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飲み会

私は家に帰ると思いきり泣いた。

内示のときに断れたんじゃないのかとか、マイナス思考にどっぷりだった。

そんなとき、おっさんからメールが入る。

『離れていても、こうして繋がっていられる。なにかあったらすぐにメールください』

おっさんのメールは、メールだけは、丁寧語なのが、最後まで笑えた。


本当は私を連れていってもまかなえるくらい、お給料もらえるのくらい知ってる。なのに私を連れていかなかったのは、おっさんの優しさだろう。


私はそのくらい地元を、仕事を愛していたから。



おっさんがいない時間が始まる。

電話で愚痴を聞いてもらったりしているが、近くにいるのとそうでないのには、大きな隔たりがあった。



同期の連中が、飲み会を開くという話を聞き付けた。

こんなときほど参加するにこしたことはない。


同期で集まるのは十二、三年ぶりとなる。

みんなそれぞれ結婚とかしていて、なんだか取り残された気分すらした。

ちずるも来ていたが、まさに壁の花、といった感じだ。私は男子側で飲んでいる。

女子は苦手だ。

すると、菅山くんがやって来て、言う。

「佐藤さんは向こうにいかないの?」

「うん、こっちにいたほうが気が楽だから……」

「ふぅん」

「女子って固まると怖いやん?」

「そうかな。そんなもんかな」

菅山くんは私の横に陣取る。

お互いにビールを注ぎつつ、仕事の話で盛り上がった。

最近はうちの部署以外はものすごく忙しいらしく、残業に休日出勤もあるとか。

私には縁遠い話だけれど、異動になっちゃったら、そういう感じになるんだな、と思う。今の職場は楽しいし、やりがいもあるから、いっときはこのままがいいな、と思った。


菅山くんは納税課で、結構厳しい仕事をしている。毎日残業は当たり前だし、休日出勤も当たり前だという。

その点、うちの職場では、月曜日は定休日で必ず休みだし、あと一日の休みも、うまく振り分けて休みだ。

確かに忙しいけれど、残業は月に二回あるかな、くらいだし、相当楽チンな職場だ。

だからといって手を抜いたりはしないけどね。

有働くんは会計室担当だ。それこそ、庁内では一位二位を争うほどハードな職場だ。

今日だって、本当は飲みに行く暇がないところを無理矢理時間を作って飲みに来たらしい。そういや、おっさんと飲みに行くときに、ふと見上げるといつも会計室には電気がついていた。

他の面子も同じような状況で、サービス残業も多いとか。

私はつくづく恵まれた環境にいることを思い知った。

そして改めて、今の職場をよりよくするために尽力しようと思った。



飲み会は三次会まで参加した。次の日を休みにしておいたので、安心して遊ぶことができた。

三次会はカラオケだった。

珍しくちずるも来ていた。

明日仕事なのに、大丈夫か?と思いはしたが、口にだして聞くことはなかった。


三次会が二時前に終わったので、私は菅山、有働と一緒にいつもおっさんと行っていたバーに行くことにした。

ドアを開けようとすると、菅山が

「緊張する〜!俺バーとか初めてで!」

と言う。

「そんなにかしこまるところじゃないよ」

と笑いながら店に入った。

店は片隅にカップルが一組だけだった。

「今日は少ないのねぇ」

とマスターに声をかけると、今一旦引けたところだと言う。私たちはカウンターに腰かけるとゆっくり飲み始めた。


話は主に仕事の話だった。

途中、思い出したように、菅山が

「平野さんって知ってるよね」

と言い出した。

「知ってる。去年まで一緒だった」

「やっぱり?中央公民館だったって言うからさ、今思い出した」

菅山たちには知られる訳にはいかない、あの黒歴史を!

話題を変えようとするが、菅山は話終えない。

「それで、平野さんが今の俺の上司なんだよ」

あら。係長に昇級したか。

「今度佐藤さんの話してみるわ」

「やーめーてー」

「どうして?」

「私、平野さんからは気に入られてないから」

「そうなの?平野さん、そんな風には見えないけど……」

「そんな風にはってどういう意味だ?」

「他人のこと嫌ったりしなさそうって意味」

「それが嫌われちゃってるんだよ……」

「お前、なんかしたの?」

「ちょっとね……大きなミスを」

「ふぅん。佐藤さんも大変そうだね」

「みんなほどじゃないけどね……」

その日は夜更けまで飲み明かした。

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