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好きだよ

平野さんが好きだと気づいてもう2ヶ月が経つ。


相変わらず私は平野さんのロッカーを勝手に開けると上着を着てみたりしていた。いけないことだということはわかっている。しかし、一度出した欲望に勝てるほど私は強くない。


その日、私はきちんと鍵をかけたつもりでいた。

鍵をかけたつもりになって、いつものごとく平野さんの上着を羽織っていた。

突然のことだった。

突然ドアが開いた。



そこにいたのは事務長だ。

私が平野さんのロッカーを開けているところを思い切り見られた。

しかし、事務長はドアを閉めると、

「ユキちゃん、いるなら鍵かけてよ」

と言った。私は慌てて乱雑に平野さんの服を元の位置に戻すと、ぞっとドアを開き、表に出た。

思い切り見られたはずだ。なのに事務長は何も言わない。私は

「お先に失礼します」

と言って職場を出た。


すると、事務長が慌てて公民館を飛び出してきた。

言われることはわかっている。

事務長の方へゆっくりと振り向いた。


「ユキちゃん、人のロッカーを勝手に開けちゃだめだよ」

「はい……」

「いつもそういうことしてたの?」

「……いえ」

「じゃあ魔がさしちゃったんだね。今回のことは目をつぶるけども、次にそういう様子があったときはみんなに話すからね」

「……はい」


私はこの日から平野さんのロッカーを開けることはなかった。


ただ、一度好きだと気づいた心はとめられなくて、私は何度となく平野さんに絡む。必要以上に話しかける。平野さんからしてみれば、よくなついてくる後輩、といったところだろうか。拒否することは全くなかった。



そんなある日、私はやらかしてしまったのだ。

その日は定休日で、明け方まで眠れなくて、よくやく寝付いたと思ったらまた目が覚めて……の繰り返しだった。

うすら起きの私は、あろうことか、平野さんに電話をかける。

「もしもーし?」

平野さんの声がする。

私は、眠気と闘いながらも、その言葉を発してしまった。

「平野さん、聞いてくれるだけでいいれす……」

「うん、どうした?」

「わらしは、平野さんのことが好きなんです。それだけです」

好きなんです辺りから記憶が定かになり始めた。


平野さんは無言で電話を切った。


やべえ、やらかした、と思ったときにはすでに遅く、電話を鳴らしても平野さんが出ることはなかった。


休み明け、顔をあわせるのが気まずい。

とりあえずいつものふりをしてお茶を配る。平野さんもいつも通りに接してくれる。

良かった、嫌われたわけじゃないみたい。


そんな妄想を描いていた私はバカだった。


次の次の日に、資料が見当たらず、外勤中の平野さんに電話をかけた。

資料を探しながらだったから、携帯からかけたのだが、繋がらない。呼び出し音も鳴らず、プツッと切れてしまう。

それが着信拒否だということに気づくまでしばらくかかった。


しばらく電話しても繋がらなかったため、職場の電話から電話してみる。呼び出し音がなる。

このとき初めて私は着信拒否されていることに気づいたのだ。


資料はすぐに見つかった。職場の電話からの着信に平野さんが出たからだ。


私はなんとバカなことをしたんだろうと、うちひしがれた。あの日、寝ぼけた電話をしなければこんなことにはならなかったのに。


表面上はなんら変わらぬ日々が続いた。私が平野さんに話しかけなくなっただけで、あとはなんら変わりがなかった。



ちずるが珍しく外勤することになり、公民館は二人だけになってしまった。

二人だけとは、平野さんと私のことだ。


私は、恐る恐る平野さんに話しかける。

無視される。

当然か。

とりあえず謝っとくだけはしておこう。

「平野さん、先日の電話、すみませんでした。私。なんだかすごく寝ぼけていたみたいで……」

「そう?ならいいんだけどね」

平野さんはそう言いながらも冷たいオーラを発する。

2月半ばのことだった。

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