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廿弐【8月9日】


 岐阜県美濃市。耶麻神大聖はこの美濃の山奥に住んでいる知り合いの刀鍛冶の処に来ていた。

 部屋の温度は外の暑さなど涼しいものだと言わんばかりに熱気が込められていた。

 カンカンと鍛冶場特有の響きがこだましていた。

 何度も叩き、刀を鍛えていく。この行為から「鉄は熱いうちに打て」という言葉があるほどだ。


 水の溜まった桶の中に真っ赤に染まった鉄を入れると、その熱で水は沸騰し、蒸気が生じた。

 研ぎ石を使っていくと、刀は綺麗な刃筋を露にしていった。


「うん、これでどうじゃ? 大聖?」

「んっ? ああ、終わったのか? じいさん」

 大聖はこの熱さの中、暇だったものだから壁に寄り掛かって昼寝をしていた。

「ったく、いきなり来て“刀を磨ぎ直してくれ”なんぞ言いおって? 大体わしはもう歳じゃぞ? もっと老人を労らんか? ほれ、これでどうじゃ?」

 老人は小刀を大聖に見せた。

「うん、やっぱりじいさんに頼んだのが正解だな」

「当たり前じゃ? まったく、久し振りじゃぞ? まぁ楽しいからいいがな? しかし、どうしたんじゃ? 突然こんな事を頼んで」

 老人は不思議そうに大聖に訊いた。


「ああ、娘達にはきちんと言おうと思ったんだけどな? 俺にもしもの事があったら、屋敷を頼むって」

「どういう事じゃ? 確か耶麻神グループが」

「多分信用出来ないからかもしれない。もちろん、全員がって訳じゃねぇけど、澪くんに繭くんは信頼出来る。後一人、どうしても信用出来そうにない奴がいるんだ。多分、耶麻神グループの相次ぐ不祥事は奴がしている可能性が有る」

「それを警察には言わんのか?」

「早瀬警部には話した。彼は昔からの腐れ縁だし、何より警官として信頼出来るからな。それに、耶麻神グループは元々民宿だったのが大きくなっただけだ。俺達夫婦はそれを望んでなんかいなかった」

 スッと立ち上がり、大聖が小屋を出ようと戸を開けた時だった。

 銃声が響き、木の枝で休んでいた鳥達が羽ばたく。


「――――くっ?」

 ボタボタとお腹から流れていく血の音が、大聖の耳にこだましていく。

「た、大聖? 大丈夫か?」

 老人が大聖の元に走りよった刹那、二度、三度と銃声が響いた。

「くっ、くそっ…… お前達は」

 大聖が言おうとした時だった。自分の額に重い拳銃が突き付けられて、

「それじゃ? さようなら…… せ・ん・ぱ・い」

 鈍い音が大聖の耳の中でこだました。


「よし! お前達!! 麓に帰って、あの方に連絡だ!!」

「で、でもよぉっ? 俺達バレねぇだろうな?」

「なぁぁに、あの方がうまく捲くし立ててくれるさ」

 一人の男がケラケラと高笑いをしている。



 誰かが大聖を見ていた。

「き、君は? そうか…… 君が、君が金鹿之神子なのか?」

 そう大聖が問うと、少女は無言で頷いた。

「ふふふっ。そうか、やっぱり思った通りだ。君はこの時代をどう思う? 君が見て来た人間の汚いところなんて(いや)な程見て来ただろうな? でも、もし俺の願いを聞いてくれるなら…… 頼む!! 春那をっ! 深夏をっ! 秋音をっ! 冬歌を助けてやってくれ!! 頼むっ!! 助けてやってくれ!!」

 意識のない世界で大聖は少女に土下座をする。


「頼む、怖いんだ!! あなたの力を悪用されるのが!! あなたを探そうとしている人間が、娘たちを……大切な家族を殺されるんじゃないかと!! 何もない暗闇を探し続けられるのが」

 肩を震わせながら、大聖は縋りつくように少女に言った。

「頼むっ!! 助けてやってくれ!! そして、君の名を悪用しようとしている真犯人を探し出してくれ!!」

 そう言うと、大聖の姿は砂のように消えていった。


「私だって、私だって、みんなを助けたい……」

 少女は小さく呟くと、大粒の涙を流した。


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