ダークエルフに転生しまして
ダークエルフを知っているだろうか?
尖った耳に褐色の肌、灰色の髪。森の民であるエルフとは対称的に岩場や砂漠などを住処とするアレだ。
平たく言うとダークエルフに転生しました。
いきなり何を言ってんだと思うだろうが事実なのでしょうがない。
だがまぁこの際転生したことは置いておこう。
それよりも、だ。
ダークエルフは5歳になると魔法の練習を始める。
なぜならダークエルフは全員が種族的に魔法の天才なのである。
ご多分に漏れず私も魔法を使える。
だがダークエルフは魔法の天才であっても属性と呼ばれる魔法の種類は1種類しか扱えない。
火、水、風、土、光、闇と分けられる属性の中でもダークエルフは全員が闇属性である。
さてそういうことなら私も闇属性……ということにはならなかった。
なぜか知らないが私だけ属性は光。
周り全員が闇属性の中に一人だけ光属性。
すわいじめか迫害か、最低でもぼっち確定か、と戦々恐々したが逆に大歓迎された。
なぜなら光属性は回復魔法が使える唯一の属性だったから。
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ダークエルフは長寿の種族である。
だが成長速度は前世の人間と大して変わりがない。
なのでダークエルフの成人は15歳である。
魔法があったり人間以外の種族がいたりする世界なのでご多分に漏れず敵対者として魔物や魔族がいたりする。
前世と比べれば原始的にすぎる環境なのでどうしても成人する年齢というのは若くなってしまうようだ。
まぁそんなことはいいとして。
ダークエルフには成人の儀というものが存在する。
成人の儀ではクラスと呼ばれる謎の補正効果を持ったものが貰えるのだ。
最早魔法の存在する異世界ということですんなり受け入れている私に久々にちょっとくるものがあったが気にしては負けだ。
そしてついこの間私も成人の儀を無事に終えている。
晴れて成人である。
大人なのである。
でも今私は近所の河原でぼへらーっと黄昏れている。
私はダブルクラスだった。
通常一種類しか取得できないクラスを二種類取得することができる珍しい事例で、謎の補正を2つも貰えるのでとても喜ばしいことなのである。
……普通は。
問題は取得したクラスだった。
一つは錬金術士。
言わずと知れた色んな物を調合してアイテムを作成できるアレだ。
この辺は珍しい程度で済む。
だが二つ目が問題だった。
そのクラスは聖騎士。
ダークエルフには絶対取得できないはずのクラスが数種類存在する。
その中の一つが聖騎士だ。
まぁ平たく言うと私はとことんダークエルフらしくない存在として遂に集落で会議が開かれてしまった。
光属性の魔法はまだ集落に有益であったから歓迎されたが、聖騎士はそうではない。
聖騎士は所謂勇者のクラスである。
勇者とは魔族と戦う者だ。
どこぞの鉄砲玉の暗殺者ばりの壺を割って箪笥の引き出しを勝手に開けるアレだ。
集落唯一の回復魔法使いである私を鉄砲玉にするべきか、このまま隠し通すか。
今、長達が集まって会議中なのである。
まぁでも私には結果が今さっきどっちに転ぶのかわかってしまったのだけどね。
だってほら、なんか神様から神託がね……ついでに加護なんかがね……。
ところで河原で黄昏れてたからって黄昏の神の加護ってなんですかね。
こうして私は行くことになる。
魔王暗殺のための最小構成、つまりはソロでの魔王討伐の旅へと。
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旅に出たのはいいが、魔王を倒すには勇者の装備が必須である。
お約束であるがこの世界にもソレは通じるようで。
ダークエルフとは仲の悪い、姿を見かけたら石投げられるような種族が最初の装備を持っている情報をゲットしました。
なんか出鼻からくじかせる気満々すぎる。
でも仕方ないのでその種族――蛇人族の集落に赴いたら案の定石投げられました。
粘ること15日。
なんとか話を聞いてもらえる段階まで持って行くことができたので今日で青空治療院も終わりだ。
蛇人族の集落の周りにあったたくさんの多種族の怪我人達もあらかた治療し終わっているし問題はないだろう。
光属性万歳。
なんやかんやあって無理難題を突破した私は無事勇者の装備その1をゲットすることができた。
まぁでもちょっと黄昏れさせて下さい。
だってほらこの勇者の装備その1がですね。
……小さなスパッツなんですよ。ホビットっていう小人族用のですね。
私これでも普通のダークエルフですから……。はいるわけないでしょうこんなもん……。
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私の旅は続く。
勇者の装備その2の情報は案外簡単に手に入った。
というか蛇人族の集落の外で開いていた青空治療院の患者の一人が提供者である。
案外簡単に手に入った情報ではあるが、そこまでの道のりは簡単ではなかった。
最終的な場所は天空城。
普通ならこんな話は与太話で終わるのだろうが、神託が降りてしまったら仕方ない。
天空城へ行くための手段を神託通りに探すと迷宮の奥でサイクロプスの集団に守られていた種を手に入れた。
スパッツは小さすぎて履けないけれど、被れば装備していると見做されることがわかって以来、私は鉄仮面を被っている。
黄昏れる回数がこのところ増えているけれど私は超人的な強さを手に入れたのだ……のだ……サイクロプスの集団なぞ怖くもないもん。
手に入れた種は植えたら爆発的な成長をして天空城までの道ができてしまった。
これ見たことがある。私知ってる。でもアレだ。なんかこう世界の強制力的なナニカが……。
空気が薄かったり、風が冷たかったり、空飛ぶ系の魔物が襲ってきたりしたが私はげんきです。
鉄仮面が最強すぎる。
天空城は平たく言うと廃墟だった。
苔むした城と庭園。
無人の園を徘徊し、小動物の世話をする朽ち果てようとしているゴーレム。
金曜日の何度目だ、を思い出す中、天空城の中枢であっさりと勇者の装備その2を手に入れることができた。
そして私は今天空城の端っこで黄昏れている。
隣には巨大なブーメランですか? と絶叫したいものが転がっている以外は小動物に群がられているだけです。
種を見つけたところにいたすごく大きなサイクロプスの頭に載せたらぴったりかもしれない。
そしてメイド服なんか着せたらぴったりかもしれない。
……そう、これはメイドさんが頭に載せるアレだ。ホワイトブリムというアレだ。
おそらがきれいだなぁ……。
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私の旅は続く。
斬れ味抜群なブーメランと絶対に脱いではいけない鉄仮面を合わせた新闘法を引っさげた私の快進撃はとどまるところを知らない。
しかし戦闘力だけでは突破できない場所もあるのだ。
それがここ。
目の前には熱く煮えたぎった溶岩の湖。
鉄仮面がヤバイ温度になっていたりするけれど、中のアレのせいで結構大丈夫なのが尚ひどい。
しかしそれも神託が降りたので無事解決していたりする。
最近黄昏れる回数が激増しているので神様はすでに愚痴仲間なほどだ。
でも今日のコレでまた愚痴が増えそう。
溶岩の湖の上をカッポカッポという音を立てながら進む。
カッポカッポと闊歩する。
なんて思うほどの余裕などない。
実はこれ勇者の装備その3である。
鼠人族の集落でいつも通りに無理難題を突破してゲットしてきたのだが、とても濡れている。
外も中もぐっちょぐっちょのねっちょねちょ。
洗っても洗っても止めど無く出てくるぬっちょぬちょ。
私の不快指数はすでに歩きながら黄昏れるレベルである。
さらにはカッポカッポと闊歩していると音で魔物が寄ってくる。
ぐっちょぐちょのねっちょねちょのぬっちょぬちょの中戦う私はすでにいくつかの悟りの境地を開きかけ……
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私の旅は続く。
現在私の足がぬっちょぬちょなのは言わずもがな。
だが今回の不快指数は前回の比ではない。
ダークエルフも慣れる種族なのである。
ぬっちょぬちょも日常になればどうということはない。
斬れ味鋭いブーメランと絶対に脱ぎたくない鉄仮面が日常となったように私の日常は進化し続けているのだ。
だからこれもきっとそうなる……そうなって……おねがいだから……。
事は溶岩の湖を渡りきった後である。
見える限りの瘴気漂う腐った大地。
これが話しに聞いていた魔王の住む大地なのだ。
そして私は踵を返して溶岩の湖を戻っていった。
もちろん神託が降りたからだ。
……もっと早く降りて欲しかった。
羊人族が守る勇者の装備その4を見事無理難題をちょちょいとこなして手に入れた私は腐った大地を突き進む。
瘴気? なにそれ美味しいの?
腐った大地? なにそれ美味しいの?
今はそんなことよりこの微妙に我慢ぎりぎりの暑さとTシャツの上からでもチクチクヒリヒリするダサいセーターだ。
これが勇者の装備その4である。
鎧の上から着てもチクチクヒリヒリするのだ。紛うことなき勇者の装備である。
ちなみに鎧の上から着たら我慢の限界を軽く突破する暑さなのでこれが妥協点である。
瘴気漂う腐った大地で黄昏れるのが私の日常に加わっているのは言うまでもない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私の旅はそろそろ終わりのようだ。
魔王の城までに四天王と名乗る魔族の強者が襲いかかってきたのには慌てた。
今まで確殺だった斬れ味鋭いブーメランがなかなか効かなく、四天王最弱だと言っていた魔族を倒すのに丸4日もかかってしまった。
そこで降りたのはもちろん神託。
そろそろ親友と言ってもいい具合の神様。お願いだからもうちょっと早く……。
瘴気ただよう腐った大地に魔族以外で住む唯一の友好的な種族――魔人族からさくっと無理難題を突破してゲットした勇者の装備その5。
私は遂に5人目の四天王を倒すことに成功した。
四天王が5人いたとか、切れ味鋭いブーメランが盾にもなったとか、そんなことよりも私は思う。
なぜこの剣は専用の鞘から抜くときに「ホンワカパッパー」と鳴るのか。
一振り一振りで「ホンワカパッパー」と鳴るのか。
鞘に収める時に「ホンワカパッパー」と鳴るのか。
魔王の城に入る前に黄昏れるのは一種の儀式である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私の旅が終わる。
今までの鬱憤を晴らすかのように魔王を背後から一刀両断してやった。
玉座ごと真っ二つである。
ついでに城まで真っ二つだ。
「ホンワカパッパー」である。
もちろん神託は降りていた。
正々堂々と真正面から魔王の御託を聞き、世界の半分をやるからという選択肢には「NO!」と答えるようにと念押しされていた。
ちなみに裏ボスの大魔王はすでに粉微塵にしてある。
魔王の城の前で黄昏れたあとに魔王の城の裏手から入った裏ダンジョンを攻略しておいたからだ。
今も神託がピコンピコン言い続けている。
さぁ最後の一仕事だ。
この狂った旅の最後の大仕事だ。
待ってろクソ野郎。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私の旅がやっと終わった。
突然の私の来訪という名の強襲を受けた黄昏の神改、黄昏の邪神はチェーンソーで真っ二つである。
ちなみに「ホンワカパッパー」ではない。地球の神産だ。
実は魔王の城で黄昏れていた時に地球の神様から強制介入があったのだ。
それで大魔王の存在を知った私は即効で粉微塵にして事の真相を知った。
大魔王を討伐した特典が次元の門を一時的に開くというものだったので地球の神様に再度介入してもらった。
簡単に言ってしまえば私は玩具だったのだ。
地球の神から掠め取った私という魂を使った黄昏の邪神による盛大なゲーム。
さぞかし私は滑稽だっただろう。
何せスパッツを被ってホワイトブリムをブーメランにしてぬっちょぬちょの靴を履き、不快指数マッハのダサいセーターを着て「ホンワカパッパー」である。
非常に納得である。
あれから私は地球に戻……らなかった。
玩具としてこの世界に転生したとはいえ、神をも殺す存在となった私をこれ以上どうこうできる存在はいなくなり、とても平和で黄昏れることのない生活を送れるようになったのだ。
ダークエルフは長寿の種族である。
世界を巡って青空治療院をしたり天空城の小動物達と戯れたり、魔人族と一緒に瘴気ただよう腐った大地を清浄化したり……。
やっぱり私の旅はまだまだ終わらないようだ。
ネタ提供
八田若忠
卯堂
敬称略