参【8月10日・午後9時20分】
HPとの違い。①文章が多少なりとも違います。②HP上に載せていたTipsはコチラには載せません。③漢字間違いなどを修正しています。
冬歌ちゃんに引っ張られた僕は、そのまま彼女の部屋へと案内される。
中は六畳半位の広さだった。
恐らく、広間以外の部屋は変わり映えしないのだろう。僕の部屋も同じ感じだったからだ。
ただ少し違うのは、ぬいぐるみが沢山飾ってあったり、読み掛けの少女漫画が置かれていたり…… 冬歌ちゃんは床に転がっているそれらを無造作に隅っこに退けた。
「ねぇ、お兄ちゃん? 何して遊ぶ?」
冬歌ちゃんが上目で僕に問う。
「冬歌ちゃんは何がしたいの?」
「えーとねぇ…… えーとねぇ……」
冬歌ちゃんは笑みを零しながら色々と考えている。
小さくピョコピョコと飛び跳ねている。
時間を考えると、そんなに長くは遊べないのだが、冬歌ちゃんを見ていると微笑ましく思ってしまい、時間が経つのを忘れてしまう。
「瀬川さん、いらっしゃいますか?」
部屋の襖が開き、春那さんが部屋に入って来る。
「あ、お姉ちゃん!」
春那さんを見付けるなり、冬歌ちゃんの顔はもっと明るくなっていく。
「すみません。冬歌、瀬川さんに迷惑掛けてない?」
掛けるも何も、今さっき部屋に入ったばかりで、何をして遊ぶかを今二人で考えていた最中だ。
「別に迷惑だなんて思ってませんよ」
「そうですか? それなら良いんですけど」
春那さんは部屋を見渡し、咄嗟に冬歌ちゃんを見詰めた。
だけど、その表情は何処か可笑しかった。
「……冬歌、『絵』はどうしたの?」
春那さんが静かな口調で冬歌ちゃんに問う。
冬歌ちゃんは黙って下を向いている。
「如何したの?」
もう一度、春那さんは冬歌ちゃんに問う。
「如何したのって訊いてるのっ!」
春那さんの怒声が部屋中に響き渡った。
その表情は般若の様に悍ましい形相で、冬歌ちゃんを睨んでいる。
「どうしたのって訊いてるのっ! 答えなさいっ! 冬歌ぁっ!」
その声に驚き、今にも泣きそうな冬歌ちゃんを春那さんは更に問い掛ける。
「答えなさい! どこにやったの?」
冬歌ちゃんは堪らず僕のうしろに隠れ、じっと春那さんと見詰める。
「冬歌ぁ!」
僕が間に入って春那さんを宥めようとした刹那……
「――恐い……」
冬歌ちゃんが呟くように言った。
僕は一瞬、冬歌ちゃんが恐がっていたのは春那さんの方かと思っていたが……
「恐いんだもん! あの絵! じっと! じっと見ている気がして!」
「あれはっ! 私達を見守ってくれているのよぉっ! それをっ! 有ろう事か! 恐いですって?」
「見守ってなんかないっ! 夢に出て来るんだものっ! あの絵の女の子が恐い顔してっ! 今のお姉ちゃん見たいな顔をして!!」
そう言うと冬歌ちゃんは僕を春那さんに向かって突き飛ばし、部屋を飛び出していった。
その反動で自分自身何が起きたのかわからなかったが、我に帰った時には春那さんに覆い被さっていた。
「す、すみません!」
「い、いえ……」
春那さんはしおらしい表情で言う。先程の鬼の様な形相が嘘の様だった。
「あの子の言っている事は正しいんです。現に深夏と秋音も、あの子と同じくらいの時に言ってましたから…… 私も同じ事を言ってました。あの絵に書かれた女の子が恐いって……」
それなら如何してあんなにまで絵を気にしたのだろうか?
「ただ、あの絵は私たち姉妹にとって特別なんです。決してなくしてはいけない。いいえ! 亡くしてはならない物なんです」
俯きながら春那さんは無造作に片付けられたぬいぐるみや雑誌の塊の中を探っていた。
「瀬川さん、今日あった事は深夏と秋音には秘密にしておいて下さい。あの子の事ですから、母の所で泣いていると思いますけど、ただ泣いているだけで何も言わないと思いますので」
雑誌を束ね、隅っこに置くと、春那さんはスッと立ち上がり、僕をふと悲しい目で見詰めた。
庭の鹿威しが外の暗闇の中で鳴り響いた。