はでけえや……」


 オッサンのおかげで今のオレがいる。

 こうなったら、勇者パーティを追い出されたオッサンをスローしたオレが、代わりに魔王を倒してやる。









 オレはオッサンの背中に乗り、魔王城へと辿り着いた。

 オッサンの体に回復魔法をかけながら、壁を突き破り、魔王の玉座へと辿り着いた。


「な、何者だ!?」


 声をかけてきたのは、勇者様だ。絵で見たことがある。

 何やら満身創痍で、他の仲間も地面に倒れ伏していた。息はあるが意識はなさそうだ。

 魔王と戦いピンチに陥ってるようだ。


「そ、その男は」

「これか?」


 オレは片手で掴んでいたオッサンを前に出して、見せてやる。

 後ろから首根っこを掴んでいるせいか、オッサンの顔は見えない。オッサンもパーティを追い出した勇者様との邂逅をオレに見られたくないだろう。

 その証拠に、何も言葉を発しない。


「知ってるだろ? アンタがパーティから追い出したオッサンさ……」

「何だと……どうしてオッサンがここに……それにキミは?」

「オッサンのおかげで、強くなった男さ」


 どうだオッサン。

 アンタをスローした人生のおかげで、レベルも五十三万を超えた。

 ぽいっとオッサンを勇者様の元に投げる。勇者様が抱き留めた。わだかまりがあったかもしれないが、ああやって昔の仲間同士が抱合ってるなら、オレに言うことはねえさ。


「さて、魔王を倒すとするかね」


 そして玉座の方を向く。

 そこで目を見開いた。


「ハハハハッ、何者か知らんが、人類最強の勇者すら勝てない、このレベル千越えの魔王に勝てると思うてか」

「中年だ」

「は?」

「中年だあああああ!!!!!」


 オレの体が歓喜に震える。

 ああ、全ての筋肉が喜んでいるようだ。

 目の前にいる魔王は、立派なカイゼル髭を蓄え、豪華なローブを羽織ったダンディな、中年男性だったのだ。


「中年だああああ、中年がいる、中年めええええ! 探したぞ、中年男性(おっさん)めええええ!!!」


 脳内麻薬が溢れ出し、体が全ての血管が別の生き物のように脈打つ。

 オレは魔王の背後に一瞬で忍び寄った。


「なっ、消えた!? 後ろか!」


 驚いた魔王が振り向こうとするが遅い。

 


「おい」

「な、なんだ」

「お前の初めては、オレが貰う」

「ひぃ!?」


 そして、オレは。


 勇者PTを追い出されたオッサンをスローした日々の。


 その全てを吐き出し。


 魔王の両足を背後から掴んで、その場で回転した。


「し、信じられない、魔王を、あの魔王を!」


 勇者様の驚く声が聞こえてくる。

 だが、だが、だが!!!

 本領は、ここからだ!


「いいいくぜええええええ!!」


 魔王の両足を掴む手を、神経の末端まで集中した状態で、空の方向へと放り投げた。


「この私がああああぁぁぁ」


 魔王の体が城の壁を破壊し、辺りの空を包む分厚い雲を突き破って、青い空の向こうへと飛んでいく。


 今、人類は、その存在を脅かす魔族最強の王を、スローしたのだった。





 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --









 魔王を放り投げた後、オレは勇者様のPTメンバーたちに回復魔法をかけた。

 おかげで全員が目を覚ましたようだ。


「オッサン、すまなかった……」


 勇者様が代表して、オッサンに謝っている。


「いいってことよ……でもお前らが無事で良かったさ」

「オッサン……」


 感動のシーンだった。

 全てのわだかまりが解け、かつての仲間が最後の戦いに集った。

 王道の物語とはこうでなくてはいけない。


「オッサンはこれから、どうするんだ?」


 勇者様が照れくさそうに尋ねる。


「さて、どうするかな」

「も、もし良かったら! 一緒に王都へ!」

「いや、そいつはいけねえ。お前達はここまで辿り着いた英雄だ。オレにゃ、あの田舎町でのスローライフが似合ってんだ」

「オッサン……」

「最後のトドメこそアイツが倒したが、魔王軍をここまで追い詰めたのは、勇者、お前だ。自信を持て」

「あ、ありがとう! オッサン!」


 謙虚だ。さすがオッサン。略してさすオ。


 これ以上は、会話させる方が野暮ってもんかもなと思い、オレは一歩前に出る。


「じゃあ、帰ろうか。オッサンの嫁である姉ちゃんも待ってる」

「おおお、おい、帰るってどうやってだ? そ、そうだ、オレは勇者たちと歩いて戻る!」

「何言ってんだ。急に村からいなくなってるんだ。姉ちゃんが心配するだろ」

「それはお前が!」

「じゃあ、行こうか!」


 オレは瞬きの間にオッサンの両足を掴み、回転して村の方向へと放り投げた。壁を突き破り、オッサンの体が高速で空へと飛んでいく。やっぱりこれで移動した方が、走るより速いよな。


「オッサーーーン!!!」


 名残惜しいのか、勇者様たちが叫ぶ。


 --ピロリン♪ レベルが上がりました、おめでとー♪ --


「あ、上がった。ラッキー。じゃあ勇者様、オレはこれで」

「き、キミは!」

「オレですか。オレはこれからも、あのオッサンの背中を追いかけますよ」

「い、いやそういうことじゃなくて!」

「じゃ!」


 オッサンが開けた穴から飛び出し、レベル五十三万の身体能力でオッサンの背中に飛び乗った。


「さあ、帰ろう!」


 オッサンの背中に乗り、景気よく叫ぶ。

 世界には中年が沢山いる。今回の魔王討伐でそれがわかった。

 そんな中年たちをスローし、強くならなけれならない。

 次の脅威に備えるために。



「オレたちのスローライフはこれからだ! な? オッサン!」


 そう足元のオッサンに声をかける。







 こうして、一つの物語が終わり、世界は平和になった。

 男の冒険譚は、いつしか伝説として語り継がれるであろう。

 そう、永遠に。













オッサン物が流行ってたので挑戦してみました。

楽しんで貰えたら良いな!

良かったら評価なんぞポチって貰えると嬉しいです。




普段はオッサンが出てこない話を書いてます。

オッサンを出すだけでこんなにアクセスが増えるなんて、さすがオッサンや。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スローライフという発想をここまで面白くできるのはすごいと思った。
[一言] スローのライフって発想が天才的ですね!
[一言] 重たい連載長編に飽きる度に口直しで読みにきてます。 漬物みたいな良質の短編ありがたやー。
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