飼育
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男ほど下等な生物はない。それが彼女の持論であった。
「あんなにガサツでキタなくて、泥水でも毎日浴びていそうな生物が女性と共に住んでいるだなんて、たまらなく嫌!」
私は男でありながらも、いやむしろ男だからこそと言うべきだろうが、そんな彼女に深く深く酔ってしまっていた。
彼女はあるフェミニスト団体の理事長をしている。私もその会員だ。入会時には男というだけで拒絶されたが、性差の問題について女性に有利なことを力説したら何とか入れてもらった。
私の実家は農家で、ある程度の財産は三男の私でも自由に動かすことができた。私は惜しみなく実家の財産を活動に投入した。そんな私を彼女は存分に利用し、毎月この事務所の裏口で私から資金を手渡しされるのだ。
白い息を両手に吐きかける。ほんの一瞬だけ温もりを感じたが、その温もりはみるみるうちに骨身に溶けて消えてしまった。
すると彼女が裏口から出てきた。咄嗟に私は、懐から資金の入った封筒を取り出す。
「いやぁ寒い寒い、こんなところで待たされてしまっては、こちらの身がもちません。」
「この事務所に男性は一歩たりとも入れさせません。」彼女は毅然とした態度で、それだけを私に告げる。
「それよりも早くお渡しください、その封筒。」
「ああ、はいはい、どうぞ......こうやって毎月差し上げているわけですし、少しくらい暖かみを私にお恵みくださいよ。」
「調子に乗らないで!あなたは単なる資金源に過ぎないんだから!」
裏口の扉はその声を置き去りにして乱暴に閉められた。こんなに冷たいのに、雪は何を勿体ぶっているんだろう。尊厳なき私を埋めてしまえば良い。私は自らの思いで雪を溶かして、再びこの二本足で立って彼女と面を合わせ、やがて心元の存在に引き込んでやる!
と思っても、閉められた扉を見つめて2分、未だに裏口で立ち尽くしている私である。なんなら、このまま、また来月まで立っていましょうか。その時までなら、雪で頭を冷やせましょうよ。