ドレスシャツ、ただし丈の長いもの
雨に病むアスファルト。
シトシト沈み込む黒い斑点が、帰路を更に色の無いものにしているようだった。
切り裂くほどの痛みを確かに感じていても、血も無く皮膚を不気味なものに変えるでもなく、ただそれが思い過ごしであると伝う雫が訴えてくる。
この身を切り裂くものが雨でなく、空気でなく、歩く速度でもなく、少しづつ削られていく歩道に想いを寄せる自分自身の願いであることに、脆さを感じざるを得ない。
ある猟奇的な、今となっては猟奇的な想いの下で僕らは確かに結ばれていたはずだった。
確かに自分しかいないのだと、互いが補うものであるかのように錯覚していたのであった。
精神的に幼かった二人は、幼いままに自分達が歳を経ていくものだと思っていたし、確かにそう思って過ごしてきた。
掛け違えのボタンを、長い長い巡り合わせのなかで何度と見過ごした。
その弛みが、軋みがこの雨を降らせているであろうことにただ後悔するだけだった。
シトシト。聞こえるはずのない音に空間が支配されていく。
濡れて、濡れ続け一方向に垂れた前髪が路面にのみ視界を許そうとすることも、また心地よかった。
自分は弱い人間だ。
自分は弱い人間だ。
駄目な人間だ。
そう言い聞かすだけの暗がりに、強い風が吹く。
不意に開けた視界に、至上の幸せを享受している勘違いには見られていた色彩の淡さも、時たまの激しさもなく、やはりと思うまでに日々は暗く写るのだ。
世間一般の些細なことの中に、世界で一番の絶望を見出している自分もまた嫌になる天気だった。
そう、総ては天気なのだ。
移り変わりも、当たらないことも、まじないにすがることも、何も変わりはないじゃないか。
今まで晴天の中にいた蛙が、この暴風に飛び込むだけだ。
言い聞かす。
まるで説得力のない、想像に欠ける言葉の連続にさえ心を許す自分がいた。
雨に病むアスファルト。
未だ止まない空模様に、世界で独りの病みよう。
なかなか来ない帰路の終わりに、こんなにも海原は広いものなのかと、湿った潮の香り。
慰めの井戸は未だ見えず、ただただ遠くに望むだけの自分がいた。
そうだ、大海に出よう。
僕は太宰を思い出した。