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過去/4年前4


 時間は夕方のチャイムが鳴るより少し前のこと、澪はタロウとクルルをトレーニングと称した散歩に連れて行っており、他の使用人たちは夕食の準備や風呂掃除をしたり、幼稚園に通っている冬歌の迎えに行ったりとあわただしい中、霧絵は紅い扉の部屋にいた。

 部屋の中は広間や書斎以外の部屋と対して変わらない四畳一間だが、雰囲気は殺風景で、唯一あるのは部屋の隅に置かれている本棚くらいだ。

 その本棚からビニール袋に入れられた小冊子を手に取り、袋から取り出す。

 その小冊子は“母子手帳”で、子供の名前欄には“耶麻神春那”と書かれている。

 この時点から二十年前、霧絵は自分の不注意で殺してしまった水子につけようと思っていた名前である。

 それから来た深夏、秋音、冬歌にしてもそうだった。


 元々四姉妹は大聖と霧絵の子ではないし、姉妹たちもそれは各々《おのおの》が理解しようとしている。

 ただし、それは一時的なものであって、彼女達が本当の家族ではないにしろ、本当の家族同然でもあった。

 しかし、深夏と秋音が自分の誕生日が嘘だったというのを知ったのはあの時がはじめてであり、春那と冬歌はその事を知らないでいる。


「霧絵、いるか……」


 襖越しに大聖の声が霧絵に声をかける。


「はい……」


 霧絵は可細い声で返事をすると、大聖は襖を開けようとしたが、ガタガタと建て付けの悪い襖を開けるのは一苦労で、漸く開いたのは開け始めてから二秒ほど経っていた。


「母子手帳を見ていたのか……」


 大聖は霧絵が見ている母子手帳を除き見た。


「あの子達は自分たちが本当の家族じゃないことを知ってます。それに春那が姉の子だと知ったら……」


 たとえその時がきたとしても、自分が生きているうちには話しておきたかった。

 しかし、今このタイミングで切り出すのは酷だということもわかっていた。

 ――そもそも、何故、父と母は姉の子を、私たち妹夫婦に授けたのだろうか?

 確かに姉は祖父である耶麻神乱世に勘当されている。

 それに私も姉と同じようなものだ。

 大聖さんに告白され、そのまま父が運営していた旅館経営を受けついだけど、もし子が生まれていたとしたら、私は大聖さんの性を名乗っていた。

 そこまでして耶麻神の名を残したいのだろうか?

 ……と、霧絵は姉妹達の母子手帳を見ながら考えていた。


「今日な、会社に行ってきた。思った通り、役員達は事故を隠そうとしてたよ」

「そうですか……。それで春那は?」

「事故について、社内連絡って形でみんなに説明していた」

「――反応は?」

「多少の反発はあったがな? でも、話したことに関しては誰も責めなかった」


 それは意外な反応だったと霧絵は口にしなかったが、表情がそう語っていた。

 あの放送を聞いてから、緊急の集会があった。春那は一人で社員達の質問攻めを受けた。

 最初大聖も手伝おうと申し出たのだが、春那はそれを断った。


「矛先は何故会社や各自の家族に連絡が行かず、この屋敷に来たのかと云うことだ。会社はあくまで旅館だからな。お客様控えみたいなものをとってるんだよ。でもな、旅館から取り寄せた予約表の電話番号にうちのが上書きされてたんだ。こっちは書き換えられないようにしているけどな」


 領収書や小切手などを書いたことのある人にはわかると思うが、基本的に書き換えやすい数字や漢数字は避けられている。一は壱、二は弐といった感じに、書き換え難い文字で書かれるのが常識である。

 それは電話番号でも同様で、筆跡は春那の文字であった。

 とはいえ、最終的な連絡先であり、後は乗客其々が書いた連絡先であった。

 だからこそ、何故屋敷に連絡が来たのかと云うと、旅館側の控えがそうであったから。


「それと早瀬警部から転落は人為的なものだってことがわかったそうだが、それを警察は発表する気はないそうだ」


 それを聞いて、霧絵は信じられないような表情を浮かべた。

 それもそのはずだ。人為的な事故と云う事は、それは殺人と一緒である。


「そんな! 人為的と云う事は、人が殺したってことですよね? それを発表しないって……」

「早瀬警部も知り合いの岐阜県警の鑑識官も訴えたそうだが、証拠不十分で訴えを聞いてはくれなかったらしい。挙句の果てには、運転手が癲癇てんかん薬中やくちゅう等の****で、運転中幻聴か何かに驚いて、アクセルとブレーキを間違えたんだろうとかなんとか云ったそうだ。事件もそれで終わり。捜査も取り止めるそうだ」


 ――それは余りにも酷い話である。


「そんな、そんなのって……。それじゃ、亡くなられた方々の家族はどうなるんですか? 亡くなった人の人権は? 事故の状況や真実を明かすのが警察の役目じゃないんですか? これじゃ余りにも不便すぎます。理不尽過ぎます。一体何人が死んだと思ってるんですか? 三十人ですよ? いいえ! バス会社からの方々を含めれば、三十二人ほど……。その人にも家族はいます。私たちだって…… 私たちだって……」


 崩れるように、霧絵は慟哭を挙げる。

 霧絵にとって、会社の社員は本当に家族同然だと思っている。

 それは彼女がずっと憧れていたから。

 仕事で忙しい両親には少なくとも感謝もしていたし、怨みもしていた。

 幼い頃、先天性の心臓病を患い、それによって入退院を繰り返していた彼女にとって、入院生活はつまらないものだった。

 見舞いに来るのも使用人くらいであり、両親は仕事で忙しいことはわかっていたが、幼いゆえの寂しさがずっとあった。

 大人になるに連れ、霧絵は自然と体力がついてきていた。

 高校生くらいの時に生まれついての喘息は落ち着きだし、通院に変わっていく。

 それからの霧絵は、まるで土の中を長い年月で眠っていた蝉の様に遊んでいた。

 入院中も院内学級で勉強をしていたし、通信教育とはいえ、高卒資格も持っていた。

 そのため長野県の某大学に通っており、そこで大聖と渡辺に出逢った。


「私、ちょっと訴えてきます」


 そう霧絵が部屋を出ようとしたが、大聖がそれを制した。その行動に霧絵は大聖を睨みつける。


「霧絵…… たとえ不服でも、決まった事は変えられないそうだ……。何か決定的な証拠がない以上、動いてはくれないらしい」

「あるじゃないですか? さっき大聖さんが云っていた旅館側の控えに電話番号が各自の連絡先ではなく、私たちの家に……」

 巻き舌を立てながら云ったが、途中で無駄だということがわかった。

 警察にとって、事件とは“転落事故の発生”であって、事故などの連絡が何処から来たのかは重要視していなかった。

 双方の連絡先が違っているのではそんなもの気にも留めはしない。


「奥様、旦那様、早瀬警部がお見えですが……」


 空気を読んでいたのだろう。何時話そうかそわそわしていた使用人の女性が、顔を覗かせながら霧絵と大聖に申し出た。


「早瀬警部が? ――わかった。早瀬警部は書斎の前に案内しておいてくれ。それと茶菓子は準備しなくてもいいからな」


 書斎には事前に冷蔵庫があり、その中には麦酒ビールなり色々と飲み物が入っており、菓子もいくらか入っている。

 云ってしまえばトイレと睡眠を除けば、気が向いた時に外に出ればいい。集中して作業に取り掛かりたいためにそうした造りになっている。


「わかりました」


 使用人は頭を下げ、下がっていく。それを霧絵は少し待ってと制した。


「警部を案内した後でも構いません。襖を閉めておいてくれませんか? 大聖さんが無理矢理開けてしまったものですから」


 霧絵は襖に触れながら大聖を一瞥した。

 大聖は申し訳なさそうに霧絵に向かって頭を下げた。


 玄関先で早瀬警部が含み笑いを浮かべていた。

 それは連れの若い警官が、散歩から帰ってきたタロウとクルルのいいおもちゃにされていたからだ。


「大丈夫ですよ? 彼らは人懐っこいですから」

「け、警部、笑ってないで助けてくださいよ」


 タロウは決して吠えようとしない。早瀬警部を知っていたからで、主人である大聖と霧絵の知り合いである事も知っている。

 初めて会った時は吠えはしたが、敵視するものではないとわかると途端に大人しくなる。

 若い警官に対しても、警部の連れと云うことを理解していた。

 一方クルルはその逆で、元々から人懐っこい性格に加え、悪戯好きである。

 遊んでほしいからこそ、自分の頭を若い警官の足にこすりつけているのだが、その若い警官が逃げるので、どちらかと云うとクルルのほうがいやな思いをしていた。


「まったく。警官がこんなんでいいんですかね? 早瀬警部」


 澪がそう云うと、早瀬警部は申し訳なさそうに笑っていた。


「早瀬さま、遅れてすみません。旦那様は書斎の方にてお待ちしております」


 廊下から早足でやってきた使用人に早瀬警部は声をかけられる。


「そうですか。それじゃ、失礼しますね。……と、何やってるんですか?」


 早瀬警部が屋敷に入ろうとした時、若い警官はクルルに押し倒されていた。クルルもクルルで短い尻尾を振っている。


「た、助けてください」


 と、若い警官は早瀬警部と澪に助けを懇願する。


「クルル。降りなさい」


 澪がそう命令するが、クルルは降りようとしない。

 何度も云うが、クルルは聞こうともしなかった。

 澪はタロウとクルルを繋げているリールのうち、タロウのリールを片手に持つと、首にかけていた小さなホイッスルのようなものを口に咥え……吹いた。

 さっきまでの我儘はどこへやらといった感じに、クルルは若い警官から離れ、澪の横に座った。

 澪が吹いたのは犬笛で、、ことなる音によって命令が下される。


「凄いですなぁ? よく訓練されている」

「まだまだですよ。この子達のお母さんやお父さんは立派な警察犬だったらしいですし、私はそれに恥じないように育てているだけです」


 澪はクルルの首元を撫でながら云った。


「いやいや、親は親、子は子でいいと思いますよ。別に大聖さんがその子達を警察犬にしたいとは思ってもないでしょうしね」


 早瀬警部は屋敷に入るさい、そう云うが、澪は聞こえない振りをした。


「やぁ、大聖さん。それに霧絵さんも」


 早瀬警部は大聖と霧絵に軽く会釈する。隣にいる若い警官も、右に倣え。


「話は中で、ちょっと散らかってますけどね」


 大聖がそう云うと、早瀬警部は少しばかり笑みを浮かべた。


「――いえいえ、散らかってても、あなたにとっては宝でしょう?」


 書斎に入った五分後、大聖と霧絵は早瀬警部の話を聞いていた。


「――と、いうわけです」

「それじゃ、本当に事故として処理されるんですね」


 霧絵が確認するように早瀬警部に尋ねた。


「はい。殺人という証拠がない以上、なんとも……」

「転落事故では、たとえ先に打撲による殺傷があったとしても、転落時に頭を強く強打した事となれば、どうする事も出来ません」


 警官二人の話を聞き、霧絵は落胆する。


「すみません。何も出来なくて……」


 早瀬警部は霧絵に深々と頭を下げる。


「早瀬警部が謝る事はないだろう? 犯人はそうなることを想定して遣ったことには変わりないんだ。ただ窓ガラスを何で態々割ったのか……」


 確かにそこに疑問点が浮かぶ。

 何も態々割らなくても、転落時にガラスは割れる。

 それに転落することを前提にしているのなら、先に打撲死にする事もない。

 一人でも生きて帰さないということだろうか?


「カーテンを閉めるためではないでしょうね。眩しければ乗客自身が閉めるでしょうし、犯人が中に入っていれば、自分を隠す為に閉めるでしょうから」

「犯人は計画犯か、はたまた狂人か……」

「運転手が癲癇を患っていたというのは……」


 そう若い警官に言われ、大聖と霧絵は首を横に振った。


「それはないと思います。たとえ癲癇であっても、それは先天性か後天性かの違いですし、バス会社に話を訊いたところ、運転手は三十代で、先天性癲癇の疑いはなかったそうです」


 つまり癲癇の症状である痙攣や引き攣り等の発作はなかったという事になる。


「薬物の疑いは……」

「それが血液検査をしたところ、疑いは全くなし。彼の周りにそういう人がいたという話もありませんでした」

「つまり癲癇による発作でもなければ、薬による幻覚、幻聴の疑いもないって事になるな。となるとだ……普通バスにはバスジャックが入ってきた時に、ハザードで外の人に知らせるはずだ。それもなかったのか?」


 大聖がそう尋ねるが、早瀬警部はうーむと云った感じに頭を掻いた。


「そういうのもあったかもしれませんが…… バスハイジャック時のハザード点滅を他の運転手が知らない以上、意味はないでしょうな」

「確かに、普通の運行バスやタクシーみたいに、明白あからさまにわかるものが観光バスにあるとは思えませんし……」

「もしくは運転手も殺されていた。仮に犯人が大型免許。それこそバスが運転できるほどの免許を持っていることを前提に説明するけど、犯人は運転手を殺した後、身を隠すために制服を羽織った。そうすればハザードランプなんて点けないだろう……」


 大聖の説明に霧絵が少しばかり違和感を訴える。


「それじゃ、犯人は特定出来るんじゃ? 世の中には自分と似ている人が三人くらいいるとはよく云いますけど……。でも、そんな事したら……」

「警部…… 乗客は全員“顔の判別は出来た”のか?」


 大聖がそう云うと早瀬警部は頭を垂れた。


「いえ、身元証明は、各自が持っていた財布から免許書や保険証を、旅館が控えていたものと照らし合わせて発表しています。若し全員が身元確認が出来るものをもっていなかったら……」


 大聖と霧絵は早瀬警部の云いたいことがわかった気がする。


「全員顔が判らないという事ですか?」霧


 絵が再度確認するように問う。


「はい。全員顔がグチャグチャにつぶれていて、顔の判別が出来ませんでした。運転席に座っていた仏さんは鼻から額までが潰れていて判別出来ませんでした」


 その説明を想像したのか、霧絵は手を口元に添え、眩暈を起こしそうになった。

 早瀬警部は一服しようと思ったが、それを大聖が止めた。

 エアコンもあるので換気が出来る。が、部屋の中は大聖が集めた歴史資料で覆い尽くされており、こんなところで煙草を吸ったら大火事と云うのは目に見えている。

 愛煙家である大聖も、この部屋ではパイポしか吸わないし、霧絵が一緒では煙草はもとより吸えない。


「転落時に頭が割れるとは考え難いな……。発見時のバスの状態はどうだったんだ?」

「至って普通でしたよ……」

「普通とは?」


早瀬警部の言葉に霧絵が聞き返す。


「其の儘の意味です。まるで川岸まで走らせたような感じですよ」

「いや、それじゃ可笑しいだろう? 転落って事は、バスは転覆してるって事になるだろう?」


 大聖がそう云うが、早瀬警部は岐阜検定の鑑識課から聞いた話を説明する。


「猛スピードでガードレールを突き破り、崖に当たることなく落ちる事も可能でしょうな。その証拠に周りにブレーキ痕はありませんでしたし、バスのフロントには大きな凹みが見つかりました。道路にはスリップするような場所もなかったそうです。そもそも岐阜県では過去に起きた大惨事を経験しておりますから、転落事故に関しては、他の都道府県以上に警戒してますからね」


 それを聞いて、どうして捜査を打ち切りにしたのだろう。そう問うが早瀬警部も管轄外のこととなると、途端に弱腰になる。


「警察ってのは、役にたつ時にはたつが、たたない時はほんと何の役にもたたないな。他の警官は何か云ったのか?」

「いえ、知り合いに聞いたら、どうやら極秘で捜査するという噂がたってるんですよ」

「極秘で? はたから見たら転落事故なのにですか?」

「極秘って事は殺人で、しかも犯人は一般人じゃないって事になるな? 警察関係か、議員か…… はたまた大企業か…… 三十六年前と同じって事か?」


 大聖がそう訊ねたが、早瀬警部は何も答えなかった。

 極秘調査となると、その事件の大きさは途端に大きくなる。

 だからこそ、この事故を警察側は殺人と判断したということになる。


「ただの転落事故をよそおった殺人とはいきませんな」

「警部……、乗客の殆どがこちらに籍を置いています。岐阜県警との合同捜査は出来ないんですか?」


 霧絵がそう云うが、早瀬警部は首を小さく横に振った。


「したくても、むこうから調査の協力要請を云ってこない以上、こちらからは口出しも出来ませんよ。鑑識の知り合いでも、捜査には関わったのは転落したバスを調べた時以外は疎外されてたそうですしね。私からの報告は以上です。すみません何の役にも立てなくて……」


 早瀬警部は深々と頭を下げ、大聖と霧絵に謝った。


「気にするな……。警察がどうとかじゃねぇよ。早瀬警部は自分の階級が調べられる以上のことを調べてくれたんだ。若しばれたりなんかしたら首が飛ぶかもしれない。それでも遣ってくれたことに俺は感謝するよ」


 大聖も深々と頭を下げる。霧絵も並んで頭を下げた。

 廊下に出ると、大聖が今日は泊まっていくといいと早瀬警部ら二人に話したが、それを早瀬警部は断った。

 日はすっかり落ち、街灯はないこの榊山での夜道は危険だろうと判断しての申し出だったのだが、早瀬警部は少し考えたい事があるといい、帰っていった。


「二人には申し訳ないことをしましたね」


 車中、助手席に座っている早瀬警部が呟く。


「でも報告はしたんです。私たちに出来るのはそれくらい」

「事故のあった先日、自殺が起きたのを聞いてますか?」

「ええ。確かアパートで中年くらいの男性が首吊り自殺した事件でしたよね?」


 車の窓を少し開け、早瀬警部は屋敷で吸えなかった煙草を吹かす。


「自殺した男性は……耶麻神旅館の社員なんですよ。しかも役員」


 連れの若い警官はその言葉に驚き、ブレーキを踏んだ。


「気を付けて下さいよ。まだ山中なんですから」

「け、警部が驚かすようなことを言うからですよ。でも、何でその事をお二人に報告しなかったんですか?」

「知ったのは屋敷にくる前ですし、もし大聖くんがその事を知っていたら、私に訊いてくるでしょ?」


 確かに……と若い警官は頷いた。

 訊いてこないということは、知らなかったという事になる。


「しかもその事件もただの自殺と云うわけにはいかなそうですな」

「どういう事ですか?」

「自殺だったら、自殺としてその原因を調べるんですが、どうもその事件も極秘捜査になってるんです」

「また極秘ですか? 転落事故といい、自殺といい…… あの耶麻神と云う家は何なんですか?」


 若い警官の云いたい事はわかる。どちらも極秘に捜査するとは思えない。


「耶麻神だからですよ。ここらへん一帯を牛耳っている耶麻神だから、誰も口が出せない」

「でも霧絵さんは優しそうな人でしたよ。そんな人がここら一体を牛耳ってるとは……」

「霧絵さんは関係ないですよ。牛耳っているのはその祖父耶麻神乱世。二十二年前に病で死んだそうですが、耶麻神の名は途切れてませんからなぁ……」


 車は再び、真っ暗な山中をライトを照らしながら走り出した。


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