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陸【8月10日・午後10時20分】


「そうですか…… 明日、秋音の学校に……」


 霧絵が窓から見える月を眺めながら言った。


「はい。後は警察事になるのだけは覚悟していて下さい」

「鹿波さん? もし秋音が言っている事が本当なら、大川先生がしていることを耶麻神旅館の関係者がしている事になるのでしょうか?」


 霧絵が訊きたいのは、顧問の先生がしているかもしれない不正な取り引きが、会社で起きている事件と関係があるのかと言う事だろう。


「関係はあるかもしれません。しかし、旦那様が私に調べて欲しい事は……」


 私はその先がどうしても言えなかった。

 全員が殺される。その犯人を見付けてほしい。否、尤もそんな事は既遂(きすい)のようにわかり切っている。

 だからこそ! それが理解出来ない。あんな凄惨な事が【私以外】に出来るのか? それを調べる為に、私は屋敷に来ている。


「秋音の事を頼みました」


 霧絵が私を見ながらそう告げた。

 私は答えるように頷いた。


 自室に戻ろうとしていた時だった。


「おや、鹿波さん?」


 突然、うしろから声を掛けられ、私は躰を窄めた。


「あっ、なっ! 渡部さん? 急に驚かさないで下さい!!」

「はははっ! いやいや、すみませんなぁ?」


 渡部は余程面白かったのだろう。先刻から含み笑いを浮かべている。


「明日も早いですからね? 早くお休みになった方がいいですよ?」


 渡部の手には懐中電灯があり、その仄かな光が私の足元を照らしていた。


「見回りご苦労様です。けど、こんなところに強盗なんて入るんですか? 周りは塀で囲まれていて、ドーベルマンが番犬をしている屋敷に、それに見たところ金目の物なんてない気がしますけど?」

「はははっ! あるところにはあるんですよ?」


 そういうや、そのまま渡部は振り返り、去って行った。

 その後姿を見ながら、私はある音に気付き、咄嗟に窓から外を眺めた。

 さっきまで霧絵が自室で夜空に昇っていた月を見ていた。

 だから、そんなに早く降るとは……


 その時、私はある事を思い出した。

 確か、同じ位の時間に正樹が窓を開けていたはずだ。

 そう考えると、私は正樹の部屋の襖を叩いていた。


「瀬川さん? 起きてらっしゃいますか?」


 襖を一、二度叩くと、スーッと襖が開いた。


「どうしたんですか? 鹿波さん」


 あの時と同様、正樹は部屋の窓を開け、瀧の方を見ていた。

 私が襖を開けたのに気付くと、こちらを見る。


「あ、いや? さっき外を覗き込んだら、部屋の窓が開いてましたから…… 閉めないと雨が入り込みますよ?」


 私の言葉で気付いたのか、正樹は慌てて部屋の窓を閉めた。


「うわっ! 雨が入り込んで」


 そう言うと正樹は急いで窓を閉めた。

 気付くのに遅れてしまったせいで畳に雨水が染み込んでいく。

 正樹は咄嗟にスポーツバックを開け、タオルを出すと、窓下の濡れた畳の上に乗せた。

 途端、雨が振り出し、土砂降りになった。


「うわぁっ! 凄い……」


 正樹は窓硝子に叩かれる強い雨に驚いていたが、私が驚いているのはそれにたいしてじゃない。


「は、早すぎる……」


 心で言った筈が口に出たのだろう、正樹が私を不思議そうに見ていた。


「えっと? 予報じゃ何時降るとか言ってたんですか?」

「えっ? あ、はい。明日の午後くらいに降るとか言ってましたけど?」


 そうだ。今までだって、十一日の午後に雨が降りはじめていた。

 だから、こんなに早く降るとは思っていなかった。

 途端、悪寒を感じた。それに答えるように、あの音が聞こえた。


 鹿威しの鳴る音が……


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