表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/165

過去/4年前5


 少し空が暗くなった夕方六時。学校に行っていた深夏と秋音が屋敷に帰ってくる。

 玄関に見慣れない靴があったので、誰か来ている事はわかったが、それが早瀬警部と連れの若い警官だと知るのは、丁度廊下奥で二人が書斎に入ろうとする影を見たからだった。


「お帰りなさいませ」


 タロウとクルルを犬小屋に戻し、屋敷へと戻った澪が二人に声を掛けた。


「澪さん、早瀬警部来てるの?」


 深夏にそう訊かれ、澪は頷いた。


「旦那様、ならびに奥様は早瀬警部と大事な用があります。食事は出来ていると思いますので、先に……」

「今は食事よりも早瀬警部に事故のことを聞くのが先でしょ?」


 深夏は澪の言葉を振り切り、秋音の手をとって屋敷に入った。

 途端、深夏の足が止まった。


「どうしたの、深夏姉さん?」


 秋音が不思議そうに深夏の顔を見て、ギョッとする。深夏はまるで金縛りにあったかのように、微動だにしなかった。


「云ったはずです。旦那様と奥様は大事な話をしておりますゆえ、お二人は広間で大人しくしていてください……」


 それは確かに澪が二人に云っていた。

 が、深夏にとっては別の人が云っていると錯覚していた。

 だけど、声はうしろから聞こえ、うしろにいるのは澪だけだ。


「わかった。秋音…… 着替えたら広間でね」

「う、うん……」


 二人はまるで澪から逃げるように、足早に自分の部屋へと消えた。


「もう少し穏便おんびんにいかないものですかね?」


 うしろから声がし、澪はそちらへと振り向いた。そこには渡辺がおり、鍬を持っていた。畑の土を耕していたその帰りである。


「それで…… 早瀬警部は何用で?」

「どうやら事故のことを報告に来たみたいですね」


 渡辺は澪の言葉を聞くと、口元を歪ませた。


「どうせ事故として処理されたんでしょう。転落事故は大抵が致命傷は打撲になる。海に落ちれば窒息死。これはたとえ窓を閉めていても、車内の空気は限られてきますからね」


 まるでバスの状況を知っているような話し方だった。


「それにしても、何故あんな事を? いくらなんでもあれは……」


 澪がそう云うや、渡辺の形相が激しく変貌した。

 その顔に驚き、澪は小さく悲鳴を挙げる。


「あれは? あれくらい…… 私がうけたことに比べたら、ちっぽけですよ。まぁ、二人は知らないでしょうけどね。誰も知らない。知ろうともしない。でもねぇ? 二人には関係あるんですよ……」


 渡辺はそう云うと鍬を直しに納戸へと消えた。


「間違ってる。絶対。こんなことして……」


 澪は柱に凭れこむと、呟くようにそう云った。


 丁度夜の十一時を回ろうとしていた。

 霧絵と子供たちは既に寝ており、使用人たちも明日朝早い者は早々に寝ており、各自好きな事を遣っているそんな中、大聖は一人書斎にいた。

 書斎の奥に小さなキャンパスに描かれた少女の絵が四枚あり、それを並べて眺めている。


「あの人は一体、どうしておねえちゃんを描こうと思ったんだろうか」


 最初の神子は盲目で、それゆえ村人からは疎外されていた。

 しかし天候や人の吉凶を当てたりとまるで神のような素振りから、村人からではなく、戦国大名の目に留まった。


「彼女は誰かを恨んでなんていないのかもしれない。この絵から、皆殺しなんていう汚名を被ったんだ……」


 絵には少女の周りにおびただしい数の骸が鏤められている。姉妹達はそれを怖がり、本来自分の部屋に置く物なのだが、この時は未だ置いていなかった。

 歴史蒐集家である大聖にとって、この絵には釈然としなかった。それは金鹿之神子が持つ皆殺しの力が発動する条件。相手に自分の目を見せることが出来ない。

 先の政治家惨殺事件に関しても、仮に鹿波怜が憎悪を持っていたとしても、白内障を患っており、余り見えていなかった彼女が殺す事は出来ない。要するに晴眼せいがんであることが第一の条件だった。


 途端、家の電話がなる。こんな時間に誰だろうと、大聖が電話に出た。


「もしもし……」


 声をかけるが相手は答えようとしない。


「悪戯なら切りますよ」


 そう云うが反応がしない。

 今までの苛立ちも重なってか、大聖は電話を切ろうとした時だった。


「大聖くん……」


 それは女性の声だった。そして大聖はその声を聞くや、涙を流した。


「まさか…… そんなはずは」


 大聖はワナワナと手を震わせる。


「あの子がしたことを赦してとは云わない。でも、赦してあげて」

「***さん! いったいどこから電話してるんですか? いったいどこから?」


 大聖は張り裂けんばかりの声で、女性に尋ねる。


「あの子はあなたがしたことを怨んでいる。でもあなたがやったことは正しいと私は思ってる。そうじゃないとあの子は報われない」

「***さん! どこから電話してるんですか?」


 大聖は再び催促するが、電話は途中で切れた。

 大聖は呆然とする中、うしろから誰かが見つめているのを感じ、そちらに振り向いたが、廊下には誰もいない。


「お姉ちゃん。俺がやったことは……間違っていたのか? 俺があんな事をしたからなのか?」


 大聖は誰もいない廊下の奥に誰かがいると信じ、問いかけるが、誰もそれに応えるものはいなかった。


今回、修正するに当たって、もともとあった部分を前の4年前4の方に移動させましたところ、見事に短くなってしまいましたが、考えてみると、4年前のラストなので、いいかなとおもったり……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ