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廿参【9月】


「おい! 松屋!! そっちはどうだ?」

「いや! 見つかりません!?」

「本当に早瀬警部殿はこの屋敷に呼ばれたのか?」

 数人の警察官が耶麻神邸を捜査していた。


「それにしても、気味が悪ぃいな? “誰もいない”なんて…… まるで蛻の殻だぜ?」

「俺達の屯所に連絡あったのは今から一ヶ月前だ!! その間にこの屋敷には誰一人、来れるはずがない!!」

 彼らは早瀬警部と同じ長野県警の捜査一課で勤める刑事達だ。連絡が入った8月11日以降、早瀬警部から一向に連絡が来ないのを不信に思い、この屋敷に来た。

 大雨の所為で山道では土砂崩れが起き、今の今までその撤去に足留めを食らっていた。

 そして今日、彼らははじめてこの屋敷に入ったのだ。


「しかし! これだけ奇麗に“何もない”のは」

「ああ、恐いほどにな? 本当に此処で殺人が起きたのか? そんな痕跡、何処の部屋にもなかったぞ?」

 一人の警官が狼狽える。

「くぅそぉ!! おいっ! 屋敷内を隈無く捜せっ!! 捜すんだぁッ!!」

 彼らはそれこそ血眼になって屋敷内を捜した。

 そう瀬川正樹達の骸を捜した。


 しかし、いたずらに時が流れていくだけで一向に正樹達の死体ひとつも見つからない。

 人間の死体だけではない。鶏全羽の死体は愚か、タロウ達の死体すら見つからなかった。

 とうとう本部から引き上げる様にとの無線連絡が入り、彼らは渋々長野県警へと引き帰した。

 その数日後だった。


 ある匿名の封書が県警本部に届いた。

 真っ赤に染まった気味の悪いその封筒から手紙を取り出し、読み上げた。


 以下がその内容である。


『私は金鹿之神子と申す者で御座います。

 この度、私の戯れ言にお付き合い下さいまして誠に有り難う御座いました。

 今回、皆様の同僚である早瀬慶一警部様、並びに如月英昭巡査様を私の宴へと招待した事をご了承下さいませ。

 捜査が混乱されておられるようなので、私が今言える事を伝えようと考え、この様な手紙を皆様に送らせて頂きます。


 当件に関して、その時に屋敷にいた全員の死体発見場所は下記の様になっておりますが、

 皆様は一生、その屍を見る事も拝む事も出来ないでしょう。


  一日目 8月11日


  一人目 渡 部 洋 一  鶏小屋で発見される。

  二人目 耶麻神 深 夏  自室で発見される。


  二日目 8月12日


  三人目 耶麻神 冬 歌 書斎で発見される。

  四人目 耶麻神 春 那 空室で発見される。

  五人目 坂 口  繭  同上

  六人目 耶麻神 霧 絵 滝に浮かんでいるところを発見される。


 三日目 8月13日


  七人目 大 内  澪  広間で発見される。

  八人目 如 月 英 昭 同上

  九人目 早 瀬 慶 一 同上

  十人目 耶麻神 秋 音 同上


 十一人目 瀬 川 正 樹 庭の鹿威しのところで発見される。


 死体の形状は皆様が想像しているものとは懸け離れております故、敢えて書き加えませんが、皆様が好きに想像しても良いです。


 見つけられると言うのならいくらでも屋敷を見せてさしあげましょう。

 然し、皆様がいくら屋敷内を、いいえ、敷地内を捜そうと彼等の死屍を見つける事は出来ません。

 地面を掘り起こしても骨一本も見つける事は出来ないでしょう。

 何故なら彼等の死体は金鹿によって食らわれたのですから。


 草々 ――金鹿之神子』



 その手紙に書かれていた通り、何ヶ月経っても死体のひとつも見つからなかった。


 そう…… 何一つ……


 まるで最初から誰もいなかったかの様に……

 屋敷は静寂で包まれていた。

 

 鹿威しが鳴り響く。



 【金鹿の住みし箱庭 第一話】 ―了―


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