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廿【8月12日・午後8時20分】


 如月巡査の死体を下ろそうとした時だった。

 ズボンのポケットが妙に膨らんでいるのが目に入った。

 遺体を下ろし、床に横たわらせる。そして早瀬警部がポケットの中に手を入れ、中身を取り出した。


「――っ、新聞紙?」

 それはクシャクシャに丸められた新聞紙だった。早瀬警部はそれを破れないように広げていく。

「――っと、昭和53年…… また古い新聞ですね」

 年号が書かれているところにはそう書かれているが、紙は風化しておらず、まるで新品のようにきれいだ。


「五三年って、今から三十年くらい前ですかね?」

 そう僕が訊ねると、早瀬警部は少しばかり考え、そして頷いた。

「でも、どうしてそんな昔の新聞が?」

 犯人に関する何かを示すものなのだろうか……

「三十年前かぁ…… でも、この屋敷に母さんと父さんや会社の人たちがきたのって、姉さんが生まれる三、四年前だって聞いたことあるけど?」

 深夏さんはこの新聞が犯人の犯行動機ではないかと考えているらしい。

「でも、三十年前って――確か何か事件があったって?」

 僕は確認するように、早瀬警部に訊ねた。

「ええ。ちょっとした事件がありましてね」

 どんな事件だったんですか?と僕が訊ねると、早瀬警部は申し訳ないように頭を垂れた。

 その仕草に、僕と深夏さんは首を傾げる。


「いや、その事件に関しての資料が全くないんですよ。四十年前の事件だって、私はその時現場にいたから内容は覚えてますけど……」

「ちょっと待って…… 早瀬警部? さっき四十年前に起きた事件は早瀬警部が現場にいたから内容を覚えていたって…… それってつまり、警察は事件自体を記録として残していないってことじゃないんですか?」

 深夏さんがとんでもないことを言い出す。

「そ、そんなわけ……」と僕は引き攣った笑みを浮かべながら、早瀬警部を見やった。

 早瀬警部の表情は青く、恐ろしいものを見たような感じだった。


「そうだっ! 新聞には何が載ってるの?」

 深夏さんにそう言われ、僕と早瀬警部はハッとし、新聞を見やった。

「テレビ欄みたいですね。――うわ、懐かしいなぁ」

 僕がそう言うや、深夏さんはキョトンとする。

「懐かしいって、私もそうだけど、瀬川さんだってまだ生まれてないんじゃ?」

「違いますよ。僕が懐かしいなっていったのは、再放送で見たことがあるやつだったからで……」

 そう説明すると、深夏さんは納得したようだ。

「でも、テレビとかどうでもいいでしょ? 問題は30年前、この山で何が起きたのか……」

 深夏さんがそう言いながら、言葉を止めた。

「どうかしたんですか?」

 僕は深夏さんの視線の先を見た。


「それが載ってないのよ。榊山のさの字も」

 僕はさっき早瀬警部が云っていた言葉を思い出した。

「載ってないんじゃないんですか? だって、警察が記録を残していないってことは、事件自体を公にしていないってことじゃ?」

「それじゃ、いったい――」

 僕はどうしても、事件記事よりもテレビ欄の方が気になっていた。


「西遊記って、ミスターかくし芸とかって言われてる人が孫悟空やってたんでしたっけ?」

「ええ。それに、あの時は三蔵法師をやってらした女優さんは、同僚の中でもファンが多かったですしね」

「ちょっと、二人とも真面目に……」

 僕と早瀬警部がドラマの内容を思い出しながら話しているのを、深夏さんが止めた。

「でも、どうして西遊記の話なんてしたんですか? ほかにも再放送されてるドラマとかもあるでしょうに?」

 早瀬警部がそう僕に訊ねる。確かにそうなのだけれど、何故かそれが目に写っていた。

「言われてみればそうなんですよね。魔法少女とか、宇宙海賊とか、知ってるやつも載ってたんですけど」

「瀬川さんって、こども向け番組好きなんですね?」

「それってどういう?」

 僕は少しだけ如月巡査に目をやった。


「早瀬警部? 如月巡査の体、ちょっと可笑しくないですか?」

 僕がそう言うや、早瀬警部も如月巡査を見る。

「どこがですか?」

「指のところ…… ちょっとへんな感じじゃないですか?」

 僕は如月巡査の中指を指さした。


 如月巡査の中指には、なにかノミのようなもので削られた痕があった。

「なんでしょうかね? この傷……」

 僕がそう訊ねるが、早瀬警部はわからないといった感じに首を傾げた。

「ねぇ? 足のところに縄みたいな痕があるんだけど……」

 深夏さんにそう云われ、そちらを見やる。

「確かに縄で縛った痕がありますね」

「でも、首を潜って吊るされていたのに、どうして足に?」

 その答えがわかれば苦労はしないが、僕はそう訊ねる。

「暴れないように縛っていたとかじゃないの?」

「内蔵を食み出させるのを、生きていた時にしたってことですか?」

 僕がそう言うと、深夏さんはそこまでしないでしょ?と答えた。


 それにしても、指をかじったような傷痕と、縄で絞められた痕……

 何か引っかかっているのだけれど、それがわからない。

「そういえば、雨…… やんでたんですね」

 深夏さんがそう云いながら、窓の方へと歩み寄っていく。

「気を付けてくださいよ。外に犯人がいるかもしれませんから」

「わかってます。ちょっとだけ外を見るだけ……」

 窓に首を出した深夏さんの言葉が止まり、そして、その場に倒れた。


「み、深夏さん……?」

 僕が様子を見ようと近付き、声を掛ける。

 最初、真っ暗でよくわからなかったが、深夏さんの首が地面に転がっている。

「う、わ……」

 僕はうわずいた声を挙げながら、深夏さんから離れた。


「な、なんで? なんで…… なんで?」

 僕は混乱し、早瀬警部を見やると、

「早瀬警部? 一体何をやって……」

 僕の目の前に立っている早瀬警部は手をブランとさせ、まるで生きていない……


「そ、そんな…… どうやって……」

 僕が目を離したのはほんの一瞬だ。その間に早瀬警部はどうして悲鳴を挙げなかったんだ?

 まるで冬歌ちゃんがいなくなった時と同じじゃないか……

 まさか――誰も気にとめなかったから?

 あの時、僕は台所にいた。一緒にいたのは深夏さんと繭さん、それに澪さんだ。

 そして…… 秋音ちゃん自身が僕に集中してて、隣にいた冬歌ちゃんのことを気にとめていなかったんじゃ……


「う…… げぇ……」

 突然首が締められたように苦しくなり、僕は意識を朦朧とさせていく。

 そして、目蓋を閉じようとした時、目の前に誰かが立っていたのが見えた。


さっさと終わらせたかったので、パパっと殺した。

因みに追記シナリオはあとの話では一切触れていません。

*重要なヒント(伏線)はありますけどね。

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