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拾【8月11日・午前7時20分】

HPとの違い。①文章が多少なりとも違います。②HP上に載せていたTipsはコチラには載せません。③漢字間違いなどを修正しています。


「あれ? 深夏お姉ちゃんと秋音お姉ちゃんは?」

 朝ご飯を用意していた時の事だ。

 冬歌ちゃんが不思議そうに広間を見渡していた。

「春那? 深夏は未だ眠っているの」

 まだ何もしらない霧絵さんが僕達の手伝いをしてくれている春那さんに訊ねる。

「――母さん」

 春那さんは視線を冬歌ちゃんに向けた。

 自分ではなく、冬歌ちゃんを見ている。その仕草でわかったのか、霧絵さんはそれ以上何も訊かなかった。


「繭、辛かったら休んでもいいのよ?」

 澪さんが野菜を切っている繭さんにそう言う。

「大丈夫。大丈夫だから……」

 まるで自分に言い聞かせる様に繭さんは言う。

「……っつ!!」

 (うわ)の空の中、野菜を切っていたせいで、繭さんは左手の人差し指を切ってしまった。

「ほらっ!! 見ててハラハラするのよ! 自分の部屋に戻ってなさい!! みんなに迷惑が掛かってるって、自分でもわかってるでしょ!?」

「……ご、ごめんなさい。澪さん…… ……春那お嬢様? すみませんが自分の部屋に戻ります」

 厨房に入って来た春那さんを見つけると、繭さんは会釈し、厨房を出ていった。


「春那お嬢様?」

「もう持っていく物はないですね?」

「あ、はい。全員分は……?」

 そう言うと、澪さんは広間を見た。

「どうかしたんですか?」

「繭の分どうしようかなって」

「繭は後で食べるでしょ? 虫が(たか)らない様、ラップをしておいてください」

 そう言うと、春那さんは広間に戻り、自分の場所に座った。

 僕達はエプロンを外すと、それぞれ自分の場所に座った。


 食事を食べ始める前に霧絵さんが渡辺さんは仕事に出ているのと、深夏さんはまだ寝ていると冬歌ちゃんに嘘を()いた。


「繭、いる?」

 澪さんがおぼんを片手で持ちながら、繭さんの部屋の襖を叩いた。

「――澪さん?」

「あ、いた! ご飯持って来たわよっ!!」

 そう言うと、襖がゆっくり開き、繭さんが顔を覗かせた。

「瀬川さんも一緒なの?」

「まぁね? 全員の部屋の場所知ってもらわないといけないでしょ」

 澪さんが僕を見ながら言う。確かに全員の部屋を知りたいのは本当なのだが……

 繭さんが心配でならなかったのが本当の理由だった。


「それならいいんだけど…… 二人とも入って……」

 僕と澪さんは、繭さんに言われた通り、部屋へと通された。


「うーん、女子高生って感じよね?」

 澪さんが部屋を見渡しながら言う。

「え、ええ、そうですね?」

「瀬川さんは女の子の部屋に入った事ってないんですか?」

 どきまぎしながら返事をしたのがいけないのか、繭さんが僕を見ながら言う。

「澪さん? 私の部屋に態々(わざわざ)来たのって、他に用があるからですよね?」

 座る直前、繭さんがジッと澪さんを見ながら吐いた。

「朝ご飯持って来ただけだけど?」

 あっけらかんとした表情で澪さんはそう答えた。

(とぼ)けないで下さいっ!! 深夏さんがあんな……」

「あんな人間が出来る訳がない殺され方をしているのに……でしょ?」

 その一言に僕と繭さんは驚いた顔で澪さんを見た。


「二人とも…… 渡部さんが殺された時の事を思い出して! あれがもし人間の仕業だと断言出来るなら! そのトリックを言ってみなさいっ!! 鶏小屋に出入出来るのはあの扉ただ一つっ!! 窓は天窓のみっ!! しかも、半分しか開かないっ! 更にっ!! そこまで登る事はまず不可能!!」

「裏側に穴があって、そこから逃げたんじゃ?」

「それはまず有り得ないわよ。人間が通れる穴なら、とっくに誰かが気付くんじゃないの?」

「あ、犯人は未だ小屋の中にいて、澪さんの隙をついて」

「それもないわね!! 二人が来るまで、ずっと鶏小屋を見てたんだから!!」

 僕と繭さんは自身満々に却下してくる澪さんに唖然としていた。


「で、澪さんの推理は?」

「二人とも、某か推理小説は読むかしら?」

「まぁ、何冊かは……」

 僕がそう言うと繭さんもうんうんと頷く。恐らく、繭さんもそれくらいの量なのだろう。

「推理小説は人間の行った犯罪を推理するのがモットーよね?」

「まぁ、推理小説ですからね。それがどうかしたんですか?」

 繭さんがそう答えると、澪さんは頭を抱えた。

「私が言っている意味わからない? 推理小説は『人間』が行った犯罪を推理しているのよ?」

『つまり?』

 僕と繭さんはまるでステレオみたいに声が重なった。


「人間が出来ない事を、どうやって推理するのって言っているのよっ!?」

 何もわかっていない僕達に澪さんが苛ついた声を挙げた。

 しかし、その言葉の意味がわからなかった。

「ちょっ、ちょっと待ってください? 人間が出来ない事って?」

「深夏お嬢様の死体を思い出してみなさいよ!! あの死体には目が亡くなっている。つまり、抉り取られたって事でしょ? それなら普通、血がドバッて出て、部屋中が真っ赤に染まるわよね? 繭、あなたが部屋に入った時、部屋は真っ赤だった?」

 繭さんは何も言わず、首を横に振った。

「つまり、抜かれている時、深夏お嬢様の血は止まっていた。これに反論はあるかしら?」

「ぼ、僕は詳しくは見てませんけど……」

「繭は…… 聞かない方がいいかもね?」

 俯いている繭さんに漸く気付いたのか、澪さんは聞かないようにした。


「人間が出来ない殺し方…… つまり、人間ではない何かが二人を殺したとでも? そ、そんな御伽噺(おとぎばなし)みたいな事がある訳……」

「――あるから言っているのよ」

 澪さんが当たり前のように言う。

「いや! だから! 仮にそうだとしても! 澪さんが言っている事は御伽話でしょっ!? これは現実!! 現実に二人も死んでいる!」

「わかってるわよ!! それじゃ!! 二人がどうやって殺されたのか? 説明出来るもんならっ! 説明してみなさいよっ!! ほらっ!! 早く!!」

 澪さんが興奮して僕の襟元を掴んだ。


「く、苦しいぃ……」

「み、澪さん!! 落ち着いて!!」

 繭さんが止めに入らなければ、確実に僕は殺されていた。

「はぁ…… はぁ……」

「つまり!説明出来ない事を説明出来るかって事」

「でも、渡部さんを殺したトリックはわからないけど、深夏お嬢様は説明出来るんじゃないの? だって、目を抜かれたのが夜中なら……」

 繭さんが言葉を止めた。

「血は…… 血液の流れは時間が経つにつれ、固まって、流れないわよね? でも、私が見た時は未だ流れていた…… つまり、時間がそんなに経っていなかったって事よね?」

 詳しくはわからないが、確かに夜中に目を抉っているのなら、時間が経つにつれ、血管から流れる血が止まっている。

「つまり、僕達が起きていた時間に、抉り取られていたって事ですか?」

 僕がそう言うと澪さんは静かに頷いた。


「でも、アリバイはどうするんですか? その時間、起きている人間は……?」

「今、自分が言っていて可笑しいと思ったでしょ? アリバイがあるのは私達だけ! 冬歌お嬢様と奥様は無理でしょうけど…… んぐっ?」

 澪さんが何かを言いかけようとした時、口を繭さんが手で塞いだ。

「んんんっ!!! んんっんっ!!!」

 繭さんは険しい表情で閉められた襖を見ていた。どこからともなく足音が聞こえる。

「こっちは使用人の部屋があるから、用なんて余りないはずなのに……」

「誰かが来ているって事ですか?」

「でしょうね?」

「んっ!! んんんんんんんんっ!!!」

 僕と繭さんは緊張の中、物言わぬ襖を見ていた。

 ……足音が遠のいていく。

 

「行ったみたいね?」

「んんっ!! んんんんっ!!」

 安堵の表情を浮かべながら、繭さんは僕を見た。

「んっ!! んんんんんんんんっ!!」

「……って! 繭さん!! 好い加減外さないと!!」

「あっ?」

 僕がそう言うと漸く気付いたのか、さっきから力強く塞いでいたせいで、息が出来なかった澪さんに漸く息が吹き返った。


「ぜっぇ…… ぁはぁ……」

「ご、ごめんなさい……」

 澪さんは険しい目付きで繭さんを睨んだ。

「それにしても、今のは一体?」

「入って来ていたなら、冬歌お嬢様。来ていないのなら…… 奥様か、春那お嬢様でしょうね?」

「――と言うと?」

「冬歌お嬢様だったら、私が部屋にいるのを確認して、入ってくるはずだもの。遊んで欲しいためにね」

「部屋にいるのはわかっているはずだから、入って来たはず。さっきのは……」

 僕は一瞬、ゾッとした。


「盗み聞きしていたんでしょうか?」

「それはどこら辺からが重要でしょ?」

 聞いていた内容によって、危険かどうかだろう。

「……良い? 今話した事は他言無用だから……」

 そう言われ、僕は首を傾げた。

「あのね、渡部さんの時は繭が一番怪しいけど、はっきり言うわ! この子に渡部さんを殺して、あんな高いところまで運べるなんて先ず不可能!! それに、あれは人間が出来るかって話だったでしょう?」

「深夏お嬢様の時は、全員にアリバイはないって事?」

「夜中にしたのならね? でも、血液の流れを考えると私達以外に屋敷にいた人間が出来る可能性があるという事!」

 澪さんはそう言いながら襖を開け、廊下の様子を疑っていた。


「それじゃ、繭! 好きな時にでも良いから、ちゃんと出て来なさい!!」

 澪さんは敢えて大きな声で言った。

「……あ、はい。すみません……」

 繭さんがそう言うと、澪さんはそのまま振り向かず、部屋を出た。


「そ、それじゃ…… 僕も……」

「あ、瀬川さん……」

 部屋を出ようとした僕を繭さんが止める。

「どうかしましたか?」

「い、いいえ…… 何でもないです」

 僕は首を傾げるが、何も聞かずにそのまま部屋を出てしまった。


 部屋の襖を静かに閉める。その時に見た繭さんはまるで小さな少女の様な感じで、じっと蹲っていた。

 ――鹿威しが鳴った。


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