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84/165

丗伍


 事件から一週間後…… 長野県警刑事課捜査本部……


「おい? 早瀬警部、植木警視と連絡は取れたか?」

「いえ、取れません。それに耶麻神邸は先日の土砂崩れで入ることが」

「裏から入ればよかろう!」

「ですが、あそこはあの道以外、人が通れるような道は……」

「獣道を使えばいいだろう? 何年警察遣ってんだ? 足を使え足を!」


 慌しい中、静かに男が部屋に入った。

 その男が部屋にいるのに気付くや、全員が敬礼をする。


「何の騒ぎだ?」

「これは県警長殿。実は早瀬警部と植木警視。ならびに耶麻神邸の関係者と連絡が取れず…… もしかすると何かしら事件があったかと思われます」


 初老の男がそう云うと……男はわらった。


「早瀬警部なら此処にいる」


 男が少し身体を横にずらすと、隙間から衰弱した姿の男が出てきた。それがあの早瀬警部だと…… 誰が想像出来るだろうか?


「それとな? こんな手紙を持っていた。切り抜きとコピーみたいでなぁ……」


 冷静に、単純に言葉を言う。


「それでは…… 私は失礼するよ」


 そういって、県警長は早瀬警部を残し、部屋を出て行った。

 突然のことで、部屋にいる全員が固まっていたが、一息吐き出し、


「早瀬警部? 御無事でしたか?」


 如月巡査が早瀬警部に声をかける。


「あ、あああ、ああああああ」


 口はワナワナと震え、何を云っているのかわからない。


「おい? 手紙は? 手紙をよこせ!」


 そう云われ、如月巡査は落ちている手紙を手に取り、催促する警官に渡した。


「なんだよ? これ?」


 手紙を読んでいた警官はそう云って、赤紙を床に捨てる。如月巡査はそれを拾い上げ、読み上げる。


 ――――――――――――――――――――――――――――


 一人逃してしまった…… だけど…… 逃してはいない……


 ――――――――――――――――――――――――――――


 たったそれだけの一文。後は何も書かれていない。


「なんだよ? それ?」

「一人逃してしまった…… 犯人は早瀬警部を殺そうとした? でも逃してはいないって……」


 如月巡査がそう云った時だった。


「あがあああああぁあがああああがああああ……」


 突然横にいた。早瀬警部が発狂し、辺り構わずに暴れだす。


「くっ! 早瀬警部を取り押さえろ!」

「落ち着いてください!」

「ぐぁかあああああがあああぁあああがああああ……」

「くそっ! さすが早瀬警部だ! 力がつえぇ……」

「おいおい? 本当に定年迎える人の力か?」

「悠長な事云ってる暇があったら、押さえろ……」


 多くの警官が早瀬警部を取り押さえる。

 その時だった。余りにも静かな静寂が来たのは……


「……早瀬警部?」


 一人…… また一人が…… 早瀬警部から離れていく。

 最後の一人が離れた時、それはわかった。


「うわああああああああああああああああああああああ……」


 誰が叫んだのかわからない。ただそれは突然だったから。


「なんだよ? これ?」

「口の中が血だらけじゃないか?」


 早瀬警部の口はグチャグチャで、歯がなく、血だけが残っていた。

 ――その後、土砂崩れは解除され、警官一同は耶麻神低へと行ったが、例により……何一つ見つけることは出来なかった。


 唯一つわかった事はこの屋敷で殺人が起きた事。

 それは壁にある無数の銃痕が残っていたから……

 だけど、誰が殺されたのか、それがわからなかった。


 鹿威しが鳴り響く。


 【金鹿の住みし箱庭 第三話】-了-


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