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丗弐【8月12日・午後6時20分】


 テレビの横で秋音が寝ている。衰弱したその表情を見ていると、このまま何事もなく、外の誰かが助けに来てくれるのを願うが……


「植木警視? 確かあの土砂崩れから攀じ登ってきたんですよね? それじゃ、そこに誰かがいるって事じゃ?」

「はい。私が戻ってこない場合は……」

「舞ちゃん、こう云うのもなんですが、霧絵さんがいない今は無線や携帯は使えるんじゃないですか? それで連絡を取るというのは?」


 早瀬警部がそう云うと、植木警視はズボンのポケットからトランシーバーのようなものを取り出し、つまみを回した。


「あ~、あ~、こちら植木……こちら植木……応答願います」


 向こうからの応答を待っているが、一向に返事が無い。


「こちら…… 聞こえますか? …………」


 何度も、何度も呼びかけるが、一向に返事が無かった。


「繋がりませんか?」

「可笑しいですね。それにもし帰りが遅くなっていたら、連絡するようにと云っていますし……」


 そう云いながら、植木警視は何か思い出したように「そうだ。早瀬警部が調べていた四十年前の事件ですが……」

「何かわかったんですか?」

「いえ、政治家一家の方は何も……ただ、鹿狩りの報告書で奇妙なことが」


 それを聞いて、私はギョッとする。


「それで?」

「虫食いのようなものが、恐らく知られたくないことでも書いてあったのでしょう。管理をしていた大牟田警視が見た事無いといってましたから」


 植木警視はそう云うと、何の反応も示さないトランシーバーをポケットに閉まった。

 正樹はずっと壁に凭れている。


「――正樹?」


 私はそっと近付き声を掛けた。


「鹿波さん、もし犯人が耶麻神家に怨みがあるのか、それとも金鹿之神子に怨みがあるのか…… もしくはその両方なのか……」

「何が云いたいの?」

「昨夜、霧絵さんが云ってましたよね? 鹿狩りと騙って、鹿波さんの大切な人たちを殺したのを命じたのは、霧絵さんのおじいさんだって」

「ええ、そう云っていたわ……」


 私はそのことに関して、もはや恨みを晴らす人間がこの世にいないことがわかっているので、そっけない態度でしかいえなかった。


「鹿波さんが前々からその事を知っていて、殺人を犯したとしても、既に鹿波さんは死んでいる。今回の殺人が鹿波さんのしたことではないという事はみんな知っています」

「どうして、私が死んでいる……なんて云えるの?」

「秋音ちゃんと一緒に水深中に行った時、校長が鹿波さんを見てまるで死んだ人があたかも生きていて、目の前にいると云った感じだったじゃないですか? それにあの時、鹿波さんは自分でその本人だといった。家族ではなく自分だと……」


 それを聞いて、私は取り返しのつかない事をしたと考えてしまった。


「だけど、鹿波さんは霧絵さん達を怨んでなんかいないんですよね?」

「当たり前でしょ? たとえ私が残酷な殺人術を知っていても、それは誰を怨んでいるかの度合いで決まる。それに、あの力は逃げられないくらいの、深い深い海の底まで引き降ろされるほどの憎悪がないと力を発揮しない……強いて云えば、まず殺す相手を知っていなければいけない……」


 私はそう自分で説明すると、正樹が何が云いたいのか、断片的だけど理解した。


「仮にやつらの中に、私や霧絵達のような代々続く遺伝的なものなのか……もしくは貴方のように角膜移植によって力を得たのか…… その両極端であると云いたい訳?」


 そう云うと、正樹は俯きながら、「そのどちらかにしろ、犯人は殺したいほど霧絵さん達を怨んでいた…… それならそれで理由になるんです」

 正樹が何を云いたいのか、少しも理解出来ない。


「でも、殺すなら綺麗に殺してやれないんですか? 眼を盗むのが目的なら、それでいいじゃないですか? 何も顔まであんな事しなくても…… 春那さんだってそうだ…… あんな殺され方をして、あれじゃまるで繭さんの時と同じだ……」


 正樹は二度目の舞台で、部屋の押し出しに入れられた、三つ折りの布団に紛れ込んだ繭の事を云っているのだろうか……


「ごめんなさい…………」


 それしか出てこなかった……元はといえば、私が原因なんだ……

 私が麓の人間を殺さなければ……そうすれば私と同じ皆殺しの力を持った霧絵たちが殺されずに済んだんだ……

 だけど違和感がある。

 それが私から遺伝しているわけではないという事。

 だって、私はあいつ以外を異性として好きになった事はない。

 だからこそ、私以外の誰かが力を持っていて、それが……


 霧絵たちの母親が持ったものだとしたら?

 それなら、私じゃなくても力は遺伝する。

 それに、正樹に角膜提供をしたのは霧絵の姉だと云っていた。

 もし正樹の云う通り、犯人の中にその力があるとしたら……

 結局、私が原因じゃない……勘違いで怨み殺して、それがずっと続いている…… 多分一生終わらない泥沼……


「どうして、鹿波さんが謝るんですか?」

「だって、結局私が原因じゃない? 私が麓の人間を殺さなかったら、こんなことにならなかったんじゃない?」

「でも、もし集落の人のうち、誰かが生きていて、麓の人間を怨んで殺人を犯していたかもしれない」

「でも! 一緒じゃない! 一緒じゃないの!」

「違いますよ! たとえ遺伝なものだったとしても、鹿波さんが願った事じゃないでしょ?」

「でも! あの時、殺したいと思った! 殺したいと思った! 盲になるくらい! 何も見えなかった! 目の前で死んだ家族同然の人たちが殺されて! 殺したやつを目の前にして、冷静になれるほど、私は人間が出来てない!」


 私は興奮して叫んでいることを忘れ、云いたいことをぶちまけた。


「でもね? ずっとあの子達を見てきたのは確かよ…… 前に云ったでしょ? あの子達は変わったって…… その原因は貴方なのよ。貴方ほど記憶を断片的に継承している訳じゃない。それなのに前に体験したことを覚えている。それがまず有り得ないこと――」


 そう云いながら、私は秋音を見た。


「それがあったからこそ、秋音は今こうして私達と一緒にいる。もし秋音が大川って教師のことを話さなかったら、最初に殺されていたのは秋音だったかもしれないから……」


 ゆっくりと秋音のところまで歩く。


「霧絵にこの屋敷は何時建てられたものなのか、訊いた事があったわよね? それは私が生きていた頃、こんな屋敷は無かったから…… 恐らくあの事件以降に建てられたものだったと考えれば……」


 途端、目の前が暗くなる。

 膝を落とし、まるで糸の切れた操り人形のように、だらりと腕は下に垂れた。

 目はどこを見ているんだろう? 天井……? 天井を見てる?


「鹿波さん? どうしました?」


 横から植木警視の声が聞こえる。

 だけどそれが遠くから聞こえていて、実際は煩いほどなのだろうけど、私には小さな音にしか聞こえない。


 動きなさいよ! まだ秋音が生きてるでしょ? まだ生きてるでしょ? まだ誰も諦めてないでしょ?

 なんなのよ! なんなの! 邪魔しないで! これは私とやつらの勝負なの……

 諦めた方が負けという単純な勝負じゃない? こっちはまだ諦めて……


 そう云う事? 二度目の途中で正樹が諦めたように?

 今の私がそうだって云いたい訳?

 冗談じゃない! 諦めてたまるもんですか? 犯人の顔を拝まない限りは私は絶対に消えない。

 だから! さっさと新しい糸で結びなさいよ! 私を操っているのなら! もっと頑丈な糸で繋げなさいよ! 私はね……


 金鹿之神子であると同時に家内安全の神でもあるんだからね!

 今から誓うわ。私はこの屋敷の主、耶麻神大聖――いや、太田大聖が建てた小さな祠に祭られた神!

 それにね? 私は神子! かんなぎじゃない! 神の子という意味の“神子”なのだから! だからさっさと糸を繋ぎなおすか、私を動かしなさいよぉっ!!

 そう声にもならない叫びが届いたのかどうかは別として、ゆっくりと私は俯いた。


「鹿波さん? 鹿波さん?」


 るっさいなぁ? でも煩いということは、戻ってきたということ……

 まだこの舞台の袖に引っ込まないで済んだという事。


「正樹…… 早瀬警部…… 植木警視…… 秋音……」


 私は静かに生き残った人間の名前を言った。


「私は金鹿之神子…… 名は鹿波巴…… 先代の神子である、鹿波怜の孫…… 私の身体は精留の滝深くに沈み、誰にも見つかることも見つけることも出来ない暗闇にいる……」

「鹿波さん? いったい何を?」


 植木警視が狼狽するが、早瀬警部が「静かに」

 と云って黙らせた。


「だからこそ、今貴方達に伝えます。私はたとえこの子達に憎悪を持っていても、決して殺しはしない!」


 そう云うと、私は頭を垂れた。

 それと同時に植木警視が肩に触れた。


「鹿波さん? 貴方は今、清流の滝に身を沈めているといいましたね? でも、四十年前のあの日、辺りを隈なく捜索した結果、貴方のような少女を見つける事は出来なかった」

「見つける事が出来なかったのではなく、探す事が出来なかった。何故なら今回と同様、警察が関与している可能性があったから……」

「確かに、それを考えると、あの資料室で見つけた虫食いも納得がいきますね。まるで戦後の教科書みたいな……」


 おばあちゃんから聞いた話だけど、戦後日本の持っている神国思想、軍国思想などをなかった事にする為、教科書に書かれていたそれらを墨で塗りつぶしていたと聞かされた。

 おばあちゃんも私もこの集落から出て行っていないし、そもそも教科書事態を見たことがない。

 まぁ読み書き云々は千智おねえちゃんに教えてもらっていたけど。


「さっき政治家の方は見つからないで、私のした事に関しては見つかったといいましたね?」


 それを聞いて、植木警視は信じられないような顔をする。

 何故ならその死んでいるはずの関係者が目の前にいるのだから……


「それならその時の事を話します」


 そう云うと、私は今まであったことを話した。

 あの日、早瀬文之助が政治家惨殺事件の事で、おばあちゃんに話を訊きに来た事。

 もちろん政治家の事なんで知らなかったおばあちゃんが、その人を殺したいほど怨むということは有り得ないし、白内障しらそこひに掛かっていた。だから力によって殺す事は出来ない。

 そして、麓の人間達がそのことで鹿狩りを行い、私たちを殺そうとしたこと。そして私は逃げられない憎悪に犯され、麓の人間達を殺した後、精留の滝に落ちた……


 そこまで話すと、早瀬警部と植木警視は信じられないような、訝しげな表情を浮かべた。

 そりゃ、こんな滑稽な話、信じろって云う方が可笑しい。

 私だって、こうやってここにいる事自体が信じられないんだから……


「信じられませんね? 水深中の校長先生が貴女のことをお願いしますと云っていましたが」

「千智おねえちゃんはずっと私を見捨てた事を後悔していると話してくれました。でも、私は本当の事を知って、内心ほっとしているんです」

「ほう? それはどうして」

「私にとって集落の人たちは家族同然ですから、もし悪意を持って私を捨てたのなら、私は多少なりとも殺意を持っていたかもしれません。でも信じていたからこそ、本当の事を聞いてほっとしているんです」


 そう静かに話すと、今度は植木警視が問い質してきた。


「それでは、あの日この山で惨殺をしたのが貴女なら、どうやって殺したんですか? もし出来るとしたら、どうやって? 非科学的なものは立証すら出来ませんよ?」


 確かに私だって、それをどうやってしたのか……

 全員を殺した後、鍬で顔面を耕したとすれば、それなら無理矢理とはいえ無理ではないから説明が出来る。

 だけど、まるで旋風風つむじかぜに切り刻まれたような、たとえるならかまいたちに殺されたような痕だった。

 今回の惨殺にしても同じ事が言える。

 でも二度目に殺された時の繭や、今回の春那の様にいき過ぎた殺され方はなかった。


 もしかすると、いや、私の考えと同様、殺した後、顔面をグチャグチャにして、残酷にも間接を折った……と考えても不思議ではない。

 そんな推理を考えていくと、ますます自分の忌々しい能力が嫌になる。

 でも考えてみたら私の能力は、人間そのものだと考える事も出来る。


 殺人は殺意がなければ殺人ではない。

 殺意のない殺人なんて、ただの気違いじゃない?

 通り縋りの名前も何も知らない人間を殺すのは、殺意があるとか、ないとか、そんな奇麗事で済まされないじゃない?


 私のした事は間違ってるし、麓の人間が遣ったことだって間違ってる。

 そもそもこの山の鹿は神の使いと云われ、私の生きていた頃はとても崇められていた。

 それを麓の人間達は殺そうといて、そして私の大切な人たちを殺した。

 それが理由で私が麓の人間を殺したら? それなら理由のある殺人。

 だけど、それが政治家一家の惨殺事件と結びつけるのは、どう足掻いても無理に近い。

 何故なら何回も云うように、私もお婆様も、ましてや集落の人たち全員が隔離されていたから……

 誰が国のお偉いさんなのか、そんなの教えてもらっていないし、気にすることすらなかった。


「…………あれ?」


 さっき、私が消えかけていたのは、私に原因がないのなら、正樹がまた……諦めようとした?


「正樹? あんた……」


 ゆっくりと振り返り、正樹を見てみると……

 正樹の目は赫々に染まり、口元は強張って、形相は引き攣っていた。


「何が…… 何が神だよ……」


 小さくその声が聞こえた……


「何が神だよ! 何も出来ないくせに! 何も守れないくせに!」


 怒号をあげ、正樹が私の首元を締めかけた。


「まっ…… さっぁ…… きぃ……」


 ギリギリと首が絞まり、思ったように声が出ない。

 それにし掛かってきていて、上半身の身動きが取れないでいた。


「なんなんだよ? 畜生っ! あんたが人を殺さなければ! みんな苦しまなかったんじゃないのか? あんたがその力を持っていなければぁっ! あんたが殺されていれば! みんな幸せだったんじゃないのか?」


 正樹が云いたい事はわかる。でも……「ま…… まさ…… きぃ…… あんた…… 間違…… って…… る…… わよ?」

 そう呻き声を挙げると、私は自由に動かせた膝で正樹の横っ腹を蹴り付けた。


「がぁは……?」


 蹴った衝撃からか、正樹は吐血をし、崩れるように私の横に倒れた。


「げぇ…… げぇ…… はぁ…… がぁ……」


 胃液を吐き出し、すっぱい臭いがする。

 早瀬警部と梅木警視は中腰になって、いつでも正樹を抑えられるように臨戦態勢に入っており、秋音もさっきの怒号で起きたのか、ぼんやりとした眼で、こっちを見ていた。まだ状況が把握できていないようだった。


 さっきの一蹴いっしゅうで、正樹は気を取り戻したのか、憎悪に満ちていた目の色も徐々に落ち着きを取り戻していた。


「正樹、たしかにね、私は何も出来なかった。今だって凄い後悔してる……どうして皆を八月十一日から十三日の間に屋敷の外に出さなかったんだろうって…… でもね? それじゃ意味がないの…… 屋敷の中に私たちがいた状態で! 犯人を捕まえないと…… ずっとこの凄惨な舞台は続いていく。何回も…… 何回も…… 犯人にとっては何時でも殺せるんだから……」


 私は正樹にそう云うと、早瀬警部を見つめながら「早瀬警部、秋音を連れて……」

 そう云い掛けたが止めた。

 もし犯人が植木警視の連れてきた警官達を帰していたとしたら?


「どうしましたかな?」


 早瀬警部が私に聞き返してきた。


「いえ…… 秋音を連れて土砂崩れのところまで連れて行けば、もしかしたら警察がいたかもと……」


 でもさっき、梅木警視がトランシーバーで連絡を取っていたけど、反応がなかった。

 早瀬警部も連絡が取れない事で、私の考えは簡単に却下されると思った。


「獣道は?」

「それも考えたけど、昨日大雨だったでしょ? 一日経っているとはいえ、泥濘で歩けないわよ?」

「それでは滝の方は?」

「早瀬警部と一緒に帰ってきたあんたの後を犯人がつけていなかったっていう保障がある? もし滝の方に逃げることが出来ても、殺されるか、溺れ殺されるわよ……」


 逃げる可能性があるのなら、そうしたい。


「私は…… ハナと一緒に…… もし、ハナが生きていてくれているなら…… ハナと一緒に助かりたいです!」


 秋音にそう云われ、私はそうであって欲しいと強く願う。

 でも生きている可能性が……


 ガリガリと……ドアを引っ掻く音が聞こえる。

 気のせいかと思って……気にも留めなかったが、その音は確かに聞こえていて、全員が厨の方を見ていた。


「……ハナ?」


 秋音がそう云うと……立ち上がり、ふらふらと壁に身を貸して、厨へと重たい足を引き摺らせていた。


「秋音ちゃん? 待って!」


 正樹が立ち上がり、秋音の肩を掴む。


「如何して止めるんですか? ハナかもしれないんですよ?」

「ハナかもしれない? でもハナだけじゃないかもしれない!」

「わかってます! でも、それでも助けないと……」

「だから、秋音ちゃんはここにいて…… 僕が見にいってくるから…… 絶対音を立ててあげるから…… その音を聞いたら…… 皆さんは他の部屋に…… あの開かずの間だった部屋に……」


 そう正樹が言うと、秋音は……「わかりました。でも……帰ってきてください…… もう瀬川さんに逢えなくなるのは……」


 途中で言葉を止め、信じられないような表情を浮かべる。


「あれ? なんで? 私瀬川さんに初めて逢ったのは、一昨日なのに…… ずっと前から知ってる……」

「早瀬警部…… 早く秋音ちゃんを……」


 正樹は私たちに聞こえる程度の小さな声で早瀬警部に言った。


「わかりました。ささ…… 秋音さん……」


 早瀬警部は秋音に肩を貸し、部屋を出た。

 でもそれもやはり危険な賭けだった。


「どうしてあそこを? あそこはもう開けられているって事がばれてるのよ?」

「旦那様があそこはずっと閉めていた理由って、彼女達の出生理由を知らせない為だった……」


 正樹が言いたいことがわからない。


「あの写真の中に僕の親父が写ってました……」

「……え?」

「だから彼女達のうち、誰かが僕の妹と云う事になります。でも親父がそんな事をしていたなんて知りませんでした」


 正樹はそう云うと、ゆっくりと歩き、暖簾の下で止まると……


「二人は先ほど言った場所に隠れてください。大丈夫…… 秋音ちゃんの持っている誕生石サファイアは願い事を強く思えば支えてくれますから…… これでも宝石店でレジのバイトしてましたから…… 知識くらいは持ってますよ」

「今はそんなの関係……」


 正樹が云いたい事がわかった。強く願えば……


「絶対帰ってきなさいよ! 前みたいに殺されないでよ!」


 そう檄を飛ばすと、正樹は静かに頷いた。

 正樹を残し、植木警視と廊下に出ると、早瀬警部と秋音が廊下で待っていた。


「さっ、私たちは彼を信じましょう…… そしてこれだけは誓いましょう…… 私たちはたとえ殺されても…… 彼を…… 瀬川正樹を決して怨まない!と」


 早瀬警部が静かに云う。

 私は頷き、秋音と植木警視も頷いた。


 そして、部屋へと入ろうとした瞬間、鹿威しが鳴る音が聞こえたけど……

 それがどうして聞こえるのがはっきりした……


 危険を教えていたんだ……誰かが死ぬことを……

 でもね…… その音もこれが最後だと思うわよ?

 もしまたここに来れたら…… その時は鳴る前に助けるから……


 それに答えるように…… 鹿威しが鳴った。


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